地域におけるインターネット教育利用環境と推進方法に関する調査報告書
− 学習者のための情報教育環境に関する調査 −

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 4.3. 前橋市教育情報ネットワーク(群馬県前橋市)

4.3.1. インターネット利用環境整備の計画から構築まで

前橋市教育情報ネットワーク
「前橋市教育情報ネットワーク」は略称をMENET(Maebashi City Educational Information Network)という。インターネットへの接続を含めた市内各学校(園)・教育機関等を結ぶ情報通信ネットワークで、前橋市にある公的機関のネットワーク化推進の一翼を担っている。ドメイン名は「menet.ne.jp」。
また、「先進的教育用ネットワークモデル地域事業」に参加。平成10年度に前橋市及び栃木県栃木市・小山市が一つの地域として指定され、前橋市は研究拠点となり地域センターを引き受けた。平成11年度から、このプロジェクトをMotion(Maebashi Oyama Tochigi Information Network)と名づけて活動を開始した。
平成9年という早い段階から、市内在住者を中心とするボランティア団体「インターネットつなぎ隊」に対し教育長名で公式に協力を依頼して教育ネットワーク構築を進めるなど(1)、行政とボランティアとが協調関係を築いた先駆的な取り組みとしても特筆に値する。

(1)協力依頼の内容などは平成9年度「新100校プロジェクト」成果報告集「地域展開に関する企画」
依頼書全文はネットデイ実施マニュアル『学校にLAN入しよう』(学校ネットワーク適正化委員会編、NGS、1999)


整備の経過
平成9年度から「前橋市教育情報ネットワーク」の構築に着手。
平成11年度に「先進的教育用ネットワークモデル地域事業」の指定を受け、地域ネットワークセンターを併設。前橋市総合教育プラザを中核として20校(1小学校、18中学校、1高校)をWLL(Wireless Local Loop、加入者系無線アクセスシステム)による高速回線で接続し、その特性を生かして児童生徒が学校間でビデオ会議やビデオ画像などのやりとりを行い、教育利用の可能性を実践的に研究している。

小学校は中学校に接続
前橋市情報教育ネットワークでは、整備にあたって、(1)学校が将来、常時接続に変わっていくことを考えると、その変更費用の問題などから、ISDN回線での接続は難しくなる (2)何年後かにはCATV網のインターネットサービスに移行する学校が出てくる可能性がある――ということを想定し、電話網以外の回線を利用できる設計にしていた。
さらに、18校ある中学校は前橋市の中でも分散された配置になっている。その地理的利点を生かして、小学校の整備計画では近くの中学校をアクセスポイントとして利用し、小規模の無線ルータで常時接続化した。

各学校用のIPアドレスはMENET用のアドレス
MOTION参加校はアドレス変換機(CISCO製PIX)を通じて地域センター用設備に接続している。「先進的教育用ネットワークモデル地域事業」のサーバ類はまったく別のルータを介して、MENET系からアクセスするようにしている。このため前橋市の小中学校には「先進的教育用ネットワークモデル地域事業」のネットワークのアドレスが配備されていない。

クライアントに関して保守契約を結んでいない
前橋市教育情報ネットワークではクライアントパソコンに関して保守契約を結んでいない。以前はハードウェアに関する保守契約を結んでいた。ソフトウェアの保守が含まれていなかったため、トラブル発生時に業者を呼ぶと、「これはソフトウェアの問題だ」といわれることが多く、保守契約はほとんど役に立たなかった。このため台数整備だけでなく、ネットワーク化を実現するための経費削減として、保守契約を結ばなくなった。
ハードウエアの故障はほとんどなく、半年ぐらいの間に初期不良で壊れることはあるが、それを過ぎると3年ぐらいは安定稼動する。4年を過ぎたあたりからハードディスクなどの故障が出てくるが、そのころにはリース期間が終了し、機種更新される――というサイクルを念頭に置いている。
なお、校内のサーバに関しては、中学校は4年間の保守契約を結ぶ形に変えている。

接続台数は予想以上に伸びている
当初計画では、最終的に2000台が接続し、平成11年度末時点での接続端末数は約1000台と予想していたが、平成12年2月9日現在すでに1242台が接続されている。これは、台数整備の加速に加え、当初計画になかった施設(不登校の子どもたちが通っている施設、児童文化センターなど)の接続を受け入れたことがその理由。
このため、やらねばならない仕事も新しく増えてきたという。たとえば、メールアドレスの利用申請書、学校以外の施設・機関からのホームページ作成申請書および公開規定、メーリングリスト設置の基準や申請書などの作成である。

4.3.2. インターネット教育利用の進め方について

メールアドレスの発行
職員用メールアドレスはセンターではなく学校に置いていたが、センターで発行するように変更を考えている。今までは学校毎にメールアドレスを発行していたが、平成12年度より、教職員のメールアドレスは、センターで発行し、児童生徒用のアドレスは学校で発行する形式に変更する。
これは、職員の異動があっても、メールアドレスの変更をなくすためである。

ソフトの選定について
基本的に、特定教科の特定の時間にのみ使用ができるソフトについては、よほどのことがない限り選択は認めず、いろいろな教科で子どもたちが利用できるソフトウェアを導入する方針。マイクロソフトのスクールアグリーメントというサイトライセンス契約をしている。
平成10年度まで、学校によるソフトウエア購入を認めていなかったが、平成11年度から事務用と教師用、平成12年度からは生徒用のコンピュータにも購入が許可された。このため各学校で独自にソフトウェアを選定・購入し、インストールすることが予想される。
また、子ども向けのソフトに関して、「ワード、エクセル、パワーポイントは小学生には難しすぎると思うので、もうちょっと子ども向けのインタフェイスを検討している」と学校に伝えたところ、「全然そんなことはありませんよ。子どもはどうせ絵でやボタンでクリックしているから同じです」といわれた。実際、ワープロソフトにクリエイティブライターを入れたが、小学生に不評で全然使われない。子ども用のソフトではなくても使えるのか、もっと本質を見抜いているのかもしれないと考えている。

4.3.3. 教育利用のための周辺環境

各学校にインターネット用のサーバを設置
各学校にインターネット用サーバとして、PC-UNIXを使ったサーバ(BoxQun)を設置し、WWWやメールサーバを動作させている。
また、このサーバで校内ネットワークを生徒用のセグメントと教師用のセグメントに分離した。
教師用と生徒用のセグメント分離以前は、パソコン教室の生徒用パソコンから教員のパソコンに記録されている文書が見えた。研修会で注意したが、それでも発生していた。このため、クライアントパソコンの設定とは関係なく見えなくするために、セグメントを分離した。

プリントサーバ(2)は設置しない
学校では教師用のセグメントと生徒用のセグメントの両方にネットワークに接続されたプリンタを置き、クライアントパソコンからそれぞれのセグメントのリモートプリンタ(3)に直接印刷するようにしている。したがって、教師用から生徒用のプリンタには印刷できないし、逆に生徒用から教師用のプリンタにも印刷できない。一見不便そうだが、教員が誤って子どもたちがいるパソコン教室のプリンタに成績データをプリントアウトしてしまうといったミスを防げる。

(2)ここでいう「プリントサーバ」は各パソコンの印刷データを一旦受け取り(スプールする)、その印刷データをもとにネットワーク接続されたプリンタに印刷するシステムを指す。「プリントキューサーバを設置していない」と表現したほうがよいのかもしれない。
(3)これもプリントサーバと呼ばれることがある。


設置台数
小学校はパソコン教室21台と事務用2台の合計23台。中学校は新規追加機種42台と古い機種22台(ただし昨年度更新の学校では校内LANに接続はできない)と事務用2台の合計66台を整備。
さらに、教員の個人所有のコンピュータが少ない学校で5、6台、多い学校では40台ぐらいある。このほか、学校の独自予算で購入したパソコンもある。
整備したパソコンは4年リースで、毎年小学校13校、中学校6校のペースで更新が続く。

学校からの問い合せが非常に増えている
障害の報告用に「サポート」メーリングリストを作った。参加者は中学校のコンピュータの担当者で、小学校は調査時点ではほとんど入っていなかった。障害が起きたとき、基本的には学校の担当者が対応し、その担当者が解決しきれない問題をメーリングリストで尋ねるという利用方法。
このメーリングリストには平成11年4月1日から平成12年2月9日まで294件のメールが書き込まれた。そのうち質問は約100件であるが、それ以外にも電話、あるいは担当主事宛ての個人メールによる障害の連絡があるので、実際にはこの3倍くらいの相談があるという。
しかし、メールのやり取りだけで問題が解決することがあまりない。担当教員も自校のネットワーク(とくに職員室)を把握していないことがある。また、用語の意味がしっかり理解されていないため、文章ではすれ違いが発生している。

オールインワンサーバで学校の運用を簡素化
これまで学校にはWindowsNTServerとFreeBSDのサーバの2台があった。そのためユーザ登録、ファイル管理など、担当者は2種類のOSに関する知識が必要だった。それを学校向けに開発されたオールインワンサーバ(BoxQun)を導入することで統一した。
これによって、学校の管理者はAdministrator(WindowsNT)やroot(UNIX)といった特権ユーザでなくても、ファイル管理やWebベースでユーザ登録などの管理業務ができるようになり、研修もこの範囲で済ませられる。それ以上の問題についてはBoxQunの保守契約で業者に依頼することで、学校担当者の負担が減った。

教員研修について
文部省「情報化推進リーダ」研修プログラムを参考に、以下の5つの項目を中心に研修を進めている。
校内担当者向け研修は、平成11年度から小学校も研修対象になったので、小学校、中学校とも隔週1日の研修を実施した。中学校は4年間も研修をやっているので、悉皆研修は終わりにし、「活用」を重視した研修に変えた。
夏休みに実施していた特別研修会を日数的にも増やしていく計画。

現在の各学校ホームページ公開のしくみ
毎週日曜日の深夜に自動的にロボットで各学校のホームページを前橋教育プラザ内にある外部公開用のWWWサーバにコピーする。取得した各学校のホームページは自動的にMENETの検索システム(namazu)でキーワード検索できるように索引が作成される。各学校の個人情報が掲載されているページなど非公開部分は、robot.txtなどに記述しておくことで、外部公開用のWWWサーバにはコピーされないようにしている。

コンテンツフィルタについて
学校が学校長の責任において、学校の教育目的にあわせてフィルタを実施するのはかまわないが、行政としてコンテンツフィルタリングをかけるというのは、ある種の言論統制に引っかかる可能性があり、非常に危険なことだと認識した上で使っている。
フィルタデータ管理会社のデータそのままだと、授業に差し支えが出る場合もある。その場合、利用可能に変更する必要があり、またその逆もある。そういった管理が大変。
ただ、フィルタリングという手だてを講じていることは、学校の管理職にとって、ひとつの安心材料になっている。

4.3.4. その他

他の教育機関との連携
市内にある前橋市立ではないところを含めた、いろんな教育施設との連携がこれから出てくると考えており、それらの施設・機関との連絡調整が緊急の課題。

群馬インターネットつなぎ隊
インターネットによる群馬県内の地域情報コミュニティ実現と、その基盤となる学校現場へのインターネットの普及と活用のためのサポートを目的にしているボランティア団体が「群馬インターネットつなぎ隊」である。前橋市教育情報ネットワーク全体の設計・ネットワークセンターの施工・構築等に関して、群馬インターネットつなぎ隊の協力のもとで進められている。運営方法の相談に乗るなど、技術的ばかりでなく、担当者たちの精神的な支えにもなっている。

ダイエットの時期
昨年から慢性的な人員不足で運営に支障があり、MENET運用部会を何回か開いた結果、「人員増ができなければ、規模を縮小すればいい」ということになった。「サービスのレベルが低下した」という不満の声は覚悟している。
しかし、きちんとした理由とニーズがあれば、利用者からの要望があがるはず。要望によって教育情報ネットワーク運営が独立した業務として認知され人員不足などの問題がはじめて解決できると考えている。そのためにも、急場しのぎ的な対策ではなく、先を見てあえて規模を縮小する。
現在、削減するサービスをリストアップしている。ひとことでその方針を言い表すと、「プロバイダと同じ機能は最低限残す」である。
現在はさまざまなデータベースのサービスを行っているが、それも精選する。ホームページも自動取得はしないで、担当者が自分でFTPしてもらうようにする。

【資料】 前橋市教育情報ネットワーク無線通信システム概念図1
学校分布地図2


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