7.プロジェクトの評価




 実践授業により集められた USB学習帳の学習履歴データとアンケート結果もとに、下記観点からプロジェクトの評価を行う。なお、アンケート結果については、添付資料3を参照のこと。なお、この章で使用するデータ及びアンケートは実践時間数の多かった新宮小学校のものを主として使用した。

Fig.7-1 キャラクター「ビッキー」

その上で、

の観点から、総合的な評価を行う。( 7.7)


7.1 技術面での評価:「システムの親しみやすさと使いやすさ」


7.1.1 インターフェースの工夫

 教育現場での IT活用を日常化していく上で、小学生、中学生、高校生といった、幅広い年齢層に受け入れられるためには、インターフェイス面での工夫も必要であると考える。
 一般的に、 PC画面によるマウス操作は、鉛筆で紙に書くのに比べ、子ども達にとっては不慣れで使いにくいのは事実である。一般的に複雑な操作が不要な場合であっても、ユーザに面倒くさいとか使う気がしないという心理的障壁を生じさせ、利用してもらえないという状況が起こりうる。インターフェイスの設計にあたっては、このような心理的障壁をどう避けるかが課題となる。
 今回の調査研究では、毎朝の計算演習の時間である「みつわ学習」での実践の中で小学生に本システムを使いこなしてもらうため、心理的障壁を回避し学習動機付けをするために、デザイン面で下記のような工夫をした。

    1. キャラクターの導入
    2. 携帯電話を模した操作画面デザイン

 まず、「ビッキー君」というキャラクター( Fig.7-1 )を導入し、USB学習帳を「コンピュータシステム」ではなく、「親しみのもてるキャラクター」として認知させることをねらった。その結果、事後アンケートの感想の中で、子ども達からは次のような感想が寄せられた。

ビッキーを擬人化した表現が多数見られた。 Fig.7-2-1、2 に示すように、子ども達に「USB学習帳を利用する」ことを「ビッキー君と一緒に遊ぶ(勉強する)」ことと認知させることに成功し、心理的障壁の回避と学習意欲の増進に貢献したと評価できる。

Fig.7-2-1 キャラクター導入効果 その 1

Fig.7-2-2 キャラクター導入効果 その 2

Fig.7-3 携帯電話のメタファーを利用した
操作画面例

 また、コンピュータ操作においては、単に入力文字を選ぶ以外に、「モード切替」の操作が必須である(例えば「解答入力 モード 」、「採点結果表示モード」と「繰り返し/次の教材への遷移モード」など)。このようなモード遷移のためには、「ボタン」を画面配置する必要がある。ユーザはその状態遷移ルールを「メンタルモデル」として獲得する必要があり、これが「ややこしい」「面倒」といった「心理的障壁」の原因となりやすい。 そこで、「メンタルモデル獲得」の点においては、幅広い一般ユーザを獲得している「携帯電話」に着目した。
 携帯電話はその機能の複雑さと使い勝手の制約にもかかわらず、家庭電化製品なみに普及しおり、その操作に対する心理的障壁は少ないように思われる。そこで、操作部分における画面デザインには「携帯電話」のメタファーを用いた ( Fig.7-3 )。これにより、「操作」に対する心理的障壁や「とまどい」を回避することを狙った。
 事後のアンケート結果によれば、小学校 3年生の子供たちでもこのインターフェースを十分使いこなしており、優れたアイデアであったと評価できる。



7.1.2 「USB学習帳」の学習と従来の学習の比較

 次に、「 USB学習帳」を用いた学習と、従来の学習(ペーパーテストによる学習)の結果を比較する。
  Fig.7-4 の折れ線グラフは、計算練習(「みつわ学習」)における、子ども達の平均得点を表しており、棒グラフは所要時間を表している。
 8種類の教材をペーパーテスト1回、USB学習帳により2回、計3回繰り返して学習させた。黄線は、USB学習帳を使用した学習を開始する前に実施したペーパーテストの得点であり、青線がUSB学習帳による1回目の学習、赤線が2回目の学習での得点である。

Fig.7-4 成績と学習時間の比較

  Fig.7-4より以下のことがわかる。

 1回目は操作ミスによる誤答が発生していること、しかし2回目にはペーパーテストと比べて遜色ないレベルにまで平均点が上がっている。一方、学習時間自体はペーパーテストより長く、手間どっていることがわかる。すなわち、子ども達にとっての入力面での作業負荷は大きいにもかかわらず、 Fig.7-2-1、2 にもあるように楽しかったという感想が得られていることから、認知的不協和が肯定的に解決されていると言える。本来、面倒という否定的な評価がでるべきところ、楽しかったという肯定的な評価となっているのである。よって、デザイン面の工夫は成果があったと評価できる。
 なお、 4番目の教材においては、PC利用の得点が著しく下がっているうえに、所要時間の短縮も殆どない。この教材はくりあがりのある筆算の問題であり、出題の工夫が必要であった。ペーパーテストの場合は紙にメモできるのに対し、PCの場合は暗算で行う必要があり、PCで学習するには難しい問題であったといえる。「手書き」「メモ」といった、筆記にはあってPCには無い操作を、どのような形でPC操作にとりこんでいくかが、今後の課題であると考える。


7.1.3 無線LANについて

 次に、無線 LANについての結果を述べる。可搬型で設置が容易な無線アクセスポイントは、今回のシステムの教育現場での普及のためにも重要な特性であると考える。実践授業において性能を確認した結果をまとめる。

Fig.7-5 教室内での無線受信電力測定結果
(a)教室内1セグメント構成時、
(b) (c)教室内2セグメント構成時、
数値は受信信号のS/N(信号/雑音比で単位はdB)を示す。

課題と して は、以下の 2点が挙げられる。

 今後、これらへの解決方法を検討する必要があるが、使用マニュアルで回避できる部分も相当あると考えられる。


7.2 子ども達の視点からの評価と学習意欲増進

 IT教具を使うことにより、また教材提示方法を工夫することにより、子ども達の学習意欲の増進に寄与するかどうかについて調べた。
 毎朝の 10分間計算練習を行う「みつわ学習」では、子ども達の自主学習用に各教材3段階の類似問題を用意し、子ども達が自らの意欲に従って、これらの問題に取り組む形式とした。各段階の教材は、何度でも繰り返し学習できる仕様とした。
  Fig.7-6 7における折れ線はどの段階の類似問題まで学習をしたかを示し、棒グラフは全段階での累積学習回数を表している。ここで、学習意欲数を下記のように定義する。

学習意欲数=(学習回数 /学習段階数)≧1

 学習意欲数の値が大きい程、特定教材を反復学習していることとなる。例えば、ある学習活動において、第 1段階の教材のみを3回学習した場合には、学習意欲数=3/1=3となる。また、第1段階の教材は2回学習し、第2段階の教材は、1回学習した場合には、学習意欲数=3/2=1.5と計算する。

Fig.7-6 学習意欲への影響

  Fig.7-6 での学習意欲数の平均値は、1回目の学習では1.8、2回目の学習では1.2という結果となった。1回目の学習では、学習段階数の値がどの教材も2以下であることから、同一教材を繰り返し学習した傾向が、特に、1段階目で見られる。USB学習帳の操作に不慣れであった影響もあるが、間違った問題に積極的に挑戦していることが伺える。一方、2回目の学習では、学習段階数の値が2を超える教材も見られ、かつ学習意欲数も1より大きな値となっていることから、操作にもある程度慣れ、繰り返し学習しようとする意欲と、次の問題にも挑戦する意欲の両面をもって学習に取り組んでいると言える。ゲーム的要素もあって、USB学習帳を活用した計算練習では、子ども達は学習意欲、挑戦意欲を掻き立てられて学習に取り組んでいたと評価できる。

Fig.7-7 勉強時間帯

  Fig.7-7 は、USB学習帳を用いた平日(登校日)の学習時間帯を示している。当然ながら、授業時間帯(8-12時)が最も多いが、放課後(13時-17時)、家庭(17-20時、21-24時)も相当数いる。これは、授業外でも自主的な学習活動がなされていることを表しており、学習意欲に対してUSB学習帳が肯定的な影響を及ぼしていることがわかる。

Fig.7-8-1 学習意欲への影響(その1)

Fig.7-8-2 学習意欲への影響(その2)

 新しい学習環境は学習の動機付けになる場合がある。 USB学習帳を利用することにより、「算数が好きになったか」どうかをアンケートで質問をした結果を Fig.7-8-1、2 に示す。「算数がもとから好きだった」「少し好きだった」と答えた子ども達の割合が、52%であるのに対して、事後アンケートでは、それが89%に増加している。しかも、「苦手」「少し苦手」の子ども達がなくなっている。成績自体は、従来のペーパーテストとほぼ同等であるのに対し、「得意」または「少し得意」と答えた子ども達が大幅に増加していることから考えて、子ども達にとって学習意欲や満足度が高まり、その結果として自信を得ていることがわかる。この自信は将来の学習態度に肯定的な影響を与えるものと期待される。また、本システムに限らず、「パソコンを使った勉強が好き」「少し好き」の子ども達の割合は96%に達していることから、この新しい学習ツールの導入はライフスタイル面での刺激を与え、それが学習意欲の向上にもつながる可能性のあることを示唆している。
 ただし、新たなツールの導入は心理的障壁の要因となりうる側面も一方では存在し、それが苦手意識を増長させる可能性もあることに留意する必要がある。今回は既に述べたように

に加え、

等の試みを行い、 USB学習帳の導入が興味と意欲の増進を呼び、それが子ども達一人一人の自信につながっていると考えられる。



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