4. 特殊教育におけるネットワーク利用に関する企画

4.1 研究のねらい

4.1.1  昨年の先行研究の経緯

  広域ネットワークの教育利用について研究を進めてきた100校プロジェクトの実践研究では,各学校種別ごとに,それぞれ将来の情報化社会に生きる子供たちの教育にとっての大きな成果が報告されている。
 その研究の中で,とりわけ心身に障害のある子供たちについては,その移動上の不利(handicap)を補い、居ながらにして自分のペースにあわせて情報収集ができることや、自ら積極的な情報発信ができることによってさらに大きな教育成果が期待されることが確認された。これらの研究成果は、単なる情報収集活用のインフラ整備がされたという以上に、彼らの社会参加・自立のあり方や、障害児教育観の広がりにまで
影響を与え、社会のバリアフリー化、インクルージョン(一体化)の実現に向けても大きなエポックとなった。
 ところが、こうした障害児教育における広域ネットワークの活用を進めるにあたって立ちはだかる大きな課題は、現在のインターネット環境や情報機器操作環境が、必ずしも障害のある子供たちが操作することを想定しておらず、その利用上の障壁を乗り越えるための支援の方策(アクセシビリティ)を講じる必要があるということであった。
 
そこで、これまで100校プロジェクト参加各校の実践では、主として視覚障害児がGUI(グラフィカルユーザインタフェース)であるブラウザ画面を読みとれないため、その視覚情報を代替えする支援方策の研究と、運動機能障害児(肢体不自由児)がマウス等のポインティングデバイスを操作できないため、それをどう補うかといった事例を中心に、障害児の広域ネットワークを用いた教育の可能性と方向性を探り、多大な成果を上げてきた。(平成6〜8年度、CEC報告書参照)
 一方、こうした研究を進める中で生まれてきた新たな課題として、視覚障害、運動機能障害に対する支援方策は、障害された機能を補完するという観点では確かに一般に理解しやすいが、いわゆる障害児教育(特殊教育)を受けている児童生徒の中でも数的には圧倒的多数を占める知的障害児に対する支援方策や、知的障害と運動機能障害など複数の障害を併せもつ子供たち、すなわち重複障害児童・生徒に対する支援方策、および広域ネットワークを用いた教育の可能性についての検討が十分なされていないのではないかということが指摘された。
 平成9年度の「高度化教育ワーキンググループ、特殊教育部会」では、こうした問題意識から重複障害児にスポットを当て、知的障害と運動機能の障害を併せもつ子供たちについてのインターネットを活用した教育の在り方と、支援方策についての研究を行った。
 これらは、学校教育現場の教師と、メーカーサイドの開発担当者との協議の形で進められ、どういった教育目標が設定され、その教育的なねらいを達成するにあたり、どのような支援方策が考えられるかについて討論が行われた。当初、対象児のイメージの共通理解に手間取る場面も見られたが、こうした子供たちに対する支援方策は、特殊な機器やソフトウェアの開発ばかりが求められるのではなく、どのようにわかりやすく、操作しやすいインターネット環境を考えるかという、ごく本質的な命題に迫るものであることが確認された。また、この観点で研究を進めることは障害のある子供のためだけに意義のあることではなく、幼児や高齢者、コンピュータ操作に不慣れな者など、今後考え得る広域ネットワーク利用のさまざまな年齢、対象への支援にとっても意義のあることと結論づけられた。障害者が使いやすいということは、誰にとっても使いやすいものであり、工業デザイン的にも、誰もが利用できるように配慮して設計、製作が行われるべきであるという、
ユニバーサル・デザインの考え方の大切さが改めて示された。

 

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