4.6 おわりに

 本章では,広島地域の小中高校へ専用線によるインターネット環境を導入し,ネットワークサーバを設置・運用するインターネット利用研究について報告した。回線の設置工事日程の関係で,利用開始が遅れた学校もあったが,予定していたすべての研究協力校は平成10年12月時点でインターネット接続を完了し,ネットワークサーバの設定・運用にこぎつけることができた。言い換えると,児童生徒のための教育利用,教員の業務利用にどう活用できるかを考えることができる環境が整ったというスタートラインに立ったわけである。
 本プロジェクトで接続された学校の多くは,インターネット導入そのものがまったく初めてであった。また一部の学校は「こねっと・プラン」によるインターネット利用経験はあったものの,専用線接続による本格的なインターネット接続は初めてであり,それらの学校でも開始当初は担当者以外の教員には状況が理解できないための戸惑いもあった。しかし,担当者を中心とした勉強会等を通じてしだいに理解が進み,一部の教員の間ではWWWや電子メールなどの積極的な利用が始まっている。
 スタートラインに至るまでにはいくつもの障害があった。特に今回のプロジェクトは100校プロジェクトおよびschool@csiでの議論をもとに,大学の研究者を中心として独自に計画したものであり,予算的裏付けもなく,接続対象となる学校の協力が得られる保証もなかった。そのため,文部省担当者との相談,広島県や広島市の教育委員会との話合いに相当な時間を費やした。そして,広島市教育センターおよび接続対象校の担当者の努力により,ようやく学校への設置が許可された。一方,本プロジェクトでは回線,ネットワーク接続機器およびネットワークサーバをプロジェクトとして設置するため,各方面と交渉を行い,研究の趣旨を理解して頂いた企業等の協力により回線および機材を調達することができた。当初,クライアントは学校が既に導入しているパソコンを利用することを想定していたが,ネットワーク接続して利用できるパソコンがほとんど無い学校も多く,急きょ地元企業にお願いして,クライアントコンピュータの提供を受けた。ただし,調達できた台数が少ないことから,実践授業等で必要となる学校を中心に巡回利用している。
 快調な滑り出しを切ったとは言えないが,ミーティングやネットワークサーバ構築セミナーなどを重ね,さらに電子メールによる情報交換により,どうにかサーバ機能が安定するようになった。途中「ここまでやらないといけないの?」という先行き不安な本音や「やったー!」という達成感が伝わってくるメールのやりとりは,現場の教員が日常的な仕事をこなしながら,ネットワークサーバを管理するという現実の声がそのまま反映されていた。スタートラインに立つために要した時間やプロジェクトメンバーの労力から得られた成果と課題は,今後,学校がインターネット接続するために検討すべき課題として重要な役割を果たしたと言える。特に,専用線接続と学校へのネットワークサーバの設置,学校による最低限のサーバ管理という,現在進行中の他プロジェクトではほとんど試されていないモデルの試行,教員間の協力体制や外部支援の受入体制の模索を行うことができた。さらに,最低限必要な技術的および倫理的知識の明確化については今後の課題であり,引き続き検討中である。

 本プロジェクトの目的を理解して頂き,ご協力頂いたプロジェクト研究協力校および研究協力支援校の関係者の方々,並びにプロジェクト推進に多大なご協力を頂いた中国通信ネットワーク(株),日商エレクトロニクス(株),日本ヒューレット・パッカード(株)に感謝します。また,サーバ管理ソフトウェアを提供して頂いた(株)ジェプロ,ネットワーク接続機器およびクライアントコンピュータ等を提供して頂いたアライドテレシス(株),(株)ジーテック,(株)ハイエレコンコーワ,広島建設工業(株),(株)マツダ C&Tに感謝します。本研究の一部は,未来開拓学術研究推進事業「情報倫理の構築」(JSPS-RFTF98I00704)の支援を受けて実施されています。

 

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