E-Square ProjectEスクエア・プロジェクトホームページへ 平成13年度 成果報告書
目次へ戻る総目次へ戻る

「酸性雨/窒素酸化物調査プロジェクト」実践研究報告書

3. 研究の実施
目次へ戻る

3.1 参加校の募集とその支援
 昨年度の活動の一環として,サブ幹事校を設置し,地域を拠点にした活動形態の構築を試行した。各地の教員の地域における様々な活動の中で,募集/呼びかけを行ってきた。こうした活動からの反応もあり,本年度の募集として特別な試みは行わず,従来通りWeb及びメーリングリストを活用して行った(図 3-1)。
図 3-1 参加募集を呼びかけるWebページ
図 3-1 参加募集を呼びかけるWebページ

 通常の参加校に対しては,昨年度の募集時点で継続的な活動をお願いしており,特別な連絡が無い限り継続参加として処理した。昨年度,東京地区の小学校から,年度末までの期間限定の体験参加として,30校が加わった。こうした学校には個別に継続の意思確認を行い,継続を希望する学校には引き続き参加してもらうことにした。
 また,現状では,継続性の観点から本プロジェクトには学校として参加してもらうことにしている。従って,意志決定・合意形成に時間を要する学校もあることから,プロジェクト期間内を通じて,募集は適宜受け付けることとした。プロジェクト期間中,雑誌で紹介されたりしたこともあり,少しずつではあるが,年度を通じた申し込み・問い合わせがあった。その結果,海外からの参加も加わり,116校の学校(2002年1月現在)で活動を継続している。
 新規の参加校に対しては,従来通り測定機器の貸与を行った。継続参加校に関しては,熱心に活動している学校ほど,機器の損耗,消耗品の消費が早い。これらに関しては,本プロジェクトの継続的な運営を考える意味でも,自助努力による対応をお願いしている。しかし,教員への負担増大で活動が困難になる学校もあり,継続のために必要と考えられた学校に対しては,個別に必要機器を伺った上で提供した。
  学校で採集した雨水をイオン分析する際には,通常の採集方法・採集した雨水の取扱いが異なるため,「降水の採集方法とポリ瓶の使用方法」と題した書類を作成して各校に送付し,その活動を支援した。

目次へ戻る

3.2 観測及びデータの登録
 集まったデータを後々様々な視点から分析することを考えると,pH以外にも測定時の気象データを集めておきたい。酸性雨の観測時に定めている測定項目とその区分(測定を必須とするか任意とするか)を表 3-1に示す。多くの項目を準備しているが,実際に活動を開始するための第一歩,その壁は少しでも低い方がよいと考え,必須項目は最低限にとどめている。
表 3-1 測定項目

測定項目

区分

備考

観測日

必須

 

降雨開始時間

任意

 

天候

必須

「雨」または「雪」

平均pH

必須

 

pHステップデータ

任意

中高のみ,

平均導電率

任意

中高のみ

導電率ステップデータ

任意

中高のみ

降水量

任意

 

風向き

任意

 

風速

任意

 

気温

任意

 

コメント

任意

 

観測機器

必須

「雨彦くん」または「レインゴーランド」

 また,測定にあたっては,その方法にも留意する必要がある。例えば,機器の校正を正しく行った否かで測定値が大きく異なることが,これまでの活動からも明らかになっている。そこで,本プロジェクトでは従来から測定方法をマニュアル化して提供している。本プロジェクトのWebページは,プロジェクト継続の過程で,その時々のニーズに合わせて画面や機能が盛り込まれ,継ぎ接ぎ的な部分がでてきている。そこで,サイト構成を全面的に見直し,すべてのマニュアルをWeb上からわかりやすく提供している。
 これらの通常測定に加え,今年度は梅雨時の雨水を採集,冷凍保存の上,クール宅急便にて広島大学に送付し,イオンクロマトグラフによる詳細な分析を行うこととした。過去に秋口の雨を分析したことはあるが,梅雨時の雨のイオンクロマト分析は今回がはじめてである。
 通常測定はマニュアルに従って測定を行い,その結果をWeb画面から登録する。データの閲覧は誰でもできるが,データの登録はパスワードによるアクセス制御を設定しており,観測した学校が自校の情報のみを登録することができるようになっている。自校の観測データの修正/削除といった管理も,参加校自身の手で,すべてWeb画面上から行えるようになっている。

目次へ戻る

3.3 観測データの活用

 参加校により登録されたデータは,登録と同時にすべて公開され,自由に活用することができる。
 Web画面上では,「すべての参加校の最新測定データ」「個別参加校のすべての測定データ」を一覧で見ることができる。
 各学校がダウンロードし,独自に活用するための支援も行っている。Webサーバ上では,毎晩,全参加校の全データを1つのファイルに統括するバッチ処理を行っている。従って,何度もダウンロードすることなく,1つのファイルのファイルのみをダウンロードすることで,全データを取得することができる。データはCSV形式で提供しており,Excelなどの表計算ソフトで自由に加工して利用することができる。自分たちの測定データを用いて,グラフ化してみるなど,情報活用能力を身につけるために利用することが可能である。
 また,児童・生徒自身による観測データ加え,専門家によるイオンクロマトグラフ分析データを提供している。含まれるイオン濃度に加え,pHや導電率といったデータも厳密に測定・提供されているため,自分たちが同日の雨を精確に測定できたかを確かめることもできる。その結果,かなりの精度で測定可能なことを確認し,活動に自身を深めている学校も多い。イオン分析の結果や,専門家の見解からは,自分たちの手で採集した雨から色々なことがわかることを認識するなど,活動の動機付けになっているようである。
 表形式の一覧表示以外にも,測定データをJava Appletによりグラフ表示する機能を提供している。「降水量が多くなるにつれてpHが一定値に近づいていく(汚染物質が雨に吸収されるためと考えられる)」「降水量が多いほど導電率が小さくなる傾向にある(導電率が高いほど汚染物質が一般的に多い)」といった傾向を,実データを通してビジュアルに見ることができる。観測データから読みとることのできることを本年度まとめた(実践マニュアル7章)が,その一部をこうしたツールを用いて実際に試してみることにより,学習が深まるであろう。さらに,こうした活用サンプルを通して,豊富な生データをダウンロードし,独自の考えで様々分析を行われることが期待される。

目次へ戻る

3.4 参加校間の交流

3.4.1 掲示板の運営

 定常的に情報交換を行うには掲示板が便利である。投稿内容が1カ所に集約され,履歴をいつでも容易に参照できる。本プロジェクトでも,従来から電子掲示板を運営し,参加校間の交流や情報共有を目指している。これまでは誰もが書き込み/閲覧可能な掲示板を運営していたが,プロジェクトが活性化し,注目を集めるに従い,いたずら書き込みなどの問題も発生してきた。
 そこで本年度は,簡単なパスワード認証を行うこととした。ただし,管理を厳しくすることで利用しにくくなり,非活性化してしまうことは本末転倒であるため,共通のパスワード(合言葉)を共有する簡易な方式としている。
 また,メールではなかなかやりとりしずらい画像を取り扱えるようにした。画像投稿時には自動的にサムネイルを作成し,一覧表示の際にはそのサムネイル画像が表示されるため,回線負担が少なく,これまで通り軽快なブラウジングが可能である。注目する画像を見つけた際に,サムネイル画像をクリックすることで,オリジナルの大きなサイズの画像を表示することができる。特にテーマは定めていないが,画像が投稿できるようになったことで,各地域における酸性雨被害の状況を報告し合う例が増えている。

図 3-2 掲示板の画面例(左が投稿一覧表示時,右が個別投稿表示時の画面)
図 3-2 掲示板の画面例(左が投稿一覧表示時,右が個別投稿表示時の画面)

 掲示板を運営する際の1つの問題点として,その確認の手間がある。通常,掲示板では,投稿の有無は実際に掲示板のページ(URL)をWebブラウザに表示して確認しなければわからない。投稿が相次ぎ,日々確認を行うような場合には問題は少ない。しかし,活動していく中では,多くの学校からの書き込みがある場合もあれば,行事が重なるなど,投稿が少なくなる場合もある。何度か見ても新規の投稿がなく,そのうちに誰も確認しなくなるという事例が散見される。そこで本プロジェクトでは,投稿があった際には,その旨と当該WebページへのURLをメーリングリストに自動的に流す仕組みを構築・利用することとした。これにより,「確認したのに新たな投稿がなかった」というようなことは解消される。利用が一時的に非活性化してしまった場合にも,誰かが投稿することで,それがメールを通じて確実に他の参加者に伝わるため,忘れ去られることなく使い続けることができると考えている。

3.4.2 チャットの運営

 電子掲示板の次の段階として,どんな交流が可能か,たとえば児童・生徒用のメーリングリストの設置も検討した。しかし,児童・生徒が自由にメールを読み書きできる環境が整っている学校が少ないのが実状である。そこで,電子掲示板に代わる交流のためのシステムとして,Webの画面上での「チャット」を利用することにした。
 チャットのシステムは今ではさまざまなホームページ上に設定されており,中にはアイドルやミュージシャンのホームページなどにあるチャットを毎日のように楽しんでいる生徒もいる。遠く離れた同じ興味関心を共有する人たちと文字によって交流するチャットのシステムは,インターネット利用の楽しみの1つになっている。
 昨年度,実験的に2度のチャット大会を実施してみたところ,課題はあるものの好評であった。そこで,本年度はWeb上で利用可能なチャットルームを常設することにした。どこかの学校の誰かが「チャットしましょう」と呼びかければ,気軽にプロジェクトの仲間が集まれるものにしていきたいと考えている。

図 3-3 運営しているWeb上でのチャット
図 3-3 運営しているWeb上でのチャット
目次へ戻る

3.5 教材化の推進

3.5.1 授業におけるデータ活用方法の検討

 これまで,データの活用は参加校の自由に任せてきた。限られた時間内で利用するためには,何らかの参考になる情報が必要である。こうした背景から,蓄積されたデータをWeb上でグラフ化して閲覧できるような仕組みをJava Appletにより構築した。
 本年度の取り組みとして,こうしたツール類を拡張していくべきか,活用方法(例)をまとめていくべきか,その両面から検討を行った。昨年度の活動の一環として,秋の雨をイオンクロマトグラフによる測定結果を専門家自身に分析・解説してもらった。本年度も,梅雨の雨をイオン分析してもらっている。また,データも,測定の頻度や,その周辺データ取得状況にばらつきはあるものの,かなりの量が集まってきている。そこで,本年度は,これらのデータ群を現場教員の目で見て,どのように分析可能であるか,その可能性をまとめることにした。
 具体的には,本プロジェクトのこれまでの全観測データ,中根研究室におけるイオン分析の結果を,表計算ソフトとしてMicrosoft Excelを用いて比較,分析を行った。なお,観測データは,本プロジェクトホームページ上で,全参加校分のデータを一括ダウンロードできる仕組みが構築されており,それによりダウンロードした。
 これら分析結果の実際は,実践マニュアルの7章に記載する。これまで,観測データを漠然と眺め,それに関する議論なども一部の参加校間でなされてきたが,全データを包括的に分析したのは,はじめてである。今回,ある視点からの分析を行ったわけだが,これで終了するわけではなく,こうしたデータを公開し,素材とすることで,他校でも「こんな分析をしてみました」とか,それに対する意見・反論などがでて,議論を活性化,盛り上げていきたい。

3.5.2 プロジェクト参加校実践事例の作成

 理科教員が中心となってプロジェクトを開始したが,それ以外に取り組みもある。必ずしもうまく進んでいるものばかりでもない。取り組みの過程では,苦労もあり,学校の枠を超えて,児童・生徒を育てていきたいという教員の熱意により,プロジェクトへの参加・活動が継続されている。こうした過程をまとめることはこれから取り組もうという学校に参考になるはずである。従って,参加校から,取り組んだ経過,その中で苦労した点,留意した事項などをまとめて報告してもらうことにした。授業として取り組んだものに関しては,指導案についても合わせて報告頂くことにした。
 具体的な内容に関しては,実践マニュアル3章 〜 6章に記載する。昨年度までにもいくつかの事例報告を得ており,これらに関しては,本年度の活動のなかでWebページにまとめ,公開している(図 3-4)。

図 3-4 Web上で公開している指導案などの各種情報
図 3-4 Web上で公開している指導案などの各種情報

こうした活動を公開し,参加校間でお互いに参照することで,3.5.1 で示したデータの活用同様,交流/意見交換がもたれ,より活発な活動に結びつけていきたいと考えている。

3.5.3 ホームページの整備

 本プロジェクトでは,1995年のプロジェクト開始以来,ホームページを運営している。プロジェクトの過程で試行した事項なども盛り込まれ,全体像が見えずらくなっている部分も出てきた。そこで,これまでの機能的な面は保ちつつ,全体構成の見直しを行うこととした。
 見直しを行ったホームページの構成を図 3-5に示す。観測したデータの管理(登録/変更/削除など)及び交流の場(掲示板/チャットなど)以外のページは,参加校以外にもすべて公開している。
 「ホームページ」では,図 3-5に各メニューを表示しているほか,参加校募集へのリンクなど,その時点でのトピックを掲載している。
 「観測方法」では,これまでにプロジェクトで活用してきたマニュアル類をWeb化し,まとめて配置している。実際に児童・生徒に使わせてみた教員自身が,留意すべき点や間違えやすい部分にポイントを置いて記述したものであり,学校現場にとっては,機器付属のマニュアルに比べて,扱いやすいものになっていると考えている。
 「データ閲覧」のページでは,これまでに蓄積された多くのデータを公開している。全学校の最新データ,学校ごとの蓄積データを閲覧することができる。これらの全校分のデータは,日々,CSVデータとして自動集計されるようになっている。従って,ダウンロードの上,Excelなどの表計算ソフトなどで,各学校で自由に教材データとして活用することができる。また,pHと降雨量との関係,導電率と降雨量との関係など,典型的な分析は,ホームページ上でもグラフ表示できるようにしている。
 「分析結果」では,広島大学中根研究室にてイオン分析して頂いた結果を掲載している。この分析では,雨水中に含まれるイオン量の他,学校が観測しているpH値や導電率も測定している。従って,結果が自分たちの測定したものと違う場合にはその理由を考察するなど,測定方法を見直すきっかけとなる。これまでの傾向としては,概ね,測定値はなかなかの精度のものとなっている。環境汚染が進んでいるのにpH値があまり酸性を示さず,測定方法がどこかおかしいのではないか,と不安に思っていた学校が,イオン分析の結果と照らし合わせてその理由がわかり,自分たちの測定に自信を持ったという報告もある。こうしたデータを効果的に発信していくことは,活動の基盤をしっかりとするという意味において非常に重要である。高校生レベルでは,こうしたデータを自分たちで活用している事例もある。
 「実践事例」には,3.5.2 に記述した本プロジェクトへの取り組み事例をまとめ,掲載している。
 「観測データ管理」及び各種交流の場は参加校限定のページである。
以上がホームページの全体像である。今後,プロジェクトを継続するにあたっては,観測した生データと本年度整備した実践事例との有機的な統合を目指していきたいと考えている。

図 3-5 ホームページ全体構成
図 3-5 ホームページ全体構成

目次へ戻る

3.6 プロジェクトの自律的運営に向けた研究

3.6.1 プロジェクト継続/発展に向けた課題

 本プロジェクトは注目を集め,教科書にも取り上げられるほどになった。今後,いかに安定して継続していくかが重要な課題となる。本年度,プロジェクト関係者の枠組みを超え,教育委員会や環境系財団など,他組織をプロジェクトの紹介かたがた訪問し,意見交換を行い,より安定的な体制/プロジェクト運営を検討することとした。訪問/意見交換に先立ち,プロジェクトの現状及び継続/発展に向けた課題の整理を行った。

(1)ハード・インフラ
 サーバ及びその利用のための回線は幹事校が負担している。学校の資源を共有している形であり,現状,費用面での大きな問題は発生していない。回線も近々高速なものに切り替わる予定である。幹事校の手元にあることにより,メインテナンスが行いやすいというメリットが現在のところ大きい。

(2)観測機器
 新規参加校向けには,プロジェクト費用から無償貸与している。自助努力により調達している学校もあるが,機器の貸与なしでは観測活動を続けられない学校も多い。ある程度の規模を保ちつつ活動を継続していくためには,今後も支援が必要である。

(3)イオン分析
 専門家の協力を得て,実費分で対応頂いている。地に足の着いた活動とするためにも,参加校の動機付けのためにも欠かせない活動である。

(4)参加者間の集い
 プロジェクト参加校同士,地域内で集まったり,個人的に面識があることはあるが,プロジェクト全体として集まったのは,これまでの活動を通じて,昨年度のただ1回である。測定という地道な活動を継続するためには,こうした集いでのプレゼンテーションなど,目標を持つことも重要であり,全体の活性化のためにも力を入れていきたい部分である。

(5)Webページ/システムの整備
 データ登録/閲覧/活用は,現在のシステムで一通り行うことができる。参加校情報の管理やデータのメインテナンス作業もすべてWeb上で行えるようになっており,幹事校や参加校自身の手により定常的に運営可能である。掲示板の設置・運営もWeb上からの容易な操作で対応できる。

 ただし,基本的な仕組みは,プロジェクト開始当初に構築されたものであり,状況の変化や技術の進歩などにもより改良の余地はある。また,本年度の活動として教材としてまとめたものを,効果的に発信していこうとしたり,その活用をシステム的に支援していこうとした場合には,システム開発など,相応の対応が必要となる。充実したプロジェクトの実現のためには,進行状況に動きに応じた柔軟な対応を行えることが望ましく,問題となる部分である。

以上の現状及び課題を念頭に,各機関を訪問調査したり,意見交換を行ったりした。その結果を3.6.2 〜3.6.4 に記述する。

3.6.2 教育委員会と本プロジェクト

 本プロジェクトでは,長期的な展望のもとに,教育委員会をも巻き込んだ形でのプロジェクト運営体制を研究することが,本年度の課題として挙げられている。そこで,まずは,幹事校の地域の教育委員会を訪問し,協力の可能性を調査することとした。3.6.1 に整理した現状及び課題を念頭に,「ハード・インフラ面での支援」「観測機器など予算面の支援」「プロジェクト運営面での支援」の可能性に関して現状を調査し,見解をまとめた。

(1)ハード・インフラ面での支援に関して
 教育委員会の持つサーバを,学校主体のプロジェクトにレンタルするなどの事例はあまり無く,明確な運用規則などは存在しないようである。従って,こうした環境を利用させてもらおうとする場合には,運用規則などに関する詳細な相談・調整を行っていく必要がある。こうした地道な活動を行っていけば,ハード・インフラ面で,教育委員会に既存の設備を利用させてもらえる可能性は十分にあるだろう。サーバ環境などに困っている学校の場合には,検討する価値があると思われる。
 ただし本プロジェクトの場合には,

  • 幹事校で環境が準備できている
  • データベース・チャット・掲示板・アンケートなど,プロジェクトの状況に応じてサーバを柔軟に(ルート権限を用いて)運用できた方が都合がよい
  • (柔軟に運用したいという都合上)手元にコンピュータがあった方が運用しやすい

といった事情があり,プロジェクト既存の環境を継続することのメリットの方が大きいと判断した。当面は現環境を維持していく予定である。

(2)観測機器など予算面での支援に関して
 まず,当然ながら,管轄地域外へのサポートは不可能である。管轄地域内である場合も,プロジェクト参加校のみに手厚い支援を行うわけにはいかず,通常の学校予算の中から工面するのが常道であるとのことであった。既存設備の提供はともかく,新たな予算を必要とするものは困難なようである。予算を工面しようという学校が増えるよう,本プロジェクトをこれまで以上に魅力的なものとし,積極的な広報を続けていく必要があると言えるだろう。

(3)プロジェクト運営面での支援に関して
 本プロジェクトには,全国各地からの学校が参加している。従って,プロジェクト自身の運営体制に定常的に入り,全面的なバックアップを行うことは困難であるとの見解であった。ただし,地域内で行われるイベントへの後援や,地域に閉じた重点的な取り組みに関する環境面での支援などは可能性があるとのことである。

 以上から,プロジェクト全体を教育委員会に支援してもらうというのではなく,地域における自律的な取り組みにむけた関係を築くべきであるといえるだろう。教育委員会と本プロジェクトとの関係は間接的なものとなるが,長期的に見れば,各地域におけるプロジェクトを底上げしていくことが,プロジェクト全体の活性化にもつながると考えられる。こうした調査結果をもとに,本プロジェクトに積極的に取り組んでいる学校の,その地域における教育委員会との関係を調査し,積極的な取り組みの秘訣を探ることにした。
 積極的な取り組みを行っているいくつかの学校へ個別にその動機を探ったところ,「教員自身の好奇心が拠り所になっている」という声が多かった。そうした中で,サブ幹事校の1つである中学校において,教育委員会を巻き込んだ活動を行っていることがわかり,紹介により教育委員会を訪問することにした。本プロジェクトに参加している教員らが市内の中学校理科部会に呼びかけ,理科部会として教育研究所(教育委員会)との関係を持っているとのことである。「本プロジェクトに参加してグローバルな状況を観察するとともに,同一地域内での微妙な違いにも目を向けよう」ということが,動機付けになっているようである。担当教員に活動の詳細を伺うとともに,教育研究所も実際に訪問し,協力関係の調査を行った。伺った内容の概要を表 3-2に示す。

表 3-2 地域における活動のヒアリングの概要

当該市の理科部会の活動

「共同で何か理科的な活動を実践したい」と考えた際には,理科部研究会長経由で様々な働きかけを行うようにしている。酸性雨観測にあたっては,教育研究所や大学の協力を取り付けている。

教育研究所と学校との関係

測定機器は各学校が自助努力により入手しており,特別なサポートは行っていない。教育研究所ではグループウェアソフトを導入するなど,市内のインフラを整備することで,有効な「活動の場」を提供するように努めている。各学校では,この「場」が活用され,様々な議論が行われ,活動が深められている。

教育研究所のプロジェクトに対する評価

本年度ようやく市内すべての中学校で活動するという広がりを見せている。当初から観測している学校は7年目に入る。生徒の活動も年々深まりを見せており,「自分たちの手で調べること」「継続すること」の重要性を感じている。

今後の課題

環境教育が学内の枠は超えることができた。よりグローバルに考えるため,今後,地域の壁をどう超えて活動していくかが課題である。困難を感じている。活動を継続するためには,機器のメンテナンス費用,協力者(この場合大学)への報酬も検討しなければならない課題である。

 事前の調査において,教育委員会から得られるであろうと推測した支援を,現場教員の要望をもとに,理科部会という組織を通して教育委員会から得,協調して活動しているモデルケースといえるだろう。当該校は,地域での活動をベースに本プロジェクトに様々な情報提供を行っており,活性化に貢献して頂いている。また,全国のデータを元に,地域の活動にもフィードバックを行っているという。特定の地域や教育委員会が本プロジェクトのように全国規模のプロジェクトを支援することは難しい。しかし,地域における活動基盤がないことには,学校における活動は継続せずにプロジェクト全体としても衰退していく。また,本プロジェクトの運営を考えた場合にも,参加校が事務局の支援なしに活動できることは大きい。
 この事例は,あくまでも現場教員からのボトムアップの要求があって,教育委員会との協調体制を築くことができたものである。本プロジェクト推進委員会ではこの事例を踏まえ,本プロジェクトから教育委員会に働きかけるのではなく,参加校側から働きかけることができるよう,その支援を行えるよう活動しようという見解に至った。各地域で理科研究部会は行われているが「そうした場で活動を皆に知ってもらいたいがなかなか口頭では伝わりずらい」という実状もある。従って,本プロジェクトにおける活動を目に見えるものとしてうったえかけられるよう,本年度活動のもう1つの柱である教材化により一層の力を入れることとした。こうした事例を含め,実践マニュアルに整備することはもちろん,さらなる広報効果とインパクトをもとめ,一般書籍として刊行する予定でもある。刊行後には各参加校などに配布し,プロジェクトの広報と地域における活動の定着に努めたいと考えている。
 本年度は,プリントやパンフレットを作成し,参加校が地域における活動を行う際には配布し,普及・啓蒙に努めてもらった。活動の結果として,興味を示しながらも実際に動くところまで至るのは少数であるというのが実体である。各地域において教育委員会までを巻き込んだ活動に育てていくためにも,書籍の刊行を契機として,地域における普及・啓蒙に努めていきたいと考えている。

3.6.3 小学校と本プロジェクト

 本プロジェクトでは,中・高校生向けのプロジェクトとしてスタートした。以降,その枠ははずし,どの学校からの参加も受け付けることにしたが,扱う内容上,依然として中・高等学校からの参加が多い。小学校では,pHということすら習っていないため,学内での位置づけが難しいということもある。
 もちろん,取り組み方を考えれば,小学校でも可能な参加形態はあるはずであり,実際に小学校での取り組み事例も報告されている。また,どう取り組んでよいかはわからないが,実体験を重視するという立場から,本プロジェクトへ感心を示す小学校も多い。昨年度,理科研究会経由で東京地区の小学校約30校が体験参加した。その状況を元に,理科研究部会長を訪ね,小学生に対する本プロジェクトのあり方を考察した。その概要を表 3-3に示す。

表 3-3 小学校のための本プロジェクトに関して

データ測定の必要性について

小学生だからこそ,人の測定したデータより,自分自身で測定したデータに興味を持つ傾向にある。学校現場では,そうした実体験で苦労してこそ,他の学校が測定したデータの価値を認識させることができ,他校とのデータ交換へ目が向いていくと考えている。

本プロジェクトとの関わりに関して

小学生の興味は,中・高と比べてシンプルなものである場合が多い。「自分たちの学校では雨が降っているが,遠くの別の学校ではどうだろうか?」などといった話題で盛り上がることもある。小・中・高の連携は当然重要であるが,小学生専用の場(掲示板/チャット/メーリングリスト/オフ会など)を,プロジェクトの中に設定することも活性化につながるかもしれない。

3.6.4 プロジェクトの運営体制に関して

 プロジェクトを継続するための体制を運営面,資金面で検討するため,教育委員会との共同体制を組んだり,環境関連の助成に応募できないかなど,各機関を訪問して,その可能性を探った。
 教育委員会からは,3.6.2 に記述したように地域における活動に対する支援を頂ける可能性がある。また,当該地域における学校や研究会を主催とするイベントに対する後援を頂く可能性もある。金銭的な負担は困難であるが,後援頂くことで多くの学校が参加しやすくなるなどの効果があり,今後検討していくべきであろう。
 環境系の財団に関しては,助成に関するヒアリング/情報収集を行った。その結果,本プロジェクトの一環としてでも,新たなテーマ,課題を見いだすことで数十万から数百万規模の資金面での援助を得られる可能性があることがわかった。本プロジェクト全般に支援を受けることは,これまでの経緯からしても困難であるが,教材として部分的な充実をはかったり,プロジェクト活性化のためにイベントを開催するなどの際には,十分可能性があることがわかった。

3.6.5 プロジェクト運営の方向性

 教育委員会: 地域における活動のための場を提供してもらう。その地域で交流会・発表を行うような場合には,後援してもらうと,色々な学校が参加してもらいやすいということがある。
 今回の調査からは,コンピュータ教育開発センターに行って頂いたようなプロジェクト自体の全面的なバックアップは,他機関からは得にくいことが明らかになった。定常運営を続けながら,個別の課題・研究テーマに絞って,助成への申請を行っていくなどの必要がある。
 イベントを行うことに対する助成などであれば得られる可能性もある。発表して何らかのフィードバックを得られるということは,取り組む意欲につながるため,プロジェクト全体を活性化していくためにも検討の価値がある。

目次へ戻る

前のページへ次のページへ このページの先頭へ戻る


CEC