本研究ワーキンググループでは、先に述べたように知的な障害を併せもつ子供たちにとっての情報教育の大きな意義は、主としてコミュニケーションの可能性を広げ、時間的、空間的制約を超えたかかわりを経験させることにより、「関わり合う楽しみ」「つながりあう喜び」を基盤にして社会性そのものを伸ばし、その学習の中で情報処理の基礎的な流れとリテラシーを体験的に身につけさせることであると考えた。
従来こうした学習は、生活単元学習として、「友達に手紙を書こう」「誕生会をしよう」などといった、日常の生活的な活動題材の中で個の理解力や社会経験に応じた単元で取り扱われることが多かった。
ところが、こうした活動では関わりを持つ人的対象の範囲は学校や家庭などの限られた時間・空間に限られてしまい、不特定の相手や遠隔の相手との対等な関わりを持ち得ないことが多く、社会生活において活用できるような「汎用性」を持つまでにはなかなか至らないことも多かった。これは、我が国における特殊教育が、学ぶ場を分離することによって専門的な教育の実現を図ってきたことの逆作用として、多くの同年代もしくは異種障害の子供たちとの交流や共感的な関係をはぐくむことが困難になりがちという課題につながる現象といえる。
そこで、盲・聾・養護学校や特殊学級(地域によっては障害児学級、養護学級などと呼ばれることもある)では、他校や他学級との積極的な交流を図り、子供の社会性を伸ばし、可能な限り多くの子供たちとのふれあいの機会を設定するような努力をしている。
しかし、今後の学校教育の世界的な流れは、インクルージョン(一体化)の方向に向かっており、現在行われているような特殊教育の専門的な「教育的サービス」を質的には維持しながら、学ぶ場は可能な限り一体化していこうという方向性で一致している。そうした近未来の学校教育およびバリアフリーの浸透を目指した社会背景で最も大切になるのは、他者との関わりを円滑に行える「コミュニケーションスキル」と、「正しい自己決定力の育成」である。
現時点におけるこうした教育活動の実現には、身近な人々との日常的なコミュニケーションからさらに広がりを求めて、インターネットを活用した広域ネットワークを利用して、遠隔の人々や不特定の相手との関わり、すなわち遠隔コミュニケーションスキルを育てる活動を取り入れることではないかと考えた。
よって、こうした学習活動を知的な障害を併せもつ子供たちに対して行うにあたって、必要なコミュニケーションツールのアクセシビリティのあり方を研究することとした。
なおアクセシビリティとは、ただ単に機能的な不利を物理的に補うというだけのものではなく、よりよい教育活動を行う上での多様な条件整備の支援方策の総称である。目的はあくまで障害のある一人一人の子供たちの教育の充実にあり、第一に教育的な必要性(教育的ニーズ)が先にあって、支援方策(教育的サービス)が存在するのである。また一方で、より多様な支援方策があり、それが周知されることが、さらなる多様な教育の可能性を目覚めさせるという相互作用もある。そして、ハードウェアやソフトウェアによるテクノロジーの支援ばかりではなく、人的な支援体制もまた重要なファクタとなる。テクノロジーは人を支えるために存在し、また人がテクノロジーを作り上げるのである。
いずれにせよ、支援の手だてだけが前面にでてしまうのでは主客が転倒(もしくは手段が目的化)してしまうので、事例を中心に実践的な研究を進めるよう心がけた。