本プロジェクトでは,DKMの4つの博物館における子どもたちの学習活動をネットワーク上で支援する「学芸員」として、鳴門教育大学の学部学生の協力を得た。学部3年生必修の「教職共通科目第5欄」の「総合演習」の中の「CA」(グループごとに分かれて与えられた課題に挑戦し,その学習成果をまとめて発表する課題別選択学習)の7つの課題別コースの一つとして設定されたものである。以下の表が,年度当初に,受講生に対して配布されている「総合演習」のシラバス(部分)である。
(1)「総合演習」の実施
「総合演習」は2・3学期約5か月間(15コマ)にわたって実施されている。各教官による総合的な学習を異なる分野から捉えて講義を受ける「MA」,一人一台の顕微鏡でミクロの世界を堪能する「SA」とこの「CA」の3つの異なる形態からなっている。
本プロジェクトリーダーである村川は担当教官の一人で,CAの一つを担当している。村川が設定した課題は『 ようこそ「でじたるキッズミュージアム」へ』である。
表3 に示されているように, 「バーチャル研究員」あるいは「バーチャル学芸員」として,子どもたちの学習や博物館づくりをネットワーク上で支援することを通して,総合的な学習を指導していく際に教師に求められる「総合学習における子どもや専門家とのかかわり方」,「メディアの活用の仕方」,「総合学習の成果の発信・表現のポイント」,「協同的に問題解決していく力」を実践的に培いたいと考えた。
コース選択および人数の調整の結果,このコースには学部学生15名と学部授業の聴講生である大学院生2名が配属された。
担当:村川雅弘/総合学習開発講座/murakawa@naruto-u.ac.jp 村川研究室では,経済産業省の支援の下,企業と学校現場と共同で「でじたるキッズミュージアム・プロジェクト」を進めています。子どもたちと一緒にネットワーク上に博物館を構築するプロジェクトです。高知県の小学校4校,山口県萩市の小学校1校,芦屋市の小学校1校と共同で「萩の町博物館」「森林博物館」「防災博物館」「龍馬の生まれた町博物館」を同時に開館していきます。 受講生の皆さんには総合学習や情報教育,交流学習に長けている院生さん(村川研究室M1年生6名)と協力しながら,「バーチャル管理人」の補佐(「バーチャル研究員」)あるいは「バーチャル学芸員」(可能なら)として,子どもたちの学習や博物館づくりをネットワーク上で支援してもらいます。博物館の実際の運用は「バーチャル管理人」として院生スタッフが行います。また,可能ならば,実際に学校(高知市内を予定)を訪問し授業参観も行いたいと思っています。その際の旅費はプロジェクトから支弁します。メディアに興味ある方,博物館に興味ある方,先のテーマに関心のある方,デザインの得意な方,子どもたちとの日常的な交流を望む方の受講を期待しています。 本プロジェクトを通して,これらからの教師に求められる「総合学習における子どもや専門家とのかかわり方」,「メディアの活用の仕方」,「総合学習の成果の発信・表現のポイント」,「協同的に問題解決していく力」を実践的に培っていただきたいと考えています。なお,本プロジェクトのイメージは次のとおりです。 |
(2)「総合演習」村川グループの活動内容
今回,「総合演習」(学部生必修授業)の時間を利用して村川グループの学部生は,「バーチャル学芸員」としてDKMと連動させ取り組んでいった。また,「バーチャル学芸員」として関わることは,教師としての支援の在り方が問われている総合的な学習を自らが体験することでもあり,総合的な学習への認識を深めることもねらいとして行った。
写真19 二宮氏の講義 「総合演習」の授業計画は,表3に示している通りである。表からも分かるように,本プロジェクトは IT 機器を利用した情報教育に関してのソフト開発研究であるために,学部生には,これからの情報教育に必要とされている資質と能力の向上も期待した内容で,学習内容に応じて講義形式と演習形式をうまく調整・関連させ取り組んだ。また,専門家や教官,教師の方々をゲストティーチャーとして招き,学部生に対して講話をしてもらう機会も設定した。例えば,岡山市企画局総合政策部文化政策課デジタルミュージアム開設準備室二宮典子氏からは,「現在の博物館教育の概況について」,鳴門教育大学情報処理センター助手曽根直人氏からは,「情報教育におけるセキュリティー運用のあり方について」,英国ロンドン市イヴラインロウ小学校校長ギャリー・フォスケット氏からは,「英国の総合的な学習実践の視点からみたDKMの学びの意義について」などの内容であった。
学習内容に関しては,講師による講義形式や全体で自分たちの「学び」を発表し合い,「学び」の共有化を図る演習形式などの全員で行う活動と,「準備室ボード」に上がってきた子どもたちの作品に支援を行う作業や「バーチャル学芸員」としての個人の「学び」を話し合い,まとめる作業などを博物館チームごとに行った活動がある。各チームの活動内容は,表5に示している。
写真 20 フォスケット氏の講話 授業をDKMと関連させて展開していく中で,学部生は,コンピュータの有効活用のための情報教育に関する様々な経験を重ね,その有用性の認識を深めていった。アプリケーションソフトのインストールから有効活用,学校現場におけるコンピュータ活用の必要性と有効性,プレゼンテーションの在り方やそのよりよい方法,また,メーリングリストの利用など,まさしく情報教育に関しての総合的な学びを行っていた。その学びの集大成は,「総合演習」の最後に行われる7グループ合同の発表会において行われるようにした。
(3)受講生の成長
4つの博物館を支援したことによる学生たちの変容・成長についても,本6章の各博物館の実践授業報告の中で語られてきた。ここでは,その報告や7章の学生に対するアンケート調査結果,8章の学生との座談会から,改めて,子どもの博物館づくりに「バーチャル学芸員」として支援した学部生たちの成長・変容について整理してみたい。コース選択のための配布資料(資料 12 )に述べられているように,このコースは,プロジェクトを通して,これらからの教師に求められる「総合学習における子どもや専門家とのかかわり方」,「メディアの活用の仕方」,「総合学習の成果の発信・表現のポイント」,「協同的に問題解決していく力」と言った力量を少しでも実践的に培っていただきたいと考えている。これらの点を中心に探っていきたい。
- 総合的な学習における子ども支援の難しさの実感
座談会の中での「面と向かってのやりとりでは,アドリブも効くけど,ネットワークを使うと,限られた情報の支援をどうするのかについて考えたことに意味があった」「実習における発問以上に精選したものがDKMのアドバイスになっていったように思う」,あるいはアンケート結果にある「言葉の重みです。普段何気なく話していることでも,もしかしたら自分の思いはきちんと相手に伝わっていないかもしれない。誤って伝わっているかもしれないと思い,気をつけて大切に話をするようになった」「言葉一つが子どもに大きく影響するということ」「子どもの成長には,指導する側の言葉や態度が大きく影響すること」などが彼らの成長を如実に表している。
「バーチャル学芸員」としての学部生による子どもへのアドバイスに際して,いつの間にか合言葉になっていった言い回しが「気づきを促す」である。ボード上の子どもたちの作品の言葉や絵,写真等による表現の内容や方法について「こうしたらもっとよくなる」という気持ちが「学芸員」の中にもたげてくる。「しかし,直接に具体的に伝えてしまったら,子どもたちは『ああ,そうか』と何のためらいも疑問も持たずに変えてしまわないか。それでは子どもに学びはないじゃないか。いい作品・展示ができることがねらいではなく,まさに『自ら課題を見つけ,自ら考え,自ら判断し,主体的に行動すること』が学び,特に総合的な学習の学びでは大切なのではないか」と,学部生たちは子どもとのかかわりを通して実感を伴って理解していくようになっていった。その中から合言葉のように使われだした言い回しが「気づきを促す」なのである。子ども自身が問題に気づき,そしてその解決策を自ら考えるようになるには,自分たちはどうかかわっていくべきなのかを大いに悩み,そして協同的に対処していったのである。傍から見ていても頼もしい限りの成長であった。- 様々な情報活用スキルの必然性を伴った習得
座談会の中での「他の人のプレゼンがとても気になるようになりました」「やっぱり中身が大事なんだということを一番見るようになりました」「大変だったけど,こんな風にいい発表ができて,やり遂げたあとの満足感が違いました」が彼らの成長の証である。
写真21 初めての授業の様子 コース分けが終わり,村川グループとして初めて一堂に会した時は正直不安であった。このプロジェクトではパソコンを活用できることが大前提になっていた。事前に「パソコンを持参するように」と連絡していたにもかかわらず,持参してきたのは3割程度であった(写真 21 )。研究者や院生レベルでは携帯電話と同じくらいに持ち歩くことが常識になっているにもかかわらず,二十歳そこそこの担当教官や大学院生の年齢の半分にも満たない世代の学生たちがノートのように感じていないという実態に唖然とさせられたのである。情報処理関連の授業では大学の施設・設備を活用しているようだから事足りているのか。手持ちのノートパソコンは開いたこともない学生が大半であった。
写真22 パソコンを日常的に使う学生に その彼らが,本プロジェクトが進むにつれて,パソコンを当たり前のように持参し使いこなすようになっていった(写真 22 )。プロジェクト終了時には,メールでやりとりし,ウイルス対策を行い,DKMで遠く離れている子どもの学習を数ヶ月にわたって支援し,教材作成ツールでレポートをまとめ,全員の成果の集大成をパワーポイントでプレゼンテーションできるまでになった。ドリルを課して訓練したわけではない,必要に応じて必要な時に求め学び習得してきたのである。7つのコースが一同に介して行う発表会では,自信に満ちた姿が印象的であった。特に,本を読んで学んだことを,教官の話を聞いて学んだことをまとめて発表したのではなく,自らが体験したことを通して考えたことを互いに出し合い,何が重要なのか 写真 22 パソコンを日常的に使う学生に を十分に吟味し,協同的な作業を通して「紡ぎだされた言葉」を具体的な実践と絡ませながらまとめ・発表していたのである。
- 総合的な学習に対する理解
アンケートの中に「今回の演習をして,自分自身たくさんの学びが出てきた。それは,やはり黒板だけではわからないことがほとんどで,実際に自分で動いたり,見たりしたから,私は今回の演習にとても満足しているし,子どもを理解するにも,自分を成長させるにも,よいものであった」と述べているように,やはり長期にわたる具体的な体験は多くの学びを可能とする。そして,自問自答することで,学部生同士あるいは現職教師である院生との協議を通すことで,その豊かな体験の意味を考え,確かな学びへと変換していくのである。彼ら自身がまさに「総合的な学習を体現した」と言えるだろう。
アンケートの中の「総合的な学習は,教師と子どもとの関係が多様で,みんなが一緒に学び・育ち合うことができる,そんな時間である」「総合を通して,子どもに何を学んでほしいかを,教師がしっかりと持っていないといけないこと,教室の中だけでは決して学べないことがたくさんある」「教師が共に学ぶことができる学習であること。興味・関心を引くのに高い効果をもつ学習だということを教師がしっかりしていなければ,中途半端なものに仕上がる危険性も持ち合わせていること。教師や子どもたちの創意工夫で,高い発展性をもつ学習だ」「子どもが自分たちでやってその成果を実感できたときの喜びや,上手くいかなかったときの悔しさがよく伝わった。やはり,自分で考え,悩み,行動したからこそ本当の力になる」など,大学の講義で話してきたことだが,これらのことを体験を通して実感している。身をもって,「総合的な学習とは何か」を学んだのである。
表4 「総合演習」全体の流れ 日 時 内 容 1010(金) ●オリエンテーション 1016(木) 授業計画等[精道小] 1017(金) 役割・日程の確認 1017(金) ●趣旨・班分け・役割・日程の確認・環境整備 1018(土)
〜1031(金)★グループ別会議[随時] 1022(水) 環境設定作業 [大津小・第四小・旭東小] 1024(金) 3年生合宿(休講) 1024(金) 授業計画等[明倫小] 1027(月) 環境設定作業[第四小] 1031(金) ◎ SA 顕微鏡実習 1105(水) ■授業研究会[第四小] 1107(金) ●博物館について二宮典子さんの講話 1111(火) 授業研究会[旭東小] 1114(金) ●大学祭(休講) 1115(土) ■授業研究会[大津小] 1118(火) ■授業研究会[旭東小] 1121(金) ●ウイルス対策について曽根先生の講義(対策ソフトインストール)
●各チーム毎によるバーチャル支援1128(金) ■授業研究会[明倫小] ●チーム毎に作業 1205(金) ●イントラバケッツの入力の仕方 ●イントラバケッツで個人の学びをまとめる 1206(土) DKM 全体会議[高松市内] 1212(金) ●個人のまとめ発表 ●イントラバケッツで作成したものを共有 0109(金) ●チーム別発表会準備
●パワーポイントの入力の仕方
●チーム毎に学びをまとめるセンター入試(休講) 0116(金) ■ DKM 全体会議[鳴門市内]
精道小追悼式0119(月) DKM 全体会議[鳴門市内] 0123(金) ●チーム別発表会
●全体発表会の準備0130(金) ◎教養講座 0206(金) ●全体発表会リハーサル 0213(金) ◎発表会(他のグループ) 0220(金) ●発表会(本番)
●ギャリー・フォスケットさんからの講評0223(月) DKM 全体会議[鳴門市内] 0227(金) ◎発表会(他のグループ) ◎…学部生3年生の全体の活動
●… DKM に関わる学部生すべての活動
★… DKM に関わる学部生のグループ活動
■…協力校の授業研究会等
表5 各チームの活動計画 月 森林チーム 龍馬チーム 萩チーム 防災チーム 10月 10日 「バーチャル管理人」による各博物館の説明の後,チーム編成を行う 「わいわいレコーダー」・タブレットのインストール 19日 メーリングリスト立ち上げ チーム別会議(随時) 28,29日 DKM環境設定・作業確認,これからの日程確認 28日 第四小に向けてメッセージを書く 11月4日まで 随時バーチャル支援 11月 5日 第四小学校全校研に参加する 7日 総合演習の時間に,バーチャル支援・研究授業参加を経験して感じたことを発表 7日 4 時限目に集まり, DKM の機材説明。および今後の日程確認。 5 時限目終了後に写真撮影。明倫の子たちへのメッセージ作成。 10 日 バーチャル支援 10 日 メーリングリスト立ち上げ 13日 バーチャル支援 17 日 旭東小と同時作業 17日より 随時バーチャル支援 発表会参観・感想を述べる 21日 バーチャル支援 21日 写真を見て,大津小の防災訓について知る 21日 バーチャル支援についての共通理解 ・ ウイルス対策ソフトインストール 27 日 明倫小学校へ出発 28日 連絡ボードに自己紹介やメッセージを書く 28日 バーチャル支援 28 日 わくわく明倫ランド参加 29 日 「こころふれあい写真館」に参加
月 森林チーム 龍馬チーム 萩チーム 防災チーム 12月 3日 バーチャル支援 5日 バーチャル支援 5日 イントラバケッツインストール 6日 明倫小での学びをそれぞれがまとめ,話し合い。 随時バーチャル支援 8日 バーチャル支援 11日 バーチャル支援 12日 バーチャル支援 12日 個人の「学び」のまとめ発表 18日 バーチャル支援 21日 バーチャル支援 26日 バーチャル支援 平成16
年
1月9日 個人の「学び」をチー ムでまとめる 12日 バーチャル支援 21日 個人のまとめをチームで話し合い,まとめる 23日 チーム別発表 1月中旬以降随時バーチャル支援 1 月中旬以降 随時ボードにバーチャル支援 23日 精道小追悼式の様子を伝える 28日 バーチャル支援 30日 バーチャル支援 1月下旬から2月12日まで チーム代表者が集まっての全体発表計画・準備 2月 3日 ビデオレター作成 4日 大津小研究授業参加 6日 全体発表に向けてのリハーサル 16日まで 随時バーチャル支援 20日 「総合演習」全体発表 23日 チームの代表者がDKM全体会議に参加
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