モバイルGIS(地理情報システム)を用いた
フィールドワーク(野外調査)ツールの開発


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5.課題

5.1.技術的な課題

      (1)日光下での透過型TFT液晶の視認性

        今回の実証試験用に選定したWindowsCE機「テリオス」は透過型TFT液晶を搭載していた。この透過型TFT液晶を日光下において使用した場合,液晶の発光能力が日光に劣るため,非常に画面が暗くなり視認性が悪くなってしまった。

        外光を使用して表示する反射型液晶であれば,日光下での良好な視認性が得られると考えられるが,反射型液晶を搭載した機種は少なく,開発面・費用面で採用には到らなかった。

        今後の反射型液晶搭載機種の低価格化や新しい表示デバイスへの開発に期待する。

      (2)マルチメディア機器の性能と操作性

        マルチメディアでの情報取得を考えた場合,デジタルカメラ等のマルチメディア機器を,使用時に接続し直していては,携帯性・操作性の面から使用に耐えない。特に本プロジェクトでは静止画や動画,音声といったマルチメディア情報を地図上の図形にリンクするため,その場での操作性が重要になる。

        今回の選定機種「テリオス」はデジタルカメラが組み込まれている機種であり,取り回しは容易であった。しかしながら,誤って撮影ボタンを押してしまう場面や,ズーム機能が無いため撮影ポジションに苦労する場面等が見受けられた。また,モバイル端末に組み込まれているために手ブレを起こし易いように感じられた。

        これらの性能と操作性のバランスの取れたマルチメディア機器一体型のモバイル端末が早く開発されることを期待する。

      (3)煩雑な文字入力

        マウスに替わる操作デバイスとしてペン入力方式を採用したが,文字入力が必要な場面では煩雑と思われた。手書き文字入力機能が装備されていたが,手書き文字の誤認識による修正の手間は,非常に煩わしく感じた。

        ペン入力というのは,書き込む対象物が固定されているのが基本的条件で,対象物を人間が手で固定する場合は,両手による協調作業になると思われる。そのため,ペン入力でボタンやメニューをクリックする動作は,さほど問題とはならないが,ペン入力による文字入力を効率的に行うには,人間側のある程度の訓練が必要と思われる。

      (4)GPS適用可能エリアの制限

        本プロジェクトにおいてモバイル端末にGPS装置を接続して,現在地を取得・表示する機能を開発したが,実証実験エリア(鎌倉,日吉)でGPS装置から位置情報を取り出せたケースは少なかった。これは街中での使用が多く,建物等がGPS衛星からの電波を遮蔽していたためと考えられる。

5.2.授業面での課題

      (1)地図およびフィールドノートを用いた授業経験の有無

        モバイルGISを用いた学習の前提には,従来型の紙によるフィールドノートを用いた「身近な地域調査」等,既習のフィールドワークを行った生徒・教員共に授業経験のあることが前提になる。従来型の中等教育では,教室学習が主であるため,モバイルGISの導入には,フィールドワークを取り入れた授業自身の試行錯誤を伴う可能性が高い。

      (2)フィールドワークにおける授業環境作り

        現在のフィールドにおいて生徒達がモバイル機器を持って調査する姿は,一般的ではない。そのため,調査対象フィールドの適切な設定や,調査対象フィールド周辺の関係者(地域自治会,大学キャンパス管理者等)との関係作りも必要となる。

      (3)GISの理解

        従来の紙地図ベースの授業に比べ,モバイルGISを用いた授業では,フィールドへ行く前の計画準備として,調査テーマの選定だけでなく,フィールドワーク後のデータ処理(GISノートでのまとめ方)を考慮した調査データの設計という緻密な作業が必要になった。この作業は,調査項目を明確にしていくことから始まるが,ある程度のGISの理解が前提条件となる。

      (4)データ管理および運用方法の確立

        モバイルGISやGISノートといったコンピュータ機器を使って授業を行う場合,担当の教員がPC等の知識・スキルを持っていることが必要である。加えて本プロジェクトのようにモバイルGISとGISノートが連携する場合は,特にデータの扱いやある程度のファイル管理をできる必要がある。

        しかしながら,全ての現場の教員がこういった知識やスキルを持っているわけではないため,授業におけるGISの適用範囲が非常に制限されてしまう。

        そのため,授業の種類(あるいはテーマ)毎に,利用しやすいデータセットやデータ管理・運用方法等を整備しておく必要があると思われる。



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