地域におけるインターネット教育利用環境と推進方法に関する調査報告書
− 学習者のための情報教育環境に関する調査 −

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 4.4. 柏学校教育ネットワーク(千葉県柏市)

4.4.1. インターネット利用環境整備の計画から構築まで

柏学校教育ネットワーク
「柏学校教育ネットワーク」は平成11年7月にドメイン名「kashiwa.ed.jp」を取得し、8月から運用を開始した。柏市立の小中高等学校(小学校33校、中学校16校、高校1校)を対象としている。
柏市内にある学校法人廣池学園麗澤大学を中心とするボランティア団体「柏インターネットユニオン」(KIU)の協力を得て整備・管理・運用を進めているのが特徴である。教育長名で「群馬インターネットつなぎ隊」に対し協力を依頼した前橋市と違い、そのような公式な関係は築かれていないが、教育委員会からも指導主事らがKIUメンバーとして参加しており、教育委員会と学校法人との信頼関係をベースに、KIUから各種の技術的支援を受けている。
平成11年には「先進的教育用ネットワークモデル地域事業」(郵政省、文部省)に参加。柏市(20校)と埼玉県川口市(10校)が1つの地域に指定され、地域ネットワークセンターは麗澤大学内のKIU施設に置かれた。柏市内では「のぞみプロジェクト」として取り組み体制を整えている。なお、「のぞみ」という命名は東海道新幹線の列車名からとったもので、「ひかり(光ファイバー網)より速い」という思いを込めている。

整備の経過
平成8年、KIUが設立され、柏市教育委員会に学校のインターネット接続計画の打診があった。
平成9年、柏市個人情報保護条例への対応を柏市情報教育推進委員会で検討し、1校を試験接続。
平成10年、学校のインターネット接続が可能であることを個人情報保護審議会で確認。4校と1機関(柏市立教育研究所)がKIUに接続された。
平成11年、ドメイン名を取得し、「先進的教育ネットワークモデル地域事業」スタート。

機器構成
柏学校教育ネットワークでは、各学校にケーブルモデム(CATV接続校)、ルータ(一部ダイアルアップ)、PC-UNIX(プロキシ、キャッシュ、DNS、メール、UUCPなどのサーバに利用)を設置(機器の一部はKIUから貸与)。
そして、教育ネットワークとしてのWWW、DNS、FTP、メール、プロキシ、ダイアルアップルータ、認証サーバはKIUの設備(麗澤大学内)を利用し、バリアセグメント用ファイアウォール、コンテンツフィルタをKIUに委託して設置している。
先進的教育用ネットワークモデル地域事業の設備は、麗澤大学に内部・外部向けサーバ、ビデオ会議サーバを設置。柏市立教育研究所に教材用コンテンツサーバ、研修用サーバ、コンテンツ作成用機器、そして各学校にもCCDカメラを追加している。

使いやすい環境
ネットワーク構成を企画するにあたっては、次の基準を設けた。
つまり、使いやすい環境である。よく「工夫すれば使える」といわれるが、これは「工夫しなければ使えない」ことである。
そして、機器の選定については、柏市教育委員会からKIUに委託する機器はKIUと相談の上、柏市立教育研究所の備品として調達し(柏市の規定による競争入札)、KIUが提供する機器はKIU技術部会を中心に協議して決定している。

大学の業務として日常管理
麗澤大学職員の職務規程に新たに「地域ネットワークに対する支援業務」が加えられたため、麗澤大学に設置されたセンター設備の日常的な管理はKIUメンバーである大学職員が業務として対応することができるようになった。
また、ファイアーウォールなどの管理は,柏市立教育研究所の情報教育担当が対応している。

4.4.2. インターネット教育利用の進め方について

共同学習と交流活動の研究
「地域教育ネットワークを活用した、さまざまな方向性の共同学習・交流活動の研究」を研究主題として、次のような取り組みを進めている。
メールアドレス
生徒用は、のぞみプロジェクトの専用線で接続された学校(20校)はプロジェクトのメールサーバで、それ以外の学校は校内のメールサーバ(プロキシサーバを兼用)で発行することにしている。
一方、教員用には柏学校教育ネットワークとしてkashiwa.ed.jp のアカウントで発行している。これは柏市内の異動であれば同じメールアドレスを継続して使えるというユーザ側のメリットに加えて、管理工数を減らせるという管理者側のメリットも考慮されている。
各学校では、メールの扱いに関して、(1)WindowsNTサーバのユーザアカウントを生徒全員に与え、ユーザディレクトリに保管する (2)フロッピーディスクに保管する (3)グループウェア(スタディーノート)を利用する――という3通りの運用が行われている。

4.4.3. 教育利用のための周辺環境

校内ネットワークのセグメントを分離
保護者参加を考え、校内ネットワークは「教室系」「職員室系」の2セグメントに分離している。校内ネットワークが整備されると、教員はまずファイルなどを共有して活用を始めるが、この利用で個人情報の漏洩などのトラブルが発生するのを防ぐためである。「ネットワークを活用しようとする先生がセキュリティの問題で傷がつくと、気持ちが萎えてしまう。そういう先生方をできれば守ってあげたいという気持ちがあって、強引だけれどもネットワークを分けた」という。
「のぞみプロジェクト」では、保護者が家庭からVPNで校内LANに接続する計画を立てたが、実現しなかった。生徒用と教員用の2つのセグメント分けだけでなく、学校への保護者の参加も考慮し、「公開系」というもう1つのセグメントを追加する考えも持っている。

学校にキャッシュサーバを設置
1.5Mbpsの回線でつながっていても、授業で一斉にWebを利用するには限界がある。このため接続の形態が違っても、共通した仕様のキャッシュサーバを各学校に設置している。「1.5Mbpsでも同時使用は20台が上限ではないか」という。このキャッシュサーバはコンピュータ室環境の一部として柏市教育委員会が設置しているが、教室整備が間に合わない学校についてはKIUが貸与する形式をとっている。
さらに、学校に設置したサーバで各種のサービスを運用するための試みとして、CATVで接続された学校について、夜間に学校設置サーバのフルバックアップをとっている。CATV接続は上下とも1.5Mbpsなので可能。そして、このバックアップに関しては、学校内の個人情報などが含まれているため、KIUはいっさい内容を見ないことを条件としている。この運営が成功すれば、学校で児童生徒用メールサーバを本格稼動できると考えている。

研修について
平成11年度は柏市立教育研究所で年間300名前後を対象にした研修会を実施したほか、KIUでも教員を対象にしたフォーラムを年3回実施した。

トラブルへの対応
学校でトラブルが発生したときは、柏市立教育研究所に連絡し、教育研究所から必要部署に連絡するよう窓口を一本化しているほか、KIUも学校教員が参加するメーリングリストを運営しており、メーリングリストで相談することもできる。
また、各学校からのアクセスログを採取し整理を行っている。トラブル対処とともに、運用資料として活用している。

情報系の学部学生を活用
柏市立教育研究所に従来からあった「教育専門指導員」という採用枠を利用し、麗澤大学で情報系のゼミに所属する学生を非常勤で採用。学校の悩みを解決するため、ITコーディネータやヘルプデスクを兼ねた業務にあたらせている。
3年間の予算措置で、仕事の内容は以下の通りである。
「学校を訪問してもきちんと応対できる学生」の推薦をKIUから受け、教育研究所所長が面接して採用した。制度にのっとった職種なので学校訪問も可能だが、交通費と保険費が支給できないため、正規の職員(指導主事)が同行して学校をまわっている。

4.4.4. その他

管理職の意識が変わった
これまで、学校は仕事が足し算的に増えるのを嫌い、そのためネットワークに接続することを嫌がっていた。しかし、最近では理解を示し、「いつ来るの?」という催促に変わってきたという。

【資料】 ネットワークの構成



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