5. 参加校の実践事例

5.1. 実践事例1  小規模校における「全国発芽マップ」の活用

小学校・総合的な学習
北海道勇払郡鵡川町立花岡小学校 宮脇 公治
http://www2.ocn.ne.jp/~hanaoka/
mukawa1h@olive.ocn.ne.jp

インターネット利用の意図

 本校は,全校児童6名の完全複式3学級である。そういった環境では,どうしても物事の考え方や,意見が偏ってしまう傾向にある。極小規模校の特有な閉鎖的な環境をインターネットを活用することにより,交流の場を広げ,自分たちの活動を多くの方々に知ってもらうことを目的とした。多様な思考を身に付けさせることができるという仮説である。

1. コンピュータを活用しケナフを通して学ぶ環境教育

(1)  ねらい

 本校は環境教育に取り組み始めて今年度で5年目になる。昨年度からはケナフという植物を栽培し,環境に関する興味・関心を引き出し活動してきた。しかしながら,ケナフの活用に取り組み始めて2年目となった今年度は,初年度だった昨年のようにケナフという素材に新鮮味がなくなった児童がでてきた。特に低・中学年にそのような傾向がみられた。活動する人数が極端に少ないということはそれだけ,多様な意見を練りあう場面に出会う機会が少ない。考えが深まらないのである。何事もマンネリ化する傾向にあり,実際に児童は物事に対し,熱しやすくさめやすい傾向にあった。

 これらのことを解決するために,ケナフを通じて他校との交流をすることによって,他の地域の取り組みを学び,さらには自分たちの環境教育をより深めることを考えた。

(2)  電子メールでの交流を

 昨年度,5・6年生3名がケナフの紙すきなどを通じ,広島県の小学校と手紙で交流していた。お互いの学校の活動を伝えたり,実際にケナフで漉いた紙を交換した。それがきっかけで6年生はケナフ100%の和紙で卒業証書を作成した。

 交流してみて苦労したことは,手紙は送るということは児童にとって意外と負担が大きいということを感じた。本校側は少人数なだけに活動内容も制限される。10人で手分けすればすぐに終わることも,どうしても児童に負担がかかってしまう。活動するのに十分な時間も保証することができなかった。

 幸い今年度は2学期からインターネットの端末が導入される予定であった。インターネットと環境教育をうまく結び付け,児童の興味・関心を引き出すことができると考えた。自分たちの活動を発信することにより,活動することの充実感や達成感も今まで以上に身身につくと考えた。

(3)  全国発芽マップとの出会い

 以前から全国発芽マップについて,情報を入手していたので児童と相談し,参加することに決めた。ただ,ケナフの種を蒔くのが5月で,本校のインターネット導入は8月からと決定していたので,未接続の期間は自分たちの観察を中心に活動した。観察記録をつけたり,電子メールについて学習したりするなど,以前より活発に活動していた。児童は北海道ではただ1校の参加という責任感が自然とわいてきていたようである。

 メーリングリストから送られてきたメールはプリントアウトして,その日のうちに玄関正面の専用掲示板(図1)に掲示した。この時,低学年の習っていない漢字にはふりがなをつけておいた。

図1 全国発芽マップ用掲示板

(4)  指導目標

 インターネットを利用し,日本全国の学校から生の情報を得ることにより,環境教育の情報収集・発信などについて意識を養う。調べたり,観察活動したりして得た事実から,自分なりの意見を持ち,他の意見と交流させることにより,環境についての認識をより深めていくことができるようにすることを目的とした。

(5)  コンピュータを活用する場面

 週1度の「環境」の時間や,クラブ・放課後の時間を利用した。

 発芽マップの参加校のホームページを閲覧したり,興味のある学校にはメールを送ったり,送られてきたメールに返事を書いたりする活動が中心となった。
直接メール送ることができるパソコンは1台のみ(図2)なので,順番を待ってメールをおくるか,他のパソコン(図3)でメールを作成して,フロッピーを媒体にして本文をコピーしてメールを送るなどの方法をとった。

図 2 メールを送信する様子 図 3 メールを作成する様子

 

 

(6)  利用環境

1) 使用機器 COMPAQ PRESARIO サザンクロスPC-4302 1台 富士通 FM V-TOWNS 4台

2) 周辺機器 デジタルカメラ SANYO DSC-SX1Z(K) スキャナ EPSON GT-8500

3) 稼動環境 ノートパソコン1台のみインターネットに接続可能 (ダイヤルアップ接続)

4) その他使用ソフト ブラウザ Microsoft Internet Explorer メールソフト Microsoft Outlook Express

2. 指導計画

 現行の指導要領の中でのカリキュラムの位置付けはおこなわず,ゆとりの時間やクラブ活動の時間を活用した。また、全校児童6名なので、ある程度の時間が確保できる場合には,低学年には難しい内容もあったが,いっせいに活動をおこなった。その他の活動は複式学級ごとにおこなった。児童たちは2学期後半からは,児童だけでもパソコンを扱えるようにまでなったので,自分たちで時間をつくって活動させた。

 日常の交流の他に,コンピュータリテラシーを高めるために,次のような活動を継続して行った。児童の中には学年に関係なく技術の習得に差があるので,個に応じて常にレベルの高いリテラシーを身に付けさせた。

1) 1学期 インターネットに接続していないパソコンが4台あるので,低・中学年はキーボードの練習,中学年はデジタルカメラの使い方全般の学習,高学年は低学年に教えるなどの活動

2) 2学期 インターネットの仕組みについての学習。電子メールについての学習。ネットワーク上でのエチケットの学習。ブラウザ・メールソフトの使い方の学習。

3) 3学期 交流のまとめ。手紙によるお礼状の送付。

3. 実践を終えて

(1)  成果

 全国発芽マップに参加したことによって,自分たちのと同じ活動が全国で行われていることを意識するようになり,環境やリサイクルなどの活動に積極的に参加する児童が増えた。また,他の地域,特に南の地域での栽培記録に関心が向くようになった。これはケナフの原産地が暖かい地方であるということもあるが,他の小学校から北海道のケナフ栽培に関する質問が多く寄せられたことも影響している。インターネットを通じ,視野が広がった児童も多く,改めてグローバルなプロジェクトに参加させていただいたと感じた。

 また,今回全国発芽マップに参加していたために,そのネットワークがきっかけで,多くの学校の児童や一般の方からメールか寄せられ,閉鎖的だった児童たちにとっては見ること聞くことが新鮮で刺激的な活動をさせていただいた。とくにメールを通じて,岐阜県山県郡美山町立乾小学校,広島県竹原市東野小学校,富山県富山市水橋中部小学校,愛知県半田市立亀崎小学校のみなさんと交流できたことは,児童にとっては貴重な体験だったようだ。送られてきたメールや添付の写真は,廊下の専用掲示板(図4)に掲示し,保護者や地域の方々にも公開している。

(2)  課題

 全国発芽マップという企画のねらいと本校の研修課題である環境教育との共通の課題を十分に検討していかなければ,せっかくの交流も単にコンピュータ(インターネット)を使ったという自己満足だけで終わってしまいがちである。最終的に児童の成長を見出すことが大切である。

 また,いくら少人数であるからといってもインターネットに接続しているパソコンが1台しかないと,順番をまっているものにはストレスがかかる。やる気をせっかく引き出しているのだから,全てパソコンでインターネットに接続できる環境の構築が必要である。

 インターネットに接続した当初は,簡単に遠距離の学校や人と交流ができるため,関心が遠くへ向けがちになってしまう。いったん遠方へ向けた目をフィードバックさせ,地元へ向けさせることが大事である。教育・行政・地域住民が一体となった情報ネットワークをつくっていく必要がある。

ワンポイントアドバイス
 本校ではメールチェックも児童がおこなっている,その場合プライバシーにも関わるので教師側で十分に配慮する必要がある。ホームページを開設していない学校とメール交換をおこなう場合には,画像や音声の添付などについて,あらかじめお互いの学校で約束事を決めておくとよい。
 最後に,電子メールやペイントソフトを使った絵葉書などの交換のみで終わるのではなく,直筆の手紙や児童の作品を含めた交流へと発展することにより,お互いの児童たちに機械(パソコン)ではなく,人と人が交流しているという実感を与えることが大切である。


参加・協力校
富山県富山市水橋中部小学校 http://www.ed.pref.toyama.jp/sc96/
愛知県半田市立亀崎小学校 http://www.lec.netnfu.ne.jp/school/kes/kenafu/kenaf99.htm
岐阜県山県郡美山町立乾小学校
広島県竹原市東野小学校                         (順不同)
参考文献
インターネットがひらく総合的な学習 中山迅 奥村高明 根井誠 編著 明治図書
学習で利用したURL
ケナフの会 http://www.kenaf.gr.jp/
全国発芽マップhttp://www.fes.miyazaki-u.ac.jp/HomePage/kyoudoupuro/hatuga.html
教育現場のインターネット利用 平成10年度「新100校プロジェクト」実施報告集 http://www.cec.or.jp/es/E-square/h10jishi/toc.html


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