II.「障害児向けWWWブラウザ
キッズブラウザ(仮称)」の試用評価


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5.研究のまとめ

       試用の上の評価結果については、前項に示されたとおりである。試作段階で、こまかい設定機能が働かない状態での試用であったが、所感の項目に見られるように、好意的な意見が目立った。これまでにこうした画面上の配慮や入力支援ができるブラウザは少なく、知的障害や肢体不自由のある子ども、あるいは、それらが重複している子どもたちにとっては、ネットサーフィンも決して簡単なものではなかった。とりわけ今回の試用で評価の高かったのが、「画面の見やすさ」「ソフトウェアキーボード」「入力支援」「好きなページのサムネイル」であったようだ。

       画面構成については、一般のブラウザが多機能であることを目指し、その機能の各種ツールボタンや表示ウインドウを画面上に配置しているため、知的障害のある子どもにはかえって煩わしく操作が混乱し、本来注目しなければならない画面に集中できないといった現象が起こる。また、不随意な運動があり手指に麻痺のある子どもでは、操作するうちに誤って間違ったボタンを押してしまい、もとの画面に復帰できない等のストレスを感じることも多い。その点、画面がシンプルで使うボタンの表示/非表示も選択できる本ソフトウェアの構成は多くの試用者から評価された。

       次にソフトウェアキーボードと入力支援は、マウスとキーボードだけでは十分に随意な操作ができなかった子どもたちに、ブラウザを自ら操作する経験を提供し、結果的に学習に参加する意欲を高めることができた。

       好きなホームページ、いわゆるブックマークにサムネイル画像をつけ、視覚的にわかりやすくしたことは多くの試用者から支持された。しかし、画面が小さいことによる見にくさは指摘されたようだが、従来の文字のみのマーキングよりは格段に使い勝手を向上させた。

       各試用者からは、本ソフトウェアの機能のさらなる充実と、いくつかの改良点のアイディアが寄せられた。その点、試用者ならびに協力してくれた子どもたちに深く感謝したい。従来こうした機能を絞って子どもの使い勝手の方に思い切ってシフトしたブラウザは少なく、その希少性ゆえに期待の声も高い。今後は今回のプロトタイプ版では間に合わなかったスキャン入力等の各種機能を付加し、より現場の声、子どもたちのニーズに沿ったブラウザとして成長させていきたいと考えている。

       一方興味深かったのは、ネットサーフィンがやりやすくなるほど、今度はブラウザの機能の問題よりも、ホームページ発信側の意識、構成、作り方の問題の方が大きくなっていくという意見であった。確かに多くの興味深いホームページが発信されており、子どもたちの教育に有効なものも増えてきた。利用者である障害のある子どもたちが、今回試作したようなさまざまな配慮のあるブラウザを活用することができれば、そうした有用なホームページから情報を得ることがたやすくなっていく。ところが、そうしたホームページ側にもテキスト版、ひらがな版等の障害のある人への配慮がされれば、さらに使いやすく、意欲が高まる学習場面が期待できる。

       今後は障害のある子どもたちのための支援ソフトウェアを充実させていくことと平行して、ホームページで情報を発信していく側にも障害児・者への配慮について理解推進していく必要がある。



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