地域におけるインターネット教育利用環境と推進方法に関する調査報告書
− 学習者のための情報教育環境に関する調査 −

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 4.6 豊橋市立小中学校情報ネットワーク(愛知県豊橋市)

4.6.1 インターネット利用環境整備の計画から構築まで

豊橋市立小中学校情報ネットワーク
愛知県東部に位置する豊橋市は人口36万6952人(平成11年末現在)。管内には小学校52校、中学校22校の計74学校があり、「豊橋市立小中学校情報ネットワーク」は平成11年度に全校接続を完了した。ドメイン名は「toyohashi.ed.jp」。
教育ネットワークの運用管理を地元の民間プロバイダにアウトソーシングしている地域は他に例がない上、そのユニークな運用形態にも特徴がある。次の2点である。
  1. サーバ設備を民間プロバイダの施設内に置いている。
  2. 民間プロバイダの内部に教育ネットワーク専用のセグメントを作成してもらっている。
このような運用形態を選択した理由として「予算面の問題」と「ボランティア団体の活動実績」をあげる。学校からのダイヤルアップ接続を受けるための受電設備(INS1500を3回線)の予算化が難しかったこと、地元のボランティア団体「東三河スクールネット研究会」による支援活動を通してWebとメールサーバなどを外部に設置できることが実証されたこと、の2つの理由である。

整備の経過 プロバイダに教育ネットワーク専用セグメントを設置
公開用サーバとイントラネット接続用コミュニケーションサーバを民間プロバイダ(Sala Internet)内に設置し、維持管理を委託。そして、イントラネット接続用にINS1500回線3本を使って豊橋市立小中学校情報ネットワーク専用の受電設備を設けてもらっている。各学校からは2B(128Kbps)で接続するので、35校まではイントラネットを同時に利用できる。36校目からは自動的にプロバイダの一般受電設備に接続されるため、イントラネットは利用できないが、インターネットを利用できる。
豊橋市教育会館にイントラネット用サーバを設置し、豊橋市教育会館とプロバイダは128Kbps専用線で接続されている。

学校からはISDNダイヤルアップ接続
小学校はMac8台、中学校はWindowsパソコン42台。
学校はISDN回線を使い、ダイヤルアップルータでプロバイダと2B(128Kbps)接続している。
中学校には、それぞれの学校の判断でプロキシ(キャッシュ)サーバを設置しているが、40台ではそれでも支障が出る。とくに生徒が自分でホームページ検索して、バラバラにホームページを閲覧するような形では、表示に時間がかかりすぎて、とても授業にならない。

情報教育機器整備5つのポイント
昭和57年のパソコン導入を皮切りに学校でのコンピュータ利用について研究を重ねた結果、情報教育機器整備のポイントは「教科利用」から「情報通信社会の対応」へと変わってきた。それが現在の整備につながっている。次の5つである。

4.6.2 インターネット教育利用の進め方について

メールアドレス
全教職員にメールアドレスを発行。イントラネットのサーバで、メールアドレスを検索できるようにしている。児童生徒にはメールアドレスを与えていない。

小学校での取り組み
各学校とも1週間のうち1時間をコンピュータ利用の時間に割り当て、学級ごと、学年ごとに工夫しながら利用。教員も研修に積極的に参加することで、指導力を高めようとしている。
実践例として、
  1. クラリスワークスを使った実践
    • 教師が教材として作成
    • 児童が学習成果として作成
  2. ホームページを作成して情報発信
中学校での取り組み
「コンピュータは技術の授業で」という考えが根強かったが、平成10年度にWindowsパソコンが導入され、「情報活用能力」の育成が叫ばれるようになったことで、技術科以外での活用に目が向けられるようになった。
実践例として、
  1. 教科における利用
  2. 技術科における「情報基礎」

4.6.3 教育利用のための周辺環境

学校が直接ホームページを公開・更新する
学校の情報発信に関しては学校から直接、プロバイダ内に設置された公開用サーバにFTPを使ってデータをアップロードする。これに対し、豊橋市教育会館内にあるイントラネット用サーバは豊橋市教育会館でコンテンツの登録・更新などを管理しているため、学校からは書き込めない。
外部向けの公開情報についてはセンターなどでチェック、イントラネット用サーバへの書き込みは自由という地域が多いが、その逆の運用形態をとっている。

台数か接続か
小学校は設置基準を満たしていないが、インターネット接続したことによって、利用率は間違いなく上がった。
この点について、台数が増えても、接続が増えても、それぞれ形の違う効果がある。どちらかを選ぶとすれば、「台数が少ないと、子どもたちにどう使わせるかが難しい。子どもたちが自分で触る機会が多くなるという意味では、台数だろう」と指導員の1人はいう。しかし長いスパンで見れば、「情報化が波を打ってきているので、5年間もインターネットなしでやっていく自信はまったくない。今から始めておけば、教員のレベルも少しずつ上がっていく。その意味では、台数よりもインターネットがほしい」という。

学校は教育用だけにインターネット接続している。
現在は教育利用だけに限定しているが、数年後には事務ベースのインターネットも設置の予定。この場合は専用線を使用し、サーバの設置も考えている。このため今から研修システムを作らないといけないという意識をもっている。とくに、センターの事務局自身でもセキュリティ意識をもたないといけないと考えている。

教員研修について
平成11年度は市教育委員会主催の研修会(のべ931名)、県教育委員会主催の研修会(のべ247名)が開かれた。豊橋市の教員数は約1700人。
これ以外に、各学校が実施する校内研修で情報教育をテーマにする場合は、担当の指導員を講師として派遣している。そのような学校は情報教育に対する取り組みにも積極的だという。

コンテンツ
イントラネット用のコンテンツは現在、教員の電子メールアドレス検索だけで、どのように充実しているかが課題になっている。教科単元別のコンテンツ・リンク集、映像データベース、教育論文などのホームページ製作を計画中。「児童生徒の顔写真なども必要であればイントラネットで公開できるのではないか」と考えている。
この点に関して、コーディネータの必要性を感じている。「地域の情報をというけれど、誰かがコーディネータになって、この学校にはこういう情報がある、この学校にはああいう情報があるといってくれないと、いい情報は出てこない」という。

各学校のホームページ公開
教育委員会として、運用規定を設けている。個人情報については市の個人情報保護条例にそった扱いをしている。各学校のホームページの制作は学校長の責任のもとで行っており、学校からftpでアップロードしている。

Webメールの問題
児童生徒にはメールアドレスを与えていないが、Webメールを子どもに使わせた学校があった。教育委員会としてWebメールの危険性について情報を流す前に、学校現場で使われた。インターネットに関して、学校が委員会よりも先に進んでしまうといった問題は今後も出てくることが予想され、どう対応していくかが課題となる。

各学校のルータが責任分岐点
学校の機器はレンタルで、納入業者と保守契約を結んでいる。教育ネットワークを管理するプロバイダとの責任の分岐点は学校のダイヤルアップルータである。ダイヤルアップルータについては、機器そのものの保守は学校業者、設定内容はプロバイダが対応している。
このように複数の業者がかかわっているため、学校のパソコンに割り当てるIPアドレス計画について検討漏れが生じてしまった。

障害への対応
学校で障害が起きた場合、学校の担当者はまず業者に連絡する。そして業者の保守範囲を超えた障害であれば、業者から豊橋市教育会館に連絡があり、豊橋市教育会館からプロバイダに連絡する。

スタッフ
豊橋市教育会館において指導主事1名、指導員2名の計3名が情報教育を担当する。各学校から出された問題点やトラブルには、主に2名の指導員があたっている。 学校の情報教育の進展においては、その計画や実行を豊橋市教育会館が中心になって行い、指導員の2名は現場の意見を代表する形になっている。

4.6.4 その他

学校の温度差
パソコンの操作は研修ですぐに身につくものではない。すぐに忘れてしまう。だから学校で実際に使いながら不明な点が出たときに、アドバイスしてくれる教員がいるようになるのが望ましい。「電子メールやインターネットを使いこなしている教員が2、3人いる学校では、そうやって急速に広まっていく傾向がある」という。

東三河スクールネット研究会
豊橋市を中心にしたボランティア団体「東三河スクールネット研究会」は平成9年に設立された。教育関係者が数多く参加し、学校における情報教育のあり方について検討している。さらに学校のインターネット接続も支援し、そのさいプロバイダにWebとメールサーバを設置した。
プロバイダへのサーバの管理委託というアイデアは、この東三河スクールネット研究会が実施したインターネット接続実験で教えてもらった。教員の知識だけでは、知り得なかったという。
東三河スクールネット研究会では技術研修会を実施しているが、それが豊橋市立小中学校ネットワークの管理者養成研修ともなっている。

回線問題
学校からの接続形態を現在のダイヤルアップ接続から専用線接続に増強したい。そのためにNTTの専用電話回線を含め広い選択肢を視野に入れているが、価格的に安価なCATVによる接続は、現在、CATV網が全74校中54校しかカバーしていないという悩みがある。
 一方、平成11年度補正による「マルチメディア活用学校間連携推進事業」で3校が指定をうけた。この3校の扱いをどうするかも課題。

アウトソーシングを進めたい
サーバの委託だけでなく、コンテンツ作成についても、教員がコンテンツを提供して業者がHTML化するといった外部委託の方法を考えに入れている。将来、各学校にサーバを設置することになったときには、その校内サーバ管理もアウトソーシングしたい。「委託できるものは委託したい」という。

【資料】 豊橋市小中学校ネットワーク図


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