5.まとめ

5.1 地域展開の必要性と現状

 1年間の準備期間を経て1995年に100校プロジェクトの2年間の活動が始まった。そこでは、IPAによる計画と資金を基に、学術ネットワークや地域ネットワークによるインターネット接続性の確保によって、各プロジェクト参加校にインターネット利用環境が提供され、インターネットの教育利用実験が行われた。このプロジェクトでは、学校間での交流や協同学習方式の試行実験も行われたが、この時期の主な特徴は、個々の学校におけるインターネットの教育利用の可能性と効果を調べる実験の時期であったといえる。これに対して、この100校プロジェクトの接続環境を引き継ぐ形で1997年度に行われた新100校プロジェクトの地域展開の活動では、学校間のネットワークが地域に拡がってゆく場合のネットワークの教育利用に必要な事柄(すなわち可能性と効果、問題点や課題等)を明らかにする活動をいくつかのモデル地域で行ったことになる。
今でも、新しい構成方法による実験が行われているが、全体としては、地域の学校を接続する教育ネットワークが展開される時期が到来していると言える。

5.1.1 地域展開の必要性

 日本国内の学校数等に関する統計情報は、文部省の学校基本調査として毎年、行われている(表51)。

表5−1 区分別学校数統計 (国・公・私立合計:1997年5月1日現在)
   [http://www.monbu.go.jp/stat/r316/tk0100.GIF]

 

 

 小学校

24,376

 幼稚園

14,690

 中学校

11,257

 高等専門学校

62

 高等学校

5,496

 短期大学

595

 盲学校

71

 大学(大学院)

586(420)

 聾学校

107

 専修学校

3,546

 養護学校

800

 各種学校

2,601

 

    

 表5−1 から、初等中等教育機関(小中高校と特殊教育諸学校)の合計は 42,222校に及ぶことが分かる。日本国内でJPドメイン名の割当を行なっているJPNICの統計によると1999年1月1日現在の割当ドメイン数の合計は58,610ドメインである。
 この統計上の数字の比較を行うだけでも、初等中等教育機関のインターネットへの接続は非常に大規模なものであり、全体を一つとして取り扱うことは非常に困難であり、都道府県や市町村など比較的規模の小さな単位としてインターネットへの接続などの問題を考える必要があることが分かる。
 JPNICは1998年9月には初等中等教育機関のインターネットへの接続を見据えて、新たにEDという第2レベルドメインの新設を決定した。10月には予約ドメインの登録、12月にはWebでの公開を行った。予約ドメインの本登録は1999年2月より開始され、5月には通常の登録が開始される。
 EDドメイン名の構造は 組織名.ED.JP とされ、これを取得できる組織は保育所、幼稚園、小学校、中学校、高等学校、特殊教育諸学校、18歳未満を対象とする専修および各種学校と前記の登録対象組織を複数設置、付設している学校法人や大学(学部を含む)、公立の教育センターや教育ネットワークで複数の登録対象組織をまとめるものとなっている。
 新設の理由は今後、数年間に約40,000校の学校がインターネット接続を行い、それに伴ってドメイン名登録申請の急増が予想される。地域型ドメイン名や既存のACドメイン名(大学など)への収容を考慮したが、ドメイン名が長すぎる(地域型)、未成年を対象とするコミュニティ全体を識別できる名前が望ましい、地域横断型の組織の存在、等々の意見により、検討を加え、第2レベルのEDドメインの新設を決定した。
 参考:・EDドメインについて
     http://www.nic.ad.jp/jp/regist/dom/ed/index.html
       2回のアンケートおよび意見集約の結果
        http://www.nic.ad.jp/regist_serch/domain.htnl#announce

5.1.2 初等中等教育機関のインターネット接続の変遷

 国内の初等中等教育機関における対外ネットワークの利用は、1990年に数校の高等学校がUUCP 接続により学術研究ネットワーク JUNET に接続されたものが最初であると言われている。IPを用いたインターネットへの接続が実験的に始まったのは1994年に一部の大学の附属学校がLANに接続されるようになったのが最初で、1995年に始まった100校プロジェクトによりインターネットに接続される学校数が増大し、多くの活用事例が報告されるようになった。また、1996年には、NTTをはじめとする企業・団体・個人からなる「こねっと・プラン推進協議会」により約1,000校の小・中・高・特殊教育諸学校が接続されている。これらの活動は、主にインターネットの教育利用の可能性と効果を調べ開拓する実験期に相当するものとして捉えることができる。
 これに対して、1997年から、文部省による「インターネット利用実践研究地域指定事業」が始まり、1998年には「2001年までにすべての中学校、高等学校、特殊教育諸学校を、2003年までにすべての小学校をインターネットに接続する」(その後小学校についても2001年までに接続することとなった)という方針を決定した。
 文部省の調査によると1998年3月31日現在、公立学校の18.7%がインターネットにアクセス可能となっている。(表5
1 インターネット接続学校数)

学校における情報教育の実態に関する調査結果(抜粋)
                1998年3月31日現在(文部省)
                    

表5−2−1 インターネット接続学校数

 

学校数(a)

接続学校(b)

割合(b/a)

小学校

23,811

3,230

13.6 %

中学校

10,475

2,375

22.7 %

高等学校

4,162

1,557

37.4 %

特殊教育諸学校

918

201

21.9 %

合計

39,366

7,363

18.7 %

 

表5−2−2 ガイドラインのある学校

 

接続学校

(b)

ガイドラインのある学校(c)

割合(c/b)

小学校

3,230

999

30.9 %

中学校

2,375

677

28.5 %

高等学校

1,557

549

35.3 %

特殊教育諸学校

201

98

48.8 %

合計

7,363

2,323

31.5 %

                                              

ガイドライン:都道府県、市町村、学校等が策定した、インターネットの           

       利用や個人情報の取り扱いに関するガイドライン等を言う

 

表5−2−3 ホームページのある学校          

 

接続学校(b)

ホームページのある学校(d)

割合(d/b)

小学校

3,230

1,019

31.5 %

中学校

2,375

801

33.7 %

高等学校

1,557

986

63.3 %

特殊教育諸学校

201

113

56.2 %

合計

7,363

2,919

39.6 %

 

                                 

 また、都道府県別のインターネット接続状況は岐阜県(99.0%)、高知県(74.9%)佐賀県(70.0%)と整備が進む中、他の多数の自治体は50%を割り、7つの自治体では10%以下の接続学校数となっている。(1998年3月31日、文部省)
 1998年には光ファーバー網による学校ネットワーク活用方法研究開発事業(文部省)、先進的教育用ネットワークモデル地域事業(文部省、郵政省)等が始まり、また、各自治体がその地域での学校を接続する教育ネットワークの展開が計画あるいは実施され始めている。
 前述の「2.地域教育ネットワークの調査」では、それぞれの地域におけるインターネット接続の特徴的な事例が報告されている。

5.1.3 地域教育ネットワークの意義や展開方法

 地域で展開される教育ネットワークの意義は、各地域での個別の事情などにより構成するネットワークのトポロジーや通信機能などに変化を持たせることが可能となる点にあると考えられる。教育センターなどが物理的なネットワークの中心として機能するように構築する方法や学校では教育利用の中心としてのみ位置付け、各学校の物理的接続とは独立して機能させる方法など、実際に様々な方法で展開が行われている。

 地域で展開されている学校間を接続するネットワークのトポロジーの特徴を見ると、佐賀(昨年度の報告参照)や京都、前橋、富山のように、県や市の教育センターを接続中心とする「一点集中型のネットワーク」と、青森や上越のように学校間を繋ぐネットワークは地域内のプロバイダを利用した「複数クラスタ型のネットワーク」に大別される。山梨県の場合(昨年度の報告参照)は、県教育センターに接続するクラスタもあるが、非営利の地域ネットワークや商用のプロバイダ(ISP)のネットワークに接続したクラスタもあり、複数クラスタ型のネットワークに属する。
 都道府県自治体が全域に拡がる教育ネットワークを構想し、必要な予算を投じてトップダウン的に構築する場合は、「一点集中型のネットワーク」が実現するが、多くの都道府県の現状がそうであるように、市町村や学校の単位で教育ネットワークが計画され、構築される場合には、「複数クラスタ型のネットワーク」が自然発生的に出来上がることになる。
 「一点集中型のネットワーク」は、安全性や有害情報の遮蔽措置やサーバ資源の集中化が比較的容易であること、各学校間がネットワーク上で比較的近距離にあることが可能であること、システム監視や障害対応の上でも利点があること等の優れた点があるが、地域内での学校の地理的分布によっては、回線経費の面で不利な場合があること、通信トラフィックが接続中心に集中し、広域網への出入口でフロー制御によるトラフィック渋滞の発生の可能性があること、接続中心のシステムが障害等により停止すると全学校のネットワーク利用が停止する等の不利な点がある。「複数クラスタ型のネットワーク」の場合は、ある程度、「一点集中型のネットワーク」の利点が不利に、また不利な点が利点にはなるが、複数クラスタ型ネットワーク間を近距離で接続することが可能になると、不利な点が大幅に少なくなる。
 どちらの方式(一点集中型のネットワーク、複数クラスタ型のネットワーク)が利用されるかは、その地域の特性により、安全性、予算等を配慮して選択されるものと思われる。 

 ネットワークの接続方式についても多種の方式が採用されている。100校プロジェクトでは、専用線接続(1997年10月現在、7割の学校はディジタル専用線:64kbps、他はアナログ専用線:28.8kbpsのモデム採用)が採用された。こねっとプランでは、ISDN(INS64:ダイヤルアップ)が採用されている。その他では、電話公衆網(アナログ)が多く、CATV や無線網、ADSL回線、衛星網が採用されている例もある。現在、接続されている多くの学校では、1、2台のコンピュータがインターネットに接続している状況であり、そこでは電話公衆網(アナログ)による接続でも、リアルタイム伝送を必要としないネットワーク利用法ではそれほど不便は感じられない。

  また、NTTやインターネット接続業者は学校向けのインターネット料金に割引制度を設けることを検討している。その制度のひとつ、1999年中に実施予定の準定額制(案:9,000円程度/100時間/月)を選択することにより、学校のダイヤルアップ回線費(INS64)を3割程度軽減できる見通しである。
 しかしながら、今後、学校内の多くのコンピュータがLANを構成して、インターネットに接続する方向に移行してゆくと、より高速な伝送能力を必要とし、さらに利用が増加するにつれて、常時接続の状況が発生し、専用線の必要度が増し、そのための通信経費も専用線の方が有利になってくる。そして、対外接続の運用においては、専用線の方が障害の発生頻度が少なく、より手がかからない傾向にある。
 100校プロジェクトの場合、参加校の中には校内LANをインターネットに接続した事例が少なからず報告されているが、その多くは、単一のサーバーを介した外部接続であり、本格的なLAN接続の実験については、あまり報告がない。1997年度の新100校プロジェクトにおける地域展開の活動、特に教育センター型の企画では、この型の接続方式が運用されているが、そこでは、上位網との接続に専用回線の帯域巾をやや大きくする方法が採られている。収容する接続校の増加とその利用の増加に伴い、レベルアップが当然必要になる。
 その際は、既存のメディアだけでなく、利用が可能になりつつあるCATVのインターネット利用、光ファイバーの私設線の整備、無線、ADSL回線等の新しいメディアの動向も視野に入れておく必要がある。

 学校内におけるインターネット教育利用の方法やコンテンツの開発と運用に並んで、ネットワーク運用の技術的なサポートも大きな問題である。技術支援に関しては、その人材は地域内で集中的に配置されている方が分散して配置されいるより効果的である。この意味で、教育センターにこのような技術スタッフを配置することは望ましい。しかしながら、このことは、ネットワークトポロジーを「一点集中型」(物理的な意味での)にすることを意味しない。教育センターの技術スタッフのほかにも地域内のネットワークボランティアによる支援の体制も大切である。広島地域では大学職員の支援を基に地域の教員が相互に協力しあいながら学校ネットワークを構築している。また、岐阜県輪之内町では教育委員会の指導主事が町の教育ネットワーク構築を学校教員とともに行った例(3章、4章参照)がある。
 このほかにも、地域内のネットワークボランティアが参加して教育ネットワークを構築した例は多数散見できる。あぶくま地域(昨年度報告)や群馬県のインターネットつなぎ隊、東三河地域における活動、各地におけるネットディ活動等々がある。

 

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