3.ソフトウェアと情報機器の活用事例




3.1 e−ラーニングシステム概要

 e−ラーニングは広義では、パソコンとインターネットを中心としたIT技術を利用した活用した教育システム全体を指す。本プロジェクトでは、特にe−ラーニングシステムと呼ばれる同期型および非同期型システムに、各種ツール等を併用し、効果的なe−ラーニングシステムの活用についての検証を行った。
  同期型システムとは、一般に、インターネット回線等を通じて遠隔地の講師の講義をリアルタイムに受信するような、一斉授業の形態で用いられるe−ラーニングシステムである。講師と学習者間でサーバ上に格納された教材を共有して、授業を実現することが特徴である。
  非同期型システムとは、一般に、インターネット上等に蓄積されたコンテンツ(=教材)を、時間と場所の制約なしに利用するような、個別学習の形態で用いられるe−ラーニングシステムである。学習者の学習履歴がサーバ上に蓄積され、指導者がこれを分析できることが特徴である。
  小・中・高等学校の授業に見られるような多様な学習形態には、上記の同期・非同期のシステムに加えて、講師と学習者、講師と指導者などの間で多様なコミュニケーションを行う必要がある。これについては、WEBサイトに蓄積した教材を利用するWBTの手法や、インターネット上の掲示板システム(BBS)等のツールを、上記e−ラーニングシステムと併用して用いて支援を行った。


3.2 同期型e−ラーニングシステム

 本プロジェクトでは、同期型e−ラーニングシステムとしてNTTラーニングシステムズ株式会社が運用する Interwise社の同期型e−ラーニングシステムを採用した。
  本システムは、ASP型サービスであって管理・運用に関わる利用者負担が少ないこと、比較的低速な回線でも映像と音声を同期させた通信が可能なこと、コンテンツ配信やアプリケーション共有など授業で教材を利用する仕組みが備わっていること、などの特徴がある。
  同期型e−ラーニングシステムについては、主に総合技術教育センターと小・中学校を結んだ情報倫理授業実践で利用し、検証を行った。また、小学校同士の交流授業や工業高等学校での施設見学授業等にも利用し、その応用可能性を検証した。


3.3 非同期型e−ラーニングシステム

 本プロジェクトでは、富士通ラーニングメディア社が提供している InternetNaviwareという非同期型e−ラーニングシステムを採用した。国内で最も多く採用されるなど実績があるシステムであること、テストやアンケートを含んだ教材をHTMLやFLASHなど、WEBで閲覧可能なファイルがそのまま利用して作成できること、学習履歴に対応したLMS(学習状況管理システム)を備えていること、などの特徴がある。
  非同期型システムについては、情報教育全般に関わるテキストブックを教材コンテンツ化した自習・研修システム、および携帯電話のマナーに関する情報倫理授業の事前・事後学習用自習システムとして利用する内容の検証を行った。


3.4 その他のソフトウェア

 上記同期型・非同期型のe−ラーニングシステムに加えて、本プロジェクトでは以下のようなソフトウェアツールを利用し、多様な学習形態に対応した授業支援を検証した。

  
(1)教材の掲載されたWEBページとブラウザ

 WEBサイトに置いたHTMLやJavaScriptを利用した教材を利用して学習させる、いわゆるWBT(WebBasedTraining)である。
  同期型e−ラーニングシステムには、HTMLやFLASH等の教材コンテンツを講師側と学習者側で共有する機能があるが、それを利用しようとすると1クラス分の学習者のe−ラーニングのアカウントを用意する必要がある。一般にASPのe−ラーニングシステムは、アカウント数によって月額利用料金が決まるようになっており、 1回の授業に30以上のアカウントを利用するのは高額な利用料金が必要となる。
  本プロジェクトの情報倫理授業については、学習者が実際に危険な仕掛けが施してあったり、デマ情報などが掲載されているWEBページにアクセスして、その後でその意味を解説するような体験型教材を利用したが、これについてはあえて同期型e−ラーニングシステムを利用せず、WBTを利用した。


(2)掲示板システム(BBS)

 インターネット上に開設された簡易なBBSシステムであり、本プロジェクトではほぼリアルタイムチャットのような目的で利用した。
  同期型の情報倫理授業では、上記の教材を学習者一人一人に体験させた上で、それぞれが疑問に思ったことや意見を講師に投げかけ、これに応じた回答や解説が講師から行われることによって、単なる講義による授業を越える学習効果を期待している。
  同期型e−ラーニングシステムにもチャット機能は付属しているが、1クラスの学習者それぞれが様々なタイミングで書き込みを行い、これに講師が答えるためには、シンプルな掲示板システムの利用がもっとも現実的であり、さらに指導者と講師、学習者相互が、この掲示板システムを利用してコミュニケーションを行うなど、想像以上に有効に利用することができた。


(3)TV電話ソフトウェア

 本プロジェクトでは、異なる地域の小学校同士で行われる交流学習でも、同期型e−ラーニングシステムの利用の可能性を検証した。しかし、通常のe−ラーニングシステムでは、講師や学習者の映像は教材コンテンツや音声の補足的な要素であり、画質や大きさの点で必ずしも交流学習を計画した教員の要求を満たせる品質のものではなかった。
  したがってむしろ動画や音声の質に重きを置いた、いわゆるTV電話ソフトウェアを併用し、交流学習の授業実践を行った。利用したソフトウェアには一長一短があり、複数のシステムを使い分けざるをえなかった。
  具体的には、PHS64Kビット程度の低速回線でも通信が可能と標榜している製品は画質や音声に難があり、特に音声の回り込みや切断(パケットの取りこぼし)に対してあまり考慮されていない。逆にTV会議用ソフト用途とされている製品は、ブロードバンド回線用でしかもTCP/IPの複数ポートやUDPポートを利用しており、ファイアーウォールやフィルタソフトに阻まれて、通信が安定しない。
  理想的には、交流の内容によって例えば静止画+高音質の組み合わせが選べたり、動画+低音質に切り替えたりできる(帯域の割り当てが可能な)ソフトがあればよいと思われるが、該当するような製品は調査した範囲では存在しなかった。
  実際にテストし、また利用した製品は、KDDI研究所のインターネットTV電話BroadBand版、ドコモ・システムズ株式会社のテレビ電話ソフト、ニフティサーブのEyeballテレビ電話サービスなどである。


(4)MS−PowerPoint

 同期型・非同期型e−ラーニングシステムでは、教材コンテンツのデータとしてマイクロソフト社のPowerPointのデータがそのまま利用できることを特徴のひとつとしている。
  しかし現実には、回線の混雑度合いやファイアーウォールやフィルタ等の状態によって、インターネットを利用する授業は常に失敗する可能性を考慮に入れなければならない。また授業の形態によっては、講師が話をしながら遠隔で教材を操作するのが困難な場合もあり、教室で指導者、または授業を支援するボランティア等が予め用意されたデータを利用して、PowerPointを操作する必要があった。


3.5 情報機器の利用

 本プロジェクトの授業実践では、主要な情報機器として下記のようなものを利用した。できるだけ特殊で高価なものを避け、小・中・高等学校の学校現場で利用可能なものを検証するように考えた。

(1)PC

 PCについては、コンピュータ教室等に備え付けられているデスクトップ型PCにe−ラーニングシステムをインストールして利用するケースと、ノートブック型PCをプロジェクト側から持ち込んで利用するケースの2通りがあった。
  主にその学校または管掌する教育委員会のPCやネットワークの管理ポリシーにもよりどちらでも対応できるようにしたが、特にOSやCPU等の制限はあまり厳しくなく、PCの能力でソフトウェア等が利用できなかったケースはなかった。
  プロジェクト側で用意したノートPCは、次のようなものが中心であった。
  IBM ThinkPad S30( WindowsXP、PentiumIII 600MHz、RAM 256MB)
SONY PCG−SR9G/K( Windows2000、PentiumIII 700MHz、RAM 128MB)
  NEC LX60T/71EC( Windows2000、Crusoe600MHz、RAM 128MB)

(2)インターネット回線

 利用したインターネット回線については、実施校によって、CATV・ADSL・FFTH等様々な接続方法であったが、利用したe−ラーニングシステムの要求する帯域は1MのADSLでも十分に実用可能なものであったので、速度はあまり問題ではなかった。
  むしろ、セキュリティのためにファイアーウォールやフィルタが設定されており、その設定についてはほとんど学校現場でわかる教員がおらず、変更することができないことが障害となるケースが多かった。また、学校や教育委員会のセキュリティポリシーとして、インストールしてあるソフトウェアすべてを申請した上でないと、該当するPCをLANに接続することを許可しない、というものもあり、このような場合は学校がどのようなインターネット接続がされていようと、PHSやFOMA等の通信カードを利用したモバイル通信を行わざるを得なかった。

(3)PHS・FOMA等モバイル通信モデムカード

 利用したPHSおよびFOMAのモバイル通信カードは以下のようなものである。
NTTドコモPHS用 P−inFree1P・上り64K最大下り64K最大
NTTドコモFOMA用 F2402 上り384K最大・下り384K最大
  これらは講師側あるいは学校側でLANによるインターネット接続が不可能な場合のみに利用した。

(4)WEBカメラ

 映像を送信するためのカメラとしては、量販店等で簡単に手に入る一般的な以下のような製品を利用した。通信速度の制限により、もともと動画解像度があまり高くないので、カメラの解像度が問題になるようなことはなかった。
  ただし撮影上ズーム機能については非常に有効で、一部のノートパソコンについては、接続したDVカメラをそのままWEBカメラとして利用できるドライバが付属しており、これを利用すると大変便利であった。また小学校の交流学習等については、性能の問題のみでなく、カメラに向かって話しかけることで、聴衆を意識する効果も認められるため、可能であればDVカメラを利用するべきと思われた。
  Logicool社 QV−4000
  Logicool社 QV−700N

(5)マイク

 上記WEBカメラにもマイクが内蔵されているが、講師がしゃべる場合、また交流学習等で発表者が話す場合には、マイクを別途用意した方が話しかける方向に目安ができ、スムースに発表が行えるようである。
  特に対応するTV電話ソフトによっては音声が回り込む(ハウリングする)ことなどがあり、高感度なエレクトレットコンデンサー型マイクの利用が必要だった。

(6)スピーカー

 ほとんど学校備え付けのスピーカーを利用することが多かったが、交流学習については、ハウリングを避ける意味で下記のPC用スピーカーを利用し、手元で音量の調整等を行った。
  Roland MA−4

(7)PCプロジェクタ・スクリーン

 ほとんど学校備え付けのプロジェクタおよびスクリーンで対応したが、特に社会人講師授業や交流学習などでは、講師や学習者の様子の動画を大写しにするため、2台のプロジェクタおよびスクリーンを利用することがあった。
  授業を受ける人数にもよるが、本プロジェクトについてはクラス単位での授業実践が多く、地域公開の道徳の授業等の特別な事情があっても、1学年程度の人数であったため、下記のような持ち運び可能な1、000ANSI程度のプロジェクタでも十分利用できた。
  Epson ELP―710

(8)無線LANアクセスポイント・カード、LANケーブル

 本プロジェクトでは、PCを利用して体験型教材を学習者が操作する情報倫理授業についてはコンピュータ教室で、その他の社会人講師や道徳の公開授業等は広さの関係から一般の視聴覚教室等で行った。
  視聴覚教室や一般教室は、まだLAN回線がそこまで来ていないケースが多く、コンピュータ教室や職員室から、30M以上のケーブルを利用して、授業を行う教室まで回線を引く準備も必要だった。
  学校によっては、校庭の上空を横切る形で、コンピュータ教室と授業を行う部屋が配置されている場合もあり、このような時は下記のような無線LANアクセスポイントとカードを利用してLAN接続を行った。ただし距離の延長が十分でなく、信号も安定しないため、無指向性アンテナ等の利用も行って接続した。
  Buffalo WLM2−A54G54(アクセスポイント)
        WLI−CB−AG54(通信カード)
        WLE−NDR(屋内用スリーブアンテナ)

(9)デジタルカメラ・デジタルビデオ

 授業実践の記録と、同期型e−ラーニングシステムで利用する教材コンテンツ制作の両方で、一般的なデジタルカメラおよびデジタルビデオを利用した。

(10)携帯電話

 授業実践そのものは、インターネット回線を経由した通信環境を利用する。同期型e−ラーニングシステム自体にも、講師と学習者でメッセージを交換する機能等が付属していた。しかし同期型e−ラーニングシステムを利用した授業実践の場合、当日準備の打ち合わせから授業実践の最中トラブル対応まで、2箇所の中継地点をつなぐ支援のための通信手段として、もっとも有用であったのは携帯電話であった。
  特に回線状況等によって映像や音声が中断した場合など、授業実践としてはなんとかつなぎつつ復旧を行うために、1時限の間中携帯電話をかけ、機器を操作する支援者同士が連絡をとりながら、講師や指導者に状況を伝達するような段取りが不可欠であった。
  また、本プロジェクトの授業実践では利用する機会がなかったが、同期型のe−ラーニングシステムやインターネット公衆回線を利用した通信のバックアップサポートとして、携帯電話を積極的に利用することも有効であろう。あらかじめ講師と現場指導者間で授業進行についての打ち合わせが行われていて、教材を双方が共有していれば、障害等で通信が不可能になる最悪の状態でも、携帯電話による音声通信によって、授業の継続が可能になることが考えられる。



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