2.地域教育ネットワークに関する調査

2.1 はじめに

 都道府県、政令指定都市等の教育委員会(教育長宛)に教育利用のためのネットワーク(以下、教育ネットワーク)に関するアンケート調査をおこなったところ、資料編のアンケート調査結果を得た。  

 47都道府県の教育委員会における教育ネットワークの整備状況は以下の通りである。

「整備済」 11
「構想(計画)に基づいて整備中」 13
「構想(計画)を具体化していない」 13
「特になし」  1
「回答なし」  9

 

 このように、37県が教育ネットワークを整備済または構想(計画)中である。「特になし」と回答した1県を除くすべての都道府県で、教育ネットワーク整備に向けた何らかの取り組みが進められている。

 このうち企画組織の分類に特徴のある地域を数カ所ずつ選定し、12地域について面談調査をおこなった。

 この面談調査の中では、各地域のネットワーク整備の、

  「企画のパターン」
  「構築のパターン」
  「運用のパターン」

 を探ることによって、今後の他の自治体における教育ネットワーク整備のための参考となるノウハウの抽出を試みた。

2.2 企画のノウハウ

 面談および詳細アンケートの対象として選んだ地域は、すでに教育ネットワークを稼働させ、特徴ある運営をおこなっている、もしくは行う予定である地域である。その企画のパターンを通して浮かび上がってくるのは、行政としての動きやすさを得るための、さまざまな工夫が見られることである。
 教育ネットワークへの関心が高まり、取り組みの進んだ地域の事例を参考にするための視察や照会が盛んにおこなわれている。しかし、取り組みの先進性に目が行きがちで、こうした工夫についての関心は薄い。たとえば県内の全公立校を接続した教育ネットワークを運営するA県では、当初から行政内を横断する形の企画組織を作って立案・検討を進めてきたが、「企画組織について他地域の自治体から聞かれたことはない」と話している。

2.2.1 企画組織の作り方

 企画組織とは「教育ネットワークの整備を立案し、具体的な実施計画の取りまとめにあたる組織」のことである。ほとんどの地域では、教育委員会内で教育ネットワークについての最初のアイデアが生まれ、次に企画組織を構成して検討を進め、具体的な計画の取りまとめがおこなわれている。
 今回の調査では、行政内の縦割り組織を横断する形の企画組織、あるいは行政のトップ(教育長など)を代表に据えた企画組織ほど、スムーズな展開が可能であることがわかった。このことは逆にいうと、自治体の規模にもよるが、教育委員会内の指導主事レベルだけの企画組織では、行政としての具体的な取り組みにまでは進展しにくいことを意味している。

2.2.1.1 企画組織の分類

 企画組織は大きく次のように分類される。

  「教育委員会単独型」
  「教育委員会内横断型」
  「行政内横断型」
  「その他」
 「教育委員会単独型」は教育センターを持たない小規模の自治体で見られ、指導主事レベルで企画組織が構成されている。とくに名前を持った組織ではないことが多く、個人的な動きに近い。その個人が自分の所属する学校指導担当部局(学校指導課、高校教育課など)で意思形成をはかりながら、教育ネットワークの具体化を進める。
 「教育委員会内横断型」は教育センターを持つ自治体で見られ、学校指導担当部局と教育センターの双方が企画組織にメンバーを出し合っている。教育ネットワークの運営には教育センターがあたることを想定したもので、将来の運営上の問題まであらかじめ検討することができる。この「教育委員会内横断型」の企画組織には、双方の指導主事レベルだけで構成するものと、部長あるいは教育長などトップを含めて構成するものと2種類が見られる。
 「行政内横断型」は、教育委員会内だけでなく、知事部局を含めて企画組織が構成されている。教育ネットワークと並行して市長室や知事部局でも独自に県民ネットワークなどの整備計画を持っている地域に見られ、予算化にあたって、自治体トップの後押しを得られるだけでなく、教育ネットワークの構成について技術的な支援も受けられる。
 「その他」は学校外のボランティア中心型の組織である。しかし、調査の対象となった地域では、何らかの形で教育委員会が参画または協力していることは目を引く。


2.2.1.2 それぞれの特徴

・教育委員会単独型
 A市の教育ネットワーク整備のきっかけは、100校プロジェクトに参加したA市立A中学校での取り組みだった。教育委員会の指導主事とA中学校の教諭の2人が連携しながら、「市立中学校に整備されたパソコンのリース切れ」というタイミングを見計らって、新規に整備されるパソコンについてインターネット接続の要望を出した。
 その指導主事は「当時はまだインターネットうんぬんという話は出ていませんから、『ネットワークに関してはこういうことです』という企画書を作って出した。そういう企画書を作ったり、あるいは財政の話をする場合には、企画書を持って行って話をするんです。嫌なんですけど、ああいうところへ行くのは(笑)。少しずつ分かってもらった」という。
 100校プロジェクトは通産省のプロジェクトでありA中学が直接受けたものだが、指導主事はそれまでにも担当教諭を通じて得た「A中学ではこんなことをしている」という情報を逐一、教育委員会内に伝えていた。行政の手順として避けなければならない情報の遮断をうまく防ぎながら、教育委員会内での意思形成をはかっていった。

・教育委員会内横断型
 数百校という市立学校を抱えるB市の場合、その企画にあたっては2人の部長職をトップ(教育委員会指導部長を会長、教育センター所長を副会長)とする「情報教育推進協議会」を設置し、全市立学校でインターネット利用を可能にする5カ年の教育ネットワーク整備計画を進めている。この「情報教育推進協議会」では各課長・室長級で上位部会を構成し、その下に各係長・指導主事による分科会を設けた。
 将来、教育ネットワークのセンターとなる教育センターの増員人事が伴うことをあらかじめ配慮したもので、これによって整備計画の開始とともに、教育センターの増員(小学校担当指導主事2名、中学校担当指導主事2名、所員2名、嘱託1名、SE1名)をおこなうことができた。
 教育センターの室長は「部長級も加えないと、人の配置まで変えられない。他府県では指導主事が(企画組織の)頭にいるが、それでは何も動かない」という。

・行政内横断型
 全県内の公立学校数百校のすべてをインターネットに接続したA県の場合、その企画にあたっては教育長をトップとする「推進協議会」を設置した。協議委員は部・課長級で構成、係長級が実務作業にあたった。これには教育委員会内だけでなく、知事部局(総合政策課、情報企画課)のメンバーも含めている。実務作業のとりまとめにあたる専任のスタッフも確保された。
 行政内横断型の企画組織は全国でもほとんど例がないが、担当係長は「教育委員会だけでやっていては、予算はとれない。知事部局のほうが知っておれば、後押ししてくれる。そういうことで、向こうと連携をとった」という。

2.2.2 企画から実施にいたる準備

 企画から実施にいたる準備にもさまざまな行政的な手順が存在している。「縦割り」「先例主義」「横並び」「上級官庁の意向の斟酌」といった行政独特の体質が壁となって立ちはだかることも考えられ、行政としての体面をそこなわないよう、その手順を守ることで、動きを速くすることができる。
 こうした一連の行政的な手順をパソコン通信のプロトコル(手順)になぞらえ、「行政プロトコル」という言葉で表した地域がある。ボランティアによるネットデイを開催した地域だが、行政への話の通し方にも行政プロトコルが存在していることを、ネットデイに参加した教員は「このプロジェクトの最大の障害は手順でしたね。行政には行政のプロトコルがあるんだっていうことが、今回よく分かりました。話を通す手順というのを踏み間違えると、講習会を開くにしたって、ネットデイを開催するにしたって、行政的な手順を踏まないと開催できない、そういう状況です。」という。


2.2.2.1 実績重視(行政プロトコル)

 教育ネットワークは形の見えないものだけに、行政からすぐに認知されることは難しい。
 そこで、教育ネットワークがどういうものであるかについて認知を得るために、企画者側はとりあえず予算は出ないという前提で話を先に進め、暗黙の了解を取りつけて、試行的に接続するなどして、教育的効果を目に見える形で出し、その結果をもとに予算化に結びつけた地域が多い。広義にとらえると、全地域でこのような「公費購入でない機器での実践」をおこなっている。
 今回の調査の対象となった地域では見られなかったが、この場合、接続が先に進むため、行政としての認知との間にギャップが存在することになり、トラブルの原因ともなりうる。トラブルを避けるためにも、日頃の人間関係をもとにした「理解者への通知」あるいは「根回し」といった手順を踏むことが欠かせないようである。
 ここは「方便」「お題目」といった裏技的な言葉が出てくる場面でもある。
 たとえば教育ネットワークの目的として、教育効果だけでは認知されなければ、阪神・淡路大震災を例にして「防災目的」を掲げて行政としての認知を得た地域もある。「非常時は防災利用、平時は生徒たちの情報リテラシーの向上」として位置づけている。
 キーワードを複数用意しておくことも不可欠である。学校内のパソコンをネットワークでつないでサーバを設置することについても、「経費の削減」「トラフィックの軽減」「電子メールの利用」「学習情報の蓄積」など多面的に効果をとらえておくと、認知は得やすい。

・中古サーバで実績を見せる
 「かならず何かやるときには『その費用対効果をまず示せ』と言われるんですよ。でも、その費用対効果を説明するためには、まず誰か、どこかでそれを使って、その効果が見えてなきゃいけない。でも最初はお金つかないから、地域ネットとかにあったサーバ……中古のリースアップのサーバを貸してもらった。そこで効果が見えたから、約1年後とかにちゃんと行政が予算化してくれて、サーバを買ってくれたり、パソコンをたくさん買ってくれたりしてくれる。一番最初やるところは、どうしてもそういう手順になっちゃうんじゃないですかね。それはやむを得なかったと思う。でも、これからつなぐ学校っていうのは、たとえば100校に参加した学校がさまざまな成果を出しているから、こういう手段をとらなくてもすむようになってきていると思うんです。最初の立ち上げだから、方便ということでそういう手段をとったんじゃないですかね」

2.2.2.2 トップの理解(天の声)

 教育ネットワークについて行政内の意思形成に最も大きな影響力を持つ行政トップ(知事、市長、教育長など)の理解を得た地域は、当然ながら動きが速い。
 その中には「鶴の一声」によって、教育ネットワークの企画そのものが始まった地域も見られる。
 このことを逆手に取り、試行的な取り組みであっても公開研究会などで発表をおこない、その場へ教育長などのトップを招いておくことは重要だろう。  また、これは調査地域のほとんどで見られたことだが、教育委員会内に理解のある人がいることも不可欠な要素である。その人たちの熱意と機転があって初めてその地域の教育ネットワークは前に向けて動きだしたといえなくない。
 教育ネットワークは学校の立場の裁量を越えており、教育委員会内で企画・立案を提出できる立場の人の存在が鍵を握っている。教育ネットワークというと、とかく技術に理解のある人を求めがちだが、技術の理解よりも行政的な手腕(企画力、実践力など)が優先することを意味している。

・見てもらわなければわからない
 「われわれ下っ端がその辺でいくら言っても勝負にならないところがあるんですが(笑)、当時、教育長が何回も中学校(100校プロジェクト参加校)に……この中学は公開研究会を何回も開いてくれたもんですから、公開研究会を何回も見てて、『来年度から当市はこの中学の成果をほかの学校に広めていけるように企画をしていけ』というのを大きな基本方針としてあげてくれたんです。やっぱり実績なんでしょうね。実際に見てみなきゃ、分からないですよ、あんなもの。こういっちゃ何だけど(笑)」

・鶴の一声
 「当時の教育長が非常に先見的にものを見るのが好きな人でして、これはいけるという判断、非常に貴重な判断をされるわけです。8月ごろですけれども、『インターネットというのがこれから、はやってくるということを聞いたし、わしもそう思うのだけども、教育で使えないかな。1回検討してみないか』というお話が、教育長のほうからこっちへ来たんです。ところが、うちのほうは『そんなインターネットというのはまだ始まったばかりで、どっちを向くかわからないものを、さて学校へ入れてどうするのだろうな』と、まだタジタジしていたような状態でしたが、避けて通れない問題だし、インターネットはもうはっきり入ってくるのがわかるし、これをやらないことには子供の情報活動能力はつかないだろうと、『じゃあ、思い切ってやりましょうか』ということで具体的な検討を始めて、10月にやったのがA高校です。まだこの時点で学校に入れることも珍しかったし、しかも全高校に入れましたので、広報発表しましたら、新聞各紙が非常に注目して取り上げてくれました。その時点では非常に新しい先進的な取り組みだったんですけども、これをやるためにはやっぱり指導者というんですか、行政のリーダーというんですか、先頭に立つ人がちきんとした理念と自信を持って、『お金の措置をしてやるからやりなさい』という姿勢がなかったら無理だなと。われわれがいくら担当課レベルで要求して、予算要求の課とか、いろんな課に要求しても、『なぜこんなことをするんだ』と、まず通らない。やはり大胆な判断力と決断力がなかったら、進まないのだろうなと、そのとき感じました」

2.2.2.3 経験の有無(経験値)

 先例重視の姿勢とも関連するが、それまでにパソコン通信ホスト局、教育ネットワーク、100校プロジェクト参加校、NTTのこねっとプラン参加校などを持つ地域では、教育ネットワークに対する敷居を低くする効果をもたらしている。 このことは、わが国ではパソコン同士を接続して資産を共有するネットワークというものについて経験が乏しいため、教育ネットワークに対する認知は、

パソコンを使う


電話線でつないでパソコン通信をする


インターネットを利用する


ネットワークでつなぐ

 という積み上げ順で進んできており、前段の経験の有無によって、次のステップへの展開が容易になることを意味している。

 その意味でも、全国に分布し、すでに先駆的にインターネットに接続して成果をあげている100校プロジェクト参加校の存在は、その地域の経験として有効に活用されるべきである。

2.2.3 不安の解消

 マスコミによる報道もあって、教育ネットワークに関する種々の不安は根強い。それらを解消することは、行政としての意思形成をスムーズにするために欠かせない要因でもある。これら不安をどうやって解消するかは、教育ネットワークの構成とも密接に関連している。
 以下、ポルノなどの不適切情報、セキュリティ、個人情報保護について見ていく。

2.2.3.1 不適切情報

 教育ネットワークに関する不安の中で最も大きいのは、インターネットによって子供たちがポルノ情報など教育にふさわしくない情報を自由に閲覧できるようになることへの危惧である。そうした不適切情報を排除するためには「フィルタリング」(2.4.1参照)などの技術があり、すでに採用している地域は多い。
 フィルタリングには大きく2種類がある。すべての端末パソコンがインターネットに接続するさいに経由するサーバ上でフィルタリングを設定して監視する「サーバ型」と、各端末パソコンごとに必要なソフトをインストールして監視する「端末型」の2種類である。サーバ型の場合、センターにそのようなサーバを設けなければならず、センター直接接続型(2.3.1.1参照)を取る必要がある。
 なお、センターのアクセスログ(利用記録)などを見た場合、不適切情報を学校で閲覧しているのは、じつは教師であり、自分たちが見て「これは不適切だ」と声を上げる傾向にあることを付記しておきたい。

・不安の解消とネットワークの構成
 フィルタリングをどのように実施するかは、ネットワーク構成とも密接に関係している。兵庫県氷上郡教育委員会は6町の共同設置という特殊な条件を持っており、6町の足並みをそろえるためには、教育ネットワークに関する種々の不安を解消することが不可欠だった。
 このため兵庫県氷上郡教育委員会では「郡教委を拠点としたインターネット整備計画」をまとめ、「郡教委を拠点とする理由」の1つに「有害情報の防止」をあげ、不安の解消とネットワークの構成を結びつけている。
 整備計画書では、次のように簡潔に説明されている。

有害情報の防止
 インターネットは、管理者不在のネットワークと考えてもよい。つまり、相手先のアドレスさえわかれば誰でも安易にアクセスすることができる。
 逆に言えば、有益情報だけでなく、有害情報の入手も可能になる。しかし、学校ごとの整備になれば、有害情報の防止は不可能である。
 郡教委を拠点に整備した場合は、それらのアクセスを未然に防ぐ仕組みが可能となる」


2.2.3.2 セキュリティ

 セキュリティは大きく2つに分けられる。ネットワークシステムを外部から保護するためのセキュリティと、ネットワーク内部を維持するためのセキュリティである。
 ネットワークシステムを外部から保護するためのセキュリティは、外部からの不正な侵入などによる情報の閲覧やデータの破壊を防止するためのもので、ネットワークの内部と外部(インターネット)とを遮断する「ファイヤーウォール」(防火壁)と呼ばれるシステムを設置することで配慮されている。
 ファイヤーウォールを設置すると、教育ネットワークの内部から外部のインターネットへのアクセスや、逆方向である外部のインターネットから教育ネットワークの内部へのアクセスを制御できる。このため外部に公開したくない情報は、教育ネットワーク内部だけに限定して運用することができる。
 しかし、ファイヤーウォールを設置する場合、その下にすべての端末パソコンがつながっていなければならず、ここでもセンター直接接続型(2.3.1.1参照)のネットワーク構成が必要となる。
 全般に、担当者レベルを除けば、ネットワークシステムのセキュリティへに対する関心は低い。すでに外部から侵入されたため、全員のパスワードを変更した地域もあり、セキュリティ対策とその維持・管理について配慮する必要がある。
 一方、ネットワーク内部のセキュリティは、利用者による機器類の勝手な設定変更を防ぐためととらえられており、統一した方法はない。
 あらかじめ、各ソフトの設定に変更が加えられないよう業者に設定させて設置している地域、Windows95に加えられた変更を次の起動時には初期状態に戻す専用の管理ソフトを利用している地域、あるいはホームページを見るためのブラウザに英語ソフトを使って設定の変更を難しくしている地域など、それぞれで工夫されている。
 すべての端末パソコンの画面をいつも同じにしておけば、授業や講習で「左に並んでいるアイコンの列の上から3番目のアイコン」という表現で的確に指示することができる。


2.2.3.3 個人情報保護条例

 個人情報保護条例によって個人情報を処理するパソコンが外部との接続を禁止されている場合、教育ネットワークを整備するためには、この外部との接続禁止条項をどうクリアするかが課題となる。また、個人情報保護条例は市町村が制定していることから、県内の全公立学校を結ぶ場合、市町村によって個人情報公開の基準がバラバラなため、足並みがそろわない実態も生じている。
 外部との接続禁止には「全面禁止」と「条件付き禁止」の2種類が見られる。外部との接続を禁止する条項に「個人情報保護審議会の承認を得れば、その限りではない」といった除外規定が設けられているのが条件付き禁止、いっさい設けられていないのが全面禁止である。
 数百校の全市立学校をつなぐ教育ネットワークを5カ年計画で整備中のB市では、個人情報保護条例に除外規定が設けられていることから、整備計画がスタートする前に個人情報保護審議会に答申し、諮問を得ることによってクリアしている。
 これに対して、除外規定のない外部との接続禁止(全面禁止)条項を持つ自治体では、自治体内に限定したイントラネット的な運用に限られ、インターネットへの接続はできないと考えられている。
 個人情報保護条例を持たない自治体、個人情報保護条例はあっても外部との接続を禁止されていない自治体、あるいは個人情報保護審議会の諮問を得てクリアした自治体では、いずれもホームページなどで個人情報を公開するさいの基準を設けているが、その基準はかならずしも統一されたものではない。たとえば生徒の氏名、顔写真などの扱いについて、ホームページに掲載することは「いっさい禁止」「本人の同意が必要」「本人と保護者の同意が必要」などと分かれている。
 全般に個人情報保護条例の運用には恣意的な性格が見られ、外部との接続を禁止する個人情報保護条例を持ちながら、「教育利用には適用されない」と柔軟に判断し、個人情報保護審議会の諮問を得ずに運用している地域、あるいは個人情報保護審議会の答申を得て学校のホームページへの個人名の掲載を認めておきながら、個人情報保護条例についてマスコミの取材申し込みがあった時点で、なぜかホームページから個人名を削除させた地域もある(数日後には元に戻った)。
 個人情報保護条例をクリアした例として、大阪市の個人情報保護審議会への諮問文と答申を資料編に参考資料として載せる。

2.2.4 協力者/協力組織

 「教育」と「技術」は教育ネットワークの両輪である。「教育」の専門家である教育委員会、学校が単独で教育ネットワークを立ち上げることには、まず困難といってよい。「教育」という目的に合わせたネットワークを整備するためには協力者/協力組織の活用を図ることが必要不可欠であり、協力者/協力組織は公的な団体・機関に限らず、民間の団体・個人も含めて考える必要がある。

2.2.4.1 企画団体そのものの組織

 教育ネットワークの企画組織の類型(2.2.1.1参照)が「横断型」あるいは「その他」の場合、企画組織の中に技術的な視点が入っているため、そのまま協力組織となっている。このことからも企画組織のメンバー構成は重要な点である。

2.2.4.2 協力団体の分類

 調査対象となった地域で活用されている協力者/協力組織には、次のような種類が見られた。

  「大学」
  「第3セクタ」
  「行政内の情報関連部局」
  「民間プロバイダ」
  「SI(システムインテグレータ)会社」
  「ボランティア」
 大学、第3セクタ、行政内の情報関連部局といった公的な団体/機関だけでなく、地元のプロバイダやSI会社、ボランティアなど民間の協力者/協力組織が有効に活用されていることは目を引く。
 公的な団体/機関が、教育ネットワークの上流のNOC(Network Operation Center=接続拠点)と接続していたり自身で運営に参加している場合は、とくに技術的な相談あるいは連携を図りやすい。
 あるいは、情報関連部局で並行して県民ネットワークを整備している地域では、同じ行政内で技術的な支援を受けることができる。
 一方、民間の協力者/協力組織は、専門家による技術的なアドバイスが他から得られない場合あるいは他の機関より信頼できる場合に活用がはかられている。この場合、教育ネットワーク整備だけでなく、教育ネットワークで得られたネットワーク技術を地域に還元することによって、地域全体の情報化の底上げを目的としているところもある。

・「教育」と「技術」の両輪
 「『子供たちのどういうところを伸ばしたいから、どういうネットワークシステムが欲しい』とか『先生方に広めるにはこんな面倒くさいんじゃだめだ。校内どこでも使えるという設定にしないかぎり、絶対使ってもらえない』というようないろいろなことを飲みながら話して、『じゃあ、それにはどういう技術があるよ』ということは技術者のほうから提案してもらったり、『じゃあ、実際それやってよ』とお願いして、次の日にやってもらったりとかとかね」

2.2.4.3 ボランティアの受け入れ

 ネットデイなど各学校の教育ネットワーク構築作業をボランティアが進めることについては、多くの教育委員会が抵抗を感じている。学校という公的な施設・設備の変更を民間の部外者が行なうこと、また1校だけに実施された場合に教育の公平性をそこなうことへの危惧が、その理由にあげられている。

・ボランティア組織を認知した地域
 群馬県前橋市では、前橋市総合教育プラザをセンターとして市内の全小中学校及び養護学校を含めた教育機関をネットワークで結ぶ前橋市教育情報ネットワーク(MENET)の設計・構築・運用について、地元のボランティア団体である「インターネットつなぎ隊」の協力を得て、整備を進めている。教育長名でインターネットつなぎ隊に出された要請文書はインターネットつなぎ隊のホームページで公開されており、次のような6つの条件を定めて協力を要請している。
(http://www.gunmanet.or.jp/tsunagi/mine/minefile/kyoryoku.txt)

 (1)前橋市教育委員会は、前橋市教育関係ネットワーク(仮称)の運用体制の整備を図るとともに、そのための人材育成に努める。
 (2)前橋市教育関係ネットワーク(仮称)の構築・運用に当たっては、前橋市教育委員会がすべての責任を負う。
 (3)インターネットつなぎ隊の本件に関する協力活動に際しては、前橋市教育委員会もしくは前橋市教育関係ネットワーク(仮称)運用委員会が立ち会うものとする。
 (4)インターネットつなぎ隊の学校での協力活動に際しては、前橋市教育委員会が当該学校長の了解を得た上で実施していただく。
 (5)インターネットつなぎ隊には、本件に関する協力活動上知り得た秘密事項及び個人情報について、退会後といえども守秘義務を遵守していただく。
 (6)本件に関する協力活動に当たって、インターネットつなぎ隊には群馬県社会福祉協議会によるボランティア保険に加入していただき、事故ある時の保障はこの保険をもって充てる。

 また、このとき前橋市は正式に協力を依頼するにさいして、行政としてボランティア団体を評価するため4つの基準を内部で設けた。いずれも全国の先例となるものであり、参考となるだろう。

 (a)コンピュータ・ネットワーク等に関する専門的な技術及び活用に関する見識を有すること。
 (b)地域のボランティア活動団体として、熱意と見識を有すること。
 (c)現在の公教育及び教育行政について理解と見識を有すること。
 (d)組織として倫理条項等を含む明確な会則が示されていること。

・逆にボランティア組織から見た学校の条件
 「どういう基準かというと、明確にないんですけども、おそらく学校の中である程度の頼りにされる位置にいる人で、管理職との連携がとれる人で、しかもネットワークの便利さをある程度知っていて、ネットワークが使いたいという希望がものすごく強くあるかとか、そういう条件が揃っていないと、たぶん、やっても失敗すると思っているんです。だから、そういう人たちのところにどんどん口説いていって……というより、こっちから仕掛けていくわけです。『やってみようよ』という形ですね。だから、あまりこれをどんどん広げても、入れたからにはアフターケアが必要で、その部分もやはりボランティアベースだから、そんなに間口は広げられないんですね」

2.2.5 既存施設の活用

 A県では教育ネットワークを図書館や生涯教育ネットワーク、あるいは住民向けの行政施設・設備と結ぶことで、維持・管理のコストを下げている。
 補助金は機器や建物の整備に対しておこなわれ、かつ縦割り行政の中で適用範囲を制限されている。その制限の中で、多重投資を避け、限られた人員で維持・運営をするためには、情報関係の予算をトータルに管理できる組織が柔軟に対応する必要がある。補助金などの組み合わせのアイデアやモデルがもっと明確にならないだろうか。



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