2. 企画の実施

2.1. 実施体制

2.1.1. 実施体制

 本企画の運営がスムーズに行われるよう,幹事校,参加校,事務局のそれぞれの役割分担を明確にして取組んできた。

(1) 幹事校

 参加校に対する種子の提供,観察結果の共有化(Web化),観察活動の推進,観察結果を活用した授業を実践,観察を通した児童同士の交流の実践,実践事例の作成(執筆)収集

(2) 参加校

 観察活動の推進,観察結果を活用した授業を実践,観察を通した児童同士の交流の実践,実践事例の作成(執筆)

(3) 事務局 企画の推進,参加校への支援(観察機材等の提供),報告書の作成

2.1.2. ワーキンググループの設置

(1) ワーキンググループの設置,委員構成  

 本企画を実施するにあたり,企画を実施する目的,実施する内容を明確にし,企画を推進する過程においての専門的な立場からの助言と,課題等をまとめ,全国発芽マップの方向性を探る目的で以下のワーキンググループを設置した。ワーキンググループの委員については,これまでの全国発芽マップの取組,ねらい,目的をふまえるとともに,植物栽培観測データの活用の在り方等も考慮して委員を構成した。  

委員構成は以下の通りである。(敬称略)  

中山  迅

新地 辰朗

田伏 正佳

奥村 高明

根井  誠

中西  英

宮崎大学教育文化学部

宮崎大学教育文化学部

宮崎大学工学部   

宮崎大学教育文化学部

宮崎県東臼杵郡椎葉村

宮崎大学教育文化学部

理科教育講座教授 

附属教育実践研究指導センター助教授

情報システム工学科助教授

附属小学校教諭

椎葉中学校教諭 

附属小学校教諭

(2) ワーキンググループの活動

 ワーキンググループ会議は以下の3回開催し,内容は平成12年度以降の全国発芽マップの方向性を探るものとなった。  

1) 第1回グループ会議
  • 期日
  • 内容
  • 平成11年10月22日(金)

    平成11年度全国発芽マップ'99の取組について

    平成12年度以降の全国発芽マップの取組について

    2) 第2回グループ会議  
  • 期日
  • 内容
  • 平成12年1月28日(金)

    「全国発芽マップ'99実施報告書」の検討

    「植物の栽培・育成・観測マニュアル」の検討

    全国発芽マップホームページの在り方の検討

    平成12年度の全国発芽マップの取組について

    3) 第3回グループ会議
  • 期日
  • 内容
  • 平成12年2月28日(月)

    「全国発芽マップ'99実施報告書」の校正

    「植物の栽培・育成・観測マニュアル」の校正

    平成12年度の全国発芽マップの取組について

    2.2. 企画の実施

    2.2.1. 実施の準備

    (1) 共同で栽培していく植物の選定

     植物の栽培・育成・観測企画,特に全国発芽マップのような企画の場合,全国共通の植物を栽培することを通して観測データの共有を図ることができ,栽培活動や観察活動が活性化されるものと考える。

     例えば九州と北海道では,播種から発芽,開花,結実までの期間などは当然違う。その相違等から子どもたちや教師が興味や疑問をもち学習が始まっていく。また,調べていく過程においても,地域による気候の違いや特徴などの新しい学習が様々な方面に広がっていく可能性があるのである。また,電子メールやホームページ,テレビ会議などで成長の様子などを情報交換をすることで,観測データを正確にしかもリアルタイムに伝えるとともに,共同で栽培している共有感をもつことができるのである。

     平成11年4月,新100校プロジェクトも終了したこの時点では,この全国発芽マップの企画が継続されるのかどうか明確でない状況にあった。ただ,全国発芽マップのメーリングリストはそのまま継続されていた。そこで,昨年度に全国発芽マップに参加されていた先生から,

    「今年は全国発芽マップは継続するのですか?もし,継続するようでしたら,参加させてください。」

    という内容の電子メールが全国発芽マップのメーリングリストを通して流された。この電子メールに呼応して昨年度まで参加していた学校から,平成11年度もぜひ実施してほしいという要望がぞくぞくと寄せられた。また,共同で栽培していく植物は「ケナフ」でという意見も数多く寄せられた。そこで,これまでの全国発芽マップの幹事校として,これまでの全国発芽マップの成果及びケナフの学校教育の場における有効性を踏まえ,平成11年度もケナフを共同観察の植物として選定した。

    図1 ケナフの花

    共同で育てていく植物の選定については参加している子ども,教師の意識の継続にもかかわる重要な部分であるので,参加校の子ども,教師の意見,育てる植物の教育的な意義等を踏まえる必要があると考える。

    (2) 全国一斉播種の期日の設定

     全国発芽マップの目的として,「同日,同時刻に一斉に全国各地で種子をまき,その成育の様子や子どもたちの活動を電子メールやホームページ等で情報交換し交流を図る。」とある。それは,1つには同日,同時刻に一斉に播種するということで,参加者意識が高まること,2つは植物の栽培・育成・観測企画ということで,気候,地域による成育の状況の違いを明確にするためである。

    そこで,

    「さっそくですが,今年も全国発芽マップはケナフでいこうと思います。植える日時を決めたいと思います。昨年は5月20日でした。今回はどうでしょうか,寒いところの方ご意見ください。」

    という電子メールを全国発芽マップのメーリングリストを通して流した。これまでのケナフの実践から寒い地方の発芽や成育の状況等を踏まえておくことも必要なことであると考えたからである。この時点では,この全国発芽マップの企画が継続されるのかどうか明確でない状況にあったが、平成11年度は5月15日(土)に期日を設定し,土曜日であったため一斉播種時刻は午前10時と決定した。

     播種期日の設定についてはこの企画が全国規模の企画であるため,種子の有無,送付などについても見通して期日設定する必要があると考える。

    (3) 種子の有無の調査及び種子の送付

     全国一斉播種の期日の設定と同時に,ケナフの種子の有無についても参加校に以下のような電子メールをメーリングリストを通して問い合わせた。

    「本年度の全国発芽マップも「ケナフ」で,種子を蒔く日は5月15日(土)に決定しました。(詳しい時刻については後日お知らせします。)参加される学校はリストを作成する関係上電子メールをいただけるとありがたいです。また,種子の有無についても連絡ください。」

    昨年度のケナフの栽培を通してできた種子を活用する学校もあれば,地域差よる成育の状況等から種子ができなかった場合もあった。その場合,近くの学校やボランティア団体等から種子を入手するなど地域でのネットワークも広がっていったのである。ただ平成11年度からの新しい参加校については種子を送る必要がある。新しい参加校は昨年度の参加校からの呼びかけや全国発芽マップのホームページから情報を入手したということで参加している。

    図2 ケナフの種子

     今回の種子の有無の調査後,新しく参加した学校も含めて合計17校にケナフの種子を送付した。

    2.2.2. 企画の実施

     本企画を実施する上では,ケナフが一年草ということもあり一年間の大まかなスケジュールをつかんでおく必要がある。ケナフを栽培したときの一年間の節目は,全国一斉播種,発芽,成長の観察,開花,災害,収穫及び紙すき等の流れである。この一連の流れの中でメーリングリスト,ホームページ等で全国の子どもたちの活動や先生方の活動が広がってきたのである。また,それぞれの地域の立場や状況でケナフや全国発芽マップに対する思いが見えてくる。このことは全国発芽マップのメーリングリストの数からも明確になっている。

     全国発芽マップ'99 全電子メール数 465件  
       (1999年度:1999年4月14日〜2000年2月1日まで)  

    1) 全国一斉播種関係
    (39件)
    2) 発芽関係
    (41件)
    3) 成長の観察関係
    (54件)
    4) 開花関係
    (47件)
    5) 災 害
    (38件)
    6) 収穫及び紙すき等
    (28件)
    7) その他
    (218件)
    (1) 全国一斉播種

     平成11年5月15日(土),午前10時,全国47校(その後4校増えて最終的には53校)の参加校と一斉にケナフの種子を播いた。当日は天候が心配されたが関東以北は曇でその他の地域は晴れの天候に恵まれた。

    図3 一斉播種の様子

    「本校でも15日午前10時に種子を蒔きました。昨年9本育ったケナフから種子を取り,今年は,6年生45名 全員分の種子を蒔くことが出来ました。今日はまだ芽が出ていませんが,これから出てくるのが,楽しみです。」

    といった具合で播種してから発芽するまでの思いが寄せられた。また,ある子どもはその時の様子や思いを次のように日記に書いている。

    「今日みんなでケナフの種子を播きました。いつ芽が出るか楽しみです。芽がでたら水をあげて,肥料をあげてどんどん大きくなるといいなあ。そして葉書を作ってお手紙を出したいです。」

    別の子どもは,その時の思いを振り返って,

    「ぼくはケナフを育ててみて,いろいろなことが分かりました。その中でもケナフの種子をみんなでいっせいにまいた時,カウントダウンをして,みんなでというか,日本全国の人で植えました。僕はその時,『これが大きくなって二酸化炭素をすってくれるんだなあ』と思いました。」

     種子を播いたことで,これからの世話,収穫してからの葉書の交流までの思い,ケナフを全国の参加している仲間と育てているという共有感,ケナフの環境への有効性等の特性を綴っている。

     このようにして,平成11年度の全国発芽マップは,ケナフとともに子どもたちと先生方の大きな夢をのせて始まったのである。

    (2) 発芽

     平成11年度は,早いところで3日後に発芽し,全国発芽マップのメーリングリストにおいてもぞくぞくと発芽の一報が寄せられた。  

    「5月15日にまいたケナフが,昨日(5月18日)の朝,2つ発芽しました。白い芽が,表面の土を押し上げている状態です。さらに,今日19日に4つ増えました。昼間に日光で土がよく暖まったことと,昼と夜の気温の差が大きかったので発芽が早かったのかな?などと,子どもたちと話をしています。今日は,朝から雨で,天候がよくない ですが,早く残りの種子も発芽しないか,楽しみです。」

    図4 発芽の様子

     これに伴って,各地で発芽の状況を各学校のホームページにアップする活動が盛んになってきた。

    (3) 成長の観察

     ケナフは数カ月で3メートルから4メートルにまで,急速に成長する植物である。そのため子どもたちにもその成長ぶりに驚きや感動がある。このこと は継続観察していく上でもポイントとなることである。また,生長する過程において葉の形が変わったり,7月から10月にかけては台風も数多く接近することでも数多くの交流や活動が生まれる。

    図5 観察の様子

     観察の過程においては,教師自ら観察した結果をホームページに掲載したり,電子メールで情報交換する場が数多く見られた。また,子どもたち自身も観察したことを電子メールを使って他の 学校に報告したり,ホームページを見たりしながら成長の様子を比較したり,それをもとに育て方を工夫するなどの取組が見られた。

     子どもたちは自分たちで成長の様子を観察して次のような感想を抱いている。

    「5月にみんなでケナフの種をいっせいに播きました。私は『今年も大きくなるのかな?』と思っていましたが,今年はあまり大きくなりませんでした。夏には台 翌ェはげしかったからほとんどケナフがだめになってしまいました。学校の帰りがけによって水をあげました。これからもまた,ケナフの種を植えたときには台風から守ってあげたいです。成長の様子と今年のケナフの様子をホームページにするときにケナフの班でまとめました。成長がおそいこともまとめました。」

     子どもたちは,自分たちのケナフという意識,全国の友だちと一緒に育てているという意識をもって栽培していることがうかがえる。

    (4) 開花

     ケナフは,9月から10月にかけて開花する。クリーム色をしたハイビスカスに似た花である。

     開花の状況も全国各地から報告されたが,開花だけでなく,ケナフの花を使ってのジュース作り,工作,ケナフ染め物など,開花1つとっても様々な活動が生み出されてきている。

    図6 ケナフの花

     本年度は北海道地区での開花が7月ぐらいにあり,全国発芽マップのメーリングリスト上でも話題となった。

    「北海道です。みなさん,夏季休業中なのでしょうか?ニュースをひとつ。ケナフの花が咲きました。原因はよくわかりません。背丈が60cmぐらいでつぼみがつき,昨日から,一日一つの割合で,通常より小さめの花が咲き始めました。見にくいでしょうが,画像を添付します。お返事,お待ちしています。」

    これに呼応して,

    「ケナフの花が咲きました。すごいですね。早速,うちのケナフも見に行きましたが,花は咲いていませんでした。連日30℃以上の猛暑が続いています。関東では,昨年は11月頃に花が咲いた記憶があるのですが・・・それにしてもめずらしいですね。他の地域でも花が咲いているところがあるのでしょうか?ケナフジュース作ってみるとおいしいですよ。では,また。」

     このように,季節はずれの開花の情報がメーリングリストで流されることにより,自分たちの栽培しているケナフの様子を振り返るきっかけにもなっている。また,1つの電子メールが各地の活動のきっかけとしても役立っていることも分かる。

    (5) 収穫及び紙すき等

     10月頃からは,収穫の段階に入る。収穫といっても紙すきをするために茎を用いたり,工作をするために茎や葉を用いたり,ケナフを使っての料理をするための収穫である。ケナフは素材的にも捨てる部分がなく,ほとんど全てを使うことができる。茎は紙の原料や工作の素材,葉は料理の材料,手作り葉書の飾り,花はジュースの材料,押し花など使い方次第で様々な活動を行うことができる。

     宮崎大学教育文化学部附属小学校では,全国発芽マップでの一斉播種を学校行事「ケナフとともに」として教育課程に位置付け,そこから生まれる子どもたちの自由な発想を生かした活動を展開した。以下はその実践の様子である。

     各学年で子どもの実態に応じて,ケナフを使った活動を仕組んでいった。例えば一年生はケナフとの出会いがはじめてのこともあり「ケナフの紙すき」,2年生は「ケナフを使った工作」,4年生は「ケナフを使った料理」,5年生は「ケナフについての研究発表」といった具合である。

     その時の思いをある一年生の子どもは次のように日記に書いている。

    「きょうは,さんかん日でおかあさんといっしょにケナフではがきを2まいつくりました。 〜中略〜  はがきのつくりかたがたのしかったです。こんどはもっと大きいかみがつくれたらいいなあとおもいます。」

    と書いている。自分たちの播いた種から紙ができることを初めて体験した子どもたちは,ケナフに対しての興味を膨らませていった。

     5年生のある子どもは,研究発表について次のような感想を抱いている。

    「僕達はケナフから発想を広げて,砂漠化防止について調べました。また,『ケナフたこ焼き』も実際に作ってみました。みんなすごくおいしい!と言って食べてくれました。お客さんがたくさん来て僕達も詳しく調べることができて嬉しかったです。」

    ケナフから広がって,別の面から環境問題を考えるきっかけにもなったのである。

    図7 紙すきの様子

    図8 工作の様子

       

    図9 料理の様子

    図10 研究発表の様子

     このように,一年間の流れの中で様々な活動が展開されていったのである。


     次へ →