第2部 交流学習 実践マニュアル |
ネットワークによる交流学習は,単年度で終わるのではなく,年度をまたいで実施できると一層効果的である。
しかし,同じことの繰り返しでは,子どもたちの学習意欲は向上せず,学習効果も上がらないことは明らかである。繰り返しの中に発展があってこそ,真の継続である。
交流学習の素材が適切であれば,初年度,子どもたちが交流で共有した課題は,追究されるに伴って,さらに新たなる課題を生み出しているはずである。
教師にその素材と子どもを見つめる目があれば,その新たな課題を吟味し,子どもにとって有効な活動を洗い出し,1年間の交流学習のシナリオを描けるはずである。このとき大切なのは,子どもたちと相談をして,彼らが自分の思いや考え,疑問を整理するのを助け,新たな課題を明確にし,追究の見通しを持たせてやることである。こうして,次年度の学習テーマを設定すれば,初年度の交流を広げ,深めることができる。
例えば,河川を題材にする場合,自然・歴史・暮らしなど,課題となる視点は複数ある。初年度とは違った視点で研究をすることも可能であるし,一つの視点から,さらに発展した課題を扱うことも可能である。
また,初年度の子どもたちの活動が,河川の調査研究にとどまっていたならば,次年度は,環境の改善への行動を起こすことを主目的にすることも可能であるし,自分たちだけの調査や行動に終始するのではなく,他者への発信活動,普及・啓蒙活動へと展開して,交流学習を発展させることも可能であろう。
さらには,1年次には,「お互いの研究交流」を行い,2年次には,1年目の交流で明らかになったことを元に,交流校同士で継続するべきことを決定し,お互いに協力し合い・意見交換し合いながら,目標を達成する「プロジェクト型」にするといった発展方法もあるであろう。
このプロジェクト型は,連帯感が強くなり,目標が明確なために達成評価もしやすく,交流のよさを味わわせやすいという利点がある。反面,プロジェクトの「目標達成」ばかりが先行し,本来の目的である「交流による学びの深まり」が忘れられてしまうことがあるので,進めるときには,十分留意が必要である。
年次をまたいで交流学習を続けることは,教師一人の考えでは実現できない。実際,担任や担当教師が替わることは,当たり前のことである。それでも,継続するためには,学校の指導方針が明確になっており,指導計画が整えられていることが必要である。
つまりは,指導計画の中に小学校6年間,あるいは中学校3年間で扱う学習内容とそこで行う交流学習,さらには,そこで培う情報活用の力が明示されていることが必要なのである。そうしなければ,担任が交替したとたん,これまでの学習がストップしてしまうということが起こりうる。
また,指導方針が整っていてもそれを実行できるように教師の体制を整えておかなければならない。この体制化には,リーダーとなる教師の存在,教師一人一人の指導力を確かにするための校内研修が重要である。そして,前年度担当教師と新年度担当教師間の引継ぎができるように教師の記録と,子どもたちの学習の記録・成果を残しておくべきである。これらの記録によって,新しい担当教師に学習の軌跡を把握させるだけでなく,子ども一人一人について理解することを助け,自信を持って継続した交流を指導できるようにすることができる。
交流学習に新しい情報技術を取り入れることも,継続・発展させる上で有効である。
子どもたちのネットワーク利用技術も,学習内容と同様,ステップアップすべきである。前述のように,子どもたちに身につけさせたい技術を指導計画に明確にしたうえで,今,どんな情報技術が利用可能であるのかを教師が具体的に示してやることが大切である。
それと同時に,教師・学校はよりよい情報環境を整える努力をもしなければならない。世の中の情報環境は,日々発展している。学校は,情報環境の後れた場所となる危険がある。学校がより新しく,子どもたちにとって魅力のある環境であることは,本来,望まれるべきことである。
交流学習の意義の重要な一つとしてあげられることは,共通の題材を違った場所の学習者が扱うことによって,自分たちだけの場所では気づかなかった新たな発見ができると言うことである。
交流相手の地域を広げることは,その新たな発見を生み出すことになり,子どもたちの学ぶ喜びや今後の学習意欲を高めるものである。
例えば,同一河川を扱う場合なら,交流することによって上流・中流・下流の違いが明確になっている。それをさらに,別の河川と比較するとどうなのか。違う川を題材に研究している学校や地域と交流できれば,川が違っても同じであること,川が違うことによって異なることがあることが明らかになるのである。このことは,子どもたちにとって新鮮な驚きであり,また新しい追究の課題を生み出すことは間違いない。
また,交流相手が少ないと,自分と同じテーマで学習している仲間を少ししか見つけられず,交流することの意義を感じられずにいる子どもがいることがあるが,交流相手が増えると言うことは,共通テーマで学習している仲間を増やすことにもなり,このような不満を解消できる。こうして,広がった地域の交流相手と,討論し合うこと,評価しあうことが学ぶ喜びを大きくし,継続的に交流学習を進める意欲を高めることになる。
題材によっては,外国と交流すると,学習が一層深まることもある。 地球規模で考える題材,環境問題・酸性雨・国際理解・地球温暖化…。限りなく考えられる。
言葉の壁の問題を心配する向きもあるが,自動翻訳システムを導入したり,地域の翻訳ボランティア組織に支援をもらったりする等の方法で,カバーできる。
ただし,イベント的に無理に海外と交流することは避けるべきではある。
その他,交流学習の相手の広がりを,地理的・空間的なものだけで考えてはいけない。異世代の人間が交流することも,重要な視点である。例えば,小学生と中学生,子どもたちと大人(地域の有識者や専門家など)が交流し,共同学習するのも学習を深め,継続させる力となるはずである。
また,同一地域であっても異校種とか異年齢といった視点で交流学習の相手を拡張し,子どもたちと他者とのコミュニケーションやコラボレーションを質的に高めることが可能である。
学校に交流学習を浸透させるためには,交流を続けるための情報環境の整備,交流学習を生かす指導計画の整備,交流を続けていく人の育成,指導体制の整備が必要である。
交流学習の効果を高めるためには,現状の情報環境の中で最も効果的な方法で進めながら,よりよい情報環境を整える努力をすることも重要である。
よりよい情報環境とは,日常的に交流することができる環境である。校内LANが組まれ,インターネットに接続できるコンピュータが,クラスの最大人数分設置され,一人1台ずつ利用できること,教室からも利用可能であることが理想である。予算上なかなか難しいとは思うが,それに一歩でも近づけたいものである。その上で,Web上に掲示板を開き,みんなで書き込みができるようにする方法,子どもたち・生徒用の情報交換のためのアプリケーションソフトを利用する方法などを取り入れる。さらに可能であれば,TV会議のシステムもぜひ整備したい。
以上のような環境が整備されることは,交流を容易にし,より効果的な交流を実現することになるだけでなく,子どもたち・生徒に交流学習の楽しさを味わわせることになり,校内の交流学習の浸透につながる。
学校に交流学習を浸透させるためには,指導計画の中に交流学習をきちんと位置づけることが大切である。そのとき,交流が有効である題材を扱うことが前提であるが,学年の学習内容と共に,望ましい交流相手や交流手段を,学年の発達段階にあわせて明確にすることが重要である。
例えば,中学年では,学習の段階から,地域の題材を身近な複数校で扱い,ホームページやTV会議で気付きを発表し合い,メールや掲示板を使い,感想や気がついたことを述べ合い,学びを深めていく。高学年では,題材はともかくとして,交流相手を広げ,さらには,交流が感想や気付いたことの交換だけには留まらず,お互いの研究内容について,疑問点を質問する・教え合う・助言し合うなどの交流を仕組み,学びをさらに深める。このような段階を意図的に仕組めればと考える。
子どもたちが交流学習へ積極的に取り組めるようにするためには,子どもたちが学ぶ楽しさを味わえるような学習を,教師がいかに構成できるかが基本であるが,それに併せ,子どもたちの意欲と交流の技術を高めるような方策をとることが大切である。そのためには,次のようなことを考えていきたい。
子どもたちの情報メディア活用の技能が高まれば,それを生かそうとする意欲も高まるし,活動の幅が広がる。学年に応じて,育てたいメディア活用の技能を明確にした指導計画を作成し,計画的に高めていくことが必要である。
これまでに学校内で継続的に交流学習を実践している学校では,必ずと言っていいほど異学年の交流が位置づけられている。
異学年合同学習として考えられるのは,
i) 交流学習題材の一部を共同調査する場を設定する。
ii) 上学年子どもたち・生徒が下学年子どもたち・生徒にコンピュータの使い方など交流学習に役立つ学習方法を教える場を設定する。
iii) 学年内だけでなく,他学年や学校全体に学習成果を発表する機会を作る。
発表会では,学習内容だけでなく,交流学習の有効性や「学習してよかった」という気持ちも合わせて発表したい。
これらは,下学年の子どもたち達に交流学習の一端に触れさせることになり,学習の成果を継承することにつながる。
交流学習の成果は,誰もが見られるように整理・保管し,閲覧できるようにしておくことが重要である。学習してまとめたことは,次の学年の子どもたち・生徒達の有効な資料となり,学習の手引きとなる。
学習成果の電子ファイル化も,有効な方法である。電子ファイル化とは,調べたことをWeb化したり,子どもたち・生徒用のソフトを使ってデータベース化したりすることである。そこまでできなくとも,紙にまとめたものをデジタルカメラで撮影し,ファイル化しておくだけでも,学習成果を継承していくうえで有効である。
また,学習成果というのは,調べてまとめたものだけではないことも考えていきたい。学習している最中に気付いた学習方法や技能も,大切な学習成果である。
例えば, i) 実験器具の使い方, ii) コンピュータの生かし方, iii) ビデオの撮影のポイント,CTV会議をするときの留意点等である。これらもまとめておけば,後輩にとって大変有効な学習モデルになる。後輩達がこれらを見ることは,先輩からアドバイスを受けたことと同じであり,それを生かしてより質の高い学習を進めることができる。そして後輩達は,一歩進んだ学習成果を新たな情報として,学校のデータに付加することができる。こうして,学習成果が深化しながら,年々,後輩に継承されることにより,交流学習が学校に浸透していく。
また,これらは,指導する教師にとっても有効な情報になる。
教師間でも,交流学習のノウハウを継承していかなければ,学校全体に継続していくことはできない。つまり,校内のすべての教師に交流学習の意義・方法・成果を理解してもらえるようにすることが大切である。そのためには,子どもたちの発表会を見ることにより,子どもたちの学習を通して,実際に成果を感じ取ってもらうことが一番であるが,その他に次のようなことを進めていきたい。
i) TTの体制を強化し,多くの教師に,経験豊かな教師が支援しながら,交流学習を経験させ,交流学習のよさを体得させ,自分で交流学習を行う意欲と自信を持たせる。
ii) 授業研修や成果発表会などの校内研修を実施し,交流学習のノウハウを教師間に広める機会を作る。
これらのことをよりうまく進めるためには,学校に情報活用のコーディネータが必要である。コーディネータは,市町村で学校ごとに配置することが望ましいが,それがなかなかかなわないのが現状であろう。学校から適任者を他の研修会や大学の講座等に派遣しながら養成していくことが必要である。
こちらが交流学習初心者の場合は,うまくコーディネートしてくれる可能性もある。現在各教育関連団体で,さまざまな学校をリストアップしてリンク集を作ったり,交流希望校などの情報を掲載したりしているサイトもある。こまめに情報を集めることが必要である。
また,全国展開している研究会へ積極的に参加し,知り合いを増やしておくことも大切である。そのためにも,教師個人がメールアドレスを持ち,全国レベルでの教師同士の交流を常時行っていく必要がある。
地域に交流学習を定着させるためには,まず始めに,学校で交流学習が継続的に行われ,その成果があがっていくことが必要である。そのうえで,保護者,地域の人々,地域の先生方,教育行政に携わる方々に,交流学習の必要性を理解してもらうよう働きかけていくことが必要になる。
学校の様子を保護者に知らせるために,学校通信や学年通信等を家庭に配布している学校は多いが,交流学習の様子もそれらを利用して知らせるべきである。
また,交流学習の場面を実際に参観できる機会を作ることも必要である。やはり,「見ると聞くとは大違い」であり,「百聞は一見に如かず」である。見ることにより,交流学習のよさを肌で感じてもらうことができるはずである。そして,保護者だけでなく,他校の教職員・地域の一般の方々にも参観できる機会を作り,学習成果を広く公開していくことも必要である。
ときには新聞・TV等のマスメディアを通して,紹介されるのも効果的である。
これらの機会を作ることは,地域の人々に交流学習のよさを理解してもらうだけでなく,子どもたち達のモチベーションを高める上でも有効である。
ホームページを利用して交流学習の学習内容や成果を公開すれば,保護者だけでなく,より多くの人々に交流学習の必要性を感得させることになり,交流学習を地域に定着させることにつながるのである。実際,各学校の取り組みには多くの人達が関心を寄せており,地域の学校のホームページを見る人は多いのである。そして,さらにこの効果を高めるためには,複数の学校の子どもたちが共同でデジタルマップを作成するなど,できるだけ子どもたち自身が作ったものをホームページに掲載するのがよい。なぜなら,子どもたちからの生の情報は,大人に感動を与えるからである。
これらのことを実現するためには,「旭川同一河川交流学習」の実践で開発したWebツールのような子どもたちが容易にホームページを作成できるような環境を整えることが必要である。
保護者や地域の人々に,交流学習に参加してもらうことも,交流学習のよさを理解してもらう上で有効である。参加してもらう一つ目の方法は,(1)で述べたように,学習の状況や内容を公開しながら,それらについて,協力者を広く募集し,子どもたちの指導者(教育ボランティア,ゲストティーチャー)として参加してもらうことである。この方法はよく行われており,学習の効果を高める上では有効であるが,限られた数の人だけしか参加できないので,保護者や地域の理解を得るという点では能率的ではない。
理解を得るという点では,保護者や地域の人々に,指導者としてではなく,子どもたちととともに学習する人として参加していただくことが有効である。
例えば,保護者や地域の人々が,子どもたちと共に交流学習につながる体験活動や調査活動をしたり,交流学習そのものに参加したりすることができるような機会を作ることである。そのようにすれば,保護者や地域の人々の誰もが参加でき,子どもたちと共に自分も楽しく学ぶことができるので,交流学習についての理解を得やすい。
さらに,今後,情報活用環境の進展と共に,保護者や地域の人々を巻き込んで共同学習のための地域メーリングリストを開設する事も有効な方法となる。
メーリングリストについて,広く広報活動し,構成員を募集して,保護者・各種の専門家・地域の人達にメーリングリストに登録してもらう。
このようなメーリングリストが整備できれば,
i) 子どもたちが学習でわからないことをメールで質問をすると,メーリングリストに登録している方の中で答えられる大人が答える。
ii) 子どもたちが自分の学習のまとめをメーリングリストで公開して,いろいろな人から助言をいただいたり,感想をいただいたりする。
など,時間や場所に依存せず,より多くの人達に支援者として,協力者として学習に参加していただくことができる。
このメーリングリスト自体が,交流学習であり,子どもたちが行っている交流学習の一部に参加していただくことにもなる。こうして,子どもたちの学習に日常的に参加して,子どもたちの変容を感じながら,交流学習の効果をつかんでいただくことができる。
これは,交流学習の効果を理解していただくためにかなり有効な方法と言える。
学校長を通じて,教育委員会の先生方や教育長・市町村長に授業を参観してもらうように働きかけることも必要である。これらの方々に授業参観していただき,交流学習のよさを理解してもらうためである。これらの方々に交流学習のよさをわかっていただければ,他校や地域の人々に,そのよさをPRしてもらえるはずである。行政に携わる立場の方からの紹介は,影響力が大きく,学校関係者はもちろん,地域の人々の交流学習への関心は,一層高まることであろう。
また,これらの方々の理解を得られていれば,効果的な交流学習を実施するための学校の環境整備についても便宜を図っていただける可能性が高まる。
交流学習は,これまでにはなかなか実現できなかった多くの子どもたちとの共同学習を実現し,学びが広がり・深まり,子どもに多くの効果をもたらすことが報告されている。特に普段どうしても情報や交流が狭く固定しがちになってしまう都市部から離れた学校や,小規模の学校にとって,交流学習はそれらを補う大変効果的な学習であることは間違いない。子どもたちのよりよい成長のために,地域をあげて交流学習を支え,継続できるようにしていくことが必要なのである。そのためには,地域の人々の理解を得られるように,実践を続け,子どもの変容を示し,地道な広報活動を積み重ねていかなければならない。
ただし,外へアピールすることを意識するあまり,形を作ることに目を奪われ,子どもの意識や関心等をおろそかにすることは,避けなければならないことを最後に述べておきたい。