6.2  実践事例−2 宮城県登米町立登米中学校

宮城県登米町立登米中学校

1.本企画に参加した意図

 地球規模で進行しているオゾン層の破壊,地球温暖化,環境ホルモン等の環境問題が人間社会の緊急な問題と認識され,今や環境教育は理科教育のみならず教育界の大きなキーワードとなっていることは周知の通りである。したがって,環境についての基礎的な認識や知識を深め,さらに環境を科学的に調べるための基礎技能を養う実践活動が環境教育に果たす役割は大なるものがある。

 しかし,現実問題として,我々中学校の教師が生徒に対したとき,単に環境題材を型どおりに指導しても,環境を正しく認識し,環境問題に積極的にかかわっていこうとする生徒が即座に育つほど問題は単純なものではない。

 環境教育には「 Think Globally, Act Locally 」という合い言葉がある。

 身近な地域での環境にかかわる各種の体験活動が計画的かつ継続的に保障されてこそ環境教育の質が高まり,目標とする生徒が育っていくはずである。

 そこで,我々教師に課せられた課題は,地域の特徴を生かした継続的な環境にかかわる体験活動をいかに教材として開拓し,精選して根付かせていくことではないだろうか。

 その意味において,本企画は今日的な環境問題として生徒の意識の中にも着実に浸透してきている酸性雨の問題を,継続的な観測活動を中心とした活動プログラム通じて,身近な問題として感じ取らせることができるタイムリーな企画であると考える。

 また,全国の学校で測定されたデータと我が校のデータを簡単に比較することが可能であり,しかも同じ年代の生徒が測定しているという事実は,ともすると興味関心を失いがちになる継続観測という地味な活動に驚きや,衝撃を与えてくれるものと期待するところである。

2.プロジェクトの位置づけ

2-1 教育活動の中での位置づけ

(1)プロジェクトを実施した具体的な教育活動

(1、2、4、5)

1.理科の授業

2.理科以外の授業(教科     )

3.クラブ活動(クラブ名     )

4.ホームルーム活動

5.その他の活動(        )

(2)測定を行ったのは誰ですか (3)

1.生徒

2.教師 

3.生徒と教師の共同作業

(3)データの送信は誰が行いましたか。 (3)

1.生徒

2.教師

3.生徒と教師の共同作業

2-2 ブロジェクトを教育活動の中で実施するとき、ネットワークの具体的な利用場面。   (1,2,3,4)

1.データの送信    

2.他校のデータの収集

3.他校との交流 

4.他のホームページを使った資料の収集

5.その他(                )

2-3 プロジェクト実施にあたり利用出来たネットワーク環境。該当するものを全て選び、その他のものがある場合は具体的にお書き下さい。 (1,2,5)

1.ホームページ    

2.電子メール

3.電子掲示板  

4.テレビ電話(CU−SeeMeなど)

5.チャット      

6.その他

【校舎前に設置した酸性雨分取器】

3.実践の経過と指導計画の概要

(1)酸性雨調査のねらい

○ 酸性雨調査という体験を通じて,身近な自然現象に興味を持ち,環境問題に積極的にかかわっていこうとする生徒を育てる。

○ 酸性雨の実態を知り,その原因と対策について真剣に考えていく生徒を育てる。

○ 酸性雨調査の方法を理解し,科学的なものの見方を育てる。

(2)酸性雨調査の実際

1)調査方法

a) 調査の主体

環境委員会の生徒と希望者の生徒がその調査の中心となっている。

b) 調査方法

新酸性雨プロジェクト調査マニュアルに基づく。

c) 調査結果の送信

 コンピュータネットワークを通じて,広島大学附属福山中・高等学校へデータ送信(生徒もしくは担当教師)する。

2)調査結果の活用

* 酸性雨調査関連題材の指導にあたっては,日々の気象観測(酸性雨調査を含む)やそのデータを有機的に結びつけて指導していく工夫をする。

(3)二酸化窒素の測定

 平成11年10月中に登米町内10ヶ所で二酸化窒素の測定を行った。調査の結果は以下のとおりである。
(交通量の多い測定点ほど比較的高い数値が出ている)

 

10/22

10/28

学校入り口

〜0.1ppm

〜0.1ppm

職員室

〜0.1

〜0.1

3-2(教室)

〜0.2

〜0.1

文化財校舎

〜0.25

〜0.2

登米大橋

〜0.3

〜0.25

桜小路地区

〜0.25

〜0.2

遠見台地区

〜0.1

〜0.1

上羽沢地区

〜0.1

〜0.1

鉄山地区

〜0.2

〜0.1

八丁田地区

〜0.1

〜0.1

【登米大橋付】

4.授業実践の記録

【実践指導事例−1】

理科におけるコンピュータネットワーク

(新酸性雨プロジェクト)の活用(理科・第3学年)

(1)題材名 「自然と人間(酸性雨問題)」 

(2)活用のねらい

○ インターネットのHPから入手した酸性雨被害の実態(日本とヨーロッパ)を提示し,問 題の深刻さと緊急性を感じ取らせる。

○ 酸性雨の原因となっているNOx等の濃度の実態(宮城県が公開している統計資料を提示)が,主に自動車の排気ガスによるものであることを読みとらせる。

http://www.pref.miyagi.jp/kankyo-s/

 ○ 酸性雨は今や日本全国で観測されている実態を,環境庁全国酸性雨調査資料や,新酸性雨プロジェクのデータベース資料より読みとらせ,同時に登米町での実態を把握させる。

http://mx.eic.or.jp/eanet/info/files/syou-2/2-3/sanseiu.htm

http://www.hiroshima-u.ac.jp/japanese/fukuyama/

(3) 実践内容

1)インターネットで,酸性雨被害の実態資料を入手する。

  各種資料に酸性雨被害の写真等が掲載されているが,写真からだけではどうしてもインパクトが足りない。生の声や切実な訴えがあればよりリアルで説得力が増し,緊急度が生徒に確実に伝わる。

 インターネットのWWW上に公開されている酸性雨被害の状況をコメントとともに提示することで,酸性雨という地球規模で広がっている環境問題をより真剣に受けとめてくれることが期待できる。

2)宮城県環境生活部のHPより大気汚染の現状と経年推移の統計資料を入手する。

  酸性雨の原因が近年の研究で主に自動車から排出される窒素酸化物であることが明らかになってきた。身近な県内の資料から酸性雨と窒素酸化物の因果関係を経年変化の推移から読みとらせ,同時に県内の実態を把握させる。

3)登米町を含め,全国に広がっている酸性雨の実態を広島大学附属福山中・高等学校(新酸性雨プロジェクト事務局)HPのデータベースより入手する。

 本校が実践している酸性雨調査の概要と調査結果を紹介し,調査活動を通じて自然現象を科学的に継続して調べていくことの意義と積極的に環境にかかわっていくことの重要性を理解させる。

  また,酸性雨プロジェクトに参加している各校のデータを閲覧し,一降雨におけるpHの推移の特徴や,酸性度と地域(交通量)との関係を考察させる。

 【実践指導事例−2】

1学年学級活動指導案 平成12年1月21日(金)

指導者 教諭 山田 重啓

1 単元名「環境について考えよう」

2 指導に当たって

(1)生徒の実態

1)事前アンケートから

 本時の指導をするにあたり,まず,事前調査をしてみた。内容は別紙2参照。その集計結果は次のようになった。

 まず,「『環境』について考えたことがあるか?」という質問に対しては図1のような結果になった。『環境』といっても何を考えていけばいいのかがわからないという見方もあるが,当たり前のように過ごしていてふかく考えたことがない生徒がほとんどであった。

 よって1年生の段階では,普段あまり考えたことのない『環境』が今どういう状況にあるのか,どのような環境問題が問題視されているのか,環境に関心を持つきっかけになるような授業展開が必要である。

 また,「『環境』に関する言葉のうち,説明できるものは?」という質問に対して,図2のような集計結果が得られた。あまり詳しく知らないが,言葉だけなら知っているというものが多かったが,図3の結果と照らし合わせると,様々な環境問題が自分たちの生活に密接に関係していることは感覚的に理解しているようである。しかし,どうしてそのような事が起こっているのか,どのようなことが環境問題を引き起こしているかということまでは理解していない。

 「『環境』のことで自分が気をつけていることは何ですか?」という質問については,ほとんどの生徒がゴミの処理について答えている。身近なところで自分ができることを行おうという意欲が感じられる。このことから,様々な環境問題にどのように対処していけるかを話し合わせることにより,生徒の環境に対する意欲をより高めていきたい。

 2)生徒の実態(男子21名,女子18名,計39名)

小学校からの顔なじみということもあり,どの生徒も仲良く過ごしている。明るく,元気な生徒が多く,教師の発問に対し,積極的に発表する生徒が多い。しかし,教師や友達の話を聞く姿勢にけじめがなく,集団活動がきちんとできないなど,気になる点も多い。

したがって,単位時間の中で,興味・関心を持続させるような授業の展開が必要であると思われる。

(2) 指導の方針

環境問題について考えさせるために,コンピュータや教材提示装置などを使い,興味関心を高めていきたい。また,インターネットを使い,他の中学生がどのようなことを考えているのかを知ることにより,環境問題に対してより興味関心を高めていきたい。

3 本時の学習内容

(1) 学習過程

段階

学習内容と活動

形態

教師の支援

留意点

評価方法

導入

1.本時の学習内容を確認する。

2.事前アンケートの結果を見て,考察する。

一斉

1.授業の進め方を確認する。

2.『環境』についてみんながあまり興味を示していないことに気づかせる。また,環境委員会の活動内容も理解していないことに気づかせる。

教材提示装置コンピュータ

・授業の進め方を確認できたか?(観察)

・アンケートの結果を見て考察することができたか?(観察)

展開

3.環境委員の実演を見て,環境委員会の活動内容を知る。

 

 

3.環境委員に前に出てきてもらい,レインゴーランドを使って酸性雨調査を実際に実演してもらう。

・新酸晴雨プロジェクトの資料を提示し,登米町の雨が酸性である事を伝える。

・事前に環境委員には指導しておく。

・登米町の雨も酸性である事に気づかせたい。

 

4.前に用意していた写真を見せて,問題点を考えていく。

 

グループ学習

 

4.自然の雄大さ,素晴らしさが伝わるような写真を用意し,その後に環境破壊を表す写真を見せて,問題点を列挙させる。

・随時,机間巡視による指導助言をする。

コンピュータ

・机間巡視

・意欲的に話し合ったか。

(観察・自己

評価)

 

5.『自分たちが今きることはなんだろう。』

・互いに学びあいながら理解を深める。

グループ学習

5.4で考えた問題点から,今自分達ができる解決策を考えさせる

・必要に応じて一斉指導やグループ学習を取り入れる

・互いに学び合える雰囲気を作る

・意欲的に話し合いに取り組んだか?

(観察・自己 評価)

・互いに学び合ったか?

(観察・自己 評価)

6.他の中学生の意見をインターネットで聞こう。

一斉指導

6.他の中学生に送っていた質問やアンケートの回答を見て,他の中学生がどんな事を考えているか気づかせる

コンピュータ

・『環境』につ いて他の他の中学生がどのようなことを考えているか理解できたか?

(観察・自己評価)

終結

7.事後アンケートで,『環境』についもう一度考えてみよう

一斉指導

7.事後アンケートを回収する。

・事後アンケート

・本時の授業に意欲的に取り組んだか?

(自己評価)

 (2) 準備物

事前調査結果グラフ,写真,教材提示装置,レインゴーランド,事後アンケート用紙

5.実践を終えて

(1)実践で得られた成果

  環境題材の中でも,酸性雨やオゾン層の破壊,地球温暖化の問題は目に見えて急激に状況が変わるものではないため,どうしても他人事というとらえ方をしてしまう。環境問題解決の難しさと言ってもいいだろう。自分のライフスタイルを転換し真剣に環境問題とつき合っていくためには,より多くの正確な情報に裏打ちされた知識と行動力が必要である。

   その意味において,インターネットから得られる多くの情報と自分たちの手で環境を調べる調査活動は,ともに有機的に関連づけられ,ねらいとするレベルに近づけたと確信する。

地域に根ざした環境教育を進化・発展させていくことが
21世紀に向けた学校課題の一つだとすれば,今後の展望として,コンピュータネットワークを活用した,異校種間の交流や協同学習のあり方を検討していく必要性を感じる。そして,そのことが環境教育の新たな方向性を示してくれるような気がする。

(2)反省と課題

   不定期の観測となる酸性雨調査を他の気象観測と平行して行っているが,何と言っても,単調になりがちな観測活動に対して興味関心をいかに持続させていくかということが大きな課題と言える。

また,観測データの活用については,関連題材との系統性や授業での位置づけ等について十分な吟味と実践が不足しているのが現状である。今後,授業実践を蓄積して,各教科や領域の年間指導計画に盛り込むための教材化を進めていかなければならない。

(3)今後の実践にあたってのワンポイント・アドバイス

○ 学校独自の活動を企画し,生徒の興味・関心を引きつける取り組みを計画的に進めていくことが必要。

○ 活動の成果を発表する場面を設定し,充実感や成就感を味わわせる

○ 特定教科の活動にとどまることなく,可能な限り全教師が関わりを持ちながら活動が展開できる体制を整える。

(4)このプロジェクト実施に当たって利用した資料・ホームページ等

○書籍

・環境教育実践事例集 ・平成9.10年度EILNet報告書

・環境白書 ・平成9.10年度GLOBE報告書

○ホームページ

・GLOBEホームページ   ・EILNetホームページ

鳴門教育大学ホームページ


 次へ →