1. 3年間の継続企画
アジア高校生インターネット交流は3年間CECの支援のもと、継続的に進められた。
草の根活動から計算すると4年目の企画である。
この歴史は同時に日本の教育現場でのインターネット活用の広まりと重なりあったものだった。技術、コンテンツ、人的ネットワークの大切さを実践の中で把握出来る企画となった。
平成10年7月に出された指導要領の改訂の方向、「国際化は欧米に目が向く傾向にあるが、アジア地域はなおいっそう重要である。」との言葉とも連動してアジア地域、インターネットをキーワードとしたこのプロジェクトは民間のインターネット関連雑誌で何回も取材され、総発行部数は50万部は下らない。CECのサポートによるこの企画が関係者にとって大きな事例を与える結果となった。
一方、インターネットの普及によってトップダウンの企画も多くなってきた。
回線スピードが速いのに半年経っても参加校のホームページもメーリングリストも動かないという企画もあると聞く。
インターネットは人と人を結びつけるシステムである。端末や、専用線だけでは動かない。この企画はそのような「急激な普及」の中でいくつかの押さえるべき項目を提示するものとなっている。
2. 3年間の実践で明らかになったこと
国際プロジェクトとして次のような形が定着した。すなわちバーチャルな事前事後のインターネット活用の場面とシンポジュウムというリアルな世界の有機的な結合がインターネットの活用によってもたらされた。
・事前のメーリングリスト
シンポジウムだけでなく、お互いの国・個人を知り合うことがメーリングリストの設置、webページの活用によってスムーズに行われた、英語版、教師版、目的に合ったメーリングリストを作成した。
・語学の壁
シンポジュウムを設定することで生徒の意欲が高まった。また日常的に電子メールでやりとりする事から、「使う場」が設定され「国際言語」英語の役割が生活の中に定着していった。
また、後半のwebnewsのように、画像と英文による交流はイベントだけに終わらないネットワークの有効活用といえる。
・技術的な挑戦
Cu-SeeMeなど日本では当たり前となっているが、この企画を推進するにあたって、参加国での活用が始まった。限られた回線スピードの中で教師間の粘り強い研究の結果、十分にその機能が使えるまでに設定値を探ることができた。
また後半においては、静止画と音声のファイルを電子メールに添付して送る、実験がおこなわれており、徐々にその成果を上げつつある。
3.今年度の評価
英語の活用
生徒のアンケートからもわかるように英語・国際化に対しての意識が大きく変わってきた。
中でも英語学習の目的は設置されている科目であるからという消極的な内容から「コミュニケーションをとる手段として」といったように大きく変化した。やはり英語を使う「体験の場」がメーリングリスト、シンポジウムに置いてあったことと、「あれほど勉強したのに役立たなかった」という悔しさがあったからであろう。
<生徒アンケート・英語を学ぶ第一の目的>
(1) 学校で学習すべき教科だから
(2) 就職試験や入学試験で必要だから
(3) 外国人とコミュニケーションを図りたいから
(1) (2) (3)
事前 18.1 12.5 26.4
事後 10.5 10.5 47.4
共同生活
昨年に続いて海外ゲストと接した生徒について、英語で話そうとする態度に大きな変化があって、積極的だったというコメントもあり、昨年の活動がコミュニケーションに対する動機を高めており、一度限りの企画でなく、昨年の経験に基づき、今年の企画が充実したと言える。
共同作業
今回は奈良市内の取材、ゴミ調査さらにはそれらをwebに作り上げる活動が盛り込まれた。ホームページの文章づくりなどすべて英語で行われた。夜遅くまで共にコンピュータに向かい時間を忘れて取り組んでいた。作品ができあがる中で交流も深まった様である。
共同作業の時間の確保が成功の要因と考えられる。
異文化に対する意識
「先生、日本は確かに豊かだけど、なんかさみしい」交流を終えた後ある生徒がぽつりともらした。
ネパール、タイ、韓国、台湾、ハワイと交流を重ねてきたが、各国の生徒の「日本評価」は経済レベル、技術レベルにおいて高いものであった。しかし彼らの自国の文化を大切にし誇らしげに語る姿を見てこのような言葉が出てきた。
「もっと日本の文化を大切にしてほしい」とのコメントに日本人としてのアイデンティティーは何であるのかを考えるよい契機となった。
共同生活を体験して
10年度は2泊3日の共同生活が実現した。今までのシンポジウム1日の交流に比べ、食事を共にし、「日本食についての感想」を語り合うなど多くの交流の場面が設定できた。3日目には心も英語もかなり通じ合うようになったようである。
教師間の連携
インターネットは学校の塀を突き破る。お互いの学校の内部を見せることができる。
このようなアクティビティに理解のある学校そうでない学校様々である。
また技術レベルも教師一人一人違う。このような現状にあってインターネットはお互いの情報交換によって、技術的な向上、さらには適切な役割分担をもたらすことができた。
また新しい動きゆえ校内の普及には大きな問題があるが、それぞれの経験を持ちより、技術・予算・活用の場面で相互の学校の活性化に役立った。
様々な学校
商業高校などの職業高校、帰国子女をもつ国際高校、受験に忙しい進学校それぞれの高校が集った。「意外に私たちってできるかも・・」キーボードになれている職業高校の生徒の感想である。
学校ランクは大人の決めた価値判断で生徒にとってこのような交流はそれぞれの特性を把握し、自信を持っていくいい機会となった。
就職、進学それぞれに卒業後のコースは異なるがこのような企画が生涯学習の設計に大きく役立つ期待を持っている。
4.他国での広がり
アジア地域でのインターネットの教育利用は飛躍的に広まりつつある。お隣韓国でもコンピュータ研修は制度化されており、台湾においてもそうである。
今回の企画はAsia pacific Networking Group などの協力を得て行われた。
たとえば台湾であるが、この企画をサポートしてくれた中山大学のチェン教授は、平成10年7月に行われたCEC主催国際会議の招待講演者である。国際会議の広がりがこのようなところに見ることもできる。
これらの企画に連動してアジア高校生企画は育てられていった。
確かに異国「日本に」娘を参加させる親としてはこれらの方のサポートがあることが大きな安心となったに違いない。事実台湾のチェン先生のご自宅に何回か参加生徒の親から問い合わせがあったようである。
5.総合的な学習な学習として
高校レベルにおいても2003年より「総合的な学習」が開始される。年間150単位程度の取り組みである。
この新教科に対して、イメージを持つことができず、現場では混乱がある。これらに対してこのプロジェクトは国際化、情報教育2つの側面から一つのイメージ作りに貢献している。とりわけかつての英語教育同様、これら新教科の中で一番困るのは交流相手である。
幸いなことに相手国においても、これまでの一校参加型から、複数の学校がプロジェクトを推進している。すなわち、4〜5校で国内でグループを作り相互学習、研修の場を提供している。インターネットも国際交流も世界同時進行である。国際共同プロジェクトがこれから多く立ち上がってくることだろう。
6.課題
・活動時間・施設
技術、コンテンツ、総合的な学習へのヒント多くをこのプロジェクトは提供してくれた。話題性もあった。しかし、日本の教育も過渡期であることからメインとなったシンポジウムの企画は「授業時間では扱えない」学校が多く、参加するために多くの書類を必要とした学校もあった。
また新100校プロジェクト参加校のように環境の整った学校もあれば、自宅から一台の端末で交流に参加する学校もあった。
同じ環境ではないことは、逆に後半の研究会の持ち方、技術研修にもつながっていき、参加教員にもメリットのある企画となった。
・授業と連動して
参加校の商業高校間ではこのコネクションを活用し、「商業貿易実践」という教科の中で国際共同授業に発展させている。普通高校においても英語科「オーラルコミュニケーション」等の場面でアジア交流の絆を活かしていくことを期待している。