6.システム活用(授業実践)の計画・実施・評価




6.4 「木の良さを活かしたものづくり」博物館 (高知市立旭東小学校6年生


(1)授業実践校の概要

 高知市立旭東小学校は高知市中心部よりやや西に位置している。北部に住宅地が開かれ、一時の児童数は1000人を超える大規模校であったが、近年新校開設に伴い中規模校になっている。学校教育目標を「豊かな心を持ってたくましく生き、進んで学ぶ旭東の子」とし、めざす子ども像を「あいさつができる子」「心豊かな子」「自ら考え学ぶ子」「がんばる子」と設定している。この実現に向けて、

"動く・感じる・つながる"〜子どもの可能性が生きる教育活動の創造〜

を研究主題として、新しい学校づくりに向けての取り組みんでいる。新教育課程についての研究を行う中で、これからの教育において学び方や生き方を主体的・総合的に学ぶ必要を感じ、「総合的な学習」を研究の中心においている。


(2)全学年共通した総合的な学習の時間の流れ

 総合的な学習の時間では「チャレンジ学習」 (75 時間程度 ) と「ふれあい学習」 (35 時間程度 ) が計画されているが、ここでは「でじたるキッズミュージアム」が関係した「チャレンジ学習」について説明する。
  旭東小の特徴として、全校共通してプロジェクト学習の手法を取り入れていることが挙げられる。

資料 2プロジェクト学習の展開:6年生では、プレゼンテーションの結果、実物を作成するために「製作」の時間が設定されて
いる。


<各学年のテーマ>(2003年度)
  学 年 領 域 テーマ

のぞみ 生活 野菜となかよし


1年 自然
家族
いろいろなことにチ
ャレンジしよう
2年 まち
遊び
おもちゃ大会を開こ

3年 地域
福祉
あさひの町をきれい
で安全で住みやすい
町にしよう
4 年 地域
環境
江の口川を今よりも
っときれいにしよう
5年 国際理解
  食
私たちの食生活をよ
くしよう
6年   共生 木のよさを活かして
私たちの学校を快適
で楽しくしよう

  「プロジェクト」はある目的を果たすための「構想」や計画全体」を意味している。
  目的達成のためのそれぞれの局面・段階を「フェーズ」と呼び、フェーズごとに「目標」を掲げ、活動して「成果」をあげる。「目標」と「成果」を照らし合わせ「評価」し、そこから次のフェーズにつなげていくのである。 今年は子どもたちに自己評価能力を身につけさせたいと願い、フェーズごとに評価セッションを設定していることも特徴に挙げられる。
  「評価」は「ポートフォリオ」を用いて行っている。毎時間、自分が学んだメモ、集めた資料、感想や自己評価をファイルしている。その中から重要なことや意味ある発見などを A 4版2枚の用紙にまとめた(再構築した)ものを「凝縮ポートフォリオ」と呼ぶ。最終的には自己評価や相互評価を「成長エントリー」としてまとめている。
  明確な学習の計画を立て、目的(設定したゴール)を叶えるためにできる限りを尽くしていくプロジェクト学習の方法は、子どもたちに前向きな意志を育て、学び方を学ぶのに有効であり、1年生からこの過程を踏んだ学習を積み上げていくことで、高学年になるほど主体的な問題解決力が育っていくと考えている。
 テーマは毎年子どもの願い、昨年までの学習内容、教師の願いから設定している。
  各フェーズにかける時間は学年で異なるが、1学期に 10 時間以上をかけ、体験活動を通してテーマを決めている。したがって、夏休みが個人のテーマ追求のための情報リサーチのために有効に使われている。
  2学期には集中的な取り組みが行われ、 3 年から5年までは成長エントリーまでを終える計画(6年生は3学期)である。
  どの学年もプレゼンテーションでは地域の方も招いて学習の成果を報告している。地域と連携した教育体制を進めるきっかけとなっている。また、下級生が発表会に参加することで、次年度への学習の方向付けや意識付けにもなっている。


(3)該当学年のチャレンジ学習

 当該学年の学習内容にふれる前に、平成14年度の6年生の活動を紹介する。
  平成14年度の6年生は総合的な学習の時間において4年生の時に地域にある水道山と地域を流れる江の口川の環境について学習している。5年生では、国際理解とリサイクル、環境、情報等の学習を積み重ねている。そこでは、あるチームが木の商品開発を提案し、「木の筆箱」が商品化された経緯がある。それは現在も森林組合センターで販売されている。このように、子どもたちは地域の環境や「木」にかかわった活動をしてきた。
  そして6年生になり、「木の一日先生」の取り組みとして森林総合センターに行き、炭を作ったり、ノコギリ体験をしたり、「木」に関わった活動を行ってきた。これらの活動から、自分たちの環境を自分たちが守り、よりよいものに変えていく力を付けたいと考え、テーマを「木の良さを活かした学校づくり」設定し、ゴールとしてプラン集や実際に使える椅子や机などの作品を作り上げている。町中の学校であり、周りに自然の少ない旭東小の子どもたちにとって、自然や環境問題を身近に感じながら学習を進めることができることができた。
  平成15年度の6年生は、テーマについての話し合いにおいて、昨年の6年生の活動を引き継ぎたいという意見が多かった。プレゼンテーションを見たこと、校内の木工作品に触れたこと、自分たちの学習経験などから興味を高めてきたのである。
  そこで、最上級生として「木を活かして私たちの学校を快適で楽しくしよう」という学年テーマを設定した。
  さらに個人のテーマを出し合いながら、

    1. 全校児童のために楽しく遊べる部屋や道具を作りたい。
    2. 6年生がくつろげてゆったりできる部屋を作りたい。
    3. 地域の大人や保護者の人たちがくつろげて交流できる学校にしたい。
    4. 地域のミニデイサービスに訪れるお年寄りが安らげる学校にしたい。
    5. 小さい子ども達のために楽しい学校にしたい。

という5つの大きなテーマを設定した。そこからさらにテーマの中で少人数のチームを作り活動を開始する。
  子ども達は、「快適な学校」についてアイディア集・プラン集・模型などで提案(プレゼンテーション)したいと考えており、最終的には自分たちで集めた間伐材で利用可能な作品を完成させることになる。
  活動の過程においては専門家の登場が計画されていた。
  「準備」では木の話を森林組合の人から聞くことができた。
  「情報」では間伐体験に同行し、作業の仕方や「木」の性質を教えてもらうことができた。
  「プレゼンテーション」後の「製作」では、主に「高知県森と緑の会」の人々が、子どもたちと一緒に、設計からかかわっている。
  学習内容が実社会に生きて働くものであると子ども達が実感できるように、授業に専門家を招くことは大切である。


(4)本単元と「でじたるキッズミュージアム」の位置づけ

 「バーチャル学芸員」は、子どもを援助するのではなく、遠隔地からインターネットを通して子どもたちの活動を支援する役割を持つ。現場の教師と相談し、「製作I」(6年生の年間計画参照)から子供たちとの交流が始まる。


<6年生の年間計画>
テーマ 木を活かして私たちの学校を快適で楽しくしよう
  学習活動
準備2. ・山の話  5月
・山の作文
テーマ ゴール           5.   ・学年テーマの決定  7月
・個人テーマの決定
・チームづくり
・チームテーマとゴールの決定
・評価
計画3. 活動の計画を立てる
評価
情報10. •  木の修理     7月
•  間伐体験     8月
  •  アンケート調査  10 月
  •  木のよさを活かした建物調査
•  専門家に聞く
•  中間評価セッション   11 月
製作I
  15.
・プレゼンに必要な情報を選ぶ
・プレゼンのボードの作成
プレゼンテーション 2. ・プレゼンテーション  11 月
・評価
製作II 20. ・提案したプランの実現 2月
・評価
再構築6. ・凝縮ポートフォリオの作成
・評価
成長エントリー5. ・ 自分の成長を見つける
・友だちの成長をみつける
写真 10 製作I 「バーチャル学芸員」の作業風景
写真 11 制作I 授業を同じ時間に行い、リアルタイムで支援している様子
写真 12 バーチャル学芸員も参観したプレゼンテーション


(5)授業の様子・支援内容

 「製作I」「プレゼンテーション」「製作II」において、「バーチャル学芸員」がアドバイスを行う。「木の良さを活かしたものづくり博物館」の「バーチャル学芸員」は4人であるが、活動当初はメンバーにも、ソフトにも慣れないことがあり、ぎこちなさが感じられた。しかし、作業回数を重ねるに従って、学芸員の間にも協同性がうまれるようになっていった。
  「製作I」では、プレゼンテーションするために模造紙や段ボールで作った遊具、練習中の劇の様子が画面にあげられていた。
  この段階で学芸員は、まずは意欲向上のために、認め励ます内容のアドバイス、改善点を気づかせるようなアドバイスを心がけた。
  「プレゼンテーション」では、「バーチャル学芸員」も2名参観することができた。インターネット上で知り合い、かかわった者どうしが、実際に出会うことができ、子どもたちも「バーチャル学芸員」もうれしくて笑顔がこぼれた。
  ここで、「バーチャル学芸員」からのアドバイスについての感想を子どもに質問してみると、「そのまま変えている」という声があった。書き込みはあくまでもヒントであること、これからも参考にして欲しいことを伝えることができた。
  「制作II」では、プレゼンテーションを終え、実際に自分たちで集めた間伐材を利用して制作した作品の写真が画面にあげられていた。博物館をイメージして、光の入り方や作品の置き方に工夫が見られる写真であった。また、解説の文章も記されていた。
  「バーチャル学芸員」のアドバイスは、子どもたちの活動内容、相談内容によって、作り方から見え方へ、つまり、一緒に作品をつくる協力者から、博物館に訪問する見学者の視点に変わっていった。


(6)学びの成果

写真 13 「制作I」時点での書き込み
写真 14 プレゼンテーションで使ったキリン
写真 15 実際に製作したキリンの輪投げ

 これらの過程において、子ども達の作品に変化が見られたものを紹介する。
  これは「小さな子どものため」の遊具として、キリンの輪投げを考えているチームのボードである。「これはキリンの輪投げです」と書かれている。「たくさん輪が入るようにしたい」という願いも伝わってきた。しかし、このままの模型を作ったら、願いが叶わないのではないかと感じた。
  どのように、子どもに気づかせるかと「バーチャル学芸員」は考え、
  Q :たくさん輪が入るようにするには、どうしたらいいかな?
と質問すると、
  A :首を長くすればいいです。
と答えが返ってきた。 Q&A 式のやりとりも、交流を促進することに効果的だった。
  しかし、プレゼンテーションのために作成したキリンは 写真14 (中央んぼ木の椅子の上)のようなものだった。ここでもアドバイスを書き込んでいくが、授業の関係もあり、子どもからの書き込みはなかった。
  どうなるかと画面を楽しみに見ていると、「製作II」では 写真15 のような作品が生まれた。首が長くなっている!輪がたくさんはいる!アドバイが生かされていると受け取っている。

 学芸員はフェーズにおいて支援の観点を変えてきた。効果的なアドバイスを考えながら、子どもたちの相手意識、チームの仲間との協同性を高め、博物館の設立に対して意欲的に活動することができた。
   プロジェクト学習の成功のポイントとして「学習のゴール=社会のニーズ」、「仕事と個性/ミッション」,「情報共有/思考共有」があげられる。子どもたちは自分たちで決めたテーマから設定したゴールに向かって、自分の任務、チームの任務を果たしていく。支援者は子どもたちのモチベーションをあげなくてはならない。
  「でじたるキッズミュージアム」の活動は、その点においても有効であった。



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