2.1.6.評価と展望                            岡山大学  木原俊行

本プロジェクトでは,ネットワークの特徴を生かす学習コミュニティの確立,すなわちバーチャルスクールの建設を目指した。このオンラインスクールの建設にあたって,プロジェクトのメンバーは,

1)地域の異なる生徒の交流,
2)そのための組織の構築,
3)交流を盛んにするためのトピックや活動の開発,を心がけた。
以下,その成果と課題を記してみよう。

 

評価
1)国際交流の実際
 本プロジェクトでは,前述したように,7つのクラスを開講して,国際交流活動を展開した。韓国,オーストラリア,アメリカ(ハワイ,シアトル)の環太平洋地域に加えて,カナダやノルウェーの学校からもプロジェクトへの参加があり,初期の目標を達成することができたと思われる。
 交流の量的側面については,例えば,Guess What?クラスは136件,ビデオメールクラスは121件のやりとりが確認されており,一定の水準が保たれたと考察しうる。また,交流の質的側面についても,国内外の参加校の生徒が複数のクラスの学習に従事しており,交流がネットワークのよさを生かしたものであったことを確認できる。また,本プロジェクトのクラスへの参加を通じて,生徒たちは,英語活用に抵抗を覚えなくなる,外国の文化に興味を抱く,自国文化について十分は知り得ていないことを感じる,といった成長を見せたようだ。
 ただし,いくつかのクラスについては,外国の学校の参加が少ない場合があり,クラスによって交流の厚みに違いがあったことも否めない。

2)組織の構築
 本プロジェクトの最大の特色は,国際交流を安定して展開するための組織を構築していることである。複数の教師がバーチャルな「学校」組織を運営することによって,交流相手探しやその継続を成功させようとしたのである。
 「学校」であるならば多様な授業科目が開講されるべきであるが,この設計理念は十分にこのバーチャルスクールのクラス編成に反映された。「学校」の日常生活を知らせあうもの(カレンダーやダイアリーのクラス),時事問題を扱うもの(ニュースクラス),総合的な学習の色彩の濃いもの(ハウジングクラス),ゲーム的なもの(Guess What?クラス)など,そのレパートリーがかなりの範囲に及んでいるからである。
 また,「学校要覧」にあたるものがWWW上に作成され,学校への「入学」とクラスの「履修」が案内された。そして,いわゆる「職員会議」にあたるものとして,プロジェクトのメンバーによるメーリングリストが十二分に活用された。
 これらの仕掛けの導入が,上述したような国際交流の活性化,それを通じた生徒の変容のベースになったのである。

3)交流のためのトピックの開発と実施
 本プロジェクト,インターネットクラスルームでは,国際交流を進める際のトピック選択において,マルチメディア展開の可能性,内容・活動の総合性の2点を重視した。
 まず前者については,言葉の壁を低くすることが,その目的であった。Guess What?やビデオメールに代表されるようなクラスでは,コミュニケーションの基本となるのは映像情報である。前述したような交流の量的充実は,これにより実現したものであろう。また,カレンダーやダイアリークラスなどでも生徒は視覚表現活動に従事しているし,ハウジングクラスにおいても映像情報を駆使して生徒が作品を制作・報告するよう,授業がデザインされている。
 次いで後者については,生徒が多様な活動を繰り広げることができるようなトピックの設定を心がけた。本プロジェクトでは,生徒は,もちろん英語を活用して国際交流を展開するのだから,語学学習活動を繰り広げていることにはなる。しかし,例えばハウジングクラスでは,住環境という家庭科の要素や住宅のレイアウトなどデザインの要素,さらには住環境に関する統計を操ることによる数学の要素が,語学習得に随伴している。また,ニュースクラスでは,時事問題や社会問題が題材となっているので,それは必然的に政治・経済や社会問題の学習ともなる。さらに,Guess What?やビデオメールといったクラスでは写真を撮る活動が不可欠なので,交流を通じて,生徒はごく自然に美術や表現の学習に着手することになる。

4)展望
 一定の成果を得たけれども,本プロジェクトの開発と運営によって,ネットワークによる国際交流のいくつかの問題点も明らかになった。
 それを列挙してみよう。
 まず,今後,外部支援の充実が期待される。国際交流プロジェクトが普及するためには,それを集約する組織が必要である。外国の学校も日本の学校も,交流のパートナーを求めているが,両者を結び付けるパイプがない。WWW上に学校案内を準備しても,それが国際交流を求める外国の教師たちの目に触れなければ,交流はスタートしない。本プロジェクトのいくつかのクラスで外国の学校の生徒の参加が少なかったのは,この問題によるところが大きい。
 また,現段階では,我が国の高校生たちのマルチメディアやネットワークに関するリテラシーは決して高くない。情報教育の体系が確立し,その充実が実現するまで,生徒たちの機器操作能力や情報倫理の未熟さを補う手だてやシステムを準備せざるをえない。すなわち,当分の間,ベーシックスキル(英語実務,電子メールの送受信,ブラウザの活用,ホームページの作成,特に画像処理程度のスキル)養成のカリキュラムを開発する必要がある。さらに,生徒が操作しやすいハードウェア・ソフトウェアの開発,オフライン・オンラインでのサポート人材の配置,などが一層推進されるべきである。

 

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