E-Square ProjectEスクエア・プロジェクトホームページへ 平成13年度 成果報告書
目次へ戻る総目次へ戻る

特別支援教育ネットワーク・センターの実践研究

1. 研究のねらい
目次へ戻る

1.1 背景

 本実践研究の背景について,以下,a.〜d.の観点から記す。

a.特殊教育から特別支援教育へ
  近年,ノーマライゼーションやインクルージョンの考え方の進展,障害の重度・重複化や多様化,障害のある子どもたちの通常学級への就学の増加,教育の地方分権など,特殊教育をめぐる状況が大きく変化している。21世紀の障害のある子どもたちの新しい教育は,障害があるなしにかかわらず,子どもたちの視点に立って一人一人の能力を最大限に伸ばし自立や社会参加するための基盤となる「生きる力」を培うため,「一人一人のニーズを把握し特別な支援を行う」という考えに基づいた対応を図る必要がある。

b.情報技術活用の重要性
  「21世紀の特殊教育の在り方について(最終報告)〜一人一人のニーズに応じた特別な支援の在り方について〜」(2001/1/15,文部科学省)では,「最新の情報技術(IT)を活用して障害のある児童生徒等が障害に基づく種々の困難を改善・克服し,自立や社会参加を促すため,一人一人の障害の状態等に応じた情報機器等の研究開発を行うとともに,情報技術(IT)を活用した指導方法や体制の在り方について検討を行うこと。」が記述されている。障害による活動の制約を軽減し,主体的な学習を実現する補助手段として,最新の情報技術を活用することにより,社会とのコミュニケーションを広げ,自立的な学習や社会参加を促すことが非常に重要になってきている。

c.地域における盲・聾・養護学校の特殊教育センターとして機能の充実
  今後,盲・聾・養護学校は,地域における特殊教育センターとしての機能の一環として,小・中学校等に在籍する障害のある子どもたちの指導の充実を図るために,小・中学校等の求めに応じて情報機器等の貸出等の支援を行うことが求められる。また,卒業生をはじめ地域の障害者が自立的な生活を実現するために,情報活用能力を身に付けるための実際的な支援の役割を果たすことも期待される。

d.平成12年度の課題検討
  平成12年度Eスクエア・プロジェクトの先進的情報技術活用プロジェクト「特殊教育支援機器活用相談ネットワーク・センターの実践研究」を通して挙げられた以下の主要課題を検討する必要がある。

  • 地域に密着した支援体制の確立
  • 全国規模での情報の交換・蓄積及び支援ネットワーク体制の確立
  • 知的障害,学習障害,ADHD(注意欠陥多動症),高機能自閉症などがある子どもたちの支援機器の活用
目次へ戻る

1.2 必要性
 前述の背景ではあるが,特殊教育現場や障害のある子どもたちの家庭等で情報技術の活用が十分に進んでいないのが現状であり,その要因として以下の点を指摘することができる。
  • 障害のある子どもたちが利用可能な情報技術(情報機器,情報機器利用時に必要とされるハード及びソフトの支援機器等)に関する情報提供が不十分である。
  • 実際に試用してみないと障害のある子どもたちに有効な情報技術であるかどうかの判断が困難である。しかし,ソフト・ハードを含めた障害児・障害者用の支援機器等は高価な場合があり,特殊教育現場や障害のある子どもたちの家庭等で購入,試用,選択することが困難である。
  • 情報技術の利用には専門的な知識を必要とするため,支援者によるサポートが必要である。

 そこで,本実践研究では,上記の課題を解決するために,以下のa.〜c.が機能するセンターをインターネット上に開設し,情報技術活用の支援を実施した。
 a.教育ニーズに応じた情報技術の情報を提供する。 (情報の提供)
 b.試用できる情報技術を提供する。        (ソフト・ハードの試用)
  c.支援スタッフによるサポートを提供する。    (直接・間接的なサポート)
これらを実施することで,特別支援教育における情報技術活用推進に寄与できるものと考えた。

目次へ戻る

1.3 指導要領との対応関係
 平成11年3月の改訂において,盲学校,聾学校及び養護学校小学部・中学部学習指導要領第1章総則第2節教育課程の編成第7指導計画の作成等に当たって配慮すべき事項として,「各教科の指導に当たっては,児童又は生徒がコンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段に慣れ親しみ,それを積極的に活用できるようにするための学習活動の充実に努める」ことを示している。高等部においては,第1章総則第2節教育課程の編成第2款盲学校,聾学校及び肢体不自由者又は病弱者を教育する養護学校における各教科・科目等の履修等の中で,新たに普通教育に関する教科「情報」を設け,これを必履修にしている。普通教科「情報」は,情報に関する科学的な見方や考え方を養うとともに,社会の中で情報や情報技術が果たしている役割や影響を理解させ,情報化の進展に主体的に対応できる能力と態度を育てることを主眼においており,高等部における情報教育の中核を担うことになる。また,知的障害者を教育する養護学校においては,新たに普通教科に関する教科「情報」を設け,学校や生徒の実態を考慮し,必要に応じて設けることとしている。第2節第4款教育課程の編成・実施に当たって配慮すべき事項の中で「各教科・各科目等の指導に当たっては,生徒がコンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を積極的に活用できるようにするための学習活動の充実に努める」ことを示している。
 盲学校,聾学校及び養護学校学習指導要領(平成11年3月)解説 ―総則等編―の中では「児童生徒の自主的・主体的な学習を推進することや指導方法を工夫し,基礎的・基本的な内容を児童生徒が確実に身に付けるようにするためには,情報手段をはじめ様々な教材・教具の適切な活用が重要である。」とし,「小学部段階ではコンピュータを身近なメディアの1つとしてとらえ,遊びの感覚で操作したり,自分の思いを自由に表現できる楽しさを味わったりすることにより,『慣れ,親しませる』ことを基本として体験することに重点を置いた学習活動を行うが,中学部段階においては,例えば,同じ調査活動をする場合でも,違った方法で調査した内容を生徒同士で比較・検討したり,活動の過程や結果を評価し合ったりするなど,より進んだ活用を行い,体験を知識レベルに高めていくことが必要となってくる。高等部段階では,中学部までの学習の基礎に立ち,課題研究的な活動を行い成果としてまとめる学習に情報手段を効果的に活用したり,情報手段について理解を深めることが必要になってくる。その際,情報手段をより広い観点からとらえ,インターネットなどの新しいメディアと,新聞,テレビ,ビデオなどの既存のメディアとを比較させてそれぞれのメディアの特徴について理解を深めたり,それらから流れる情報が人や社会に与える影響について追求し,情報に対する的確な判断力を育成する学習活動を行うことも考えられる。」などの指導について例示している。
 さらに,盲学校,聾学校,養護学校の特筆すべきこととして「特に,盲学校,聾学校及び養護学校においては,児童生徒の障害に基づく種々の困難を改善・克服し,学習を支援するために,それぞれの障害の状態に応じて,情報機器や情報通信ネットワークを活用することが有効である。」とし,具体的な例示として「点字と普通文字の相互変換,コミュニケーション指導における活用,コンピュータ・シュミレーションを活用した体験学習など」をあげ,「教師はこれらのことを踏まえ,コンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段が適切に活用できるよう,障害の状態に対応した周辺機器,教育用ソフトウェアやその他の視聴覚教材,教育機器及びそれらを活用した指導法について絶えず研究しておくことが必要である。」と記述している。
 盲学校,聾学校及び養護学校学習指導要領(平成11年3月)解説−各教科,道徳及び特別活動編―の中では,小学部・中学部学習指導要領第2章各教科第1節第1款の3(3)補助用具や補助的手段,コンピュータ等の活用の解説として「身体の動きや意思の表出の状態等により,歩行や筆記などが困難な児童生徒や,話し言葉が不自由な児童生徒に対して,補助用具や補助的手段を活用し効果を高めるよう配慮することは極めて大切なことである。特に,今回の改訂においては,適切な補助用具や補助手段として,コンピュータ等の情報機器や障害の状態に応じた周辺機器などを有効に活用して指導効果を高めることが必要なことから,『コンピュータ等の情報機器などを有効に活用し,』と,新たに加えて示した。」と記述している。また,高等部学習指導要領第2章各教科第1節第2款の3(3)補助用具や補助手段,コンピュータ等の活用の解説としても同様の内容が記述されている。
 盲学校,聾学校及び養護学校学習指導要領(平成11年3月)解説―自立活動編―の中では,「5 コニュニケーション (4)コミュニケーション手段の選択と活用に関すること。」に「例えば,音声言語の表出は困難であるが,文字言語の理解ができる場合には,筆談で意思を伝えたり,文字板,ボタンを押すと合成音の言葉が出る器具,コンピュータを使って意思を表出したりすることもできる。」と記述している。「ボタンを押すと合成音の言葉が出る器具,コンピュータを使って意思を表出」はコミュニケーションエイドをさしており,「自立活動」の「コミュニケーション」の分野におけるVOCA(Voice Output Communication Aids)等のコミュニケーションエイドの使用が明記されている。
目次へ戻る

1.4 目的・成果目標

 本実践研究では,特別な教育的支援を必要とする子どもたち(特殊教育諸学校や特殊学級の児童生徒等),その援助者である教員や保護者を対象に,インターネットを利用して情報技術活用の支援を行う「特別支援教育ネットワーク・センター」(以降,本センターと記す)の運用を通して,次の点を調査,明確にした。

  • 特別支援教育においてインターネットを利用した情報技術活用支援センターの望ましい在り方

 また,本センターの開設,情報技術活用の支援により,以下の成果を挙げることを目標とした。

  • 特別な教育ニーズに対応して,教員,保護者が情報技術の活用に関してサポートを受けることができる。
  • 対象の障害のある子どもたちに適した情報技術を試用することで特別な支援を行うことができる。
  • 情報技術の活用に関するニーズ,課題等の蓄積,情報交換が行われる。
  • 情報技術の活用により障害のある子どもたちのコンピュータやインターネットの利用が進み,主体的な学習活動,自立的な生活,社会参加等が行われる。
目次へ戻る

次のページへ このページの先頭へ戻る


CEC