2.1.2.ICPの教育理念・概要

 インターネットクラスルームプロジェクト(ICP)は、「カレンダー」「ニュース」「ハウジング」等、交流テーマ別の7つのバーチャルクラスルームから成り立っている。それぞれのクラスルームでは、日本側と海外の学校の教師が共同で交流の運営にあたり、学習テーマの決定から、生徒の学習の支援までを行っている。
 今年度の最も大きな成果は、インターネット上に一つのバーチャルスクールを設置して、すべてのクラスルームを統合してその学校に位置づけて、学校長の管理の元に、一つの組織としての交流を行ってきたことである。そうした学校としてのクラスルームの組織化による共同運営には、次のような4つのねらいがある。
学校としての国際交流の理念や趣旨を明確にすることによって、参加校の教師と生徒の参加意識や意欲を高めること。

@     それぞれのクラスルームに所属する教師間の交流を活性化し、技術支援、クラスルーム運営や交流のノウハウの伝授、各クラスルームに所属する生徒の理解、交流のテーマや方法についてのアイデア交換等を一層促進すること。

A     各クラスルームに所属する生徒相互のコミュニケーションを活性化することにより、生徒の主体的な交流や自治的な運営のあり方を一層促進すること。

B     本プロジェクトの特徴がインターネット上から理解しやすくなり、海外からの参加を促進すること。

 このようなねらいを持つインターネット上の仮想学校は、これまでにも余り例がなく、実践を通してこれからその運営方法を具体化して、その効果を検証することが大切である。

2.1.2. 1. はじめに

  97年度のインターネットクラスルームプロジェクトではオーストラリア、カナダ、韓国、アメリカ、日本5カ国の国別のクラスルームを設定し、それぞれの国の学校と交流を行う形をとった。これについては、海外4カ国の学校と日本の参加校が個別の交流を行い、本来の目的であった横断的な交流にまで進展しなかったという反省が出された。そこで今年度のプロジェクトでは、テーマ別にクラスルームを設定し、テーマに関心を持つ生徒がそれぞれのクラスルームに参加する形をとった。また、これを統括して運営するため、学校としての体制作りを目指した。
  さらに最近の急激に進みつつあるインターネット環境の整備からマルチメディア通信を中心に多様な活動が可能となってきている。
  本プロジェクトをめぐる以上のような状況を背景に、ICPは次にあげる教育理念をかかげて出発した。

2.1.2. 2. ICPの教育

  以下はICPの教育理念である。

 (1) 国際共同学習を通じた国際交流の推進
 (2) マルチメディアを中心とした情報教育の推進
 (3) バーチャルクラスルームを通じたヒューマンネットワークの構築
 (4) 総合学習・情報科のモデル事業
 (5) 国際コミュニケーション手段としての英語学習
 (6) 21世紀に求められる人材育成

2.1.2. 2. 1. 国際共同学習を通じた国際交流の推進

  従来、国際交流といえば異文化理解や相互理解であり、交流、つまりコミュニケーションそのものを目的とするものであった。しかしリアルタイムでのインタラクティブな活動が可能となったインターネットテクノロジーの普及で、交流から発展して共同学習・共同制作が可能な環境が生まれてきた。Guess Whatなどの掲示板で、その国の事物を映像で見せて推測させたり、V-Mail掲示板に日本語や韓国語で書き込み、国を越えた多くの参加者がこれを読み、コメントを送るなどの活動は国際共同学習を具現化したものといえる。
  今年度のプロジェクトでは、まだ共同で何かを制作するという国際共働作業にまで進展していない。
  またリアルビデオのウェブ掲載など、まだ生徒が自由に駆使できる環境となっていないテクノロジーも教員間で相互学習を行う姿なども見られた。物理的な学校を超えた、つまりバーチャルな世界における教員間の共同学習が進行しているわけであるが、これも次のステップへの準備としての位置づけを持つものといえる。

2.1.2. 2. 2. マルチメディアを中心とした情報教育の推進

  非英語圏の国のインターネット利用において、言語障壁は大きな問題となっている。マルチメディアを通じたコミュニケーションやマルチメディア作品の交換は、言語の壁を超える力を持っている。言語面だけではなく、多様な表現が可能なマルチメディアは、新しい文化・芸術を生み出す土台といえる。マルチメディアを駆使するためには、コンピュータやビデオ操作、ファイル操作、インターネット技術など情報技術の修得が必要となってくる。
  本プロジェクトでは、参加生徒がこのような能力を身につける学習の機会や動機づけを提供する。

2.1.2.2. 3. バーチャルクラスルームを通じたヒューマンネットワークの構築

 ICPが提供するクラスルームに参加する中で、参加者の文章、アニメ画像、写真、アイデアなどを通じて、互いの個性に触れるとともに、人的ネットワークが築かれていくことになる。Diaryでは、男子高校生が女子校のdiaryに書き込みをしたり、オーストラリアの生徒が日本語で掲示板に自己紹介を書き、これに日本の生徒が簡単な日本語で答えたり、日本の男子生徒がGuess Whatに簡単なgifアニメを掲載したのに対し韓国の女生徒が関心を寄せるせるなどのやりとりの中で、互いがどのような人間なのか興味を持つようになる。これが98年12月に来日した韓国の生徒が帝塚山の生徒とフェイス・ツー・フェイスの交流をするなど直接交流へと発展していったり、CU-SeeMeやISDNテレビ会議を通じた交流につながっていく。99年7月末、大阪で計画されている高校生国際会議が実施されれば、事前・事後の交流を基礎に、バーチャルなネットワークとフィジカルなネットワークが相互補完しながら、太いヒューマンネットワークへと進み、新たな展開が見られることになるものと思われる。

2.1.2. 2. 4.  総合学習・情報科のモデル事業

  ICPが提供する各クラスルームで展開されている諸活動は、2002年から実施予定の総合学習や2003年スタートの高校「情報科」に参考となるパイロット的性格を持っている。Guess WhatやV-Mailなどの掲示板では、テキストだけではなく画像や音声・ビデオファイルを掲載することができるが、これを行うためには、何を掲載するかコンテンツの吟味とともに情報技術や著作権、インターネットの危険性についての知識・認識などが必要となってくる。
 DiaryやSchool Calendarでは短いテキストボックスに内容を端的に表す文章を入力しなくてはいけないが、このようなキャプション的なフレーズを考える力が養われる。
  またDiaryでは相手のDiaryを読み、その実生活の模様を知ることができるとともに、相手のノートにコメントを書き込み、バーチャルな交換日記となっている。School Calendarでは互いの国の学校行事や祝祭日などを知り、相手の動きを見ながらプロジェクトを進める。またニュースでは、日本以外にノルウェーやアメリカのニュースを読み、それについて自分の意見を述べる。ICPでは、このように多様なサービスを提供しており、参加生徒は、インターネットの多様な機能について学んでいく。以上の観点からICPは総合学習や情報科の実験プロジェクトとしての位置づけを持っているものといえる。

2.1.2. 2. 5.  国際コミュニケーション手段としての英語学習

  インターネットでどうしても避けて通れないのが英語という言語の壁である。この問題については本プロジェクトでも、先に述べたマルチメディアを用いたり、日本語・韓国語翻訳ソフトを使うなどして、負担を軽減する試みを行っている。しかし、実際には掲示板などへの書き込みの多くは英語であるし、韓国の新亭女子商業高等学校のハン先生が力説するように、本プロジェクト参加の理由の一つに英語を学習させることがある。参加生徒の中に、「(掲示板に書き込んでいくうちに)英語を書くのが特別なことのように思わなくなった」と語っている生徒も現れてきているが、これは本プロジェクトの目的が活かされていることの証左である。

2.1.2. 2. 6.  21世紀に求められる人材育成

  本プロジェクトのねらいは細かく分ければ2.1.2.2.1.から2.1.2.2.5. のようになろうが、結局は、インターネットハイウェーと言われるインフラの上で活躍できる人材の育成を目指している。これがICPという複数教室、一つの学校という形をとっているのは、国境を越え、地球市民としての自覚を持った人間の育成が21世紀の世界に求められているという考えを基本として生まれてきたからである。

2.1.2. 3. 

  本プロジェクトは以下の組織・体制で行った。

2.1.2. 3. 1.  校内組織

  校内組織として、理事長、校長、教頭、事務長、クラス担任を置き学校としての体裁を整えた。理事長の役割は学校全体の運営・経営面を担い、特に学校の方向づけを行う。
校長は各クラスルームがスムーズに運営されるように全体の動きを見ながら、適宜アドバイスを与えたり、調整する。教頭は学校の諸規則などの制定などを担うことになっているが、これは来年度以降の課題となった。事務長(CECスタッフ)は予算・経費面を担当。クラス担任は各クラスルームのモデレーターとしての役割を担った。

2.1.2. 3. 2.  参加国・校・生徒

  参加国は、日本以外に、アメリカ(2校)、オーストラリア(1校)、韓国(1校)、ノルウェー(1校)の5校、4カ国。他に実質的な活動はできなかったが参加を表明している国・学校は、複数ある。日本の参加校は、大阪府立旭高等学校、大阪信愛女学院高等学校、神戸市立葺合高等学校、帝塚山学院泉ヶ丘中高等学校、富山県立高岡商業高等学校、名古屋市立西陵商業高等学校、兵庫県立神戸商業高等学校の7校。他に今年度、実質的な活動はできなかったが、参加を表明している学校が複数ある。
  生徒の参加形態は、日本側では、英語(3校)商業(2校)、課外活動(2校)、アメリカでは、移民子弟クラス、英語、各1校、オーストラリアでは日本語クラス、韓国は英語クラブ、ノルウェーは情報科となっている。

 2.1.2. 3. 3.  利用したサーバ数

  本プロジェクトに利用しているサーバは、新100校プロジェクトのサーバ3校、県所有のサーバ1校、プロバイダのサーバ利用2校、計6サーバとなっている。なお、トップページは帝塚山のサーバに置き、デザインは帝塚山の生徒が作成、システム化は葺合高等学校の桝井伸司氏が担当した。

 


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2.1.2. 3. 4.  利用した技術・ソフト

  掲示板としては、英語版、日本語版いずれもフリー(教育用フリーを含む)の掲示板ソフトを利用、DiaryはVisual Basicを用いて西野和典氏自作。ビデオファイルは、Real video、テレビ会議は、CU-SeeMe、ISDNテレビ会議システム(フェニックスミニ)。htmlファイル作成は、FrontPage、PageMIll、エディターなど。一部、JavaScript使用。その他、Gif Animatorなどの画像処理ソフトや圧縮ソフト。なお問題点として、Real Videoファイルは現在のところマッキントッシュ用の読み出しソフトがなく、マックユーザの多いアメリカの学校で読めなかったり、技術力不足で韓国の一部の学校では見られなかった。
  本件については2.1.5 ICPで利用したツール類で詳細を述べる。

2.1.2. 3. 5.  認証システム

  本プロジェクトではセキュリティーの関係から、一部掲示板やクラスルームでパスワードでユーザを確認する認証システムを利用した。この場合、ネットスケープではパスワード保存が利かないため、毎回、入力を求められるなどの問題があった。

2.1.2. 3. 6.  サポート体制

  システムの設計にあたっては、一部の学校でコンピュータクラブの生徒が担当した以外は、クラスルームの担任があたったが、メーリングリストの設置や帝塚山の一部のサーバへの不正進入などについては、事務局のサポートを受けた。

 

 

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