E-Square ProjectEスクエア・プロジェクトホームページへ 平成13年度 成果報告書
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「酸性雨/窒素酸化物調査プロジェクト」実践研究報告書

4. 研究の結果
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4.1 実践活動の成果

(1)インターネットを利用した共同学習のプラットフォームの構築
 インターネットを利用するための環境が整うにつれ,学校で授業を行うために必要なコンテンツの開発が求められている。このプロジェクトは参加校の活動によって,より充実した素材と活動の場が構築されていくという,自己成長型のプラットフォームを構築することに成功した。
 これから本格的な実施が始まる,「総合的な学習」の場として期待されている。  

(2)グローバルな環境学習を推進する為の手法の開発
 学校における環境教育は,「その成果を広く公開し,他校との交流を深めながら進める」という手法が有効とされながら,現実的には困難であった。環境教育の分野での,インターネットの利用は情報の発信・交流を一気に可能にしたといえる。
 当プロジェクトの手法は,機器の貸与,観測方法の統一,WEB上でのフィードバックなど,今後の環境教育の参考になる,画期的なものであった。

(3)学校・大学・企業の連携による,インターネットを利用した教材開発と運営方法の開発
 Eスクエアプロジェクトの大きな枠組みの中で

  • 学校―――先生と生徒によるプロジェクトの推進
  • 大学―――専門家によるサポート
  • 企業―――プロジェクトの運営,教材開発,ホームページ管理など

の三者の共同的な活動を,効果的に設計し実施することが出来た。

(4)継続的なデータの蓄積による日本の酸性雨の実態が解析
 参加校の継続的な活動と,蓄積されたデータをもとに,日本の雨の全体的な傾向をつかむことが出来た。生徒の観測データをもとに,解明が出来たことの意味は大きい。

(5)学校の先生・生徒のネットワーク活用に対する興味・関心の向上
 この活動を通して,先生・生徒のネットワーク利用についての関心を向上させることが出来た。
具体的な活動を継続しながら,インターネットに対する理解を深めていくことが出来た。

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4.2 実践活動における留意点・課題

(1)ネットワークを利用するためのきめの細かい情報基盤整備
 インターネットを利用して,継続的な活動が要求される,実践活動を行うためには,快適なネットワーク環境を学校の中に作る必要がある。高速の専用回線の確保,担当の教師の負担にならないように配慮されたネットワークの管理体制,教師それぞれが自由に使うことが出来る,個人用パソコンの設置など,予算的な措置を講じることで解決することが多い。具体的に言えば,先生あての電子メールが,確実に機能する環境を作ることである。さらに実践活動に必要なツールの充実も重要である。パソコンやOSのサイクルが短いことも,学校での継続的な取り組みを難しくしている一因である。学校での使用を考慮した,簡単である程度長期間利用できるアプリケーションの開発も,考えなければならない。

(2)人的なネットワークの構築  〜オフラインミ−ティングの必要性〜
 Webを利用して情報の発信を行ったり,電子メールで連絡は簡単に出来ても,継続的な協働作業を進めていくためには,先生や生徒が集まって,直接的な交流をもつことが不可欠である。プロジェクトの規模が大きくなると,その規模の大きさ故に他校との関係が希薄になりがちである。お互いを知らない場合,メーリングリストへの投稿もためらわれがちである。そのための方法としては,担当教師の研修会や生徒を交えた研究発表会の実施,このプロジェクとの場合は「酸性雨サミット」の実施などが考えられる。
 全国的なプロジェクトの場合は時期の問題,旅費の問題があるが,計画的に実施することで,参加が増えていくものと思われる。このプロジェクトにおいては,平成12年度8月に行ったオフラインミーティングによって,活動が活発になった実績がある。

(3)広域プロジェクトを支えるための推進組織の構築
 多様な校種,多様なグループにまたがるプロジェクトを,運営していくためには,事務局だけのポリシーで,長期間推進するには無理が生じる。これを解決するための1つの方策が,参加校の先生の中で,指導的な立場にある方に,自主的に参加していただくことで構成する,推進委員会の設置である。
 推進委員会は電子メールによる情報交換に加えて,定期的なオフラインミーティングをすることも必要である。こうした活動に対して,教育委員会に後援してもらえる可能性は十分にあり,全国の参加校が参加しやすいよう,協力を得やすい関係を構築しておくべきである。

(4)観測データの運用と活用に関する諸問題の解明
 内容は次の2点に整理することができる。

 観測データを登録するためのサーバーの管理
 事務局にとって,サーバーの管理はきわめて重要な業務である。サーバーの故障によるデ―タの破壊は,プロジェクトの停止を意味するからである。セキュリティーの面でも安心出来るサーバーを運用すること,バックアップを定期的に取ることなど,事務局の負担を大きくすることばかりである。管理をどのような組織の誰が行うのか,検討するとともに,受け皿を作らなければならない。

 観測データの教材化 −使いやすい教材としての観測結果の提供―
 観測し登録されたデータは,各参加校で自由に利用しても良いことになっているが,現実的には利用難しい。プロジェクトが始まってから7年の経験から言えることである。データをどのように見ればいいのか,どのように整理すればいいのか,といったことは専門家の指導を受けないと,学校現場の先生方には難しいのである。
 現在このプロジェクトでは,データを加工し,わかりやすいグラフにしたものを,ホームページ上に掲載している。どのように加工すれば良いかを検討するのも,推進委員会の業務である。

(5)プロジェクトを推進するための,資金の調達について

 このプロジェクトでは,スタートした時点から,観測機器を参加校に貸与している。このことがプロジェクトが成功した要因の1つである。日本の学校の予算は,新しい試みに無条件でお金を充当できる状態ではないのである。加えて,プロジェクトを推進するための事務局経費,ホームページを作成するための経費など,かなりの資金が必要になる。
 このような予算を研究開発費ではなく,経常的な運営経費として予算化出来る方法と受け皿を見いださなければならない。

(6)学校における教育活動を,長期的に継続するためには
 学校の教員は,様々な仕事を持っていて,大変忙しい。そのような中で,長期的にプロジェクトに参加して,活動していただくためには,プロジェクトの推進方法に工夫が必要である。毎年変わる生徒,転勤で勤務校の変わる先生,学校という組織のなかでの,プロジェクトの受け止め方など推進を妨げる要素は多い。
 プロジェクトを推進するためのポィシーは,簡潔で参加校の負担(経済的なものを含めて)を出来るだけ小さくすることと,活動出来ない状況が続いても認めあうことである。

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4.3 大規模プロジェクトのあり方

(1)2つのネットワークの構築 
〜情報インフラの整備と人と人の繋がりの強化〜
 100校プロジェクトによってスタートした,日本の学校におけるインターネットの利用は,まずネットワークを利用できる環境を学校に作ることであった。多くの方々の努力によって整備が行われ,現在では光ファイバーを使った環境が整備されるようになってきた。学校で利用できる端末も,充実してきた。コンピュータ同志を,高速回線で接続するネットワークづくりは,着実に進んでいる。
 それぞれのコンピュータの下には,先生や生徒がおり,その利用も多様化しながら進んでいる。しかし現段階では,個人のレベルでの利用に止まっている。本来コンピュータの利用は個人での利用がベースになっているということも関係している。
 しかし,「酸性雨調査プロジェクト」のような大規模プロジェクトにおいては,個人のレベルでの利用の段階に止まっていたのではうまくいかない。利用する先生や生徒が,電子メールやチャット,Webでの情報発信,オフラインミーティングなどを通してつながりを深め,人と人とのネットワークをつくることが大切である。当プロジェクトにおいては,事務局を核にしてかなりのネットワークを構築出来たと考えているが,まだまだ不十分である。
 インフラの整備が進むにつれ,2つのネットワークの調和のとれた充実が一層求められる。

(2)組織の壁を越えた推進組織の構築
〜 様々な壁を越えた組織づくり 〜
 大規模プロジェクトにおいては,活動の範囲が学校が所属する行政区域を出てしまったり,校種が違うために,学校が所属する研究組織の枠をはみ出してしまったりしてしまう。場合によっては,外国の学校が加わる場合もある。
 このような広域的な研究組織を,運営できる組織のあり方も,現状においては定まっていない。大規模プロジェクトの受け皿がないという状況が,生まれてしまう可能性すらある。環境教育をテーマにした大規模プロジェクトを,草の根的な運営から,レベルの高い最先端の技術を使ったプロジェクトにするための努力が,教育現場と行政機関の両者に求められている。

(3)参加する学校の教育目標を包括できるプロジェクト理念の確立
〜 参加グループの教育目標を認めあうことができる運営体制 〜
 日本には,プロジェクトを運営する場合,目標や活動内容を明確にして,参加者が一致して対応するという風土がある。しかし個性を尊重し,自分の意見をはっきり述べ,自由な発想で活動することを,学校教育の基本的な精神の中に,取り入れようとしている現在においては,単線型の活動だけでは不十分である。インターネットを利用した協働学習型のプロジェクトには,単線型の活動を補う,効果的な手法を取り入れることが出来る。
 学校間による意識の違い,グループ間の活動目標の違い,教える先生の専門分野の違い,参加する生徒の置かれている状況の違いなどを,包括的に許容することによって,1つのプロジェクトの中に,多様な価値を見いだそうとするのである。プロジェクトの価値は参加校それぞれによって違っていていいし,参加者一人一人について違っていてもいいのである。
 そのためには,プロジェクトの共有部分を明確にしながら,その他の部分については,参加校の自由裁量としてまかせてしまうことになる。インターネットを利用した大規模プロジェクトは,このようなコンセプトで進める必要があろう。

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