4.4 調査のまとめ

4.4.1 成果及ぴ教育的有効性

 企画に参加する動機は学校によって「理科及ぴ環境教育の教材として利用したい」、「クラブ活動の一環として」、「インターネットの教育利用を経験したい」、「インターネットの活用研究を行いたい」等様々である。
 しかし、実際に企画が進んでいく中で児童・生徒が体験し、感じ、体得したことは教育的にも大きな成果であった。

(1) 児童・生徒の視野の広がり、知識の深まり
 一つの観測結果はその時の一つの事象でしかないが、その一つ一つの事象を整理し、並べ、比較することでその事象が時間とともに変化する様子が見えてくる。また、事象に変化を与えている要因に思い至る。児童・生徒は、定点観測の結果を整理・比較することでその事象に関わる自然や環境、その他様々な要因を理解することができる。これらの学習を通して一つの事象からそれに関連する知識を深め、物事を見る視野を広げていく様子が確認できる。

(2) 全体の中での自分の立場を意識した責任感の育成
 定点観測作業を継続的に行っていくことは児童・生徒にとって決して楽しい、楽な作業ではない。しかし児童・生徒は、自分達が観測したデータを他校でも利用し、学習に活用しているということを認識し、自分たちの活動が自分たちだけのためではなく、他の人たちのためにも最後まで責任をもって観測に取り組む、という責任感が醸成されている。
また、同じ事象を他校と同時に共同で観測をやり遂げることを通して、その意義と同時に、達成感や仲間意識が芽生えている。

(3) コンピュータを利用したコミュニケーション能力の育成
 観測結果をインターネットを介して登録、検索、活用、情報交換することを通して、インターネットを利用した情報発信・情報交換・情報収集能力の育成を図っており、また他校の教師や生徒との交流が促進されており、インターネットを利用したコミュニケーション能力の育成が進んでいる。
 インターネットの利便性を体験し教育利用の促進に繋がっている。

4.4.2 課題

 定点観測型企画は、長期問にわたって、継続的な観測体制が必要となる。その意味で1年を単位として進められている教育活動の中では、担当教師の転勤や熱心な生徒の卒業等がプロジェクトの継続的な推進に大きな障害となる。また・観測結果を提供する場合においても校種や学年によってデータの処理・編集が必要であり・観測結果を提供するためのWeb化等、事務局の負担も大きくな孔また・授業でのインターネット活用がまだ試行的であり、苦労して観測した結果が必ずしも有効に活用されていない現状がある。
以下に、アンケートから得た定点観測型企画を推進していく上での問題点を列記する。

(1) 観測結果が有効に活用されていない、活用する環境が整っていない。
 ・授業でのインターネット活用はまだ試行的であり、苦労して観測した結果が必ずしも有効に活用されていない。
 ・クラブ活動の一貫として参加した学校が多い。
(2) 観測結果を提供するために要する事務局(幹事校)に掛る工数的及ぴ費用的な負担が大きい。
 ・観測結果の定期的な処理・提供に伴う事務局(幹事校)の負担大きい。
 ・校種、学年によって利用するデータの処理方法が異なる。
(大きな負担であり、現状ではこれに伴う対応は不可能である)
 ・定期的なまとめに伴う事務局(幹事校)の負担大きい。
 ・継続的な観測に伴う児童への負担が大きい。
 ・観測装置の費用負担(破損を含めて)が大きい。
(3) 定期的な移動や連絡の不徹底など推進体制の維持が難しい。
 ・定期的な教師の移動、生徒の卒業等が継続的な企画推進の大きな障害となる。
 ・参加校同士の連絡が難しい。(MLのチェックが必ずしも行われない)

 定点観測型の企画を継続的に推進していく場合の問題点を調査してきたが、観測結果が学習に有効に活用されない要因として、活用する環境の問題とともに各校種・学年で活用できる様提供するデータの編集や処理を必要とすることが指摘された。しかし、利用する側が要求する観測結果の編集や処理に要する事務局(幹事校)の負担が大きく、編集や処理が不可能であることも指摘された。
 今後、定点観測型の企画を継続的に推進していくためには、観測結果の蓄積とともに事務局(幹事校)の負担を軽減するための継続的な運営体制が必要になる。

4.4.3 定点観測データの活用方法についての考察

 定点観測データは、日々観測されているもので、同一条件でかつ広範囲で観測されたデータである。また観測データが映像で観測されライブで提供している場合は、遠隔地の現在の映像をリアルタイムで確認することが可能であり、順番に並べることで状況の変化が目で確認できるものである。この種のデータ(情報)は今までの教育用教材にはなかった種類のもので、幾つかの関連する事象を並行して学習に活用するなど、貴重な教育素材となるものである。今後、より広範囲(地球規模で)にいろいろな観察・観測結果が提供されることで、いろいろな教科で活用されていくと考えられる。
 一方、前項でも述べたように、定点観測結果を教育に活用していく場合、観測結果を継続的に蓄積していくとともに、各校種・学年で活用するためには提供するデ一夕の処理や編集が重要となるが、観測されたデータは日々(刻々)発生することを考えると、これらの観測結果をタイミング良く処理・編集し継続して提供していくことは、企画を推進していく上で大きな負担であると言える。
今後、教育に有効に活用していくためには観測されたデータを効率よく処理・編集するための仕掛け(ソフトウェア等)が必要である。

4.4.4 まとめ

 定点観測に関する調査研究では、以上述べてきたように、そこには、これまでの教室学習では見いだすことができない教育的意義を発見することができた。教室を越えるとか、学校の壁を取り払うなど、インターネットによる学習は、こうした共同のプロジェクトによって具現化されるのである。プロジェクトの課題は多様であるが、定点観察は、身近な活動を基盤に、それぞれの学校、学級、子どもが互いに交流するのであるから、「地域で行動し、地球規模で考えよ」というスローガンに、最もよく当てはまる。
 観測によるデータが、短時問のうちに集約され、学習に反映されないと、観測そのものの意義が子どもから離れてしまう危険性がある。したがって、子どもに学習課題意識を継続させる仕組みを組み込むことが、長期に渡る定点観測共同学習では大事になる。
こうした仕組みについても、本調査によりヒントを得ることができた。
 学習遂行において、学習課題・学習者・メディアの関係がダイナミックに関与することはこれまでの研究で明らかになってきているが、定点観測など情報ネットワークを介しての学習では、学校・学級の変数が新たに関わることも明らかとなった。学校の数、学級の数は、データの蓄積だけではなく、ネットワークを活用して共同で学習を展開するときに、新たに、ネットワーク環境としてこれらを制御し行為する要因が、新たな変数として求められる。バーチャルな学習で理論的に示されていた要因が、くしくも本調査過程で明白になったといえる。
 このように、本研究を通して、新たな知見を得ることが出来た。

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