地域におけるインターネット教育利用環境と推進方法に関する調査報告書
− 学習者のための情報教育環境に関する調査 −

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 4.2 うつくしま教育ネットワーク(福島県)

4.2.1 インターネット利用環境整備の計画から構築まで

うつくしま教育ネットワーク
「ふくしま教育総合ネットワーク」(FKS)を最終的なネットワークの姿として、現在は「うつくしま教育ネットワーク」として整備している。ドメイン名はfks.ed.jpを使用。利用対象は福島県内の教育関係者(学校、児童・生徒、公民館)で、fks.ed.jpのサブドメインとして国公私立学校のドメイン名を予約している。
文部省の実態調査(平成10年度)によると、福島県の学校インターネットの接続率は15.3%(全国平均35.6%)と低い。これから本格的な整備に着手されようとしているところだが、ネットワークの企画・立案から、それらを実現していくための行政的な諸手続にいたるまで十分に配慮されており、その明確なビジョンに注目したい。

整備の経過
平成9年4月に県内の100校プロジェクト参加校の担当者が県教育庁総務課企画班の管理主事に着任し、教育ネットワークに関する企画立案の準備が始まった。
平成10年度に「先進的教育用ネットワークモデル地域事業」(文部省、郵政省)に参加。福島県福島市、郡山市、伊達町、山形県米沢市、鶴岡市が一つの地域として指定され、福島県教育センターに地域ネットワークセンターが置かれた。
平成11年度は「先進的教育ネットワークモデル地域事業」の施設整備が進み、それと並行して、うつくしま教育ネットワークの企画が動きだした。6月に「システム要求仕様書」をまとめ、依頼業者を選定して提案依頼を行うとともに、7月に「審査委員会」を設置。8月に指名業者を選定、という手順で進められた。
システムに関して、設計・構築・テスト・保守管理・コンサルテーションを任せる業者には高い技術力が必要であり、業者選定にあたっては委託内容の新規性・特殊性から競争入札はなじまない。そのためネットワーク間接続・学術系ネットワーク構築実績のある業者を数社選定し、技術提案を依頼。評価を「審査委員会」行い、業者選定の具申をうけるコンペ方式による随意契約を行った。
このようにシステム委託業者を先に決定することで、高度な専門知識が必要となるネットワークシステムの設計及び機器等の構成仕様作成を担保し、仕様が確定した備品を競争入札で調達することで合理的な発注ができることとなった。
また、教育ネットワークの企画に関連する組織としては教育庁総務課が所管する「OA推進委員会」があるが、ネットワークはテーマに含まれていないため、現在の組織を「教育庁情報化推進委員会」(教育委員会内の課長、主幹クラス)に格上げし、情報推進委員会の中にネットワーク部会を設置した。このネットワーク部会のもと、生涯学習情報ネットワークなど現在ばらばらに運用されている教育委員会関連のネットワークを「ふくしま教育総合ネットワーク」として相互連携する計画である。

「うつくしま教育ネットワーク」の概要は以下の通り。

先進的教育ネットワークモデル地域事業のネットワークデザインをベースにしている
「先進的教育用ネットワークモデル地域事業」のネットワークはプライベートアドレスのクラスA、B、Cすべてを予約しており、独自のアドレス体系を採用するとNAT接続する以外に方法はない。このため、その枠内でアドレス設計することにした。

イントラネットとして設計
各学校は専用線でセンターに直接接続する場合はもちろん、プロバイダなどを経由した場合でもVPNでセンターと接続しイントラネットとして収容される。このため、学校がプロバイダと接続していても、各学校の生徒機はセンターを経由してインターネットと接続する形態にできる。
VPN方式は各学校に設置するルータが高価(約20万円)という問題がある。

対外接続
商用プロバイダと学術系のマルチホーム接続。学術系は東北学術インターネット(TOPIC)と接続。これは列島縦断研究開発用ギガビットネットワーク(JGN)にも接続され地域IXを形成する。

センター設備
PC-Unix12台を含むunix17台を利用している。

市町村への情報提供
接続方法(直接接続かVPN方式か、各学校がセンターに接続するか市町村で集約するかなど)の選択は、教育センターにいる技術担当者が市町村の担当者と相談して決定する。これはVPNに対しての知識を持たない業者が少なくないため、業者が過剰な提案をしてくる場合もあるためである。
また、総務課が市町村の財務担当者会議でFKSプロジェクトの紹介を行い、FKSへの参加を呼びかけている。

4.2.2 インターネット教育利用の進め方について

メールアカウント
教職員全員(約2万人、国立・私立も含む)に対して2種類のメールアドレスを用意した。「個人名@管理用識別名.fks.ed.jp」のほかに、学校の業務に必要な場合を考え、学校名がサブドメインの形で含まれているもの(「個人名@学校サブドメイン名.fks.ed.jp)の2種類である。この2種類を教職員に配布したが、学校名が含まれていないアカウントを積極的に使用している人が約7割だった。
なお、メールを読むためのPOP/IMAPアカウント(職員識別番号を元に作成した記号形式)と、メールアドレス(利用者が申請)が違うので混乱している感じはあった。従来のシステムはunixのユーザアカウントをそのままメールアドレスとPOP/IMAPアカウントしているため、これが一致していることが多かったが、メールアドレスは利用者にできるだけ自由に選択してもらえるようなシステムにしたかったため別にした。これはNTTのiモード用メールアドレスと同様、本来のメールアドレスに対して利用者が自由にメールアドレスを申請できるのと同様と考えるとわかりやすい。

学校に対するヒヤリングを実施
教育センターの担当者は「先進的教育用ネットワークモデル地域事業」に参加する25校を「接続確認」の目的で訪問し、校内の体制やセンターへの要望などについてヒヤリングを行った。それを運用計画に反映させている。
たとえば、コンテンツ不足を解消するため、学習に使える素材のリストとともに、学校での取り組みを紹介すること考えている。小学校で芋掘りの体験学習が計画され、それを農業高校がビデオに撮影してWebで公開する企画を進めている。「Web化できそうなコンテンツは学校現場にいろいろある」という。

教育関係法規のデジタル化
上記のようなコンテンツのほかに、管理職の関心を喚起したり、しりごみしている先生を巻き込んでいくために、教育用コンテンツの整備が大きなテーマとなっている。教育関係法規のデジタル化、各市町村教育委員会が作成している副読本のデジタル化など、数万ページのコンテンツを雇用対策として作成する計画。

4.2.3 教育利用のための周辺環境

セキュリティ
システムへの不正な侵入は両側(インターネット、学校)からあると考えている。両方に対して、ファイアウォールとIDS(侵入検知システム)を設置する。プライバシー情報は、たとえイントラネットの内側からであっても、特定のマシンからしかアクセスできない。

ヘルプデスク
学校からのヘルプ要請を教育センターに集中させると、パンクする恐れがある。
このため、教育センターにヘルプデスクの時間給採用(1人)を予算化した。約70校を1人がカバーする。
このヘルプデスクはメーリングリストのような全員参加・情報共有型の形式で運用する計画。
ヘルプデスクは、障害が生じたときに、問題の切り分けを行う。障害を「WWWが見えないなど、授業に支障ができること」と定義し、障害が起こったときに、ヘルプデスクは原因を突き止めて、担当者に連絡する。切り分けのためには、教育センター側のサーバの設定も見なければならないので、必然的にサーバの保守も担当することになる。市町村のサーバに問題がある場合は、切り分けて、市町村の管理者に連絡してもらう。
またプロバイダとの契約の中にもヘルプデスクを加えている。
ヘルプデスクの設置とともに、FAQ(よくある質問と答え)の整備もシステム委託業者との委託契約の中に含めている。発生した障害などの問題をFAQとしてまとめ、FAQで解決できない問題をヘルプデスクが対応する形になっていけば、ヘルプデスクへの相談件数は減ってくるだろうと予測している。

4.2.4 その他

システム構築の相談
現在のシステム委託業者との委託契約の中にシステムコンサルテーションを含めている。コンサルテーションとは、「新たな機器の調達を含まず、現状の機器だけで実現できるサービスの新規提供や、校内ネットワークの構築の相談」と定義し、市町村からのシステム構築の相談も受け付ける。
この背景には、地域のネットワークとの連携を考えるとマルチホーム接続やVPNを考慮に入れる必要があるが、マルチホーム接続を提案できる業者はほとんどいないという現状認識がある。接続先としてNTTのOCNが安く見えるが、市町村教育委員会は同じサービス内容で価格比較をしておらず、市町村教育委員会が学校への導入業者を選定するにあたっての技術的な面からの支援も、教育センターの機能として視野に入れている。

2種類の動機づけ
「うつくしま教育ネットワーク」から見ると、市町村が教育ネットワーク整備の必要性を理解し、整備を着手するためのモチベーションには2種類あるという。整備するかどうかと、県のネットワークに接続するかどうか、の2つのレベルである。
整備のレベルに関しては、上記のようにシステム構築の相談に対しアドバイスすることをはじめ、モデルの提示も考えている。
県への接続のレベルに関しては、教育的ではない情報に対するフィルタを利用できること、ドメインやサーバなどの管理は教育センターが担当すること、また教育で使うコンテンツをイントラネットの内部に置いて利用できること、の3点がポイントになる。
また、教育センターの直下に市町村が接続する形をとっているが、「教育ネットワークがピラミッドのようになれば負荷が集中し、破綻する」という認識を持っており、次のステップとして、取り組みの進んだ学校や教育委員会がサブクラスタとして独立した運用ができるようなモデルも探っていく。

【資料】 うつくしまネットワークシステム概念図


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