地域におけるインターネット教育利用環境と推進方法に関する調査報告書
− 学習者のための情報教育環境に関する調査 −

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 4.5. 伊那市教育委員会が運営する教育ネットワーク(長野県伊那市)

4.5.1. インターネット利用環境整備の計画から構築まで

伊那市教育委員会が運営する教育ネットワーク
とくに名称はなく、「伊那市教育委員会が運営する教育ネットワーク」と呼んでいる。愛称は「inagoネットワーク」。平成11年8月にドメイン名「ina-ngn.ed.jp」を取得した。
伊那市の人口は約6万4000人(平成12年3月現在)で、総世帯数のうち農家の占める割合が多い(平成7年、23.8%)。市内には計16学校(12小学校、4中学校)があり、有線放送網という既存のインフラを生かし、ADSL技術による高速ネットワークで結んだのが「伊那市教育委員会が運営する教育ネットワーク」である。
特徴として、次の点をあげることができる。
  1. 市長部局と教育委員会との間でスムーズな人事交流が行われ、お互いに顔の見えるスタッフが連携を取り合って、地域整備の一環として教育ネットワークが整備された。
  2. 財政難をカバーするために低コスト化をめざしている。
  3. 整備・管理・運用のすべてに学校現場の意見が反映され、また協力を得ている。
このような教育委員会としてのリーダーシップのあり方は、都市の規模や特性を生かしたものと考えられる。

整備の経過
伊那市有線放送農業協同組合は設備を更新し、平成7年に「いなあいネット」として整備していた。この設備更新にあたっては、「有線通信網は将来のデータ通信に最適なシステムである」との判断から伊那市も財政的に支援した。
平成9年4月、伊那市有線放送農業協同組合が運営する「いなあいネット」をインターネットのアクセス手段として活用するため、本局内に民間プロバイダ2社の設備を設置。地域住民が低価格でインターネットを利用できるサービスを開始。
さらに、平成9年9月に伊那市有線放送農業協同組合の有線放送(電話)設備を使ってADSL技術による高速イントラネット・インターネットの実証実験が行われた。ADSLは局との距離が長いとその影響を受けるが、光ファイバー網とADSLを組み合わせることにより伊那市全域がカバーできることが実証された。
それを踏まえて平成10年3月に「伊那市地域情報化計画」を策定。郵政省の「地域イントラネット基盤整備事業」の指定を受けて地域イントラネット構築に着手した。
平成11年6月、伊那市地域イントラネット(伊那市RAN)が完成。12小学校、4中学校、7公民館、市役所、図書館、市営病院などの出先機関をADSLで接続した。

inajinインターネット協議会
伊那市には「inajinインターネット協議会」というボランティア団体がある。整備の経過には出てこないが、これらの整備に携わった人たちの中にはメンバーが多く、それによって職種や業務を越えた幅広い連携が可能になった。
伊那市内でインターネットに接続する個人・学校が参加し、インターネット利用の活性化と、より深い利用法の探求を目的として、平成8年11月に結成された。毎月2回の定例会を持ち、活動をすすめている。発足当時のメンバーは約40名。現在は約100名。
平成9年9月に行われたADSL実験では、inajinインターネット協議会のメンバーがユーザとして参加した。それによって、メンバーの教員や保護者が自発的に学校へのインターネット導入や情報教育への活用を検討し始めたことが、教育ネットワーク構築のきっかけとなり、またそのメンバーたちがそれぞれの仕事の場を通して、教育ネットワークの推進役となっている。

伊那市RAN
伊那市地域イントラネット「伊那市RAN」(Regional Area Network)は大きく4つの機能に分類できる。伊那市役所をセンターとした「行政情報」、伊那市図書館をセンターとした「図書館情報」、有線放送本局を「地域情報センター」とした公民館情報ネットワーク、それに小中学校教育ネットワークである。
「地域情報センター(有線放送本局)」と「行政情報センター(市役所)」の間、および「行政情報センター(市役所)」と「図書館情報センター(図書館)」の間は10Mbpsの無線LANで、また有線放送本局と支局間は光ファイバーによるWDM方式で、それぞれ接続され、各学校など有線放送網加入者はADSL方式で接続する。
インターネットへは「いなあいネット」網を経由して、(株)富士通長野システムエンジニアリングが運営するInfovalleyに接続。

教育ネットワークのサーバは学校に設置
小中学校を結ぶ教育ネットワークのサーバは伊那小学校に設置され、伊那小学校の情報教育担当者がメンテナンスを担当している。サーバは2台あり、イントラネット用とインターネット用に分けている。

パソコン教室内LANのインターネット接続は学校次第(中学校)
中学校(全4校)は平成9年度にパソコン教室設備を更新した。Windows95マシン42台+1台で、パソコン教室内の42台はLANで結ばれている。インターネットにつながった1台は技術研修室に置かれ、4中学のうち1校は「授業でインターネットを使いたいから」と希望し、パソコン教室内LANもインターネットに接続したが、他の3校については、学校からの要望が出てくるまでパソコン教室内LANのインターネット接続を見送っている。

少ない台数を校内LANで分散配置(小学校)
小学校(全12校)は平成10年度にパソコンを導入した。予算査定で各校4台ずつしか認められなかったため、少ない台数を有効に活用するため、職員室1台、図書室2台、教室1台に分散配置し、校内LANで接続している。また、教室で利用できるようにプロジェクターを配備。なお、中学校の廃棄パソコン80台のうち半分は小学校に配布した。
この小学校の配備方法は視察先の京都府京田辺市が参考になったという。

教育ネットワーク運用は教員組織
平成9年度の中学校のパソコン整備、平成10年度の小学校のパソコン整備にあたっては、それぞれ学校の教員が参加する「伊那市情報教育研究委員会」を設置して検討を行った(中学校部会は各校2人、小学校部会は各校1人)。情報教育委員会は教育委員会が委嘱した組織の形をとっており、事務局は教育委員会施設係に置かれている。
伊那市RANの完成によって教育ネットワークが稼働すると、情報教育研究委員会が小委員会(パソコンやネットワーク関係に高いスキルを持つ教員6人で構成)を設けて教育ネットワークの運用管理にあたっている。サーバ設置校の担当者も小委員会のメンバーである。
また、インターネット利用のガイドラインも情報教育研究委員会が作成した 。

4.5.2. インターネット教育利用の進め方について

児童生徒
一太郎やエクセルなど基本ソフトの使い方、栄養計算の利用、パワーポイントを使ってのプレゼンテーションなどを学習しており、委員会や児童、生徒会活動の記録や文書の作成に利用されている。
ホームページを作って学校から情報を発信したり、修学旅行などの調べ学習にインターネットを利用している。
休み時間に教員の立ち会いのもと児童に自由にパソコンを使わせている小学校もある。
「みんなで民話を作ろう掲示板」など児童用の書き込み掲示板システムを稼働中。

教員の利用
まず、教職員が使ってみることを心がけている。たとえば授業に使える情報の検索などにインターネットを利用。それによって利用法や問題の洗い出しなど研究を行っている。

コンテンツの開発
コンテンツは主にイントラネット用として、情報教育委員会、情報教育アドバイザによって開発が進められ、内部向けのWebとして運用している。次のようなものがある。
メールアドレスについて
教職員については希望者全員にメールアドレスを発行しているため、PTAへの連絡など、情報交換に利用されている。
児童生徒用は学校に1アドレスを発行。児童生徒は教員の立ち会いのもとでメールを利用することを前提としている。教員が代理で発信することにより、電子メールを使って地域との交流を進めている学校もある。
児童生徒のメール利用を制限しているのは、「教員全体のスキルが上がっていないので、児童生徒が自分たちだけでメールを出してしまうのは問題があるのではないか」という認識から。現在は問題の洗い出し中とのことで、どのようにして児童生徒にメールアドレスを与えるかを検討している段階。

4.5.3. 教育利用のための周辺環境

トラブル対策
「伊那情報教育研究委員会」の小委員会メンバーでメーリングリストを運営しており、学校でトラブルが発生したときは、このメーリングリストに連絡すればよいことにしている。それをもとに情報教育アドバイザが必要に応じて保守業者へ連絡したり、学校を訪問する。

情報教育アドバイザ
雇用対策事業で認められた「情報教育アドバイザ」を活用し、平成11年10月から、1人(女性)を採用。情報教育研究委員会の小委員会の中に組み込み、サーバ管理の補助(教員メールアカウントの登録、IPアドレスの割り振りなど)、学校のトラブル対応、ホームページのコンテンツ開発のほか、学校の利用状況を調査し、それを他校にフィードバックして活用のアドバイスを行っている。情報教育アドバイザが学校を訪問し教員の相談に乗ることは、校内研修にもなっている。
ただ問題は、雇用期限が6カ月であること。

外部講師による教員研修
伊那市内在住のジャストシステム認定インストラクター資格を持つ市民に講師を依頼して、全教員を対象とする教員研修(希望者が参加)を、インターネット接続されているパソコン教室のある中学校で3回実施した。
平成10年度はワープロ、表計算に関する研修。平成11年度はメールの利用研修。参加者はのべ100名以上にのぼり、教員以外に事務職や教頭も参加した。

コンテンツフィルタ
調査当時はコンテンツフィルタはなかったが、平成12年3月に有害情報除去装置を設けた。

セキュリティ
小学校の校内LANは教員用、生徒用に分離されていないため、校内のセキュリティはない。さらに教育ネットワーク全体がLAN化されているため、他の学校、公的機関の共有ファイルが覗かれる。

4.5.4. その他

長野県との関係
長野県教育情報ネットワークがあるが、伊那市への参加打診などの連絡はない。

台数を確保したい
中学校は設置基準の1人1台を満たしているが、小学校の台数が不足しているので、その台数確保が課題。ただし、パソコン教室は設けず、図書館、特別教室など学校内に分散して配置することを考えている。
また、平成12年度は事務用パソコンを各校1台配置し、これにより事務連絡などを教育ネットワークで行う計画。

利用上の問題
ファイルの共有サービスでパスワードを利用を促しても、セキュリティーに対する認識が薄い。教員に対しセキュリティー確保の重要性を説明しているが、教職員全体が理解するまでにいたっていない。
また、学校間で指導方法がまちまちであり、教員も指導に苦慮している。小学校、中学校での共通したルールやマナーなどの指導基準の設定が要望されている。
利用できる教員とできない教員との差が生じ始めている。学校間の差も見られる。このため、教員のレベルにあった講習会や勉強会活動が要望されている。

今後の活動
【資料】 地域イントラネット基盤整備事業システム図
伝送路ネットワーク図

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