「ビデオクリップを活用した教材の共同製作」

小学校4年生・総合学習

滋賀県 大津市立平野小学校 石原 一彦

 

インターネット利用の意図

インターネットを取り巻く技術的発展は,インターネット上で動画を見ることさえ可能にしている。クイックタイム3.0やビデオクリップを簡単に撮影できるデジタルカメラの登場により,従来よりたいへん簡単にビデオクリップをWeb上に発信できるようになった。また,通信環境の向上により,今までより高速で高品質な通信環境も次第に整いつつある。このような環境の変化を背景に,ネットワーク上でビデオクリップを教育に利用する教材の作成が可能になってきたといえる。そこで,平野小学校では全国の教育現場の方と共同で,ビデオクリップを利用した教材リソースの共同製作を呼びかけることにした。ビデオクリップを利用した教材をネットワーク上で共同製作するのがこの企画のねらいである。



1「ビデオクリップを活用した教材の共同製作」

(1)ねらい
 このプロジェクトでは,ビデオクリップを利用した教材をネットワーク上で共同作成し,Web上に公開することによって,動画を用いた教材を共有することをめざしている。これらの動画を用いた教材は実技を伴う体育や家庭科などの教科学習だけでなく,「方言調べ」など地域差を生かした学習にも役立てることができると思われる。さらに,理科の実験器具の取り扱い方や,算数のコンパスの使い方など,各教科の補助的な教材としても役に立つものと考えられる。

 

(2)参加者及び所属
岩田 諦慧(輪之内町教育委員会)
武  一正(鹿児島県立鹿児島水産高等学校)
寺井  弦(島根県石見町立石見東小学校)
宇野 芳彦(岐阜県大垣市立静里小学校)
中村 浩治(滋賀県立盲学校)
島崎  勇(大和市立林間小)
中島 康明(大阪府立盲学校)
中島 唯介(京田辺市教育委員会)
羽渕 政臣(サンパウロ日本人学校)
丹波 信夫(半田市立亀崎小学校)
中嶋 弘行(京都市立朱雀第二小学校)
石原 一彦(大津市立平野小学校)

(3)教材作成にあたって
 今回利用するビデオクリップは,SANYO社製のデジタルカメラ(DSC-X100)を基準に作成したいと考えている。このデジタルカメラは320
×240ピクセルの動画を音声付きで記録することができ,保存されたファイルは,5秒程度のビデオクリップで約850kb程度の大きさになる。このデジタルカメラは通常の静止画を撮影するのと同じ手軽さで,ビデオクリップを撮影でき,撮影された動画はスマートメディアにavi形式で保存されるので,フロッピィーディスクアダプタ(フラッシュパス)を経由して直接コンピュータに保存できる。コンピュータに取り込まれたaviファイルをそのままFTPでWebサーバーに転送し,htmlファイルからリンクを張れば,クイックタイム3.0のプラグインがインストールされているブラウザー上で動画を再生することが可能になる。画像ファイルのコンバートや特殊なタグの使用など,めんどうな手間が必要ないので動画ファイルの作成から再生まで自動化できるので大変手軽にビデオクリップが利用できる。
 このデジタルカメラを使わずに,ビデオ素材を動画キャプチャー装置でコンピュータに取り込む場合でも,今回の教材作成に当たっては,画面の大きさやファイルの大きさなどをこのビデオクリップと同サイズのものとなるようにし,これに準じる形で作業を進めると,教材としての統一化がはかれると考えている。 ただし,安価なビデオキャプチャーボードの場合,圧縮がかけられずにファイルサイズが大きくなりすぎるため,MPEGでビデオファイルが作成できるエンコーダが必要である。
 一般的には,ビデオカメラで撮影した画像をビデオキャプチャーボードでコンピュータに取り込み,動画編集用のソフトでビデオクリップに加工することになる。画像サイズは320
×240ピクセルで,画像サイズは1Mbを越えないものを標準としたい。
 教材によっては,顕微鏡用のビデオカメラや,水中ビデオカメラなど,デジタルカメラで撮影できない動画が必要になるため,これらの動画を加工する際に,上記の標準サイズで加工すると統一がはかれると考えている。

(4)作成の手順
 平野小学校のWebサーバー内に共同作業用のディレクトリを設ける。このディレクトリにはこのプロジェクトに参加される方それぞれにアクセスのパーミッションを設定し,自由に読み書きができるようにしておく。参加者はこのディレクトリに素材となるビデクリップを転送する。また,aviファイルだけでなく,このビデオクリップを利用した教材用のhtmlファイルなどがあればこのファイルも転送する。
 このディレクトリーに保存されたビデオクリップやhtmlファイルは,参加者が自由にコピーや加工してもよいという了解を事前に得てあるので,参加者がこのビデオクリップを利用してそれぞれ思い思いの教材用html ファイルを作成することができる。例えば,A校で作成したビデオクリップとB校で作成したビデオクリップを利用して,C校が自校用の教材用htmlファイルを作成することができる,ということである。
 現在の通信環境では1MB程度のファイルをネットワーク上でリンクを張って利用するのは無理である。したがって,教材として利用するにはあらかじめ共同作業用のディレクトリから自校のコンピュータに転送し,保存することによって,再生に要する時間も短縮され,実用に耐えうる教材になる。
 作業を進めるにあたっては,専用のメーリングリストを立ち上げたり,会議室(BBS)を設定して参加者の情報交換をはかり,交流を進めながら作業をおこないたい。

(5)具体的な教材例

ビデオクリップを利用した教材としては次のようなものが考えられる。

体育実技系の教材

 模範的な演技や動作だけでなく,練習のビデオクリップや誤った動作など,児童が自分の課題を見つけ,それを克服するための支援になるような教材なども有効である。。

家庭科等の実技を伴う教材

 裁縫の「玉止め」や「玉結び」,「ミシンの扱い」,「調理器具の扱い」など,家庭科の領域では実技を伴うものがたいへん多い。ビデオクリップを利用することによって,実際の方法を見ることができ,図や写真に比べてわかりやすい教材ができると考えられる


国語の方言を調べる教材

地域ごとに様々な方言がある。ビデオクリップは音声も同時に再生できるので,共通した項目ごとに地元の言葉で表現し,ビデオクリップにまとめれば,方言のデータベースになる。

 

  Webページへ発信された作品より
(1)愛知県半田市立亀崎小学校の「亀崎地区の方言」

 

 

 


 


 このページは,愛知県半田市立亀崎小学校が作成した「亀崎地区の方言」である。亀崎地区の方言を集め,それぞれの言い回しやイントネーションをビデオクリップで視聴することができる。このような,方言を調べてそれらをビデオクリップを使って視聴できる教材が日本各地から発信されれば,それらのページをネットワークで結びつけることで大変優秀な教材になるのではないかと考えられる。
 また,このページを作成した先生の言葉によれば,自分たちの方言を発信する学習では,発信内容に責任を持つため自分たちの調べた方言が本当に正しいのかどうか,真剣にならざるをえなくなる。それゆえ,日頃何気なく使っている自分たちの言い回しにも気をつけ,地域に長く住んでおられる方へ聞きに行ったり,自分から進んで調べたりする態度が見られるようになったということであった。発信する活動自体が教材として効果的な活動を生み出す結果となるのである。

(2)ネットワーク版「新たくみ君」




 この,ネットワーク版「新たくみ君」は,宮城県の鈴木文也先生が作成されたCD教材「新たくみ君」をもとにして,そのデータを利用させていただいて平野小学校で作成したものである。CD教材「新たくみ君」は200を越えるビデオクリップが収録され,児童が器械体操の技を学んでゆくための練習方法をビデオクリップで見ることができる。また,教師用の指導マニュアルや学習プリントも用意され,器械運動を学ぶうえで大変有用なデジタル教材である。このCD教材「新たくみ君」に収録されている一部のビデオクリップを使わせていただいてネットワーク上に配信しようとしたものがこのネットワーク版「新たくみ君」である。途中で止めたり,巻き戻したり,技の途中の姿勢を観測するなど,器械運動を学習する上での一人一人の児童に対する支援が可能になり,器械運動のような実技系の学習には最適の教材である。

(3)「ミシン縫い」


 これは,岐阜県大垣市立静里小学校の宇野先生がお作りになった「ミシン縫い」である。体育と並んで,家庭科も実技が重要な学習内容に組み入れられている。例えばこのようなミシンの扱い方や調理の仕方などである。家庭かは多くの道具を利用するので,それらの道具の使い方なども,本や写真で学ぶよりも動きのある動画で実際の扱い方を見る方が児童にとってもわかりやすいものとなる。

 


  授業での活用事例

(1)単元名 4年総合学習「手と心で伝えよう」
(2)指導によせて
 平野小学校ではでは今年度より「総合的な学習の時間」を校内研究の柱にして,「情報教育を基盤にした総合学習の試み」というテーマで研究を進めることになった。各学年においても,わたしたちが「見失ってはいけないこと」=「(普遍的に)大切なこと」を総合学習の柱とし,4年生では,「ひと」「もの」「こと」のそれぞれの事象に着目しながら年間を通した学習を進める中で,目には見えない心のつながりを大切にしたいと考え,『心をつなぐ』を年間のテーマとして取り組んできた。

10月には,膳所駅周辺に点字を探しに行ったり,町の中に音の出る信号機を発見したりした上で,本単元の中心教材の一つである国語の『手と心で読む』に取り組み,目の不自由な方の苦労や点字の大切さについて学んだ。同時に11月2日には滋賀県ろうあ協会から講師を招いて手話講座を開き,耳の不自由な方の生活や手話表現について学んだ。
 その後には,
平野の町にはどんな心をつなぐ施設や設備があるのかを調べに行こうと,調べたい場所ごとにグループを作り大津西武やパルコ,プリンスホテル,大津警察,大津市民病院,滋賀県立びわこホールなどに分かれて取材をした。2学期末には,交流会をしてそれぞれの場所で見つけたことを発表しあった。並行して人権学習の一環として車いす体験をしたことで,調べ学習に実感を持たせることができ,3学期に行った2回目の平野の町探検では子どもたちの申し出によって,車いすや松葉杖,ベビーカーを使っての探検となった。
 そんな中で,普段何気なく生活しているときにはほとんど気づかなかった障害を持つ方たちのための『心をつなぐ』設備は,町のあちこちに広がりつつあり平野の町全体がバリアフリー化していることを学び,同時に残された課題についても気づくことができた。
 この単元を学習する中で与えられた課題をこなすことで満足してきた子どもたちに,現在進行形の課題に立ち向かわせ,自分たちで課題を見つける力や追求し続ける力を養いたいと思う。さらに,自分たちの心をつなぐことでさらにバリアフリー化された社会を作っていけるという実感を持たせ,これからの生き方に反映させることができたらと思う。
 そこでこの授業では,校区内の福祉マップをWebページ形式で作ったり,滋賀県のページにアクセスして「県知事へのメッセージ」に意見の提案を行ったり,今回このプロジェクトで作成した手話辞典で手話を学ぶ学習などに取り組ませることにした。

(3)単元のねらい
・障害や高齢化について考え,その苦労や願いについて理解しようとする気持ちや関心を高める。
・身近な施設・設備や校区の探検を通じて見つけたことを交流し,障害者や高齢者のために工夫されているところや今後の課題に目を向ける。
・自分にできることを考え,学んだことを生活に生かす意欲と行動に移す力を育てる。

利用環境

@     ハード…インターネット専用線接続及びLAN,Webサーバー,クアイアント25台,ビデオエンコーダー

A    ソフト…児童用Webページ作成ソフト「シーンエディター」(NEC-HM研究所),キッドピクス,Webブラウザー

(4)具体的な授業の流れ

授業ではそれぞれ「自分にできること」のグループに分かれて活動に取り組んだ。そのグループとは以下の8つである。

・学区内福祉マップを作成する。・県知事へのメッセージを書く。・県の「夢そだて事業」にバリアフリーの街づくりの提案をする。・お絵かきソフトでポスターを作る。・手話辞典で手話を学ぶ。・手話を手話指導者から学び,自分たちで手話辞典を作る。・校内点字マップを作る。・目の不自由な方のためのさわれる絵本を作る。

 

  実践を終えて

この授業に参加した子ども達はそれぞれ自分のできることを考え,様々な活動に取り組んだ。児童のモチベーションを駆動力にして主体的な学びが実現できたように思う。今後は,発信内容をさらに豊かに,そして価値のあるものに高める努力が必要であるだろう。

ワンポイント・アドバイス

 
 

 


 ビデオクリップは,従来の「垂れ流し」型のビデオ教材では実現できなかった児童の主体的な授業参加が可能になる。この授業では,児童ビが必要なデオクリップを選ぶことが情報を選択する能力を育てる上でも重要である。逆に言えば,いかに豊富な教材を作成するかがポイントになる。この点,ネットワークを使っての共同製作は大きな意味があったと思う。今後,教師の孤独な作業をネットワークで共有する必要があるだろう。

 

利用したURLなど

ビデオクリップを活用した学習教材(http://www.hirano-es.otsu.shiga.jp/vclip/)

SANYOのデジカメのページ(http://www.sanyo.co.jp/AV/DSC/index.html)

クイックタイム3.0(http://www.apple.co.jp/quicktime/sw/sw.html)

 

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