1.提案プロジェクトの目的




1.1 背景

 平成 14 年度(高等学校は 15 年度)より,小中高等学校の学校現場において,総合的な学習が本格実施されている。学習指導要領にはねらいのみが示され,具体的な目標や内容が示されていないために,実に多様な課題についての取り組みが全国の小中高等学校で展開されている。子どもや教師の多面的な成長,学校と家庭・地域との関係の活性化などの成果がみられる一方で,様々な問題が生じている。例えば,本プロジェクト企画の背景にかかわる成果と問題として以下のようなことが挙がっている。

    1. 総合的な学習の時間については小中高のねらいが共通であり,体験活動を重視する趣旨から,身近な地域を活動の対象,フィールドにすることが多く,小中高における活動内容に関して重なりが少なくない。
    2. 子どもたちの取り組む課題は専門的なことがらが多く,その課題に関する専門家の協力を仰ぐことが多い。そのことが子どもの活動およびその成果の質を高めることにつながり,様々な分野で社会的な評価を得ている。
    3. 子どもたちの活動の成果は壁新聞や冊子,劇, Web ページ など様々な形態で表現・発信され,学年や年齢を越えて多くの立場の人からの反応や評価が成就感をより高める上で効果的である。
    4. 総合的な学習の経験や研修が不十分で,教師に様々な面での戸惑いがみられる。また,教師としての新しい力量(例えば,情報リテラシーや多様な人との人間関係調整力,問題解決力,表現力など)が求められ,教員養成段階においてもその育成方法に課題がある。
    5. これまでに開発されてきた子ども向けのデジタルミュージアムに関する取り組みとしては,国内外を問わず数多くの「博物館」関係のサイトが興隆している。ただし,いずれも「博物館」への子どもたちの関心を引き起こすような刺激剤として機能することに重点が置かれ,子どもたち自身が学習成果を「博物館」創造へと向かう態度を育てている例を見いだすことはできない。 また,子ども同士あるいは子どもと大人のための敷居の低いコラボレーションシステムは開発されていない。


1.2 成果目標

 本プロジェクトは,以下の成果を達成することを目標とする。

    1. 教師と児童生徒が随時参加し,総合的な学習の成果を静止画や動画,文書など各種データを保存・閲覧することができるようにオンライン上に参加型の博物館を構築する。なお,本プロジェクトにおいて開発・運用する博物館は「でじたるキッズミュージアム」(略称は DKM )と呼ぶ。
    2. DKM にテーマ別の「展示室」を開室し,そのテーマに関連した総合的な学習の学習成果を展示する。「展示室」は利用者が必要に応じて新しく開設できる。この「展示室」の部分は Web サイトで公開する。
    3. 「展示室」には「準備室」が併設され,情報交換や共同学習を行うことができる。そのテーマに関する専門家や表現技法の専門家であるデザイナーが「バーチャル学芸員」(各 DKM のテーマや各部屋の内容や表現に関する専門家,略して「学芸員」と呼ぶことがある)として加わることにより,そのテーマやデザインに関しての専門的な指導・助言を得ることができる。 そして,そのためのタブレットを利用したコラボレーションシステムを開発する。
    4. DKM はネットワーク上に構築できるので, 開発したコラボレーションシステムが 学校,校種,地域を越えての活用や共同学習 で有効かどうか検証する。
    5. 各展示作品(総合的な学習の成果)に関する詳細な実践的情報(指導案や教材,ワークシートなど)については,「教師ポートフォリオ」として「展示室」にリンクさせて保存・公開する。
    6. 「バーチャル管理人」(各 DKM の管理・運用を行うメンター的な立場の人,略して「管理人」と呼ぶことがある)および「バーチャル学芸員」が学校と校種を越えた子ども同士の共同学習を企画・運営・支援する。例えば,「バーチャル管理人」あるいは「バーチャル学芸員」が教員養成段階の学生の場合には日常的・継続的に「教育実習」を行うことになる。
    7. 教育現場での具体的な活用を通して,本システム 全体構想 の評価・改善を行なう。


1.3 有効性

 本プロジェクトにおいて,オンライン上に子どもによる博物館を構築することで次のような効果が期待される。

    1. 総合的な学習の成果を,そのテーマに関する「展示室」(テーマ別の展示室は「○○の部屋」と呼ぶ。例えば,「和菓子の部屋」「焼き物の部屋」)に展示することで,より高い成就感が得られる。子どもたちの学習成果の表現の場でもある。
    2. 「展示室」に併設されている「準備室」では同じようなテーマで取り組んでいるもの同士,地域や学校,校種を越えての情報交換,共同学習が可能である。自分たちの学習の成果に満足せずに,お互いが刺激しあうことでより質の高い学習を目指す。
    3. 各 DKM (場合により各「準備室」ごと)に「学芸員」を置くことが可能で,専門的な立場から子どもたちの取り組みや成果に対して助言や情報を提供できる。 まさに隣にいる雰囲気でやりとりをするため,タブレットを利用した新しいコラボレーションシステムを開発する。
    4. 「管理人」が DKM 全体および各「展示室」の管理・運用を行なうだけでなく,子どもの活動を支援したり,子ども同士の活動を活性化したり,「学芸員」と子どもたちの関係をつないだりする。



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