5.4.  実践事例4  全国発芽マップからはじまる総合的な学習

―小学校3年・4年「総合的な学習」―

宮崎大学教育文化学部附属小学校 
中西 英  nakanisi@fes.miyazaki-u.ac.jp
http://www.fes.miyazaki-u.ac.jp/

1. はじめに

 最近,インターネット,電子メールを活用した学習の実践が数多く報告されるようになってきた。また平成13年度末までには,全ての学校がインターネットに接続できるよう計画的な整備が進められている。これからの子どもたちにとっては,高度情報通信社会が進展していく中で,溢れる情報を主体的に且つ適切に選択,活用できるようにすることが大切になってくる。一方,今回の学習指導要領の改訂において,総合的な学習の時間が創設され,情報通信ネットワークを情報収集の1つの手段として活用することが大いに期待されるところでもある。

 全国発芽マップは,全国の参加校の子ども,先生方が一緒になって共通の植物の種子を播くことから始まる。そこから生まれる活動や学習は,総合的な学習に広がる可能性を十分に秘めていると考える。

2. 授業実践

2.1 「総合的な学習」3学年

(1)活動名 ケナフから広がる夢〜ぼくのたね,私の夢〜

(2)本活動の生まれた経緯

 全校一斉にケナフの種を蒔いた時の思い出をある子どもは,日記に次のように書いている。「4時間目にケナフの種を植えました。12時に3年生から6年生までの全員が一斉に蒔きました。いつ芽が出るか楽しみです。ケナフの種は,あさがおのたねによくにた黒っぽい色の種です。この種には,すごいパワーがあるんだなあ。太陽の光の力や雨の力,空気や土の力で大きくなあれ!」さらに,5時間目には,子どもたち一人一人の書いたメッセージつきの紙風船を飛ばした。ある子どもはその時の思いを日記に「今日は,5時間目に3年生全員で風船をとばしました。紙でできている風船でした。それは自然の紙ケナフの紙でした。におってみました。とてもいいかおりがしました。風船はどこに行くのかな?」と書いている。それぞれの日記から分かるように子どもたちはケナフの種を蒔いたこと,メッセージつきの紙風船を飛ばしたことが強く心に残っており,共通体験から,「空気」「太陽」「雨」「自然」「におい」「紙」など様々なイメージをふくらませていることが分かった。

 そこで,ケナフから子ども自身が連想する事柄をイメージマップに書き表すことにより,そこからもっと広い活動や子どもたちが取り組んでみたい活動を探ることができないかと考えた。つまりケナフに対すイメージを一人一人が確認することで,その中から自分のやりたいこと,調べてみたいこと,疑問等が見えてくるのではないかと考えたのである。

 子どもたちは,これまでの学習や体験,生活経験等から様々なケナフのイメージを書き表していった。そこで,「それぞれのイメージマップから調べてみたいことや,やってみたいことはないか。」という教師の提案で,「紙の作り方を調べてみたい。」「昔の生き物を調べてみたい。」「ケナフの葉を調べてみたい。」「地球にやさしいものには,どんなものがあるのかな?」等の一人一人の取り組みたいことや疑問が出てきた。一方で自分の取り組みたいことが見えてこない子どもも数名いたため,イメージマップにこだわる必要のないことや,時間をかけてやりたいことを見つけてもよいこと,友だちの取組を見てから自分の取組を決めてもよいことなどを伝え,しばらく見守ることとした。このようにして,共通体験をきっかけにして活動が始まり一人一人の取組が生み出されていった。

(3)本活動の意義

○一人一人の興味や関心にもとづいた活動を行うことにより,活動に必要な物を準備したり,問題を見つけたりして学習を主体的に展開できる活動である。

  ○活動を進めていく中で,これまで身に付けた学習や経験等を全て生かしながら問題解決の方法や問題の処理の仕方などを考え,問題解決の能力を高めていくことのできる活動である。   

○自分の活動がうまくいかなかったり,友だちと共に活動したりすることで,よりよい解決の方法を自分なりに考え,一人一人がよさを更に伸ばしていくことのできる活動である。   

○ケナフをきっかけにした活動を行うことで,ケナフの特性や身近な自然環境との   かかわりを考え,自然環境に対する意識を高めることのできる活動である。

(4) 期待する子どもの姿   

○自分の取り組みたい活動や新たな問題を見つけ,必要な物を進んで準備したり,活動を楽しんだりしようとする。   

○これまでの学習や経験を生かしながら,活動の内容や問題解決の方法を考えようとする。   

○活動を通して分かったことや,身に付けたことなどを自分なりの表現方法でまとめたり,伝えたりしようとする。   

○自らの活動をふりかえったり,友だちの取組のよさを見つけたりして,よりよい活動の仕方や問題解決の方法を身に付けようとする。

(4) 本活動の見通し(図1)

(5) 子どもたちの姿

○活動に熱中する子どもたち

 総合の時間の子どもたちは,いつも目が真剣である。1つの事柄にこだわりをもって,活動に熱中しているのです。子どもたち自身が興味をもった活動に対して本気で取り組んでいる姿は,これまでに身に付けた力を全て生かしながら活動しているように感じられますし,活動そのものが学習となっているのかもしれない。

○試行錯誤する子どもたち

 子どもたちは,自分の取り組みたい活動を進めていく中で,すぐに解決できないことや自分たちの力ではできないことも出てくる。そんな時,教師は一緒になって考えたり,ヒントになるようなことを助言したりするだけである。

 子どもたちは,失敗を繰り返しながらも自分たちの力で何とかしようと頑張るのである。

 ケナフの紙すきの道具がなくて,自分たちで,落ちていた木切れを拾ってきて失敗しながらも布と画鋲で紙すきセットを作り上げた。この紙すきセットを使ってできた紙は本当の意味で子どもたちのものになったのではないだろうか。   

○友だちとのかかわりを通して

 子どもたちは,一人で取り組む場合もありますし何人かで協力して取り組む場合もある。取り組む内容や子どもの学びによって,変わってくることも考えらる。ただ,友だちと一緒に活動を進めていった時に,友だちの取組のよさを見つけたり,自分の考えを主張したり,友だちのやさしさにふれたりもするのである。「この土は粒が大きいからこの小さい鉢の穴からふるって粒を小さくしよう。」「◯◯君すごい!私もやってみよう!」と言いながら収穫したケナフの種を植える子どもたち。「この紙ちょっと,粒が大きいね。ミキサーにかけるのが短かったのかな?」「ケナフを煮る時間が短かったんじゃないのかな?」と,すいた紙を指で確かめながら自分たちの取組をふりかえる子どもたち。自分の取組のよさを友だちから誉められたり,自分たちの取組をふりかえることで,自らのよさを一層伸ばしている姿も見られたのである。


図2 播種する子供たち

○知恵も身に付けた子どもたち 

 子どもたちは,分からないことや調べたいことが出てきたとき,いろいろな方法を考え出し解決しようとする。コンピュータ室でインターネットを使って調べるときに自分で使いやすいようにローマ字の表を作る子ども。「ケナフを煮るときに入れる薬はどうしているのかな?」「それじゃ,理科の先生に聞いてみよう。何か分かるかもしれないよ!」と理科室に走っていく子どもたち。

 その他にも活動を通して知識や技能だけでなく,知恵も身に付けて行動する力を発揮しているだと感じる。

2.2 学校行事「ケナフとともに」

 本校では,全国発芽マップによる全国一斉播種をきっかけにして,子どもたちがケナフや自然環境に対する関心を高めるのではないかと考えた。さらに,ケナフを育てていく活動だけでなく,そこから発展して様々な活動や学習に広がっていくのではないかと考えたのである。

(1) 広がっていった活動や学習   

○第1回「ケナフとともに」開催!

 平成11年5月15日(土)午前10時,全校児童647名が「5・4・3・2・1!」の掛け声のもと一斉にケナフの種を播いた。本校は「全国発芽マップ'99」の参加校として,北は北海道から南は奄美大島の全国約50校の学校と一緒に種を播いたのです。この第1回「ケナフとともに」の活動をきっかけとして,ケナフの成長とともに,子どもたちの様々な活動が生まれてきました。   


図3 全国一斉播種

○ こんなに大きくなったよ!

 4年生の子どもたちは,ケナフの成長の様子を電子メール等を使って富山県の友だちと情報交換していった。また,成長の様子をデジタルカメラを使って撮影したり,ワープロソフトを使ってまとめたりしていった。このような活動を通して,コンピュータやインターネット等がより子どもたちの身近なものになってきたのである。


図4 紙すきの様子

○第2回「ケナフとともに」開催!

「きょうは,さんかん日でおかあさんといっしょにケナフではがきを2まいつくりました。 〜中略〜  はがきのつくりかたがたのしかったです。こんどはもっと大きいかみがつくれたらいいなあとおもいます。」(1年生Tくんの日記より)

 ある1年生の子どもは,第2回「ケナフとともに」で紙すきをした時の思いを先のように書いている。自分たちの播いた種から紙ができることを初めて体験した子どもたちは,ケナフに対しての興味を膨らませていった。

 この他にも2年生は「ケナフを使って工作」4年生は「ケナフ料理」5年生はケナフの研究発表と子どもたちの思い思いの活動が広がっていったのである。  5年生のある子どもは,研究発表について次のような感想を述べている。 「僕達はケナフから発想を広げて,砂漠化防止について調べました。また,『ケナフたこ焼き』も実際に作ってみました。みんなすごくおいしい!と言って食べてくれました。お客さんがたくさん来て僕達も詳しく調べることができて嬉しかったです。」

 ケナフから発想を広げて,別の面から環境問題を考えるきっかけにもなったのである。  

○「わあ!雪だるまだ!」

 4年生の子どもたちは,ケナフの種まきをしてから,継続的に富山県のある小学校とケナフの成長の様子を電子メール等で情報交換してきた。そこで,今度は実際に遠く離れた友だちの顔を実際に見ながら情報交換できたらということになり,テレビ会議システムを活用して交流することになったのである。富山県の小学校から 「今,雪がたくさん積もっています。雪だるまを作ったんですよ。」 という言葉に本校の子どもたちは 「わあ!すごい。宮崎は雪はふらないよ。いいなあ!」 子どもたちは地域による気候の違いも実感できたようであった。

 また,自分たちですいた紙を見せながら, 「今度この紙でクリスマスカードを作って送ります。」 とこれまで電子メールでの交流が中心であった活動もケナフを通して,実際の葉書による交流へも発展していったのである。その際,以前送られてきた富山県の葉書と自分たちですいた紙を比べ,手触り等から質の違い,紙の作り方にも発展していった。


図5 テレビ会議の様子

3. まとめ

 この活動を通して,これまでの学習や経験を生かしながら取り組み,自らのよさを伸ばしていく子どもたちの姿を数多く見ることができた。一方で自分の取組をすぐに変えてしまったり,途中であきらめてしまったりする子どもたちも見られた。そのようなときに,取組が変化することを認めてあげることも必要であろうし,ねばり強く取り組んでいけるように支援してあげることも大切だと感じた。

 これからも子どもたちが活動に熱中し楽しく取り組んでいくことができるように,より魅力ある活動のきっかけや出発点を探していきたいと考える。


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