「でじたるキッズミュージアム」(DKM)として,以下の4つの博物館を開 設し,本システムの有効性および問題点を明らかにし,システム改善のために寄 与する。
(1)災害に強いまちづくり博物館
(2)龍馬の生まれた町博物館
(3)木の良さを活かしたものづくり博物館
(4)こころふれあい写真館
(1)高知市立大津小学校の取り組み
高知市立大津小学校は、明治5年開校の歴史と伝統のある学校である。高知市の東部に位置し、近くには国分川、舟入川が流れ、市のベッドタウンとして急速に都市化が進んでいる地区にある。現在24学級があり、高知市内では大規模校となっている。
平成10年9月、高知市は、秋雨前線の停滞に伴う集中豪雨により大規模な被害を受けた。この集中豪雨は高知地方気象台の観測史上最大値を記録し、市内で約2万世帯の床上・床下浸水が生じた。特に、大津地区では、国分川・舟入川が氾濫し、大津小学校校区内では、約6割の世帯が床上・床下浸水の被害を受けた。小学校の校舎も床上150センチもの浸水に見舞われ、1階の教室は机や教卓が流され、窓ガラスが割れた。水が引いた後も校舎は泥水に覆われ、復旧のためしばらくの期間、臨時休校を余儀なくされた。( 写真 1 )
写真 1 被災当時の1年生の教室 その後も大雨が降り、小学校周辺が冠水し始めると、子どもたちは不安を抱き、職員室には、子どもの帰宅方法を心配する保護者からの電話が鳴りやまない状況が続いた。子どもたちや保護者に豪雨災害の恐怖や不安が残っていると感じた教諭は、この様子に衝撃を受け、
「災害をただ恐れ、不安がるだけではいけない。あらゆる災害に立ち向かえる『防災力』を大津の子どもたちにつけさせたい」と、強く感じた。大津小学校が防災教育を行うようになったのには、このような経緯がある。
子どもたちがいずれ体験するであろう、次期「南海地震」にも対応できる防災学習の必要性を感じ、6年生の総合的な学習の時間を使って「災害に強いまちづくりプロジェクト」を立ち上げた。
大津タイム(66/71時間) | 基礎・基本(39時間) | |||||
大津な かよし タイム |
大津かがやきタイム (地域・防災を柱にした学習) |
情報教 育の基 礎 (13) |
「書く」 指導 (13) |
図書館 読書指 導(13) |
||
・食 ・健康 ・性教育 ・国際理解 ・環境教育 ・金銭教育 ・福祉教育 ・平和教育 ・人権教育 等 |
地域を柱にした学習 | コンピュータ 室の配当・計 画 情報教育計 画に沿って 実践 (低学年は生 活科の中で 8時間程度) |
詳細は基礎 基本部から 提案 ・短作文 ・作文指導 ・感想文 ・標語 ・川柳 ・手紙 ・礼状 ・メモ ・提言書等 |
・利用指導 ・調べ学習指 ・ブックトーク ・アニマシオン ・読み聞かせ ・絵本づくり (低学年は国語 科等の中で月 4 回実施) |
||
3年 | 地域と福 祉 | まち・障 害者・盲 導犬 |
||||
4年 | 地域と環 境 | 川・学校 林・ゴミ |
||||
5年 | 地域と農 業 | 農業 森林 |
||||
6年 | 地域と防 災 | 防災 人 |
大津小の総合的な学習の時間のカリキュラムは、表 1のようになっている。総合的な学習を支えるのは主に国語であり、総合的な学習の時間と教科を両輪として学習することによって、真の学力がつくと捉えている。
「でじたるキッズミュージアム」の対象学年である6年生は、39時間をプロジェクト学習のための基礎・基本の時間にし、71時間を「災害に強いまちづくりプロジェクト」に充てている。「わたしたちの大津を災害に強いまちにしたい!」というビジョンのもと、「子ども防災パンフレット」「防災マップ」「防災コマーシャル」「地域防災訓練」のほか、「災害に強いまちづくり博物館」で全国に発信するというゴールに向けての活動を行っている。
11月15日、本プロジェクトの「プレゼン」の段階で、子どもたちの企画・運営による大規模な自主防災訓練が行われた。バケツリレー、消火訓練、救急法、スモーク体験、大地震を想定した部屋での避難等を体験した後、体育館でプロジェクトの成果発表が行われた。この日は、大津地区の自主防災組織、市の防災対策課、消防署、地域の方、保護者等も参加し、子どもたちとともに、被災体験や避難訓練をしたり、子どもたちの成果発表を聞いたりした。子どもたちも「防災力」の一員であるという自覚のもと、地域・高知市・学校が一体となった実践的な訓練となった。
写真 2 救急法の体験
写真 3 心を合わせてバケツリレー 「災害に強いまちづくり博物館」の展示室には、この「大津子ども防災訓練」( 資料 1 )の他、「目次とキャラクター紹介」・「災害ボランティア」・「津波」・「防災グッズ・非常食」・「防災クイズ」・「南海地震に備えて」・「消火訓練」が紹介されている。
「南海地震に備えて」の中で、修学旅行に訪れた神戸での震災学習(阪神淡路大震災)の様子が紹介され、次の芦屋市精道小学校の取り組みへとつなげている。
資料 1 子ども防災訓練のときの活動が紹介されたボード 平成16年2月4日、防災プロジェクトへの準備段階として、5年生にDKMで作った防災博物館を紹介した。5年生の子どもたちは次年度へのイメージをもつとともに、「でじたるキッズミュージアム」に対しての、期待感に胸を膨らませた。
写真 4 「 私たちが作ったホームページです」
写真 5 6年生に見守られ
5年生は興味津々
(2)芦屋市精道小学校の取り組み
- 授業実践校の概要
精道小学校は、芦屋市の中心に位置し、明治5年開校の歴史と伝統をもつ学校である。平成7年の阪神淡路大震災では、近くを通る高速道路が倒れ、校区の7割の家屋が全半壊し、死者156人(うち当校児童8名、保護者6名)を出す、甚大な被害を受けた。1 , 350人もの人が、長い間学校で避難所生活を送り、教職員も24時間態勢で献身的に対応したと聞く。震災後、兵庫県の学校には210名の復興担当の教諭が置かれ、「被災者への支援」「心のケア」「追悼式の企画運営」などを行ってきた。しかし、9年目を迎え、その人数は70名に減らされ、来年度は廃止される方向にあると言う。この人類歴史上未曾有とも言える大災害を風化させることなく、そこで学んだ教訓を大事に引き継いでいこうと防災学習を行っている。
- 総合的な学習の時間
精道小学校の総合的な学習の時間は、「防災教育」(15時間)・「情報教育」(20時間)・「課題別学習」(70・75時間)の3本の柱からなる。課題別学習では、発達段階に応じ、地域の特色を生かした学習が展開されている。対象学年の6年生は、自分の生活、生き方を見つめ、大震災から学んだ教訓を引き継いでいこうとする「人として輝くために」という単元に取り組んでいる。
- 年間指導計画とDKMの位置づけ
- 授業の様子
「人として輝くために」という単元の中で、子どもたちは憧れの著名人や職業、生き方について追求していく。しかし、ゲストティ−チャ−のお話を聞く中で、今まで気付かなかった身近な人から、ひたむきに生きる生き方を知り、かけがえのない命の 大切さや人と人のふれあいのすばらしさに出会う。そこで、人として大切なことは何かを考えながら、自分たちにできることを見つけ、復興支援担当の教諭が廃止されるのをきっかけに、「追悼式を自分たちの手で」という取り組みが始まった。追悼式の進行を計画するグループ、下学年に活動内容や意義を伝えに行くグループ、震災当時の様子を調べるグループに分かれ、震災の被害を風化させず、命の重みを語り継いで行くべく活動した。
写真 6 震災の話に聞き入る子どもたち
(3)学びの成果
教師を目指す鳴門教育大学学部生にとって、子どもたちの活動に直接関わることは、代え難い貴重な体験となる。学部生は、バーチャル学芸員としてインターネットを介し子どもたちと出会い、自分たちの体験したことのない「総合的な学習の時間」に触れることとなる。「準備室」でのバーチャル学芸員は、博物館の一般来訪者であり、また教師であり、時には自分と防災の関わりという立場からアドバイスを送った。
一つの画像を見ながら、それが何を伝えようとしているのか、伝えたい情報が的確に込められた内容であるのか、その活動自体のねらいは何なのかまで読み取ろうと努力し、チーム内で話し合いながら真剣に吟味した。発達段階を考慮しながら、表現内容や表記に誤りがないかも探し、自分の体験や関わりからアドバイスを送ろうとする姿勢も見られた。協同的な作業であるため、どのようなアドバイスが、より子どもに気づきを促し、意欲を喚起させるか、お互いのアドバイスを見合うことによって学び合うことができたのは大きな収穫である。
また、学部生のアドバイスを受けた子どもたちは、もう一度自分たちの思いや活動のねらいを自問自答し、明確にすることになる。最初一方向から、そして次第に双方向へのやりとりとなり、インターネット上のやりとりでも、よりよいものを作り上げていこうとするお互いの気持ちがあるからこそ、意思疎通が図られるようになる。
自分たちの学びの総括としてあげた情報だけに、学生たちの真剣なチェックを真摯に受け止め、改善することによって、さらなる自信を生むことができる。
資料 2 学芸員からのいろいろなアドバイス 資料 3 改良が加えられさらによい作品に また、「でじたるキッズミュージアム」の活動において、子どもたちは他のグループや他校の活動状況を容易に垣間見ることができる。そのことによって、友だちの工夫やよい面を知ることができるとともに、自分たちの作品を高めていくヒントにすることができるシステムである。
防災学習は、近い将来、地震などの災害のみならず事故等においても、主体性をもって事態に対処する実践力を持った人間を育てるものである。この「災害に強いまちづくり博物館」における学習の成果を全国に発信しょうという取り組みは、子どもたちの学びをより構造化するとともに、見る者へ災害の知識を与え、防災意識の大切さを訴えるものであると確信する。
なお、平成16年2月23日現在公開されている博物館の展示室は資料として添付する。