10.情報化・国際化活動をどのように行うか―学校司書の立場から

                              河西 由美子   同志社国際中学・高等学校
                                       コミュニケーションセンター司書
                                       yumiko@intnl.doshisha.ac.jp
                                       http://www.intnl.doshisha.ac.jp

 同志社国際中学・高等学校は1997年9月に、それまでの学校施設の概念を超えた全く新しい複合学習スペースとして「コミュニケーションセンター」(以下「CC」あるいは「センター」と略)を開設した。同センターには教員と職員が常駐し、共同で施設の運営を行っている。新100校プロジェクトの重点企画「Me&Media」においても教員と職員のティームで参加している。
 そこで教科や活動を直接担当する教員ではなく、センターにおいては実務面を担う職員として、またプロジェクトを支える裏方としての視点から、情報化および国際化教育活動に携わる上での報告をさせていただくこととなった。

1.コミュニケーションセンターにおける国際化・情報化への対応
 コミュニケーションセンターは、従来の図書館、コンピューターラボ、視聴覚教室等、中学高校レベルでは独立して配置されることの多かった施設を統合し、本校の特質や教育理念に添った学習ができるよう、プレゼンテーションや展示等を含めた様々なヒューマン・コミュニケーションを可能とするスペースを付け加えた、いわば新時代の複合学習施設である。
 物理的には、2階までの吹き抜けの空間に、3クラスが同時に授業を行えるオープンスペースと、コンピュータ利用を中心とした2クラス分の、計5クラス分の授業スペースがあり、クラスエリアを仕切る形で書架が配置され、視聴覚エリア、上記のプレゼンテーションや展示のためのエリアが混在している。センター内すべてがOAフロア化され、学習用のテーブルやハブステーションから、センター内どこからでもインターネットに接続できる環境が整えられている。現在センター内で使用しているコンピュータは、デスクトップが約30台、ラップトップが約120台で、これらは授業中に使用するのはもちろんのこと、昼休み、放課後等、センター内貸出という形で生徒たちの利用に供されている。
 センターの運営は現在10名の教職員混合のスタッフによって行なわれている。その内訳は以下の通りである。

 主任(教員)1名
 副主任(教員)1名
 部員(教員)1名
 専任司書(職員)2名
 嘱託要員(契約職員)4名
  (内訳は司書2名、ネットワーク管理担当1名、メディアアシスタント1名)
 アルバイト1名(視聴覚担当)

 校務としての位置付けはコミュニケーション部という独立した部であり、ネットワーク管理や図書館業務を含む日々のセンター運営のほか、学年初めの新入生へのメディア活用オリエンテーションから、今年度より設置された高校1年生に対する必修科目である「コミュニケーション&メディア」の担当、教員向けワークショップの開催など、いわば学校全体の情報化の核として、日々新たに発生する様々な事例に取り組んでいる。新100校プロジェクトに代表される学校外の様々なプロジェクトへの参加も、主任副主任の重要な任務である。
 センターの主任であるワイントラウブは1992年より校内に現センターの前身ともいえるCreative Design Centerという小型のラボを設置し、Eメールを活用したヨーロッパの学校との交流活動を行ってきたが、その活動こそ現在も続いているMe & Mediaに他ならない。100校プロジェクトおよび新100校プロジェクトへの参加後は、従来までのヨーロッパ数カ国の学校との交流を中心に、こうした交流を日本国内の学校に広げ、日本とヨーロッパの学校間でより幅広い交流を行うことを目標に活動を行ってきた。(本校は帰国子女教育を特色とし、全生徒の3分の2が帰国生であることから、国際交流に対するモチベーションが非常に高く、容易に敷衍できる内容ではないため、本稿では主として情報化について述べる。)
 本年度はセンター開設後初めての年度であり、センターのスタッフのうち、ワイントラウブは国際化ワーキンググループ委員として、ネットワーク管理(及び英語科講師兼任)を担当するジェンクスがMe & Mediaの担任として、司書の河西(筆者)は通訳兼助手として新100校プロジェクトに参加することとなった。

2.学外交流の意義と校内体制の整備の必要性
 新100校プロジェクトに今年度初めて職員として参加して気づいたなかで特に重要と思われる点を2点挙げたい。
 正直なところ今年度プロジェクトに参加する以前は、学校外プロジェクトに参加する意義を、いまひとつ理解できないでいた。しかし会議の席で、類似の、あるいは全く異なるコンセプトでメディアを使って国際交流を行っている他校の事例を見聞し、意見交換をし、またアドバイザーとして参加されている専門家の先生方の指導や助言をいただく中で、単に学校内の活動に終始するのでなく、外部との接触を持つことにより、絶えず新しい動きに触れ、それを自分の中に取り込むこと、また同じ志を持つ他の学校と協調してプロジェクトを進めることにより新たな発想が生まれることなど、利点が多いことに目を開かされた。
 学校内にコンピュータやネットワークが新しい時代を迎え、過去のノウハウというものが存在しない一方で、コンピュータ業界の技術開発のスピード、日本国内の通信網の未整備などから、絶えず新しい情報を入手あるいは交換する必要性は高くなっている。そして何よりも新技術やツール(コンピュータといえども結局はよりよい教育を目指す上での道具にすぎない)をどのように教育の中に組み入れ、消化していくかという、最も重要な課題がある。誰も経験したことのない状況の中で次々に起こるトラブルやそれに伴う不安を乗り越える上で、新100校プロジェクトに代表される様々なプログラムは、自信を持って進むべき航路を開いてくれるパイロット的な意義を持つものだと思われる。
 第2点は、学校全体としてこうした新時代の情報メディア教育(本校ではメディアに特化せずコミュニケーション教育と考えているが)に対応するための協力体制を作る必要性とそのメリットである。
 現在新100校プロジェクト、それも重点企画に参加しておられる学校はいずれも比較的恵まれた環境下で、コンピュータやインターネットを駆使した交流に取り組まれている。しかしそうした学校にあってさえ、多くは熱意ある先生方の孤軍奮闘に支えられてプロジェクトを遂行しているという現実に驚かされた。それは他の研究発表会に参加しても感じられることであるが、ことに公立の学校においては折角の先生の努力や情熱の賜物である活動も先生の異動により停止あるいは終了せざるを得ないケースもあるようである。
 私自身は職員として教員とティームで日々活動する中で、学校内にこうした情報化・国際化教育の現状に対する理解者や実践者を複数持つことの重要性を実感している。幸い本校においては、前述したとおり情報化対応の校務部として確立されている。さらに今年度CCからは3名の教職員が新100校プロジェクトに関与させていただいたことで、3名の中でもどのようにプロジェクトを遂行するべきか、校内の役割分担について、また他校との交流の際に生じる問題について何度となく討議がもたれた。こうして討議されるということ自体、そのプロジェクトが単に一教員の任意で行っている個人の活動でなく、組織の課題として認識された証である。それはたとえば担任が変わっても、経験としてまた次年度に引きつぐことができる。こうした業務の引継ぎという観念は、事務職の場合には日常的に自然に行なわれていることである。しかし教員1名でこうしたプロジェクトに参加する場合は事務的な手続きをはじめとして派生する様々な雑務を一手に引き受けねばならず、それでなくとも多くの校務を抱える教員にとっては多大な負担である。その上学校内での協力体制の構築までをすべてひとりの教員に科すのはあまりにも酷である。そうした実態を見聞するにつけ、プロジェクトへの参加は、学校ぐるみで、1校につき複数の担当者をもって参加することが望ましいと思われる。
 情報化を担当する部門を設置することは、ことコンピュータについては学校内に「駆け込み寺」を設置することにもなる。授業や他の活動にコンピュータを取り入れる際に個々の教員が苦労して環境を整えたり、一人でトラブルに対応する必要はなくなるのであり、学校全体として情報化に取り組む体制づくりという初期の負担は大きいが、相応の恩恵は以後学校全体に還元されるだろう。
 Me&Mediaに関して言えば、本校においては英語科の授業としてカリキュラムに組み入れられている。国際交流という視点から英語は不可欠ではあるものの、一般の日本の学校において「メディアを考える」という観点からすれば社会科のほうがしっくりするのではないかと思う。今後展開される総合学習の時間などに社会科と英語科のティームティーチングの例として取り組まれるのにふさわしい内容ではないかと思われる。

3.学校の情報化とスタッフの役割
 さて、こうして報告を書かせていただいている筆者の職務上の立場は学校職員であり、職名は司書である。しかし実際の業務内容からいえば、従来の「司書」ということばから連想される司書的な部分は極めて小さく(これはもう1名の専任司書が旧図書館の業務をほとんど負担してくれていることも大きいが)、CCという新たな学校内施設が出来たがために発生した、かつて存在しなかった業務が大半を占める。約180台のコンピュータと、同時に5クラスが授業を行う学習センターで発生する仕事というのは、生徒や教員に対するコンピュータのトラブルシューティング(その多くは単純なもの。複雑なものはネットワーク管理者が対応する)からプリンターの紙の補給、などのスタッフ全員が対応しなければならないものから、筆者の場合はビデオやCD−ROM等のマルチメディア資料の管理、視聴覚機器と施設の管理、高校1年生必修の「コミュニケーション&メディア」科目の主任・副主任とのティームティーチング、従来司書が行ってきた調べ学習のサポート、洋書データの管理、ほか英語科授業のサポート、通訳、翻訳業務(本校には外国人教諭も数多く存在する)、その他学校職員としての事務など多岐にわたる。学習センターが多機能になるに従い、そこで働くスタッフにもマルチタレント性が要求されるのは避けられないことだろう。1人の人間がすべての分野でスペシャリストである必要はないが、自分の専門分野のほかに最低限のコンピュータの知識と新しい環境に対応できる柔軟性があることが望ましいだろう。
 日本の学校図書館には現在まで「司書」は存在しても「司書教諭」というものはほとんど存在していない。近年ようやく半世紀近くも放置されていた学校図書館法が改正され、司書教諭の設置が義務付けられたが、それによってすら現在筆者が行っている業務を定義するものかどうかは疑問である。要するに学校における情報化国際化が新しいものであると同様に、それを支える学校図書館(あるいは学習センター)の専門職の職務内容や要求されるレベルについても新たに検討され、定義されなければならない。
 しかし少なくとも今後コンピュータの導入や、問題解決型の学習方法が定着するにつれ、図書館をはじめとする学校内施設のありかたが、学習センター、資料センターという、学校内での情報センターとしての役割を担うものになっていくだろうことは明らかである。そこで働く専門員についても、現実的な視点から、どのような能力、資質が望ましいのか、養成はどうあるべきか等の論議が幅広くなされるべきと思う。過去および現在の日本の学校図書館を前提にした発想では到底こうした急激な学校の情報化の波には対応できないのではないか、というのが現場において私の抱いている危惧である。
 折しも、「情報化の進展に対応した教育環境の実現に向けて−情報化の進展に対応した初等中等教育における情報教育の推進等に関する調査研究協力者会議 最終報告のポイント」が発表され、その中に端的にまとめられている「司書教諭=メディア専門職」という図式が、非常に的確に現在の学校現場のニーズと司書教諭の新たな可能性を結び付けていて興味深い。
 ここで司書教諭は
  ・教育用ソフトウェア・指導事例に関する情報の収集
  ・各教員への情報提供
  ・校内研修の運営援助
  ・ティーム・ティーチング
  ・子どもたちの主体的な学習を支援
等の役割を担うべきと位置付けられている。ちなみにここに挙げられた事項は本校の専任司書(2名とも司書及び司書教諭の有資格者)が現在行なっている活動および目指している方向とほぼ一致している。

4.コミュニケーションセンターの現在と未来
 最後に、新100校プロジェクトからは離れるが、センターが設立されて1年余の、収穫といえる部分を述べて、今後情報化に備えて新規施設を計画される方々の参考に供したいと思う。
 最も評価できる点は、今まで学校内でそれぞれ独立して管理されていた施設が統合されたことにより、資料や機器、施設全般の利用がより複合的になり、活発になったことではないかと思われる。
 その代表的な例としては、コンピュータと図書資料、ビデオやCD−ROMがひとつの施設の中で同時に使用できるようになったことで、これは画期的なことであった。センターの使い勝手についての生徒からの感想のなかでもこの点への指摘が多い。海外からの訪問客から驚きとお褒めのことばをいただくことが多いのもこの点である。
 管理面からいえば、中高レベルで特別教室の利用がうまくいかないのは、そのほとんどが、1,2名の係教諭および助手による管理となり、メインテナンスが行き届かないためだという説があるが、それを校内に一括することにより、絶えず複数のスタッフにより施設全体を管理・維持できるようになったことは大きな利点である。一人職場を減らすことにより、学校内施設の私物化(特定の教職員のみが管理、利用する)も防ぐことができる。これは利用者にとっても少数の管理者の主観によって利用者の権利が阻害されるのを防ぐという点で大きなメリットがある。
 また別の例としては、センター設立当初、視聴覚機能はそれほど重視されていなかった。というのはセンター設立前の視聴覚サービスは、教員から要請のあったテレビ番組を録画したり、ビデオやプロジェクターの操作を補助するなど、主として教員向けの裏方仕事だったためだが、新センターでコンピュータのマルチメディア的な利用(音楽や映像と組み合わせる)が増加するに従い、デジタルカメラやビデオによる撮影や編集に対するサポートの要請が発生、教員のみならず生徒の機材の利用やそのためのサポートが激増したのである。これは学校内のさまざまな機能を組織化、統合化したために、それまで潜在的にあった需要が表に出てきた好例だと思われる。
 また規模の大きい施設にしたことによる副産物もある。センターが単なる学校施設のひとつであるというよりは、学校に来る皆が集まるところ、文字どおりの「センター」であり、公園や広場のように、誰に対しても開かれた空間である、という感覚が生まれたことだろうか。それは天井の高い、広い空間のもたらすオープンな雰囲気によるところが大きいが、先生方から現在コンピュータ楽しさにセンターに通いつめている生徒たちの中に以前の不登校の生徒達が数名いることを知らされたとき、当初想定していた機能以外の思いもよらぬところでセンターが生徒の学校生活上の救いになっていることを知りたいへん嬉しかった。
 視聴覚学会で発表されたあるアンケートの結果によると、大学生がコンピュータを学ぶ際の、きっかけや好条件は、教師ではなく「コンピュータにくわしい友人の影響」なのだそうで、はからずもセンター開館1年後に生徒対象に行ったアンケートには「友達といっしょにコンピュータができるのが楽しい」という意見が多く見られた。何気ない表現ではあるが「友達といっしょに」コンピュータをする楽しさ、というのは、それ以前の世代にはない感覚ではないかと思う。技術偏重やオタクなどということばとは遠いところで、新しいコンピュータとの付き合いかたが始まっている。新しいツールを利用したコミュニケーションが、少しずつではあるが、学校内外に新たなコミュニティーを創り出しつつあるのを刺激的に感じつつ、恐ろしい速さで今日も一日が終わってゆくのである。 

 最後に、1年を通してプロジェクトの会議に参加させていただいたが、終始オープンな雰囲気のなか討議が行われ、コンピュータや技術優先ではなく、あくまで生徒たちの「学び」を中心に据えた人間的な、自由で自然な発想がベースになっていたことが印象的であった。開かれた自由な雰囲気は、本来オブザーバーであった筆者に対しても報告のスペースを与えてくださったことにも現れている。ここにMe & Mediaご担当の美馬先生はじめ関係の諸先生方、CECの皆さまのご指導とご尽力に対し改めて御礼を申し上げます。

 

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