地域におけるインターネット教育利用環境と推進方法に関する調査報告書
− 学習者のための情報教育環境に関する調査 −

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 2. 教育ネットワークの現状

2.1. 調査の背景
日本におけるインターネットの教育利用の最初の全国的なプロジェクトは、1994年に通商産業省と文部省によって始められたネットワーク利用環境提供事業(100校プロジェクト)である。この100校プロジェクトの活動は、新100校プロジェクトに受け継がれ、1999年3月末に終了した。この5年間は、100校プロジェクト以外にも、こねっと・プランやメディアキッズなど、様々な実験的プロジェクトが実施された。これを、日本におけるインターネット教育利用の実験的な検証の段階(第1ステージ)と呼ぶことができるだろう。
文部省は中央教育審議会の答申を受けて、2001年までに国内のすべての公立学校をインターネットに接続すると表明した。これを受けて地方自治体における教育情報ネットワークの整備が急進展している。
こうした状況から、1999年度からインターネットの教育利用の全国的な展開の段階(第2ステージ)が始まったということができる。第2ステージでは、高度化するネットワーク技術に基づいた最適な校内ネットワークや地域教育情報ネットワークのデザインなどの接続環境の問題と並んで、技術・法律・倫理的な背景を踏まえた、学校や地域におけるネットワークの運用ポリシーやガイドラインの確立などの運用環境の問題が重要になりつつある。
地方自治体における財政の逼迫のため、地方交付税措置だけで文部省の計画どおりにインターネットの学校教育分野への導入が進むかどうか不透明な部分もあるが、新しい学習指導要領によって高等学校に必修の普通教科「情報」が導入される2003年には、全国的なインターネット環境整備のミニマムがおおむね実現している必要がある。
ここまでが第2ステージであり、その後、2005年を目標とする新しいコンピュータやネットワークの整備計画のもとで、インターネットが各教室で各教科において日常的な授業実践に利用される普及の段階(第3ステージ)が到来することが期待される。以下では、大阪教育大学で実施した調査(1)をもとに、今回の調査の背景となる基礎的なデータを整理していくつかの問題点を指摘する。これに基づいて今回の調査における質問項目やカテゴリーなどを検討した。

(1)越桐國雄「日本のインターネット教育利用の動向」大阪教育大学紀要第V部門,Vol.48 No.2 (2000) 277-290

2.2. 学校のインターネット環境とその現状
2.2.1. 学校のホームページ
学校におけるインターネット環境の整備計画は、いつでも、どこでも、だれでも使える環境をめざして、ここ数年急速に進展している。インターネットの利用度を計る一つの指標として、公開されている「学校ホームページ」の開設数を調査した。大阪教育大学の「インターネットと教育」のページの学校のURLデータから、都道府県別のホームページ開設数を求め、これをその都道府県の総学校数(小学校+中学校+高等学校+盲・聾・養護学校)で割ったものを、学校ホームページの都道府県別開設率と呼ぶ。
開設率の上位10県をあげると、岐阜県(37.3%)、佐賀県(29.8%)、富山県(24.1%)、秋田県(23.1%)、香川県(22.2%)、長野県(20.0%)、石川県(19.5%)、茨城県(18.2%)、群馬県(17.7%)、岡山県(17.2%)となる。下位の県では開設率は5%程度であり、全国的にかなりの格差が生じている。なお、文部省の調査によると、1999年3月における公立学校のインターネットの接続率は36.5%であり、その1/3強がホームページを公開していることになる。
以下では、ホームページを公開している学校の環境について、全体的な傾向をまとめた。

2.2.2. 学校のインターネット接続形態
学校がインターネットに接続されている形態は、接続先、接続方式、アクセス制御方法、などによって特徴づけられるが、ここでは特に、インターネット利用度の鍵となる、回線容量と常時接続か間欠接続かに着目したデータを示す。
まずわかるのは、ISDNダイヤルアップ接続が62%を占め接続形態の主流となっていることである。逆に、専用線接続については20%にとどまっている。アメリカ合衆国の国立教育統計センターの報告によれば、1996年から1998年にかけての3年間で、ダイアルアップ接続が74%から22%に減少し、逆に専用線接続が39%から65%に増加している。日本においても今後専用線の利用が進むことが予想されるが、これに関する、詳細な地域別動向の調査が必要となっている。

接続形態

*

未接続
公衆線(3.4kHz)
公衆線(ISDN)
専用線(64kbps以上)
高速専用線(1.5Mbps以上)
その他
12
37
182
71
11
5
14
14
114
22
13
2
27
28
184
19
16
9
3
3
24
7
5
0
2
3
24
2
1
0
58
85
528
121
46
16
6.8%
10.0%
61.8%
14.2%
5.4%
1.9%

合 計

318 179 283 42 32 854 100.0%
*校種分類その他は、学校種別が不明なもの


2.2.3. 学校におけるインターネット接続端末数
学校におけるインターネットに接続されたコンピュータ端末数は、0台2%、1台19%、2-3台18%、4-5台6%、6-10台9%、11-20台8%、21-30台8%、31-40台3%、41-50台6%、51台以上7%となっている。学校あたりの接続された端末の平均台数は18台(高24台、中18台、小11台、養8台)であった。日本の学校あたりの平均児童・生徒数を390人とすると、今回の調査結果の対象となった学校(インターネットに接続されていてホームページを公開している)では、インターネットに接続された端末あたりの平均児童・生徒数は22人(高32人、中21人、小29人、養12人)となる。

2.2.4. 学校におけるインターネット接続教室数
学校におけるインターネットに接続された教室数は、0室11%、1室37%、2室21%、3室8%、4室4%、5室2%、6室1%、7室1%、8室1%、9室以上5%となっている。平均するとインターネットが利用可能な教室数は2.8室(高2.7室、中2.5室、小2.8室、養3.1室)となる。学校の平均学級数を12.3とし、学校あたりの特別教室数を仮に5とすると、今回の調査結果の対象となった学校(インターネットに接続されていてホームページを公開している)では、教室のインターネット接続率は16%となる。

2.2.5. 学校のインターネット環境の課題
学校で「いつでも(常時接続)、どこでも(普通教室端末)、だれでもインターネットを使えること」を目標とした場合、まだ、現時点ではこれらの条件に遠く、アメリカ合衆国の国立教育統計センターによって報告されている上記データの調査時点とほぼ同時期における水準、すなわち、専用線接続が65%、インターネット接続端末あたりの児童・生徒数12人、教室の平均接続率51%、に比べると3年以上遅れていると考えられる。学校のインターネット環境(設備)の課題をたずねたところ、学校内ネットワークが整備されていない48%、インターネットに接続されている端末数が少ない40%という意見も多い。しかし、地域によってはかなりの水準を達成しているところもあり、3章以降で詳細な分析が行われる。

学校のインターネット環境(設備)の課題

設備等の問題

校内ネットワーク未整備
接続端末数の不足
システム保守運営費用不足
回線費用不足(接続速度)
メールサーバが校内未設置
回線費用不足(接続時間)
接続端末機能不足
WWWサーバが校内未設置
その他
157
112
62
71
53
61
26
21
73
76
80
25
36
26
10
25
16
64
135
25
42
38
31
24
30
24
117
23
14
7
1
10
4
3
2
20
15
8
7
6
5
4
6
2
11
406
339
143
152
125
103
90
65
285
47.5%
39.7%
16.7%
17.8%
14.6%
12.1%
10.5%
7.6%
33.4%

合 計

636 358 566 84 64 1,708 200.0%

2.3. リソースとしての利用とその課題
2.3.1. 教育・学習情報の入手方法
大阪教育大学の「インターネットと教育」に登録している教育関連機関のwwwページ担当者に対して、学校におけるインターネットの教育利用の柱の1つであるリソース(教育・学習情報資源)の利用に関する情報の入手方法を質問した結果、Yahoo! Japan などの一般のディレクトリサービスの利用が70%と圧倒的に多いことがわかる。これに、goo などの一般の全文検索型サーチエンジンサービスが49%で続いている。一方、学校向けの教育情報に特化したディレクトリサービスや全文検索型サーチエンジンサービスの利用はそれほど多くない。

2.3.2. 不足している教育・学習情報
現在インターネット上で不足している教育・学習情報を上記と同様に2項目選択質問した結果、教育実践事例報告が39%、学習指導案・授業案が29%と上位を占め、授業の参考となる即効性のある情報に対する需要が高いことがわかる。これらの次に、教育用ソフトウェア、電子図鑑、電子年鑑、電子教科書のような教材・素材データが位置している。今後、インターネットの教育利用が進んで、事例集などで示された実践が普及するとともに、教育・学習素材情報に対する要求が高まっていくことも予想される。

2.3.3. 情報受信時の問題点
さて、これらの教育や学習にかかわる情報を受信する際の問題はなんであろうか。先程と同様に情報受信時における問題点をそれぞれ2項目選択してもらった結果、必要な情報がノイズに埋没が59%、情報が教育用でないが47%、必要な情報が存在しないが23%などが上位を占めた。これは、教育・学習の場で利用可能な情報の絶対量が少ないことやこれを探し出すことが容易でないことを示している。これに続いて、情報の信頼性、不適切な情報の排除、著作権による情報の再利用の阻害など、情報の質の問題が指摘されている。

情報受信時の問題点

情報受信時の問題点

必要な情報がノイズに埋没
情報が教育用ではない
必要な情報が存在しない
情報の信頼性に不安がある
有害な情報を遮断できない
著作権で情報再利用が不可
情報が外国語のままである
その他
182
107
63
66
75
77
31
35
104
79
48
31
40
25
12
19
170
185
59
48
38
35
12
19
24
17
16
7
1
7
3
9
25
14
6
7
3
7
3
0
505
402
192
159
157
151
61
81
59.1%
47.1%
22.5%
18.6%
18.4%
17.7%
7.1%
9.4%

合 計

636 358 566 84 64 1,708 200.0%

2.3.4. 情報発信時の問題点
一方、学校から教師や児童・生徒が教育や学習にかかわる情報を発信する際の問題はなんであろうか。これに関しても、2項目選択により調査した結果は、校内の組織が未整備であるが60%、情報の更新に手間とコンテンツの作成に手間がそれぞれ39%となった。この後に、個人情報保護条例による制約がくる。この結果は調査対象となった学校のWebページ管理者への管理業務の負担の集中をうかがわせるものである。

情報発信時の問題点

情報発信時の問題点

校内の組織が未整備
情報の更新作業に手間
コンテンツの作成に手間
個人情報保護条例の制約
教育効果が評価できない
承認手続きが面倒
WWWページへ応答がない
その他
200
105
109
65
45
43
16
53
115
70
74
30
20
13
12
24
158
131
125
25
38
19
28
42
21
19
12
6
2
13
5
6
19
10
11
5
8
5
5
1
513
335
331
131
113
93
66
126
60.1%
39.2%
38.8%
15.3%
13.2%
10.9%
7.7%
14.7%

合 計

636 358 566 84 64 1,708 200.0%

2.4. メディアとしての利用とその課題
2.4.1. 交流・共同学習の経験
インターネットの教育利用で、教育学習情報資源の利用と並ぶもう一つの柱は、インターネットをメディアとして利用する交流・共同学習である。まず、交流・共同学習の経験の有無に関する質問を行った。その結果は、経験ありが42%(高31%、中41%、小53%、養55%)、経験なしが53%(高65%、中53%、小41%、養38%)となった。前年の調査では経験ありが53%、なしが41%であり、交流・共同学習の経験のない層が増加している。第1ステージでは、インターネットの教育利用はプロジェクト参加校を中心として進んできたが、新規の学校が大量に参加している影響のように思われる。

交流・共同学習の経験

交流・共同学習の経験

経験なし
国内のクラス・学校
海外のクラス・学校
地域のクラス・学校
国内の学校外の人々
校内のクラス・学年間
地域の学校外の人々
その他
207
37
50
17
21
24
15
41
95
39
35
16
15
15
10
28
115
106
40
65
31
21
27
42
16
16
3
13
2
2
6
9
18
7
8
2
2
0
1
6
451
205
136
113
71
62
59
126
51.8%
24.0%
15.9%
13.2%
8.3%
7.3%
6.9%
14.7%

合 計*

429 263 451 68 46 1,257 147.2%
*2項目選択だが、経験なしは1項目になるため、合計は200%に満たない


2.4.2. 交流・共同学習の対象と手段
交流・共同学習の主な対象としては、国内のクラスや学校が最も多く24%となっており、これに海外のクラス・学校が16%、地域のクラス・学校が13%で続いている。また、2項目選択でたずねた交流の手段としては電子メールが43%であり、つぎがWWWページが20%となる。リアルタイム型の交流では、ISDN型ビデオ会議10%、電子会議室・掲示板5%、Internetビデオ会議4%の順に利用されている。

2.4.3. 交流・共同学習の問題点
次に、交流・共同学習における問題点についてたずねた結果を示す。これも2項目選択で質問している。メールアカウントが不足しているが45%と最も多くなっている。これに続く項目は、国内交流の相手がいないが28%、児童・生徒のプライバシーが保護できないが24%、意志疎通が困難で長続きしないが21%などどなっている。なお、高等学校と小学校では傾向が異なり、高校では交流のために電子メールを使用することで生ずるプライバシーの問題や教育評価の困難性などから実践をためらっている様子がみられる。小学校では実際に実践を進めた結果、交流が長続きしないことが指摘されているケースが多い。

交流・共同学習の問題点

交流・共同学習の問題

メールアカウントが不足
国内交流の相手がいない
児童・生徒のプライバシー
意思疎通・長続きしない
教育効果が評価できない
言葉や習慣の壁
国際交流の相手がいない
嫌がらせ・広告メール
その他
163
67
88
32
76
35
29
40
106
69
52
43
42
35
18
15
11
73
119
101
59
82
49
29
27
15
85
18
11
9
16
9
4
1
0
16
12
9
6
8
10
4
6
1
8
381
240
205
180
179
90
78
67
288
44.6%
28.1%
24.0%
21.1%
21.0%
10.5%
9.1%
7.8%
33.7%

合 計

636 358 566 84 64 1,708 200.0%

2.4.4. 電子メールアドレスの発行
交流・共同学習の問題点の1位であげられているメールアカウントの発行数を教職員および児童生徒について調査した。教職員に関しては、26%の学校でグループアカウントも含めて電子メールアカウントが発行されていない。また、学校で1アカウントというところも34%であり、アカウント数が3以下の学校が71%に達している。また、児童生徒に関しては71%の学校でメールアカウントが発行されておらず、交流・共同学習を進める際の大きな障害となる可能性がある。

2.5. 地域教育情報システムのデザイン
以上のように、学校でインターネットを教育で利用する際、教育・学習情報リソースという観点および交流・共同学習のメディアとしての観点で、様々な問題が明らかになった。これらの問題の解決には、地域教育情報ネットワークの物理的なデザインや運用システムのデザインが鍵を握っており、各地域で具体的にどのようなネットワークが構成され、環境が整備され、どのような運用がなされ、その結果それぞれどのような成果が上がっているかを、単に統計的に分析するだけではなく、具体的な個別の聞き取り調査によって調べる必要がある。またさらに、これらの状況を「学習者のための情報教育環境」という視点でとらえることが重要だと考えられる。

そこで、まず質問紙調査においては、他の調査では必ずしも詳細なデータが得られていないようないくつかの観点について、調査項目を立てている。例えば具体的には、学校の端末設備として、端末の台数やインターネットへの接続環境に加え、学校におけるサーバコンピュータのオペレーティングシステムや機能別の整備状況・整備計画の調査を行う。また、予算についてという項目をあげて、インターネットの利用時間における利用制限の有無やその根拠を調査する。さらに、学校におけるガイドラインの設置からさらに踏み込んだ、危機管理(トラブル対策)についても具体的な場面を例示しつつ、対策の有無を調査する。インターネットの利用を支援する環境という観点から、研修体制やボランティアの活用、情報化推進コーディネータの制度化などについても項目を立てた。

これらの項目の選択は、従来からの学校現場との密接な共同研究の中で得られた、現場の教員のニーズ分析によって決められており、地域教育情報システムを具体的に作り上げようとしている都道府県・市町村の関係者にとっても貴重な情報になるであろう。こうして得られた質問紙調査の結果をもとに、情報教育環境の整備や運用、さらに活用について、典型的な特徴をもっていて、地方自治体における今後の環境の整備の参考となるような都道府県、市町村を複数抽出した。そして、現場で実際に地域教育情報ネットワークのデザインや運用を担っている教育行政担当者と直接面談を実施して聞き取り調査を行った。

その結果は以下の章で詳しく述べる予定であるが、前節で整理したような全国的な動向調査においても、地域間の環境整備や体制に大きな隔たりがあることが窺えた。これを今回のような個別の面談調査と比較すると、実際に各地の取り組みの多様性が明らかになっている。日本の教育システムにおいてはその一様性が度々指摘されているが、それに比べるとこれはある意味で希有な現象である。その原因のひとつは深刻な地方財政状況にあるため決して手放しでは喜べないのであるが、この環境整備における全国の多様な取り組みや工夫が、次の段階の教育や学習の具体的なシステムや実践活動における多様性につながり、さまざまな新しい学びのスタイルが登場することを願わずにはいられない。


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