5.3 今後の課題

5.3.1 教育ネットワークの展開方法の利点と課題

 ここでは本報告書で紹介した教育ネットワークの展開方法のうち、いくつかについてそれぞれの利点と課題についてまとめる。
 教育ネットワークについて、通信インフラの展開を大別すると以下の2つに分類することができる。
  (1)教育センターなど、ある組織を学校間接続の中心に置き、学校間のハブとして接続を行う方法
  (2)各学校が独自にISP(インターネットサービスプロバイダ)に接続する方法をとり、教育ネットワークは仮想的な形態をとる方法

 前者の形態による展開方法では、学校間が物理的に接続されることになり以下の利点がある。いわゆる教育イントラネットとして、対外接続ネットワークと切り分けたセキュリティ対策を取ったり、教育組織向けに提供する情報のアクセス制限を集中的に実現できること、Cu-SeeMe等に代表される実時間マルチメディアコミュニケーションツールを使った通信に対しても別の組織を経由することなくスムーズに利用できる可能性が高いことである。
 逆にハブとなる組織では対外接続の維持・管理のほかに、学校間の接続に関する運用管理を行う必要が生じることになり、いわゆるISPと同様な運用・管理が必要になる。このため、運用・管理のための人や物の手配が必要となる。
 しかし、現実には技術的知識を有する人の数はまだまだ少なく、運用・管理に必要となるコストは高い。
 後者の形態による展開方法の利点は、物理的な接続に関する運用は ISP ならびに学校側で行われることになり、学校側にも、ある程度技術的知識を有する人材が必要となるが、ネットワークの運用・管理は ISP に任せることができる点である。これにより、教育センターなどでは学校で必要となる教育利用のための対応に専念することができる。
 問題となる事項は、前者とは逆で学校間での通信に対するセキュリティ対策や情報のアクセス制限等は学校が個別に行うことが必要になるとともにマルチメディアコミュニケーションツールの組織間の接続性については、ISP間の接続性などにも大きく影響する場合があることであろう。

5.3.2 学校と家庭、学校と地域コミュニティの関係

 学校も社会の中で単独に存在する組織ではなく、家庭や地域コミュニティと共存して存在する組織である。
 最近のインターネットの普及状況を見ると、企業や様々な社会組織や学校においてインターネットに接続するコンピュータが増加しているほか、徐々にであるが、家庭にもインターネットが広がりつつある。学校におけるインターネットの教育利用の開始は児童・生徒の親たちの関心も集めている。授業参観、家庭訪問,PTAの会合という形で行われてきた学校教員と児童・生徒の親達との間での情報交換のやり方にインターネット利用が加わる可能性は大きいと考えられる。特に、小・中学校の場合には学校と家庭の間で情報交換される情報の内容を豊富にし、交換の回数を増やす上で、有益な効果をもたらすと考えられる。
 これまでの学校と家庭の情報交換であるPTAの会合等は圧倒的に母親の参加が多いのに対し、現在、インターネットの利用者は男性の方が女性より多いことから、インターネットによる情報交換では昼間の時間がとりにくい父親の参加が増加することが予想できる。
 また学校から送られてくる情報の内容には通知や意見等のテキストだけでなく、これまでは教室の壁に張り出されていた図画のようなマルチメディアの情報が加わる。学校と家庭の情報交換では児童・生徒個人に関する情報が多く含まれる。また、クラス担任教員と親との間の対話情報も個人的な要素が多く含まれる。このことからインターネット利用の運用においてはこのような情報の保護と安全性への配慮が重要である。
 インターネットの利用は学校と家庭の間だけではなく、学校と地域住民の間の情報交換にも役立つ。
新100校プロジェクトの対象校の62%が校内のネットワーク利用環境をPTAや地域の住民に向けて、インターネットに関する公開講座等の形で公開している。(1998年11月CEC調査)
 学校と家庭間及び学校と地域間のインターネット利用の開始は、学校の教育ネットワーク整備のほかに、地域のネットワーク普及が前提条件となる。この条件が整うのに先立って、この利用の具体的な形態、内容及び効果を確かめる実験が必要である。

5.3.3 学校教育ネットワークと生涯学習ネットワークについて

 生涯学習の環境整備の必要性が指摘されている昨今、生涯学習のための情報ネットワーク構築が進められている。都道府県自治体では、文部省の助成事業として、このための「まなびネットワーク」の計画が進められてきた。1996年以前は、このネットワークは、いわゆるパソコン通信として実現されていたが、1997年以後は、インターネットに接続するTCP/IPプロトコルを運用するネットワークとして構築されるようになっている。
 学校教育ネットワークと生涯学習ネットワークは、共有できる情報サーバをもつ。例えば地域内の図書館、博物館、美術館等の文化施設の情報サーバは勿論、自治体の構築する各種の統計情報のサーバ、そして、多くの地域学習の教材ベースは、この共有できる情報サーバである。双方のネットワークの相互接続や上記の共有できる情報サーバのコンテンツの分担作成と共同利用は、双方にとって、有益な協力の内容となる。

 

5.3.4 構築の技術的問題と維持管理、障害対応

 各学校でのインターネット利用環境構築の例では、多くの場合、最初に1台のクライアント、または、1台のサーバと1台のクライアントの予算措置がなされる。その後数年経って、校内に以前から設置されていた一教室分のPCが更新時期を迎えるとき、更新されたPCをつなぐ構内LANが構築される。最初の場合については、教育委員会や教育センター等で統一した導入機器の仕様が定められる例が多く、導入後のネットワーク接続の作業内容はほぼ統一したものになっている。接続及びネットワーク運用の立上げの作業を納入業者が行う場合でも、学校側や支援者のグループが行う場合でも、機器の初期不良を除けば、長期にわたって解決できないような技術的困難はあまりない。構内での通信ケーブルの配線や校内LANの接続は、それぞれの学校内で行うことが多く、この場合には、教育センターや地域内のネットワークボランティアの助言や支援が必要になることが多い。
 初期導入後の通信システムの立上げに比べ、運用でのシステムの維持管理や障害対応の方は、より多くの技術的困難が伴うことが多い。これに対応するには、教育センター側の対応が必要である。教育センター内にスタッフとしてこれまでネットワークシステムの技術的運用の経験者が配属される必要があるとともに、障害に対応する助言や業者派遣の措置を必要とする。
 すでに米国では実践されているメディアコーディネータ(学校内に情報テクノロジーの専門家を入れ、情報に関する授業実践や機器整備のアドバイスを行う)を導入し、実績を積んでいる自治体の例がある。
 各自治体の教育センターでは、様々な技術上の障害や日常のシステム運用に役立つQ&A集等のオンラインドキュメントの提供や技術研修会の開催が必要である。学校教育ネットワークの技術的問題に対応するスタッフが必要なのは言うまでもないが、十分な人数を確保することは難しいと考えられることから、その配置に関しては、5.1.3で述べたように、地域内に分散して配置するより、教育センター等に集中して配置するほうが、問題の対処に対して効率的である。また、教育ネットワークは地域コミュニティの中ではぐくまれてゆくことが望ましいし、利用や障害回復の技術やノウハウは、地域内の他のネットワークと共通することを考えると、協力体制を組織し、多くの場合ネットワークを通じて、時には現場に出向いてもらい、支援や助言を受けることができるようにしたい。

 

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