E-Square ProjectEスクエア・プロジェクトホームページへ 平成13年度 成果報告書
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実践事例の報告  ジャカルタ日本人学校

「米」から広がる学びの輪
−情報メディアを活用したインドネシアと日本の遠隔地交流学習−

小学校第5学年 総合的な学習の時間 社会科
ジャカルタ日本人学校 富樫 朗
キーワード 総合的な学習,社会科,国際理解教育,情報教育,遠隔地交流学習

インターネット利用の意図
 ジャカルタ日本人学校では,在外教育施設の利点を生かして現地校との交流やインドネシア理解の学習を行い,国際理解教育を推進している。
 しかしながら,国際理解教育を進めるには,異文化理解と同様に,自国(日本)文化理解に関わる学習も必要不可欠である。双方の文化の共通点や相違点に気づき,認め合い,互いに尊重する態度を育てることこそが,真の国際理解教育であると言える。
 日本国内の学校の子供たちと交流学習を行うことは,自国(日本)文化理解を進める有効な手段の1つであり,その学習を可能にするのがインターネットを中心とした情報メディアである。情報メディアを有効に活用することで,学校の壁や国境を越えた学習が可能になる。

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1. 「米」から広がる学びの輪

(1) はじめに
 5年生の社会科で1番初めに学習するのは日本の米作りについてである。この学習により,子供たちは米の産地である山形県や新潟県を知り,学習パートナーとなる交流校の子供たちをより身近に感じることになる。一方で,インドネシアも米が主食の国であり,本校では毎年5年生が米作りの体験学習を行っている。「米」をきっかけにして,交流学習が始まり,年間を通した継続的な学習に発展させていく。

(2) ねらい
(a) インドネシア及び日本の文化(産業)に目を向け,それらの共通点・相違点を捉え, 互いに尊重する態度を育てる。
(b) 日本の交流校の子供たちと積極的に関わりを持ち,共に学び合う力を育てる。
(c) 個あるいは集団の課題を明確に持ち,情報メディアを有効に活用しながら,課題を解 決していく力を育てる。
(d) 学習の成果を自分なりの方法でまとめ,発信していく力を育てる。

(3) 利用場面
 本学習では,以下の場面でコンピュータを活用した。
(a) 電子メールの活用
 交流校との日常的な情報交換に電子メールを活用した。
(b) 同時会議システム(ネットミーティング)による交流
 自己PR・中間発表会・成果発表会において同時会議システム(ネットミーティング)を活用した。
(c) ホームページ作成
 1年間の活動を,ホームページを作成することでまとめた。

(4) 利用環境
(a) 使用機種  PT Nusantara Systems International オリジナルPC 60台 SONY PCG-F36/BP 1台
(b) 周辺機器  デジタルカメラ SONY DFC-P1
(c) 稼働環境  コンピュータルームの児童・生徒用パソコン60台(校内LANで接続)
          教師用ノートパソコン1台(ネットミーティングで使用)
(d) 利用ソフト アウトルック2000,ネットミーティング3.0,ホームページビルダー2001,
          インターネットエクスプローラ5.0

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2. 指導計画
(1) 年間スケジュール

※ アンクロン 竹製のインドネシアの楽器
※ バティック ろうけつ染め,あるいはろうけつ染めがほどこされた製品

(2) 各学習活動のねらいと内容

学習活動
ねらい
内容
自己PR 〇自己紹介を通して,交流校や交流校の子供たちの特長・特技を知る。 〇自己紹介カードを送り合ったり,ネットミーティングによるテレビ会議を行ったりして,互いに自己紹介を行い,自分たちの特技等を紹介し合う。
〇学習パートナーのデータベース化を図る。
米作り 〇日本とインドネシアの米作りについて知り,共通点や相違点に気付く。 〇社会科の学習で日本の米作りについて学習する。
〇米作りに関わるインドネシア語を学習する。(インドネシア人の教員による指導)
〇学校近辺にある田んぼを借りて,現地の学校の子供たちと共に,田んぼの持ち主(インドネシア人)の指導のもと,田植え・肥料と薬の散布・稲刈り・もみ踏み等の作業を行う。
〇共に作業した現地校の子供たちと調理をしたり,日本の伝統的な舞踊を披露したりして友好を深める。
〇自分たちが行った作業と,日本の米作りについて学習したことを比較したり,日本の交流校の子供たちと情報交換したりする。(中間発表会)
宿泊学習 〇茶畑や茶の製造工場を見学したり,茶摘みを体験したりして,インドネシアの農業について知る。 〇実行委員を中心に宿泊学習の計画を立てる。
〇宿泊学習に関わるインドネシア語を学習する。(インドネシア人の教員による指導)
〇宿泊学習に行き,茶畑や茶の製造工場を見学したり,茶摘みを体験したりする。
〇自分たちが行った活動を日本の交流校に伝えたり,交流校の活動について質問したりする。(中間発表会)
JJSフェスティバル 〇日本やインドネシアの音楽に触れ,ステージで発表することにより,表現する楽しさや,それぞれのよさに気付く。 〇JJSフェスティバルのステージ発表の計画を立てる。
・アンクロンを使ったインドネシアの音楽と日本の伝統的な音楽を組み合わせたものになるよう考える。
・交流校の子供たちに,ステージ発表のための日本の伝統的な音楽・舞踊について相談する。
〇練習を行う。必要に応じて交流校の子供たちのアドバイスを受ける。
〇JJSフェスティバルで発表する。
〇自分たちの取り組みを日本の交流校に伝える。(中間発表会)
バティック制作 〇日本やインドネシアの伝統工芸について知り,そのよさに気付く。 〇社会科の学習で日本の伝統工業について学習する。
〇インドネシアの伝統的な工芸であるバティックを知る。
〇バティックを制作する。
〇日本の伝統的な工芸品について交流校の子供たちに質問する。(中間発表会)
交流のまとめ 〇年間を通して行ってきた交流学習をまとめる。 〇年間を通して行ってきた交流学習をホームページを作成することでまとめる。
〇ネットミーティングによるテレビ会議で,交流校と1年間の学習の成果発表会を行う。
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3. 学習の展開
図1 電子メール
図1 電子メール

(1) 電子メールの活用
 日本の交流校との連絡手段として,国際電話やファクシミリ,郵便等が考えられるが,コストや伝達の速さを考慮して,電子メール(図1)を積極的に活用した。電子メールを活用することで,日本の交流校と質問や感想を送りあったり交流校に依頼をしたりする日常的な情報交換をスムーズに行うことができた。 

(2) 同時会議システム(ネットミーティング)による交流

(a) 自己PR
 6月,鳥海小・表町小とネットミーティング(図2)による自己紹介を行った。本校の児童にとって,ネットミーティングは初めての経験である。今回のネットミーティングは,代表児童数名が自分の特技を発表しあうという内容で,楽器の演奏(クラリネット・トランペット・リコーダー・ガムラン)・作品紹介(習字・絵・ビーズ)・趣味や特技の紹介(野球・サッカー・水泳)・組体操・早口言葉・だじゃれ等々,多種多様な特技が披露された。子供たちは次々に繰り出される相手校の特技に感心すると共に,相手の顔がリアルタイムで映し出されることで,親近感を深めた。

 

図2 ネットミーティング
図2 ネットミーティング
(b) 中間発表会
 10月,鳥海小とネットミーティングで中間発表会を行うことになった。今回のネットミーティングでは,米作り・宿泊学習・JJSフェスティバル・バティックの4つのグループに分かれて,これまでの自分たちの取り組みを紹介し,その取り組みに関連することを鳥海小に質問するという内容であった。自分たちの取り組みはクイズ形式にしたり,写真や絵,実物などを提示して紹介するなど,グループ毎に工夫が見られた。
(c) 成果発表会
 1月,表町小と成果発表会を行った。これまで総合的な学習の時間に行ってきた活動を紹介したり,質問したりするという内容だった。わかりやすい発表にするために,実物を提示したり実演したりする工夫が見られた。途中,相手の声が聞き取りにくくなったが,子供たちは断片的な声をつなぎ合わせて,何とか意味を探ろうと努力した。

図3 ホームページ
図3 ホームページ
(3) ホームページ作成
 4月からの総合的な学習をまとめるため,子供たちはホームページ(図3)作りに取り組んだ。ほとんどの子供がホームページ作りは初めてであったが,その活動に強い関心を示す子供が多かった。
 ホームページを作成するにあたって子供たちは米作り・宿泊学習・JJSフェスティバル・バティックの4つのグループに分かれた。原則的に1人1ページ担当することにし,それぞれのグループの中で内容と役割分担について話し合った。
 ホームページを見るのは,本校に関わりのある人たちであり,当然それには日本の交流校も含まれる。相手にわかりやすく伝えるため,過去の資料を見ながら自分たちの活動を振り返ったり,グループ内で話し合ったりする姿が見られた。このことは自分たちが学習してきたインドネシアの産業について,理解を深めることにもつながった。

 

子供の感想
 私は交流するのが大好きです。ですから,
「自己紹介したい人は手を挙げてください。」
と言われた時,真っ先に手を挙げました。メールで質問するときや返事するときも,たいていの時は手を挙げました。
 なぜ私が交流に興味を持ったかというと,今までテレビ電話で会話をした経験がなく,ぜひやってみたいという気持ちがあるからです。また,遠い国の人たちと友達になれるからです。
 これからも,もっといろんな人と交流したいです。
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4. 成果と課題

(1) 成果
(a) インターネットが国境を越えた交流学習を可能にした。
(b) 単発的・イベント的な交流ではなく,年間を通した継続的な交流が仲間意識を育み,心と心のつながりを生み出した。
(c) 相手を意識することで子供たちの学習に対する意欲が高まった。また,相手のことを考えてわかりやすい発表を心がけるなど,思いやりの気持ちも芽生えた。
(d) 自分たちの取り組みを発信するには,体験で得た知識や学習で使った資料を元に,伝える内容を吟味していく必要がある。その過程で,子供たちのインドネシアに対する理解が深まった。
(e) ネットミーティングでの実物の提示や実演が,子供たちにとってインパクトの強いものになった。本物をリアルタイムで見せ合えることが,ネットミーティングの最大のメ リットである。
(f) 交流学習により,子供たちは日本の米作り・伝統舞踊・伝統工芸等,日本の文化(産業)の一端を知り,日本とインドネシアの共通点・相違点を認識した。また,日本の交流校の取り組みを知り,刺激を受け,視野が広まった。

(2) 課題
(a) 総合的な学習は5学年全体(3クラス100名程度)で同一のカリキュラムで進めているが,日本との交流学習は企画担当者のクラスが単独で行うことが多い。学年全体として交流学習に取り組める時間的・内容的な工夫が必要である。
(b) 交流学習を行う場合,行事などとの兼ね合いで相手校と日程を調整することが難しい場合がある。

ワンポイントアドバイス
・インターネットが国境を越えた交流学習を可能にする。
・伝える相手がいることが,子供たちの意欲を喚起する。
・継続的な交流学習が,心と心のつながりを生み出す。
・実物の提示,実演が相手にインパクトを与える。

参加・協力校
山形県東村山郡山辺町立鳥海小学校  5・6年生  (東海林新司先生・新目巌先生)
新潟県長岡市立表町小学校  6年生  (篠田賢一先生・佐々木潤先生)
新潟県加茂市立加茂南小学校  5年生  (濱井民子先生)

参考文献
 東海林新司,篠田賢一,内山渉「総合的な学習と情報コミュニケーションの相互作用に関する実践研究」(DVD)2000年

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