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2.3.2 作品評価

ここでは,応募作品に関して次の2種類の評価を試みる.

* 審査員によるアンケート(13項目)結果からの客観的評価.
* 審査員によるアンケート(1項目)結果とコメントからの主観的評価.


(1)アンケート(13項目)結果からの客観的評価

図1にアンケート(13項目)に対する,各審査員の評価点(規格化)の平均値を示す.縦軸は平均値に,横軸は項目の番号に対応する.


図1 各項目に対する評価点(規格化得点)の平均値


図1より,次のようなことが考察できる.

* 項目1,2,3,9,10は小・中・高ともに,平均的な評価がなされている.したがって,コンピュータを用いての作成した絵(CG)にも,通常の図画工作や美術の教科における絵画などと同程度に表現力・技術力は反映されている.
* 項目5,6,7以外は小・中・高ともほぼ同じ傾向を示している.項目5,6,7はコンピュータやCGに関する項目であることから,CGという観点から評価すると小学生には技術的に難しい面が存在する.
* 項目4,13は小・中・高ともに比較的高い評価がなされている.この2項目は制作への取り組み具合を評価する項目であることから,参加者はかなり真剣に取り組み,自分のイメージ.考えを絵に表現しようとしている.
* 項目8は小・中・高ともに,かなり低い評価がなされている.項目8はネットワークリテラシーに関する項目であることから,著作権や版権に関する指導も,このようなネットワークを用いたコンテストでは必要であることを示唆している.
* 項目11も小・中・高ともにかなり低い評価がなされている.項目11はデータの再利用,すなわちネットワーク利用の1つの特徴に関する項目であることから,ネットワークを利用したコンテストでは「だれでも,いつでも,どこからでも」見られるという意識をもって制作する必要があることを示唆している.

以上,客観的評価を纏めると次のようになる.

「参加者はかなり真剣に制作に取り組んでおり,コンピュータという新しいツールを用いているにも関わらず,従来の絵画と遜色なく制作できている.また,本コンテストの地域特色や自分のイメージもよく表現できている.しかし,ネットワークに公開されることをさらに意識して制作する必要がある.」


(2)アンケート(1項目)結果とコメントからの主観的評価

ビジュアル情報の基本となる「絵を描く道具や手段」はいろいろある.水彩,油絵,パステル,版画・・・そして今やコンピュータはそのような道具や手段で確固たる位置を占めるようになった.いわゆるCGは画像処理といった分野である.
パソコンが他の機械と大きく異なる点はソフトウェア次第でワープロも打てる,表計算もできる,CGも,コンピュータミュージックも,通信もさまざまな作業ができることである.しかし,その中でもCGという分野はとりわけ夢があるおもしろい分野ではないだろうか.
今回のネットワークを利用したCGコンテストは参加者の数もさることながら,どのような作品が集まるかがたいへん興味深いものであったが,全体的に思っていたよりも作品のレベルが高かったように思う.
さて,CGだけではなく,表現されたものに対する評価はさまざまな見方がある.色,構成,素材,道具の使い方と生かし方・・・.しかし,それらは評価の重要なポイントとなるが,一番重要なのは「何を感じたのか」,「どう考えたのか」,そしてそれを自分なりに「どのように表現したか」である.
今回の通信を利用したCGコンテストは,「私たちのまちの未来」という題材であるが,全体的には参加者一人一人がその題材を受け,さらに楽しい題材へと思いをめぐらせ発展させたところと,いきいきとした個性あふれる作品が非常に多かったところが目についた.また,先生方の愛情深いご指導がたくさんの生徒をCGへ挑戦させる気持ちを高めたと感じる.さらに,年齢,コンピュータ経験の有無などさまざまな差はあれども,それぞれの参加者が住んでいる土地をたいへん愛していたり,未来への夢を託していたりするのが伺える.賞を与えることによって序列がついてしまったが,最優秀賞と入賞に大きな差はない.つまり,うまい下手ではなく,今回の場合はCGを使って何を表現したか,そしてストレートにその表現が出たかによったと考える.ちなみに,図2〜図4に客観的評価点,主観的評価点,総合評価点の分布を示すが,客観的評価点と主観的評価点おのおのにおいては評価点の分布にばらつきがあるが,総合評価点,すなわち,客観的評価点と主観的評価点を統合した場合には,評価点のほとんどが40〜50の間に存在し,作品,特に上位の作品の評価点値には差がないことがわかる.


図2 客観的評価点の分布


図3 主観的評価点の分布


図4 総合評価点の分布


コンピュータは私たちの生活の中の様々な部分にまでどんどん浸透してきている.そして,従来の美術の評価には技術的なものを重要視することが多かったように思われるが,もしかしたら,今まで絵を描くことを苦手としていた人も,コンピュータのお陰で違った表現技法を見つけて,レオナルド・ダビンチが子どもの中から出現するかもしれない.小さいうちに枠にはめた絵を描かせるよりも,これからの表現方法はどんどん道具によって変化していく.もっともっと多くの人の参加を楽しみにして,多くのコンピュータを利用した作品を見てみたいと思う.


2.3.3実施結果に対する教育面

今回のコンテストでは,ネットワーク環境でのCG映像の制作とその公開を行うという意味で,従来にない教育効果が期待できる.ここでは,それらの期待と,コンテスト実施の結果を踏まえて,ネットワークのさらなる有効的利用と,今回のネットワークコンテストにおける問題点とその対策について述べる.

(1)期待される教育効果について

今回のCG創作活動は,「わたしたちの街の未来」というテーマで,主に学校での授業時間以外の時間を使って,児童生徒が積極的に参加したと予想される.コンテストの教育的な効果としては,創作活動とコンピュータネットワークに公開する点の2点で,効果が期待された.まず,前者の創作活動については,普段の図画工作や美術の授業では得られない経験をしたと期待される.その幾つかを以下に示す.

* 学校の授業時間以外での活動であるので,決まった単位あたりの時間や授業における枠組み,作品が学業成績としての評価対象になるといった制約条件が無い下での活動である.
* 表現の手法が,CGあるいはコンピュータ画面で表示する表現方法であり,その制作も今までの絵の具やクレパスといった描画材料とは全く違った,描画ツールとマウス,キーボードによる制作であった点である.
* CGであるので,教師の助言や友人達との情報交換によって,1つの表現を何回も書き直し,組み合わせることができる.
* CGという表現手段を借りることで,児童生徒が意図しない表現に触発され,それらの表現をも取り入れて,自分たちの街の未来をデザインすること.

次にネットワークに公開することの効果を考える.参加した児童生徒達の学校は,なんらかの形で,既にネットワークに接続可能な環境であったと予想される.しかし,ネットワークを利用することはあっても,自分の思いを,特に自分達の街の将来の姿を提示することは,参加者にとっては,まだ少ない経験であったと予想される.また,前者の創作活動にも関連するが,今までに学校で絵を描くことは,創造活動の一部とはいえ,やはり先生や友人達に評価されることを意識しているに違いない.今回は,今までのよい意味での評価者とは全く違う人達に観賞されるわけで,創作にかける意気込みもまた,違っていたはずである.

以上のことは,参加者およびその担当教師に対して実施したアンケートからも,次のような回答があり,当ネットワークコンテストが当初期待していた教育効果があったと言えよう.

◎インターネットの利用の有効性に関して
* 一つの目標に向かって生徒と教師が,またお互いの学校どうしが取り組める.
* 広範囲の作品に触れることができて,次の制作意欲が向上する.
* いろいろな地域の作品が見られる.
* インターネットへの関心が高まる.

◎WWWにより作品を全国に公開することの有効性に関して
* より完成度の高い作品を目指そうとする意欲が育つ.
* 他校の作品を眺めることによって,自分の作品を相対的に自己評価できる.

◎その他の教育的効果に関して
* 自分たちの村を盛り上げていこうという生徒が増えた.
* 自分の村のことを真剣に考えた(生徒).

また,全ての参加校が「次の機会にも参加したい」と回答している.さらに,何らかの理由で参加を途中で辞退した学校からも「制作を通じて創造的な発想が生まれ始めている」との回答もあった.

今回のコンテストでは,少なくとも,上記に挙げた内容に関しては,各参加校の先生方の献身的な努力によって,達成されたと考えている.各参加者とも強い意欲を持って応募した作品であるので,コンテストの審査という形以外でも,作者を激励する必要があろう.また,これらの教育効果を促進させるための方法や環境作りも残された課題である.


(2)ネットワークのさらなる有効的利用について

(1)でも述べたように,今回のネットワークコンテストでは期待していた教育効果がかなり見られたと結論できる.しかしながら,いくつかの問題点もアンケートの回答から抽出できる.それらを列挙すると次の通りである.

◎実施時期,実施期間の再考.
2学期後半から3学期は学校は行事が多い,など.
◎作品の例の提示.
前例がないので,作品の制作の基準が不明確,など.
◎テーマのレベル.
「私たちのまち」では少々抽象的である,など.
◎コンピュータ環境の整備.
学校に導入されているハード&ソフトの差が作品の出来具合に大きく影響している.

そこで,このような問題点の対策も含めて,今回のようなコンテストにおけるネットワークの利用の仕方について,少し考えてみる.

作品に対するコメントの交換

今回のコンテストでは,様々な制約から作品の展示から審査結果の発表までの時間が短く,参加した児童生徒が自分以外の応募作品を観賞する時間的余裕が少なかったと思われる.今回のテーマ設定の関係上,各作品はそれぞれの学校の地域に根付いたものになっている.時間的なゆとりがあれば,他の参加校の作品を観賞し,地域性の違いや,環境による発想の違いを認める機会も設けられたのではないかと考える.また,それぞれの作品に対するコメントもメール等で交換することも可能である.遠隔地の同世代からのコメントは,作者にとっては,審査員のコメントよりも遥に嬉しいことであろう.さらに,作品の情景に関する問い合わせや制作方法など,有効かつ教育的な情報交換も可能である.既に,100校プロジェクトにおいても,作品をネットワーク上に展示し,コメントを求めている学校もある.このような利用の可能性を検討する上でも,成果報告を期待したい.

創作活動の支援

各作品を制作過程の段階から公開し,参加者全員が参照しながら,作品を完成させることもネットワークの利用方法の1つである.教室以外の参加者からのコメントをもらったり,他の作品から表現手法を学んで,工夫を加えることも可能である.他の学校を1つのバーチャル教室として,意見交換を行うことは,意見や評価の多様化を促進する意味でも有効である.ただし,すべてが同じ方向に向かうこともあり,出来上がった作品がすべて同じ手法によることも懸念され,没個性化を招く恐れもある.
しかし,ネットワークの利用を否定すべきではない.コンピュータを使いこなす能力に加えて,通信回線によってコミュニケーションを成り立たせる新しい能力が求めらるであろう.これは,子供達だけでなく,我々すべての課題である.最近のマルチメディア研究においても,この種の問題に関しては,検討は始まったばかりであり,今後の課題である.

インタラクティブな評価

ネットワークを利用することの最大のメリットは「だれでも,いつでも,どこからでも」にある.したがって,今回のようなコンテストにおいては,次のようなネットワークの有効利用が期待できる.

◎審査(評価)の段階で「だれでも,いつでも,どこからでも」投票できるようにする.
◎文章や数値による審査(評価)のみならず,音声・動画を用いた評価を行う.

特に,後者の方は前述のバーチャル教室としての意味合いも強く,さらなる教育効果が期待できよう.
この他にも,インターネット利用の教育効果への期待が非常に高い.しかしながら,実際の利用にあたっては,指導にあたられる先生方の日々の努力によって支えられている.ネットワーク利用を促進するためにも,指導にあたる先生方への支援に対する配慮が積極的に求められるであろう.


2.3.4技術的成果と課題

今回のコンテストでは、募集、問合せ、作品の受付、作品の公開、作品の評価・審査、表彰という一連のコンクール形式をすべてインターネット上で行い、今後の広域ネットワークの技術的課題を明らかにすることも目的であった。以下現場での作品の制作過程も含めてそれぞれの過程での技術的問題を列挙し、今後の対応について検討して行く。

(1)募集と問合せについて

募集については、今回100校プロジェクトのメーリングリストと100校プロジェクトのホームページにより企画を広報した。また、質問などの問い合わせの窓口として参加校や評価委員会のメーリングリストも作成した。質問などを概観すると、まず技術的な課題ではないが、CGの実例や簡単な理論、ノウハウなどを解説することの必要性が明らかになった。教育の観点からは、実際に学校現場で指導する先生方に参考となる
資料などもネットワーク上に準備することも重要である。そこでCGに対する質問は、文字のみのメーリングリストでは、画像を加えて議論することも必要であり、メーリングリストではなく簡易に通信可能なマルチメディアメールのような通信手段の開発が期待される。

(2)作品の受付について

それぞれの作品を参加校のWWW上に掲示し、リンク情報のみを応募していただく方法も検討されたが、フォマットの不統一や応募締切の明確化、著作権などの運営の問題と応募という形式の感覚などの問題から今回のコンテストでは、作品の受付も電子メールやFTPなどのインターネット上のツールを用いて実行した。電子メールの場合は、圧縮・符号化を行いメールで転送する方法で行った。参加校側からは、それらの手法に対するアドバイスが必要という意見が多数みられた。また、学校側では普段はFTPサーバーから情報を取得することが多く、今回のような作品をサーバーへ直接転送する場合はセキュリティの問題から複雑な作業となり参加校に迷惑をかけた。これらは現在の学校でのネットワークの利用が教材リソースの提供や取得などの形式でないことの課題とも思えるが、先の質問方法の課題と同様にマルチメディアメールなどの通信手段の開発に解決が期待されるものである。とくに生徒も簡易に利用できるツールであることも重要である。
さらに今回は問題にはならなかったが、一般に盗作、贋作や著作権の放棄などの知的所有権の問題をクリアするためには、作成者と応募者の認証の問題がある。今後一般に行われているコンテストと同様に広く作品を募集し、学校単位ではなく生徒個人単位での参加も受付るには早急に対応を検討しなければならない技術的課題である。

(3)作品(2D)の制作について

現在使用しているパソコンの性能やソフトウェアに対する問題点が多くの参加校より指摘された。以下列挙すると
* メモリーとハードディスクの不足。
* CGソフトは学内に1台のハイエンドマシンでないと動作しない。
* Windowsマシンがない
などがある。とくにCGソフトとしては高額ではあるが32,765色ほどは使え、グラデーションなどの表現ツールを含むようなものが必要である。

(4)作品の公開

作品の公開はWWW上で行い、参加校や一般からのコメント(評価)をWWW上のメールで受けることとした。しかしながら公開の期間が短く、コメントを受けるに至らなかったが、技術的には作品の応募と同様にコメント者の認証などに問題がある。

(5)作品の評価・審査、表彰

各審査担当者もWWW上の公開作品で審査を行った。一般に絵画などの審査と異なり作品を概観することや順序を並び替えるなどのことができないという問題や画像の転送速度やサーバーのレスポンスが遅く評価は作品数に比べ容易なものではなかった。今回640×400ピクセルとしたが、これ以上の大きさの作品が多数あるような場合には、審査も困難きわめるものである。ネットワークの画像転送速度の高速化や100校のサーバーの高速化が期待される。


(6)まとめ

以上それぞれの過程とその問題点について列挙したが技術的には以下の3点にまとめられる。

1. 文字形式からマルチメディア形式の通信手段へ
WWWはマルチメディア形式であるが公開型であり、しかも作成にHTMLによる作成を伴うことから電子メールのマルチメディア型としての利用は不可能である。早急にマルチメディア型のメールの開発と学校への配布が望まれる。

2. 個人認証、電子署名の利用
サイバーショピングなどでは既に個人認証や電子署名の技術を活用し始めている。教育においてもこれらの技術を早急に取り入れるべきである。とくに教育の場においては非公開なデータや信頼性が問題となるデータが多く、教育ネットワークセキュリティーとして研究・開発すべきである。

3. ネットワークの高速化
マルチメディアデータの送受信を円滑にするためのネットワークの高速化は重要な課題であり、早急に対応すべきである。