6.システム活用(授業実践)の計画・実施・評価




6.3 「龍馬の生まれた町博物館」(高知市立第四小学校4年)

( 1 )授業実践校の概要

 高知市立第四小学校は,高知市内にある小規模校であり,創立 100 年を超す伝統ある小学校として地域と共に歩んできた。高知市内の中心部に位置しており,校区である上町は,坂本龍馬の生誕地もあるということで毎年多くの観光客が訪れている。また,昔は様々な職人が生活を営む城下町として栄えており,町のいたる所でその名残を残す風情豊かな町である。
  第四小では, 1999 年度から 2001 年度まで,「自ら学ぶ意欲を持ち,いきいきと課題を解決できる児童の育成−子どもの学びが育つカリキュラムを目指して−」をテーマに総合的な学習の研究を行ってきた。子どもたちの学びの意味やその必要性を捉えなおし,これまでの「単線型の消化型カリキュラム」(第四小において教科や道徳,特別活動を他との関連を考えずにそれらのただ単元を消化していくカリキュラムを称している)から,子どもたちの実態に応じて評価や改善・修正を行っていく「複線型の更新型カリキュラム」(第四小において本校の目指す子どもに期待する資質や能力に向けて編成し,子どもの内に生まれた疑問や課題をもとに単元をまとまりと考え作られるカリキュラムを称している)の開発に取り組んでいった。
  その取り組みの中,子どもたちの学びを教科や総合的な学習の時間の枠で分けて捉えるのではなく,教科や道徳,特別活動と総合的な学習を有機的に関連づけ,子どもたちの生活を中心に捉えた単元を作るといった発想で「生活単元づくり」と名付けた独自のカリキュラム作りを行っている。

( 2 )学校教育課程における「総合的な学習の単元」

 第四小の総合的な学習の時間は,地域をテーマにして行われている。地域の人やもの,こととの出会いの場を設定する中で,子どもたちの内なる思いや願い,疑問や課題をもとに学びを組み立て,地域の生活実践者の一人であることを自覚するとともに,地域とともに生きる子どもの育成を目指している。さらに,子どもたちの学びの視点を 7 つの領域(国際,情報,環境,福祉・ボランティア,健康,地域,自己)に分け,それぞれに中学年,高学年ごとに目標や内容を設定している。子どもたちが,自ら学び,自ら考え,問題解決を図ろうとする「生きる力」を身に付けることができるようにするために,教科や道徳,特別活動と総合的な学習の時間を関連させながら学習活動を展開させている。教科学習において,科学的な見方や考え方を育てるためには,「感じる,考える,実感する」過程が重要であると捉えている。また,総合的な学習の時間においても,「生きる力」の育成を目指して,自然や人,ものとの関わりを通して活動や体験を深め,それを拡げる中で自分の意思をもてるようにするためには,意図的,計画的な学習過程が必要であると考え,教科の関連を意識するだけでなく「単元」のまとまりとして,活動や体験の過程を週単位や月単位,年単位で実践していく問題解決場面を想定していくことで子どもたちの学びを総合的に捉えようとしている。そういった考えのもとに教科や領域,総合的な学習の時間を複合させた活動のまとまり「総合的な学習の単元」といった独自のカリキュラムを作り,取り組んでいる。
  また,単元を作っていくときには,子どもの実態に応じたものを作成することを前提にしており,子どもたちの思いや願いを活動の中心として展開させるねらいをもとに単元を構成する「総合A」( 図 1 参照)と,子どもたちの活動を発展させていくために必要であろうと考えられる教科や領域の学習内容を深めることや,各教科や領域の学習によって身に付く知識に対して必要感を抱かせることをねらいとして単元を構成する「総合B」( 図 2 参照)とに分けられている。それらのバランスを考慮しつつ年間指導計画を立てている。

図1 「総合A」のイメージ図
図2 「総合B」のイメージ図

( 3 )該当学年の年間計画

図3 年間計画

( 4 )単元「愛ラブ上町」と「でじたるキッズミュージアム」の位置づけ

図4 先輩(現中学校2年)
が作成した「龍馬マップ」
 今までの取り組みとして,地域を題材にし,地域を深く知ることからそのよさに気づき,ふるさとに愛着を感じ,さらに自分たちの地域をよりよくするためには何ができるだろうと問う中で,その地域の一人であるという自覚を認識させ,実践力の育成を図ってきた。そういった取り組みの一つとして,上町を訪れる人々のために自分たちで調べまとめた「観光マップ」( 図 4 参照)を作成するという地域の歴史と結びついた活動を行った。その観光マップは多くの施設に置かれ,広く一般に広がり,上町を訪れる人々の上町散策に役立っている。そういった先輩の活動を一過性のものに終わらせるのではなく,さらに発展した取り組みにしたいという願いから本単元「愛ラブ上町」が生まれてきた。
  先輩が作った「観光マップ」を参考に,また自分たちが興味を持ったポイントを加えながら地域探索を行った。それを通して,上町の歴史,上町のよさだけでなく,住民の上町に対する思いや先輩たちの活動に対する知識や理解を深めていった。その取り組みの中,自分たちの地域,上町のよさを発見し,「上町がさらによい町になるように活動していきたい」,また,上町を訪れる人々だけでなく,「全国の人々に上町のよさを自分たちから伝えていきたい」という願いが芽生えていった。そういった子どもたちの願いから今回の「でじたるキッズミュージアム」の「龍馬の生まれた町博物館」構想が立ち上がっていった。

( 5 )実践授業の様子・支援内容

資料4 「龍馬の生まれ町博物館」のテーマ名
資料5 「龍馬の生まれた町博物館」の準備
写真7 期待と不安で胸一杯になりながら,初めて「準備室」のアドバイスを「ハラハラ,ドキドキ」した気持ちで見る子どもたち
 「龍馬の生まれた町博物館」では,地域のよさを伝えたという思いから,上町で生 まれ育った坂本龍馬に関することやそれにまつわる人や場所に関すること,また地域の素晴らしさに関することなどを含めて,全部で 12 のテーマ(資料1 )が決定した。さらにそれぞれを 16 個の「準備室」(資料2 )として立ち上げ,そこに子どもたちが作った作品を載せていくこととなった。実際の支援は,子どもたちが作り上げてきた作品に対して,「バーチャル学芸員」である学部生がアドバイスを書き込むというものであり,その支援の内容は,書かれている文章の添削,または伝わりにくい箇所の指摘,レイアウトの問題など多種多様なものであり,それをもとに,博物館としての展示物の質を高めていくことをねらいとして行われた。(資料 6, 7)
  実践授業( 平成 15 年 11 月 5 日に本プロジェクトの公開授業として行われた)は,子どもたちが作った作品に対して「バーチャル学芸員」が書き込んだアドバイスを初めて見て,改善しなければならないところを確認し,作品を再構成する作業やこれからの活動計画を練り直す授業であった。
  子どもたちは,それまでに自分たちなりに懸命な調査活動や作品づくりを行ってきた。その取り組みに自信を持ち,素晴らしい作品となっているという自負もあった。その作品に対して,上町のことをあまりよく知らない「バーチャル学芸員」が,一人の博物館訪問者として実際に見て「どう感じてくれるのか」,また,「どのような反応を返してくれるのか」と,期待と不安が入り交じった気持ちで「準備室」に書き込まれているアドバイスを確認することとなった。( 資料 6 , 7 )まさに,自分たちの今までの活動に外部からの評価が与えられる瞬間であり,今までのように身近な存在の人から与えられるそれとは違って,会ったこともない人からの評価を受けるということが,子どもたちのその期待と不安をより一層高め,いつになく緊張した課題に対する授業となり,その授業の質自体も子どもたちの思いによって高まっていった。(写真 7 )
  アドバイスを書き込んだ「準備室」を確認したあとの子どもの表情は,明らかにその前とは違っていた。「準備室」を見ながら( 写真 8 ),すぐに「ここはこうしていこう」とか,「これはやっぱり前の方が良かったのでもとに戻そう」,「ここはそういう気持ちで書いてないのになあ,うまく伝わらない」,「このアドバイスは自分たちの思いと違うよな」,「あっ,ここは伝わっているよな」などと,活発なグループの話し合いが行われ,いつもは消極的であまり目立たない児童が「ここは僕がやり直す」と自ら進んで作業を行う(写真 9 )などの姿も見せていたようだった。今までに見落としていたことや独りよがりであった自分に気づき,自分たちが取り組んでいる活動を振り返ることができ,今まで以上に活動への価値付けが子どもたち自身の中で行われていった。「バーチャル学芸員」のアドバイスをきっかけに,一つの作品に対しての子どもたちのこだわりが深まり,どこかの出版社の編集室にいるかのような錯覚さえ覚える授業となっていった。

写真8 「ここはどうする?」などと話し合いながらの協同的な取り組みが行われていた。
写真9 「ここは僕に任せて!」と自主的な取り組みが行われていた。

( 6 )実践を通しての相互の学び

 今回の実践授業でも明らかになったように,この実践を通して,子どもたちは多くのことを学んでいった。
  「バーチャル学芸員」からの自分たちの作品の評価を受けるといった他者評価によって,今までの自分たちの活動を振り返ることが自己評価にもつながり,今後の自分たちが目指すイメージが明確なものとなっていった。自分たちが「完璧!」と思っていたことに対して,他者からのアドバイスをもらうことでそうではなかったことに気づき,そのことがこれからの課題探究への意欲につながり,自分たちの伝えたい思いや願いへのこだわりとなっていった。今取り組んでいる課題が,誰のためのものでもなく,自分たち自身の課題となっていったのである。
  さらに,その課題意識は,子どもたちの協同性を生み,「自分がやるのだ」という自主性も育んでいった。アドバイスや意見に対して,常に建設的な話し合いがなされ,仲間のよさや支援してくれる地域の人や周りの人に対する感謝も生まれていた。それは,「教えてくれた○○さんのためにも,自分たちはちゃんとしたものを作らないといけない」という一人の子どもの発言に表れている。さらに,発信者の自覚としての責任感も同時に学んでいたようであった。
  多くのことを学んだ子どもたちと同様,この取り組みを通して「バーチャル学芸員」の学部生たちも多くのことを学んだ。
  「バーチャル学芸員」として当初は,「自分には何ができるのだろうか」,「どうすれば子どもたちに自分の思いが伝わるのだろうか」,「どの程度のアドバイスをすればいいのだろうか」といった不安や悩みがあった。しかし,夜遅くまでアドバイスを書き込んだことや,自分たちが書き込んだアドバイスをもとに展開された実践授業を参観するという経験の中で,自分たちのアドバイスが子どもたちの学びを大きく発展させているのに役立っていることを実感することとなった。このことは,今まで抱いていた不安や悩みが,実は教師として重要なことであるということに気づけたのである。教師は教えるのではなく,教師は子どもたちの支援者であって,子どもたちの気づきをいかに促していくのか,また,その気づきを共有させるためにどのような手立てを意図的に学習活動に組み込んでいくのかといった,教師としてのあるべき姿を学んでいった。また,そのことは,今まで経験したことのない総合的な学習の時間の意義についてまでも理解することとなっていった。
  以上のように,この「でじたるキッズミュージアム」の取り組みは,予想以上の成果を生んだように感じる。子どもたちと「バーチャル学芸員」との出会いの中で生まれた子どもたちの課題探究への意欲は,平成16年3月に開館される「龍馬の生まれた町記念館」(仮称)の展示責任者や昔上町の町づくりに携わった人々との交流を生み,自分たちの作品づくりを通して,地域社会へ参加することの喜びや自分たちで地域づくりに貢献できているという自覚からの自己有用感へと,子どもたちの内面の自己変容にまで高まっていった。今回の協力校である第四小の教師も,スタート当初からは考えられないほどの学習展開に驚き,このプロジェクトの教育的意義の大きさを改めて感じている。
  なお、平成16年2月23日現在公開されている博物館の展示室は資料として添付する。

資料 1 「準備室」の変化 1

資料 1 「準備室」の変化2


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