7.プロジェクトの評価




7.5 教師の役割という観点からの評価


7.5.1 教師の役割とIT活用授業展開スキル

 ITを活用した授業を展開していく上で、教師による授業展開の工夫も重要である。今回の小学校の授業実践では、USB学習帳という新しいIT教具を、1.朝の計算練習の中で、2.算数の授業の中で、3.放課後の個人学習の中で、4.家庭学習の中で、と学校を中心とした日常生活でのすべての学習シーンの中で活用するような授業展開を図った。このことは、人気アニメの「どらえもん」に例えるならば、のび太君である「子ども達」を、ドラえもんである「ビッキー」がいつでも傍らで学習活動をバックアップし、そして人気アニメの作者(藤子不二雄)である「教師」が、学習活動シーンを演出しながら、子ども達を育て、導く構図に相当するのではないだろうか。人気アニメにおいても、時にはいつもと違った演出をすることによりアニメの視聴者に刺激を与えている。ITを活用した授業が日常化された場合においても、今回の算数えきでん大会のような、同じ学習内容でありながら志向を変えて授業展開するいった工夫が必要である。
 教師の授業展開の工夫のもと、 USB学習帳とUSB教務手帳は教育現場の中でITを活用した授業を日常的に展開していく上で有効に機能したといえる。また、教師が子ども達の学習活動の状況を見ながら、動的に学習活動シーンまたは学習指導方法を変えるための道具としても活用可能であることが分かった。


7.5.2 教師がIT活用授業を簡単に実践できるために

 今後多くの教師が ITを活用した授業を実践していく上で、活用経験が少ない教師でも、そして場所に制約されることなくITを活用した授業を簡単に実践できるような技術とその活用事例が求められる。
 中学校と高等学校での授業実践では、まさに普通教室での IT活用授業に取り組んだものである。これを可能とするには、無線LAN技術に加え、今回のユビキタス学習環境にような、サーバ・サーバ型モデルで実現されている教育用アプリケーションが必要である。これは、従来型のコンピュータ教室での使用を前提とした、クライアント・サーバ型モデルとは異なる活用方法である。
 IT活用授業とは、必ずしも、「学校に1箇所またはあっても数箇所しかないコンピュータ教室を予約して行わなければならない」というものではない。また、普通教室でのIT活用は、プロジェクタおよびコンテンツを活用した形でのプレゼンテーション型授業だけではない。USB学習帳というIT教具を活用することにより、それら以外の有用な活用形態が、授業展開の工夫により可能である点を本プロジェクトでは実証できたと評価できる。


7.6 学習効果という観点での評価

 これまでの 5つの観点での分析と評価では、「学習意欲促進」、「個人学習の習慣化」、「苦手意識の克服」という点で、一定の教育効果、有効性が得られたと評価できる。
 一方、「学習効果」、「学習内容の定着」という観点から見た場合、 Fig.7-4 の結果から判断するならば、必ずしも有益な効果が得られていないと思われる。その原因を分析すると、くりあがり筆算問題のような、計算メモ等の思考補助手段が必要な教材4のケースに見られるように、インターフェース面での課題によるところが大きいと考えられる。しかしながら一方で、「ビッキー」というキャラクターの登場により、「苦手意識」をもっていた子ども達に対して、「計算練習は大変だ」といった苦手意識を和らげ、計算練習をより身近で楽しいものに変化させる結果も生み出している。
  Fig.7-4 の平均得点は、教材毎にすべての学習機会の得点の総和を学習回数で割った形で算出している。そこで Fig.7-18 では、視点を変え、繰り返し学習機会の中での最高得点で全体平均を算出した。その結果、8教材中6教材について、ペーパーテストの平均値より高い値を示し、ビッキーとともに学習を楽しみながら繰り返し学習し、確実に計算力を獲得していったことが伺えた。

Fig.7-18 成績と学習時間の比較

事後アンケートでの感想からも、次のような意見が寄せられている。

様々な学習活動の中で、子ども達は時にはビッキーと一緒に、時には先生と一緒に、時には友人と一緒に楽しく学習に取り組み確かな学力を獲得していったのである。


7.7 総合評価

 以上の議論を要約して下表にまとめる。

観点 ポイント
理解度 成績が向上した ( Fig.7-18 )
スタイル ・ 家庭学習時間が増加した( Fig.7-14 )
・家庭での学習習慣が定着した。( Fig.7-15 )
・ 放課後の自主学習時間が増えた。( Fig.7-16 )
学習意欲 ・繰り返し学習が増加した( Fig.7-6 )
・勉強(算数)が好きになった( Fig.7-8-1、2 )
コミュニケーション ・家庭で話題にのぼった。( Fig.7-9 )
・友達と教えあった( Fig.7-16アンケートコメント )
・グループ学習への満足度が高い( Fig.7-17 )

 「使うことが楽しいシステム」は、必然的に、親、友達との話題にのぼるなどコミュニケーションの機会が増え、それが意欲増進につながるものである。その結果として勉強時間が増加し、学習効果が高まるものと思われる。
 「 USB学習帳」というライフスタイル面でも訴求力のあるIT教具の導入と、「ビッキー」というキャラクターの登場、そして携帯電話にヒントを得た操作インターフェイスの工夫といった点が、システムへの興味関心を高め、学習意欲に肯定的に転化されていることがわかる。
 しかしながら、「くりあがり計算」での成績低下、時間増加にみられるように、「紙と鉛筆」に及ばない部分もあり、この点は今後の検討が必要である。
 無線 LANシステム機能についてはそれに関する不満がないことから、ユーザにその存在を意識させておらず、十分な実用性を有していることが実証された。しかしながら、調 整等作業を要する部分もあり、今後の普及を考えれば改善の余地がある。



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