8.課題




  様々な授業実践を行った上で生じた課題についてここでまとめてみたい。

 今回の実験で利用したシステムの基本は何度も述べているように大学向けに販売されているeラーニングシステムである。その基本はリアルな授業場面を補完し、さらに発展させるというブレンディング型、さらに先生と学生同士が互いに協調しあいながら学習を深めていく協調学習。先生や学生が大学にいなくても指導を行い、学習することができる遠隔学習システム。そしてそれらの学習状況を管理する管理システムがこのシステムの根幹となる。
 もともとこのシステムは大学の学習状況にあったシステムとして成立しているため、基本的には講義型の授業にあわせたシステムとなっている。また受講管理は一般的に学生課や各学科事務が行う作業であり、初等中等教育の体制とは異なっている。
 そのため院内学級での適応においては様々な矛盾点が生じることとなった。
 まず運用管理についてである。eラーニングシステムは基本的に一つの大学で運用することが考えられている。そのためにeラーニングシステムの管理方法は一つの体制で(○○大学のように)事足りる。つまり○○大学にいる教授、○○大学にいる学生は基本的に一つの体制の管理下(例えば学生課など)に入っているということである。しかし教育委員会での運用を考えると、○○教育委員会の△△小学校の××先生のクラスにいる□□君は教育委員会が管理しているとはいえ、実質上は××先生が学習状況を管理する立場にいる。そのためeラーニングシステムは少なくとも学校単位での運用が必要となるのである。
 今回院内学級での利用となったが、院内学級でも一つの学校という立場は変わらない。各院内学級によって学習状況やカリキュラムが異なるのであるから、またどのような授業を行うかは学校もしくは学級にメンテナンスできる機能が必要となる。
 さらに管理面で付け加えるなら、学生の身分の考え方である。大学における学生の管理は先ほど述べたように大学または学部である。ゼミは別にして担任制ではないため、先生と学生のつながりは基本的にその講義を受講しているかどうかしか関係ない。しかしながら初等中等教育においては児童・生徒は、特に児童においては科目や講義によるつながりではなくクラスの一員として管理される。このeラーニングシステムは前者の管理の仕方であるため院内学級での運用とは会わない部分が生じてくる。eラーニングシステムを初等中等教育で運用していく上においては初等中等教育の実情に合わせる必要が出てくる。
 運用面においてはさらに大きな問題がある。eラーニングシステム全般に言えることであるが、元々eラーニングシステムは会社や高等教育向けに作られているもの多く、システムは良くも悪くも、システム管理者が常に存在し運用することを前提に作られている。システム的には柔軟性があり、様々な設定も可能であるのだが、その反面メンテナンスも発生しトラブルにも迅速に対応しなければ授業が成立しない状況も発生する。このメンテナンスの方法もできるだけ簡便に行うことができるようにするのか。教育委員会などの実情に合わせた形での開発が必要である。さらに今回は(院内学級ではどこでも同じであるが)、教育委員会外にサーバを設置しており、そのサーバのメンテナンスを誰が行うのかも大きな問題となりうる。大学内での分散キャンパスであれば、同組織内でありメンテナンスの依頼などは問題なく行うことができるが、教育委員会の資産を病院などに置いた場合、メンテナンスの代行を依頼すれば何らかの費用が発生する可能性もある。また費用が発生しないまでも度々のメンテナンス要請はなかなか行うことができないものである。
 メンテナンスに関してはサーバだけではなくクライアント側でも同様なことが言える。今まで学校にはIT担当の先生またはそれに準じる先生がおり、さらに倉敷市では情報サポーターが常駐もしくは巡回して先生方のサポートを行っている。また今回の実験にあたっては倉敷市のご好意で情報サポーターを優先的に配置していただいた。しかしながら院内学級でなんらかの問題が起きたときには必ずしも情報サポーターがいるわけでもなく、また院内学級の先生が必ずしもPCに詳しいわけではないから、PCを利用した授業を行えないこともありうる。
 クライアント側でさらに付け加えるなら操作の問題もある。今までのITを活用した授業は基本的にはITに詳しい先生が授業を推進しているケースが多い。しかしながら今回の院内学級では院内学級の担当の先生が必ずしもITに詳しいわけでもなく、たまたま院内学級のご担当であっただけである。そのような先生がITを駆使したeラーニングシステムを受講するだけでなく、管理までしなければならないのは大変なご苦労をかけることであろうと考えられる。
 またこのシステムによって本校や原籍校に対して新たな負担をお願いすることにもなる。今まで院内学級だけで基本的に授業を完結していたものが、これからさらに院内学級の子どもたちにいい環境のもとで学習させようとすると、どうしても本校の先生の協力が必要となる。またライブ授業を行うにせよ本校の先生に新たな負担をお願いしなければならない。実際にAETによる英語の授業においては20数枚のパワーポイントの資料を用意していただいたし(これはAETの先生が非常に力を入れておられたということもあるのだが)、原籍校との交流においても、原籍校の先生に時間を空けていただいて準備から交流の授業を行っていただいただくこととなった。厳しい時間のやりくりの中で授業を行うには担当する先生のご負担になることは目に見えている。
 またこれらの依頼を院内学級の先生が独自に行うのは更なる負担をかけることになる。今回は実験ということであり、あらかじめ院内学級の先生から原籍校に対して一報を入れていただき、その後NECから技術的な説明を行ったが、この院内学級の仕組みから効果そして内容の説明をすべて院内学級の先生が行っておられ、他校に依頼するという精神的なご負担は大きいと考えられる。
 これらの課題から院内学級をサポートする体制の構築が必要となる。システム面でのサポート体制と運用面のサポート体制が必要となる。
 そうでなければ院内学級での担当教員によってeラーニングの活用状況が極端に下がる可能性がある。
 さらにより有効にさらに活用を進めるためにはメンテナンスフリーのクライアントシステムの構築が必要である。今回オンデマンド学習システムとコミュニケーションシステムに関してはWeb上で利用できるシステムを構築した。そのため何らかの問題が生じた際には現地に赴くことなくメンテナンスを実施し復旧することができた。しかしライブ授業システムにおいては問題発生原因がクライアントにも問題がある場合があり、様々な要因をつぶす必要があった。
 先ほどのべたようにメンテナンスを行う人員が豊富にいる場合は良いが、。そうでない場合は学校で完結することができず、復旧が遅れる場合が多い。授業を円滑にしかも問題を少なくするためには全体的にメンテナンスフリーのシステムを構築する必要がある。
 授業を実施した中でシステム的に最も大きな問題となったのは音声面であった。授業報告の中でも述べたように、その大きな部分を占めるのはマイクの場所と個数と形態である。残念ながらこれらの調整は実際に授業を実施しながら試すしかない状況である。現在テストした状況を文書化し共有化することにより今後の同様なイベントなどで活用できるようにしている。
 他の地域の先生方とお話していると、院内学級のeラーニングシステムだけではないが、他にも様々なテレビ会議のシステムならびにソフトウェアが存在する。しかし先生方とお話していると機器は入ったもののどのような使い方ができるのかイメージが湧かないや、うまくいかないことが多く埃をかぶっているとのお話をお聞きすることが多い。これは機械自体の問題もさることながら、実際やってみないとわからないこと(映像や音声のちょっとした工夫)や巧みな活用方法が共有化されていないことも一つの要因となっていると考えられる。
 最後にインタフェースについては大学向けに作ってあるために基本的には漢字を多用し大学向けの用語が使われている。また絵柄も子どもむけでは決してないが、その点に関しては特に問題点としてあげておられる先生はいらっしゃらなかった。これは児童・生徒が文字そのものよりも場所で覚えたり、またシンプルな作りのためにそれほど手数が多くないことも理由のひとつであろう。ただしこれはあくまでも実験ということで許されている部分も多いため、初等中等教育において一般的に利用していただくにはその市場にあったインタフェースを用意する必要がある。



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