6.システム活用(授業実践)の計画・実施・評価




6.5 「こころふれあい写真館」(萩市立明倫小学校6年1組)


(1)授業実践校の概要

 萩市立明倫小学校は、 1885 年(明治 18 年)に、旧萩藩校「明倫館」跡地に開校された。校内には明倫館時代の有備館、水練池、明倫館碑、明倫館南門跡などの文化財があり、約1万平方メートルが国指定史跡になっている。そういった歴史的な位置を生かし、明倫小では明倫館の伝統と萩が生んだ名士「吉田松陰」の教えを踏まえた教育活動を行っている。「平成 12 〜 15 年度学校インターネット2指定校」として情報教育について研究を継続しているとともに、「平成 14 〜 16 年度学力向上フロンティア事業文部科学省指定校」として「生きる力をはぐくむ教育の実践」についても取り組んでいる。


(2)明倫小の総合的な学習カリキュラムについて

 明倫小の総合的な学習カリキュラムの特徴は、総合的な学習における学びと教科における学びを、整合性をもって関連づけている点であろう。各教科で身に付けた基礎・基本を総合的な学習で生かし、育てるとともに、総合的な学習の時間に体験的な活動で得られた知的な気づきを各教科の学習において内容を理解するための手がかりとして活用するなどの場面を設定し、これらの一連の学習活動から子どもたちの確かな学力が身につき、生きる力へとつながっていくことをねらっているものである。( 図 5 )

図 5 明倫小の構想図

 また、明倫小では、総合的な学習のカリキュラムを編成する上で、

  1. 子どもの実態(育てたい子ども像)を明らかにする。
  2. 教師の思いや願いを明らかにする。
  3. 低・中・高に分かれた部会でテーマを決定する。
  4. 学年としての総合的な学習の方向付けを確認する。
  5. 「学びのスタイル」について確認する。

という各段階を経て行うことになっている。手続きを整備して各学年が同じ方法でカリキュラム編成をすることで、学校全体の整合性を高めることを追究し、カリキュラムの成果を評価することにしているためである。


(3)該当学年の年間指導計画

 この「こころふれあい写真館」に取り組んだ 6 年 1 組では、高学年のテーマである「自ら課題をもち、自然とのかかわりや様々な人とのふれあいと生かして、主体的に学習に取り組む子どもを育てる。」を受けて、「創造しよう 〜こころネットワークを広げよう!」という年間を貫く単元を構成している。( 表2 ) それを達成するための方法として「写真館」に取り組んでいる。ちなみに、「学びのスタイル」としては基本的にクラス単位で行うことにしている。

写真 16 国指定史跡「有備館」

  単元設定の意図としては、子どもたちが萩のまちを写真に収める活動を長期にわたって行うことから「ふるさとのこころ」を追究し、これまで気づかなかった「身近なふるさと」「そこに生きる人のこころや自分自身のこころ」に出会わせることである。名所旧跡には事欠かない地域であるため、ともすれば観光資源としての萩を写真に収めることに傾くことになりがちであるが、むしろ表面に現れにくい「ふるさとのこころ」を対象としたため、深い思考が要求される学習である。それをサポートするために、地域の博物館の学芸員、写真家、卒業生、元校長、保護者などと連携をとりながら、活動をすることになっている。子どもたちは、萩のまちの思い思いの場所に出かけていき、そこで出会った人たちとの交流から「ふるさと萩のこころ」を写し出そうと試みる。その成果を示すために写真館を開き、相互に評価し合うことを何度も繰り返すことから本物の「こころ」と出会おうとするものである。この写真館は、実際 のものとして6月と 11 月に明倫小敷地内にある史跡「有備館」において開催されている。電気が無くうす暗い館内ではあったが、そこで展開された「写真館」は、子どもたちの萩のまちへの思いが強く表現された写真が展示されたのみならず、訪れた人々を手厚く迎えようとする気持ちがしっかりと伝わってくる、まさにこころを届けようとする活動を行っ ていた。出会う人と「こころネット ワーク」をつなぎ合うことをテーマにすえた取り組みの真骨頂である。

表2 明倫小6年1組総合的な学習 年間指導計画
写真 17 「有備館」内で行われた写真館の様子(11月) 全ての子どもたちの手作りの作品が並ぶ。被写体となった萩のまちの人たちも訪れた。子どもと大人との暖かい会話がはずむ。


(4)本単元と「でじたるキッズミュージアム」の位置づけ

 このように年間を通して「写真館」に取り組む内容のため、相当数の作品が創り上げられることになる。子どもたちの願いとして、当然のことながら、撮りためた作品群を多くの人たちに伝えることがある。萩の人はもちろんのこと、より多くの人たちの目に触れる場を設定することで、萩の良さを伝えるだけのクォリティが写真自体にあるのかどうか、そういった評価を受けることができるからである。「有備館」で行われた写真館は、そこに漂う伝統が作品の魅力を際立たせる力を有してはいるが、多くの人に見てもらうためにはどうしても限界がある。そこで、作品をデジタル情報として伝えることをねらい、「でじたるキッズミュージアム」の取り組みを開始することとなった。以前から交流してきた博物館学芸員や写真家などの専門家から作成に当たってのアドバイスを受けるとともに、鳴門教育大学学部生による「バーチャル学芸員」からの支援も受ける形で、取り組みは行われていった。

写真 18  遠く離れたもの同士で作品を協同的に創り上げる。顔は見えなくても思いはひとつ


(5)実際の授業および支援の様子

 2学期に「でじたるキッズミュージアム」を始めたときは、博物館について取り組むグループ「博物館グループ」がメインで関わった。彼らが最初に提示したのは、「道」というテーマの作品であった。( 資料9 )これは萩のまちの道の移り変わりを古い写真と自分たちが撮った現在の写真とを比較することから気がついた点について触れる内容であった。方法として、写真に対してコメントを入れ、それにより見ている人へメッセージを伝えることを試みていた。これに対して「バーチャル学芸員」からは、写真に付けられているコメント内容があまりに萩の情報に限定されており、外部の人間からは分かりにくいこと。比較するのであればロケーションを再考する必要性があることなどについて、気づかせるような支援を行った。( 資料10 )すると、子どもたちはそれを汲んで写真を取り直すために再取材のためにまちに出かけて行った。道の様子を比較する写真をより効果的な場所で取り直すともに、自分たちの中でも明確でなかった情報を知るために、写真の場所の昔の様子を知る人から話を聞きだすことも行った。そこで得たのは、現在の萩の豊かさを象徴する「ショッピングセンター」の場所は、以前は萩の地質を生かした「蓮田」であり、それこそが当時の萩の豊かさの象徴であったという話であった。この話から道の変化を比較するテーマから、その裏側に

資料 9  同じ場所を比較してその変化を伝えようとしているが、ロケーションの問題からその意図がわかりにくくなっている。

資料 10  ロケーションの問題とコメントの不明瞭さについて鳴教大学部生がアドバイス

資料 11  撮り直すために再度取材し、そこで得た話から新しいテーマ「本当の豊かさとは」に発展していった。

「豊かさ」の価値も変化したことに焦点化していった。このテーマこそ萩の「こころ」を写し出すことへより迫るもの、と考えたからである。一体どちらの豊かさが本当の萩の良さなのか。それは今現在の自分たちではわからない。それについて写真を見た人と一緒に考えることから探っていく、という考えにたどり着いていったのである。( 資料11 )最終的に彼らのテーマは「本当の豊かさとは 〜萩の道〜」となり、ショッピングセンターが萩にあることの良さと過去に存在した蓮田の良さも紹介しながら、「本当の豊かさとはまだわからない。これからも人々のくらしの変化や、環境、自然について調べ、自分たちなりの本当の豊かさとは何か探していきたい。」というメッセージを写真に載せて伝えることになった。


(6)学びの成果

 明倫小の子どもたちの学びを見たときに、当初は単純に昔と今の違いを道の周辺の変化から比較することで停止していた思考が、「バーチャル学芸員」からのアドバイスをきっかけにしてアクションを起こしたことから、自分たちでも気づかなかったより深い思考へと迫ることが促された、ということが指摘できるであろう。このことに関して明倫小の子どもたちは、「調査するときの視点をアドバイスをもらって少し変えてみたことから、表現したいと思ったことの裏側に隠れていたテーマがあることに気がつくことができた。」と話していた。彼らの学びの姿勢が「啓かれていた」からこその気づきであるとともに、「でじたるキッズミュージアム」の効果が最大に現れた場面であったと言えることだろう。
  また、これに関わった「バーチャル学芸員」学部生にとっても大きな学びになった。それは、ひとつには目前に存在しない子どもたちに、萩の地で精一杯取り組むその熱い思いを読み取った上で支援をするには、支援内容に格段の配慮を要することを身をもって認識したこと。そして、適切な支援が子どもたちの深い思考を促していくことへの実感である。総合的な学習のもつダイナミックな学びを「でじたるキッズミュージアム」に取り組むことによって強く感じることができたのである。
  この後、他のテーマの子どもたちもデジタル写真館作成に取り組んでいる。萩のこころを多くの人たちに伝えるために、どのような表現をすることが一番効果的なのか、じっくりと考えながらの取り組みである。今まで撮りためた写真を洗い出し、適切な説明を添えることでよりよいデジタル写真館を創り上げようとしている。そこには「バーチャル学芸員」からの支援はもちろんのこと地元の専門家からの支援が加わっている。ここに集う人々が求めていることは、本物のこころを求めることである。それを通して人々は協同的な学びを重ねていくことの喜びを感じているはずである。



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