5.2 今回の事業による到達点

 5.1でも述べたように、教育ネットワークの地域における展開・普及を図るために重要な基盤として「情報通信インフラの整備」と「情報通信インフラの運用と利用を支援する組織」があげられる。情報通信インフラの整備に関しては文部省及び各地方自治体における種々の施策による整備がここ数年で進められるようになってきているが、前述したように、各地域によってその整備方法が異なっており、各地での教育ネットワークの整備状況、整備計画を広範囲に調査して報告された例はない。また、情報通信インフラの運用と利用を支援する組織については、各地の教育センターを中心として展開するケース(トップダウン型に整備を行った事例)やインターネットの接続・利用経験のある学校を中心とした学校間交流により展開するケース、学校と地域のボランティアの交流により展開を行うケース(ボトムアップ型に整備を行った事例)等が現在実際に行われている。今回の事業では、すでに、教育ネットワークの運用、利用が進められている地域の構築方法、運用方法及びその活動等について調査し、その構築方法、運用方法及びその活動等に関する情報を提供することで、今後の教育ネットワークの整備を進める地域に対して参考となる資料の提供を主眼においているため、敢えて教育ネットワークの地域展開について、どの方法が最も良いかという結論を導くことはしていない。幅の広い事例を紹介することで各地域に好ましいと考える方法を検討してもらう事が重要であると考えている。

 1997年度から、100校プロジェクトは新しい段階に入った。それまで(準備一年間、対象校の実践二年間)は、個々の学校におけるインターネット利用環境の確立とこれを利用した教育実践によりインターネット活用教育の可能性を確かめる実践の段階であった。この実践を通じてインターネット活用教育の重要性あることが確かめられ、今後、インターネットを利用する学校教育を進めてゆくための準備となる全国的なモデル校プロジェクトが次々に始まる状況を迎え、1997年度からは、それまで100校プロジェクトの実践で得られた成果、経験と教訓を100校プロジェクト対象校の周辺の地域にある学校に広げてゆくことを目的とする実験、すなわち、地域展開の実験を試みることになった。これには、このための具体的な実践企画を作り、この企画の実践を進めてゆく方策を採った。具体的な企画としては、100校プロジェクトの対象校やその他のインターネット利用を進めている多くの学校や自治体の教育センター等からの提案募集を行い、その中から地域展開に関わる企画を選択し実施することとした。
 1997年度は、以下の重点企画を実施した。
 なお、これらの企画は、その実践活動の範囲や性格によって、いくつかの型に分類した。

地   域

企  画  名

教育センター型

山梨県

山梨県総合教育センターの活動

   〃    

佐賀県

佐賀県教育センターの活動

学校交流型

福島県阿武隈地区

あぶくま地域ネットワーク

グループ交流型

大分県日田地域

日田地区の学校ネットワーク

 この重点企画の活動は、活動自身はそれぞれの地域が、このために組織された研究会で検討して自主的に決め、それにしたがって、それぞれの地域の組織が活動するものであるが、
 100校プロジェクトとしては、この研究会活動を支援することを通じて、その実践からインターネット活用教育を地域で広げてゆくための学校ネットワークについて方法、成果と教訓、具体的事例やノウハウ等を明らかにする目的をもって始められた。
 1998年度は、以下の重点企画を実施した。

地   域

企  画  名

学校交流型

岐阜県輪之内町

輪之内町の学校ネットワーク

グループ交流型

広島地域

広島市、呉市内9校の学校ネットワーク

 

 1997年度及び1998年度における各重点企画の活動では、ネットワークに接続する各学校内のインターネット利用環境(校内LANの構築と運用)については、1996年度までの100校プロジェクトでの活動内容や経験が踏襲されながら、さらに高度化された内容を持っている。
 教育センター型の企画では、県の教育センターが、かつて地域ネットワークが果たしたNOCの機能を果たすとともに、そこに接続する各学校のwebサーバやメールサーバを、そのNOCサイトにおいて提供する機能を持つ。その意味では、100校プロジェクト時代のネットワークより、更にNOCへの依存度を高めた形態のネットワークになっている。サーバの資源強化や、障害対策、有害情報の遮蔽、研修、経験交流など、種々の方策等に実施に有利であるが、反面、システム強化の内容や運用のやり方が教育センターの方針に依存するトップダウン的な意志決定の要素が強くなる可能性がある。また、 NOCシステムの障害等によるダウンは、ネットワークに接続する全学校のインターネット利用の一斉停止に繋がる大きな弱点が生まれることになりかねない。この対策としては、ネットワークの冗長システムや冗長経路の配慮が必要になる。
 学校交流型企画の活動は、いくつかの村を含む地区や町を活動領域とし、地区の自治体教育委員会の計画でネットワークが作られる場合でも、実際のネットワーク展開は、100校プロジェクト時代の経験や人材や、地域のボランティアの協力に頼って行われる点で、ボトムアップ的なネットワーク運用が期待される。
 グループ交流型では、ネットワーク展開における地域のボランティアへの依存度が大きく、この中の有能な技術者や研究者の指導や支援に依存する度合いも大きい。一方、この型の場合、地域内のすべての学校がそのネットワークに接続してくる保証はないし、どちらかと言えば、インターネット利用に積極的な学校や活動的な教員がいる学校同士のネットワークになり易いので、活発な実践例が生まれることが期待されるが、教育行政とのタイアップが、今後の運用にとって重要になる。

 ネットワークの構築や運用の技術、ネットワークを利用した教育実践のための情報活用技術面では、新100校プロジェクトの重点企画の活動は、概ね1996年度までの100校プロジェクト活動内容の継続と延長上にある。100校プロジェクトの時代には、サーバシステムのOSはSoralisとSystem V系のPC UNIXであったが、新100校プロジェクトの活動では、 UNIXでは、LINUXやFree BSD系のものが多く採用され、更に多く採用されているのがWindows NTである。ネットワーク運用では、100校プロジェクトでは各校に /24分のグローバルIPアドレスを割り当てられていたが、今や、接続する上位のネットワークを運用する商用ISPからは、非常に少ない数のグローバルIPアドレスしか割り当てられないし、多くは、プライベートIPアドレスの使用を余儀なくされている。したがって、学校LANの構築においては、DHCPサービス機能やNATサーバの運用が必要になっている点で、当時より複雑になった。webブラウザの性能や機能は当時より大幅にレベルアップされたし、webページの作成が容易に行えるオーサリングソフトも入手できるようになっている。100校プロジェクトで検証した学校ネットワークの構築と運用の技術的な経験は、新100校プロジェクトでもよく生かされているが、むしろ100校プロジェクトより後発のモデル学校プロジェクト、例えば、こねっとプラン(1996年)、インターネット利用実践地域指定事業(1997年)、光ファイバー網によるネットワーク活用方法研究開発事業(1998年)等の計画や実践の中で生かされている。

 

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