3.6  実践事例

オンラインディベートにおける既存データベースの活用

東北学院中学高等学校

1.はじめに

 私たちは、新100校プロジェクトの自主企画として、『オンラインディベート』という、インターネットを通じたディベートの実践を行なっている。ディベートでは、実際の意見交換もさることながら、論題に対する論理展開のためのリサーチ活動が重要である。そこで、ディベートのリサーチ活動に、既存データベースを活かすことができると考えた。
 今回、オンラインディベートの実践の一環として、清泉女学院に於いてオフラインミーティングを行った。その際に、口頭でのミーティングディベートを実施した。本報告では、そのディベートにおける既存データベースの活用の様子から考察して報告する。

 

2.ディベートの概要

 今回、インターネットを通じたディベートを行なったことのある清泉女学院高校の生徒と東北学院高校の生徒とが、口頭でのディベートに望んだ。口頭でのディベートの実践は数多いが、生徒たちは口頭でのディベートの経験が少なかったため、立論と反駁の時間を2分と短めに設定し、作戦会議の時間を多くとった。
ディベートの論題は、「地域振興券事業は日本の景気回復に有効である。是か非か?」とした。地域振興券事業を論題に取り上げた理由は2つである。

・昨年11月くらいより実施の方向で検討された新しい話題であったこと
・経済問題を含む論題であるので、日経のデータベースにマッチしているのではないかと予想したこと

 ディベートの中で引用することのできる証拠資料を、否定側の東北学院高校は、新100校プロジェクト重点企画『既存データベースの活用』で用意された日本経済新聞社提供の新聞記事データベースからの資料に限定した。肯定側の清泉女学院高校は、日本経済新聞のデータベースのほかにも、インターネット上にある地域振興券に関する情報を活用した。

3.データベースの概要

 本実践では、「キーワード全文検索」を用いてOR検索をした後に、「キーワード組み合わせ検索」をしてAND検索を行い、絞りこまれてHITしたデータを検証する、という方法を取った。キーワード検索を行なうと、その仕様から「地域振興券」という単語が自動的に「地域」「振興」の二つのキーワードに分割されて検索される。それに加えて、否定側の情報をHITさせるために、「反対」「効果」「疑問」などのキーワードを併用して検索した。
 また、今回の地域振興券事業が政府内でも本格的に議論され、実効が本格的に検討されたのが昨年11月くらいからであったので、検索範囲が1998年10月1日〜現在の日付(入力する必要あり)と限定できたことが良かった。これにより、検索時間が短く済まされたと思われる。
 今回は、実際にデータベースを使用してみると、地域振興券に関する記事の多くを、思うように検索することができなかった。これは、「全文の文字列検索」ではなく「キーワード検索」を使用したためであると、後の検証から分かった。実施後の検証で、『地域振興券』をキーワードに全文文字列検索をすると、109個のデータがHITすることが分かった。ディベートのように、証拠資料としての内容が重視される場合には、「見出し検索」より「全文検索」を勧める。
 しかし、今回の実践では、立論の時間を2分と短かく設定したことにより、ディベートで引用できる記事の数が限られることとなった。このことにより、私達の検索方法のまずさから、検索HIT数が少ないにも関わらず、十分な実践となった。
 それから、HITした新聞記事も、地方版の記事が多かった。それは、他社の新聞のデータベースに掲載されていた記事も同様で、各地方自治体が、地域振興券に対してどのような動きをしているのか、というものが中心であった。特に肯定側は、地域振興券事業を行う理念や、どのような経済効果があるのか、という事業の本質に関る内容を説明する必要があり、日本経済新聞データベースだけを証拠資料に引用する、ということが難しかった。
 なお、日本経済新聞という経済に長けた新聞記事であるため、「記事の言葉遣いや説明が難しかった」という感想があった。

4.リサーチ活動におけるデータベースの利用

 本校からディベートに参加する生徒のうち2名と教員1名で同時に、既存データベース中の地域振興券に関するデータを検索した。教員と生徒の3名が同じ目的をもってデータベースにアクセスしたため、教員と生徒との会話は増えた。
 また、「ディベートに勝つため」という観点から個々のデータを見ると、「とても使える」「参考になる」「使えない」「相手に有利」などの感想を持ちながらデータベースを使用した。生徒からは「宝探しのような感覚」という感想をもらった。しかしながらこの活動において、ディベートをする人は、
 (1) データに対する取捨選択の判断 
 (2) データの重要性の判断
を行っていることになる。このようにデータに対して必要な吟味を、データを実際に使う人が行うことが特に重要である。
 データベースで検索された新聞記事データはテキストベースであるので、情報として加工しやすい。そのテキストのデータを否定側用に用意されたメーリングリストを用いて送信した。このことにより、個々人のリサーチの成果を否定側メンバー全員が共有することができ、立論作成等の作業も共同で行えるようになった。
 最後に、今回のディベートは当初、ディベートで引用する証拠資料として、肯定側・否定側共に、同じデータベース内のデータだけを用いることを予定していた。すると、たとえデータベースのデータ数や内容が充実していなくても、互いに同じ条件であるので、利用することが可能となる。その場合、同じデータベースをいかに有効に使うことができるか、という活用の度合が重要となる。データベースの活用という大きな目的のためには、重要な要素であったと評価する。

5.ディベートにおける既存データベース内データの活用

 実際のディベートにおいて、データベース内データを有効に活用していたのは、本校の生徒であったという評価を受けた。清泉女学院の生徒は、教員が検索した結果のプリントアウトされたものを利用していた。そのため、データの利用や活用に関しての見通しや、どのようにデータを用いたらディベートを有利に進められるのか、という活用方法を十分には理解していない様子がうかがえた。
 実際のディベートでのやり取りを例に挙げる。

○肯定側立論
 1998/12/03 日本経済新聞 地方経済面 (39) 千葉 より抜粋
 千葉県野田市では市内で流通している野田市共通振興券(NOX)の発行システム活用を決めた。
 地域振興券発行にあたって市と組合は印刷、配布などの諸手続きにもNOXの発行システムを活用する方針。
 NOXの97年度末までの累計発行額は約2億6千9百万円で、回収額は79.2%の2億1千3百万円。
 =>上記のように、地域振興券は、地元企業に需要を与え、景気回復のきっかけとなりうる。

○否定側立論
 地域振興券はその発行に費用がかかり、地方自治体の負担となる。地方自治体の経済基盤の弱体化は、市民サービスの低下に繋がる恐れがある。

 

○肯定側質疑
 地域振興券の発行のために費用が使われるということは、地元の活性化に繋がるのではないか?

○否定側反駁
 1999/01/09 日本経済新聞 地方経済面 (1) 北海道 より抜粋
 道内自治体で地域振興券の発行作業が本格化してきた。十勝地方の14町村は振興券の印刷コストを削減するため、共同で大日本印刷への発注を決めた。
 =>地元産業が活性化するとは限らない。

 

 このように、反駁でとっさにリサーチしていたデータを利用できるのは、自らがデータベースの検索作業を行い、そのことがデータの吟味を行っていることとなり、上記の北海道での記事をあらかじめ評価できていたためであると推測する。
 しかしながら、本校の生徒から「否定側のデータのリサーチを多く進めた結果、肯定側の立論を聞いて納得してしまった面もあった。ディベートにおけるリサーチ活動のの重要性を感じ、下調べの少なさを反省した」という声も聞かれた。生徒に余裕がある場合には、ディベートのリサーチの段階において、論題に対する肯定・否定の二面的な着眼を、教員側から生徒に促すことが必要であろう。

6.まとめ

 今回の実践から、非常に基本的なことであるが、データベースの活用に関して、幾つか感じたことをまとめる。
(1) データベースの活用には、使用目的が重要である
 当然のことであるはが、使用目的が明確でない場合と、使用目的が明確である場合とでは、データベースを利用しようという意欲に大きな差がでる。
 更に、その目的をもって検索されるデータを眺め、一つ一つのデータに対して判断を加えることが大事である。
 「使用できた」という成果を残すことができてはじめて『活用』である。
(2) データベースの使用は、企画を行う際に、条件を揃える働きをする
 例えばWEB上には、実に様々なデータが存在し、検索方法も検索サイトも実に様々である。ところが、同じデータベースを用いて一つの企画を行うということは、「与えられる条件が同じである」ということである。これは、各参加者の参加条件の違いによる不公平感をなくす働きがある。
(3) ディベートは、データベースの活用のためのモチベーションとなった
 肯定・否定の立場を認識し、自分の考えを説得力をもって相手に伝えるためには、インパクトのある良い証拠資料が効果的である。より良いディベートをするため、というモチベーションは、データベースの活用にとても有効であったと判断する。

 

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