○ 児童に関すること
小学校段階におけるインターネット利用教育に関する最大の問題点は,言語,特に語彙に関わる問題だと考えている。一般的に新聞を読解するには中学校2年生程度の学力が必要と言われている。この程度の日本語能力や漢字の識別能力があれば,世間一般に流通しているごく普通の文章の理解が可能となる。しかし,小学校段階では一般対象の文章を十分に読み書きできない。WWWで公開されているページは,一般を対象として記述されているものがほとんどである。本プロジェクトにおいて,小学校の事例として調べ学習を中心とした利用実践を行ったが,情報の受信場面での語彙不足による未理解は否めない。せっかく入手した情報も正確に理解ができないのである。これを補うためには,情報発信者が情報受信者の年齢や発達段階を意識した発信をすることを待っているだけでなく,インターネット上の情報を小学生段階の言葉に翻訳するプログラム開発や,副教材をネットワークを通じて配布するシステムの確立等の積極的な措置が取られることを要望したい。同時に,OSにおける,アルファベットや英語での記載・表記や入力要求も含めて,ブラウザなどに代表されるインターネット環境も,低年齢層の使用を前提とした整備も今後整っていくことを望んでやまない。
○教職員に関すること
前述の通り,小学校における教育用コンピュータの整備状況は地域により格差がある。現行小学校学習指導要領でのコンピュータの扱いも「慣れ,親しむ」を基本としており,学習指導において活用する環境整備も十分ではない。このため,教職員のコンピュータリテラシーや情報についての課題意識はまだまだ低いというのが実状である。このような状況であるため,コンピュータの取り扱いやメンテナンスも,業務として職務分担の中できちんと位置付けられていない。興味のある教職員が仕事の合間に担っているというのが多くの小学校の現状である。
本プロジェクトでは,ネットワークサーバの構築というかなりの時間と労力を必要とする作業を行ったが,そのための研修及び作業時間を勤務時間内に確保することが難しかった。社会のシステムが順調に機能するためには,それを支える部分こそ重要である。このことは学校教育やコンピュータ利用教育についても同様である。ネットワークが日常的に稼働するためには,それを支えメンテナンスする労力が必要となる。このような目に見えにくい部分での労働を,きちんと職務として位置づけることが今後の大きな課題である。
○環境整備に関すること
広島市立小学校においては,平成10年度と11年度の2年間で,授業用のコンピュータの整備が完了する。これらのコンピュータは全てスタンドアロンであり,ネットワークでの利用環境は整っていない。今後はインターネットへの接続を考慮した整備が望まれる。
ここ数年の社会基盤整備は情報関連のインフラストラクチャーを中心に整備が進んでおり,社会の情報化は加速度的に進んでいる。情報に対する認識はますます高まっており,その波は学校現場にも押し寄せている。学校は旧態依然としている情報管理について見直す必要にせまられてくる。たとえば,成績や学籍簿の扱い方をはじめ,住所や保護者氏名といった個人情報の管理に対する研修が必須となってくるであろうし,管理職の情報に対する理解・管理も重要課題となるであろう。
インターネットの爆発的な発展に象徴される高度情報通信社会の到来が目前に迫る今,児童生徒に高度情報通信社会への適応可能な能力を育成することの必要性は,社会全般からの要求であることを意識しなければならない。本プロジェクトにおいては光ファイバー専用線接続という数年前の専門研究機関並の接続方法を行った。当初は小学校には随分贅沢な環境であると思っていた。しかしながら,実践を重ねていくうちに学校教育でのインターネット利用の最低限のラインではないかと考えるようになった。今後,この漠然とした必要感を客観的なデータによって裏付けることがこのプロジェクトの今後の大きな課題である。
○ 生徒に関すること
中学生という時期はとても好奇心が旺盛で,しかも精神的に不安定な時期である。コンピュータはもとよりインターネットについてはいろいろな意味で興味を持っている。特にインターネットを使った犯罪についての報道の影響で,インターネットは「なんでもできる」「無秩序・無法地帯」といった印象までもっている。今後,インターネット利用環境を中学校に導入していくことを考えると,有害情報へのアクセスをどう防ぐか,ネチケットや情報倫理をどう育成するか,生徒の人権についてどう考えていくか等課題が多い。また,機器へのいたずらの対処も必要である。本プロジェクトにおいては,FINE(Foundations of Information Ethics(情報倫理の構築プロジェクト):日本学術振興会未来開拓学術研究推進事業「電子社会システム研究推進委員会」平成10年度新規研究プロジェクト 京都大学大学院文学研究科,広島大学文学部,千葉大学文学部を研究委託先機関とする。)との協力体制のもとで,インターネット上での倫理的な問題について研究をすすめ,その成果を公表していく予定である。
○ 教職員に関すること
まず,最初にあげる課題としては,教職員のコンピュータ特にインターネットに関する意識の改善であろう。先の問題点でも触れたが,多くの教職員がネットワークを利用した情報教育の意義を理解しておらず,差し迫った教育利用の必要性を感じていない。この現状を打ち破るためには,校内に推進組織や系統的な研修会を設けながら日常的に教職員全体で情報教育について考えていける環境をつくっていくことが必要であろう。本プロジェクトとしては,各学校での取り組みの積み重ねをまとめることで,他校の情報教育推進のヒントにしていくことが課題である。
二つめは,時間の確保である。特に中学校は日常の業務が多忙といわれる。担任としての仕事以外に,突発的な生徒指導の対応やクラブ活動の指導,3学年を担当するとさらに進路事務が加わってくる。こういった状況の中で,ネットワークサーバ管理などの時間確保は難しい。また,上にあげた日常の業務を考えた時,どうしても情報教育に関わる業務の優先度が低くならざるをえない現実がある。また,マシン管理にだけ限定して考えてみても,担当者が一人ではパンク状態になり,四苦八苦してしまうのが現状である。これを受け,先にも述べたが情報教育を推進する校内分掌を設け,複数の人間で,時間的保証のもとでおこなえる体制をつくる必要性を強く強調したい。また,本プロジェクトのサポートグループを参考にして,教育センター,大学などの研究機関,一般ボランティアも含め学校での情報教育を支援していく体制を確立しなければならないだろう。そのサポート体制を本プロジェクトから今後提案していきたい。
○ 環境整備に関すること
広島市の公立中学校においては,近いうちに生徒用40台の最新コンピュータが整備される。それに伴いコンピュータ教室内においてLANが構築されることになる。また,インターネットに接続される学校もここ数年で急激に増え,インターネットを活用した授業実践があちこちで行われるようになるにちがいない。学校でのコンピュータネットワーク活用を推進していくためのポイントとして校内LANの整備がある。予算的な問題,セキュリティの問題,校舎の構造的な問題などで,ネットワークはコンピュータ教室内だけのLAN,あるいは職員室内だけのLANと最小単位での構築が行われていく可能性がある。しかし,校内LANの活用を考えた時,ネットワークは,離れた場所に設置されたコンピュータが接続され,はじめてその有効性が発揮される。このことを視野に入れコンピュータ環境の整備を進めなければならない。
次に,インターネット接続方法である。本プロジェクトでは専用線によるIP接続をおこなっているが,多くの学校では予算的な問題,管理上の問題などで個人ユースを対象としたサービスである端末型ダイアルアップ接続による整備が多い。実際,授業の中でインターネットを活用することを考えた場合,1台の端末を40名の生徒が使うには困難な面がある。今までの経緯から,専用線使用料金はかなりのスピードで下がっていくことが予想される。将来的には専用線接続に切り替えることを想定し,ネットワーク利用環境を段階的に整備する指針を示すことが本プロジェクトの大きな課題である。2001年には,すべての学校をインターネットに接続することが文部省からアナウンスされている現在,このことは緊急を要する。
○ 生徒に関すること
高等学校にネットワークが導入されたとき,まず心配しなければならないことが,学校内部からのアタックである。近頃の高校生の中には,コンピュータのパワーユーザが増えている。彼らが本気で,あるいは面白半分に,校内のコンピュータから学校のネットワークサーバへアタックした場合,インターネット経由で外部からのアタックを想定してあるファイヤーウォールも意味がない。前述したようにLANを2系統に分け,授業用のコンピュータはインターネットに接続されたLANにつなぎ,成績や重要書類を扱う校内LANは教員専用とし端末を管理する必要がある。また,生徒に対してはコンピュータリテラシー教育を行い,クラッキングはもちろんのこと,他人への成りすまし,悪戯メールなども,生徒指導の対象として考えていかなければならない。
生徒同士で電子メールやチャットなどが自由にできる環境になると,授業中に授業とは関係の無い電子メールやチャットで,授業を聞かない生徒も出てくるかもしれない。しかし,規則規則であまりにも縛り付けることよりも,生徒に考えさせることで自覚を持たせる指導が望ましいということは,一般の学習指導や生徒指導と何ら変わりはない。
○ 教職員に関すること
インターネットの導入を推進していく前に難しいことは抜きにして,「コンピュータは楽しい」「コンピュータを利用すればこんなに便利だ」といった感触を抱いてもらえるような仕掛けを考え,さらにコンピュータに対して興味がわくような雰囲気をつくっていく。このようなレベルから推進していくことができれば理想である。そのためにも,コンピュータに関して経験を積んだ教員でのスタッフを構成し,綿密な推進計画を立て,学校の情報化を進めていかなくてはいけない。また,なぜ学校現場にインターネットを導入するのかを明確にし,全教員に理解をしてもらうことも合わせて進めていく必要があるだろう。
インターネットの導入で,生徒自らが情報を発信するという教育が可能となり,いろいろな教科・科目によって,問題のとらえ方,その解決の方法,まとめ方,表現力や倫理観の育成など,これまでにない画期的な教育環境が整う。その効果は多岐にわたり,これまでの型にはまった授業スタイルとは異なった展開が期待できる。さらに世界中の各方面からの情報を活用しながらの学習が可能となり,学習効果も向上するに違いない。いろんな意味で世界が広がっていく。インターネット上のコミュニケーション能力は,高度情報通信社会に必要不可欠な能力であることを認識し,「適切な活用」ができるよう指導していかなくてはいけない。
○環境整備に関すること
インターネットを導入するに当たり避けて通れないのが費用(設備費と通信費)の問題である。高等学校の場合,職員室は学科や教科ごとに分散しているため,インターネットが利用できるクライアントコンピュータを共用することは難しい。さらに生徒用のコンピュータの台数もまとまった数が必要となる。生徒も教員も快適にインターネットを利用できる設備となると,巨額の費用が必要となる。通信費用も同様である。特に,多くの学校で導入されつつある端末型ダイヤルアップ接続の場合,その回線料は従量制である。使えば使うほど料金が高くなるため,インターネット活用度が増せば増すほど,その利用を制限せざるを得ない状況になる。一方,専用線接続の回線料は定額である。使えば使うほど通信費用を有効活用することになる。しかしながら,いまのところ専用線料金はかなり高額であり,現在の学校予算規模でまかなうことは難しい。学校現場にインターネットの導入が必要とされる中,何とかしてこの費用問題をクリアしていかなくてはいけない。設備の改良・増設,メンテナンス,通信等の費用をどこからどう捻出するか,早急な検討が必要である。
いかなる機器,あるいは設備やシステムは,常に健全で安全に使用できるものでなくてはいけない。しかし,時として大事な時にトラブルは発生することが多々ある。トラブルが発生しにくいシステムの設置も大切であるが,被害が最小限に押さえられる設備システムが最重要であると考える。実際,ネットワークの利用中にトラブルが発生した場合,その処置ができる教員は限られた人数しかいない。誰もが安心して使えるシステムであるためにもトラブルシューティングの手順を示しておくことが必要である。
また,コンピュータに詳しい教員が中心に維持・管理をしていくのでなく,やはりコンピュータの維持・管理を校務分掌の一つとして位置づけ,誰もができるかたちにしていかなくてはいけない。
文部省が打ち出している次期カリキュラムでは,「情報」という教科が大学入試センター試験に必修となる。この教科ではコンピュータの使用方法だけでなく,コンピュータを扱う者の心の教育も織り込まれることを期待したい。