4.コンテンツ開発事例




 本プロジェクトでは同期型・非同期型e−ラーニングシステム用教材として、次のような教材コンテンツを制作した。
  制作に当たっては、すでに教育現場で活用され、一定の評価が得られているような内容の教材を調査し、これをe−ラーニングシステム用教材として再構成して利用することを優先した。制作期間および費用を低減させるのと同時に、教材そのもののデザインよりもe−ラーニングシステムの有効活用にプロジェクトの目標を絞るためである。
  その結果、コンテンツ制作チームは主に次の3つのようなコンテンツ制作パターンによってコンテンツを構成した。1.すでに教育現場で利用されている教材を、指導教員の指示によりデータ変換・加工して、e−ラーニングシステム上で稼動するようにしたもの。(同期型e−ラーニングシステム上の情報倫理授業用教材の例)。2.社会人講師や児童・生徒がオリジナルで作成した作品等を、コンテンツ制作チームや指導者が取材して教材として構成し制作(社会人講師・施設見学・交流学習用教材の例)。3.ニーズが高いものの適当な素材が見つからないため、現場教員の指導等に基づき、教材コンテンツを最初から制作(非同期型コンテンツ用携帯電話マナー教材)。
  以下にそれぞれの教材コンテンツの概要を説明する。


4.1 同期型e−ラーニングシステム用コンテンツ

 本プロジェクトで利用した同期型e−ラーニングシステム用に使用可能なコンテンツとしては、標準的なブラウザで閲覧できるHTML文書(JAVAScript等を含む)、MS−Powerpoint形式データ、MacromediaFLASH形式データ等がある。
  それぞれ単純なデータは変換してすぐに表示できるものの、たとえばHTMLファイルのフォルダによる階層構造がe−ラーニングシステム上では再現できない、JAVAScriptのうち対応できない機能がある等、コンテンツ化にあたっては調整しなくてはならない要素もあり、ほとんどが教員や講師の監修のもと、事前にコンテンツ制作チームとの打ち合わせをおこなって制作した。


4.1.1 情報倫理授業用体験型教材コンテンツ

 本コンテンツのオリジナルは、掲示板やチャット等の操作方法を覚える目的の体験型教材に、ネチケットの遵守や個人情報の保護等、学習者が陥りそうな失敗や危険があるページの体験版を加えたもので、半日間程度各自が個別に操作してからそのページの解説を受けるという形式の、集合研修で利用されるWBT用教材である。
  本プロジェクトではまず中学生向けに、その後に小学生向けに1校時で利用できることを条件に教材設計を行ったので、1.中学生向けには、危険なページを体験学習する「アンダーグラウンド」というコーナーに絞って、その中から各自が好きなページを選択し体験できるように構成し、2.小学生向けには内容を精選して表現等を変更し、現場教員が解説しながらページ操作を実演できるように構成した。


4.1.2 社会人講師授業用プレゼンテーションコンテンツ

 このコンテンツは、授業中に遠隔の職場からの中継を含んだ社会人講師授業で利用したもので、パソコン教室の概要と、高齢者を中心としたパソコン教室の生徒の作品を中心に、学ぶことの楽しさとそのための教室経営を仕事としている遠隔の社会人講師の働く楽しさを紹介する目的の教材である。
  コンテンツ制作チームは、このパソコン教室で2回の打ち合わせを行い、授業や教材内容の確定と作品等の撮影をおこなったうえで、MS−Powerpointによるプレゼンテーション資料を制作し、これを同期型e−ラーニングシステム用コンテンツとして構成した。
  実践授業の中では非常に短い時間、粗いWEBカメラの映像での職場紹介・作品紹介になるので、あらかじめデジタルカメラ等で職場の様子や作品を撮影しておき、これを学校現場と中継現場の質疑応答に基づくシナリオに従って映写するような段取りを行い、コンテンツ化した。
  しかしインターネット公衆回線を通すための時間差や、音声等の聞き取りにくさもあり、学校と中継現場の質疑応答が想像以上に困難であり、実際にはコンテンツ教材を十分に利用できない状況であった。
  この点の反省については、遠隔地からの社会人講師による中継という点でこの授業実践と共通点の多い、施設見学授業におけるコンテンツ制作の際に、遠隔地の社会人講師側が主導権を持てるような構成とすることで、改善をおこなった。


4.1.3 交流学習用プレゼンテーションコンテンツ

 このコンテンツは、小学生同士がクラス単位でお互いの学校の様子を紹介しあうという交流学習用に制作したコンテンツである。内容としては、友達づくりのコツなどクラスで話し合いをした結果の発表、学校行事の様子、学校の自慢の風景、制作したさまざまな作品等の紹介である。
  データについては、指導教員が普段利用している学校教育向けプレゼンテーションツールから、JPGデータを書き出した内容を、同期型e−ラーニングシステムで利用する予定であったが、実践校間のe−ラーニングシステムの接続がうまくいかず、またプレゼンテーション資料よりも交流している生徒の様子(動画)を中心として映写したいという指導教員の要望があり、プレゼンテーションデータについては双方で共通のデータを所有し、順番に従って映写する方式をとった。


4.1.4 施設見学授業用プレゼンテーションコンテンツ

 このコンテンツは、都立工業高校の工業科における施設見学学習を、遠隔からおこなうために制作したコンテンツである。内容としては、東京都の浄水場施設である境浄水場の概要やろ過方式の特徴、全国でも珍しい施設内作業の動画映像などであり、これを用いて、浄水場の担当者である講師が説明を行うためのプレゼンテーション資料である。
  本コンテンツ制作にあたっては、前回の社会人講師授業の反省も考慮し、コンテンツ制作チームと指導教員、浄水場担当者間で綿密な打ち合わせを行い、タイムスケジュールに従った一連のプレゼンテーションとして構成した。浄水場からの中継による一方的な説明が延々と続くことの弊害については、途中で学校現場の指導教員が浄水場側の説明内容を繰り返したり、言い換えたり、図示したりして教室全体の理解を向上させ、動機付けを図る時間をとるような授業設計とし、対応した。


4.2 非同期型e−ラーニングシステム用コンテンツ

 本プロジェクトでは、当初同期型e−ラーニングシステム上で行った授業の記録を、加工した上で非同期型e−ラーニングシステムでそのまま利用することを想定していた。しかし、実際に同期型e−ラーニングシステムの記録機能を検証した結果、1.現時点では講師や受講者の映像等動画の記録に対応していない、2.記録データの加工性・検索性が低い、3.同期型システムのアカウントをそのまま非同期型で利用しようとすると、1度に生徒数分のアカウントが必要にあり、非常に高価な利用料金がかかる等の理由から、むしろ非同期型コンテンツを別に制作し、授業実践で検証した方が適当であるという結論になった。
  この方針に従い、コンテンツ制作チームは以下の2点の教材コンテンツを非同期型e−ラーニングシステム上で動作するように制作した。


4.2.1 「情報教育」学習用コンテンツ

 このコンテンツは、東京都総合技術教育センターにて採用されている情報教育に関する教員研修および高校生向け授業のテキストを基に、非同期型e−ラーニングシステムおよびWBTで利用できるような形態に再構成したものである。
  内容については、上記情報倫理授業でとりあげた危険なページやデマメール等、マナーやモラル等の解説から、ブラウザや掲示板やメール等の使い方、さらにはインターネットの仕組みまで非常に丁寧に解説している。
  例えばチェーンメールについては、こういうメールは転送してはいけません、という単純な「べからず集」にとどまらず、一人が転送を繰り返すことによって莫大な量のメールが長期間にわたって通信網を流れ続ける可能性があることや、不幸の手紙(「5名以上に転送せよ」等)がどうしても気になる場合は、センターに設置した専用のアドレス5つに転送するよう薦めるなど、ネットワークやコンピュータの仕組みに対する正確な知識や、すぐにできる実践的な対応まで踏み込んで、情報教育全般について広く・深く追求できる内容である。
  現状ではテキストそのままの目次で、興味のある部分について自由に学び、非同期型e−ラーニングシステム上であれば、練習問題を解きながら学習を進める形態になっている。これに、校種や学習の目的によって選べる目次を変更したり、このテキストを教えるノウハウそのものをサブテキストとして付加し、より教員研修用途に特化するなど、さまざまな展開が考えられる。


4.2.2 携帯電話マナー学習用コンテンツ

 情報倫理に関する授業実践を実施するなかで、校種や学年に関わらず非常にニーズが高かったのが、携帯電話のマナーやモラルに関する学習であった。インターネット以上に身近で、日常生活に不可欠なものになってきている反面、その利用の「影」の面について、まとまって学習する教材が欠けているという指摘もあり、非同期型e−ラーニング用コンテンツの題材として取り上げた。
  非同期型e−ラーニングシステムは、学校教育の中では主に自学自習用に利用する用途が考えられ、企業や高等教育で利用されているe−ラーニングシステムと同様、継続の動機付けが問題となる。この点を考慮し、内容としては携帯電話のモラルやマナーをめぐる、男女二人の中学生と猫のキャラクターのアニメーションドラマとして、インターネット上でアニメを閲覧するMacromediaFLASH形式のコンテンツとして制作した。
  このコンテンツを利用した模擬授業の結果、たとえば「公共の場での通話」という1つのテーマについても、学習者が多様な受け取り方をし、「わかったこと」「わかり方」に差がでてくる現象が確認された。このことは、マナーやモラルをテーマにした教育内容からむしろ当然であるし、たとえば事前学習にこのコンテンツを利用することで、個別の感じ方考え方の差異を認識することが、より深くモラルやマナーを考えるきっかけとなる可能性も示唆すると考えられる。
  また本コンテンツについては、期間と費用の制限で最初から数多くのトピックを十分に用意するにはいたらなかったが、むしろ時代とともに変遷する携帯電話のモラルやマナーをめぐる問題を追加的に取り込んでゆくことで、教材として常に新しい有用なものとなる可能性がある。



前のページへ 次のページへ