5.授業実践事例




5.3 非同期型システム試用事例

 e−ラーニングシステムをもっとも大まかに分類すると、遠隔授業を実現するような同期型e−ラーニングシステムと、自学自習で利用するような非同期型e−ラーニングシステムに分けられる。小・中・高等学校の学校現場でニーズの高い自学自習のテーマということでは、事前・事後学習に利用できるようなe−ラーニングシステムや教員研修に利用できるe−ラーニングシステムが考えられる。
 本プロジェクトでは、当初同期型e−ラーニングシステムの記録を、そのまま非同期型e−ラーニングシステムの教材として、別の授業の事前・事後学習や教員研修に利用することを想定していた。結果的に利用した同期型e−ラーニングシステムの記録機能が、教材としての再利用に耐えるものでなかったため、学校教育でのe−ラーニングの可能性を広く検討するという目標を達成するために、改めて非同期型e−ラーニングシステムのために教材を作成し、以下のような2つの事例で試用を行った。


(1)墨田区立墨田中学校における携帯電話マナーコンテンツ教材試用事例(模擬授業)

(A)意義とねらい

 本授業実践は、非同期型e−ラーニングシステム用教材として制作した携帯電話のマナーやモラルに関する教材を制作する過程で、内容や表現方法の有効性を検証するために課外活動および総合的な学習の時間の中で、教材制作者が機器を操作して教材を映写し、生徒がそれを視聴するような一斉授業の形式で教材を利用した模擬授業である。
  携帯電話については、学校では持ち込み禁止であっても相当数が所有しているという状態であり、基本的なモラルやマナーに関する学習についてはニーズが高い。本教材は、本来非同期型e−ラーニングシステム上で、例えば情報倫理授業の事前学習または事後学習として、身近な話題として学習を行うことを想定している。今回は教材コンテンツの制作に時間がかかり非同期型システムでの試用がプロジェクトの最後になってしまったことと、非同期型システムを単体で実験授業とするスケジュールがたてにくかったことから、一斉授業の形式での利用となった。実施にあたっては、教材の映写の後に個別にワークシートを書かせる(「この授業で学んだこと」および「その理由」5点を書く)実践を行ない、非同期型システムでの教材利用についての知見を得ることを狙った。また別に自由記述のアンケートをとり、教材内容や表現方法についての改善意見を得ることを狙った。

(B)実施概要

日 時: 2004年 2月9日15:40〜17:00
場 所:墨田区立墨田中学校・コンピュータ室
授業者:三橋秋彦教諭(放送部15名による模擬授業)
単 元:携帯電話のマナーとモラル (総合的な学習での利用を想定)
タイムテーブル
0:00:コンテンツ・授業主旨紹介

0:05:コンテンツ視聴

0:25:ワークシート(この授業で学んだこととその理由、5点をあげる)
0:50:授業終了

(C)実践授業の評価

 本授業実践では、ワークシートおよび自由記述のアンケートによって、次のような知見が得られた。本格的な非同期型e−ラーニングシステムによる授業実践はプロジェクト期間の面から今後の課題となるが、携帯電話のマナーやモラルについて自ら考える授業が可能であることと、それを非同期型e−ラーニングシステムで行う必然性があることが確認できた。

(ア)学習内容に関する評価

 本授業実践は、携帯電話のマナーやモラルを題材としたアニメドラマの映写という形式で実践された。ドラマの内容は4つのパートに分割しており、それぞれが5分程度のストーリーの中に納まっており、全体で約20分程度の視聴時間となる。
  内容が身近なイメージのキャラクターの会話で進行するドラマ形式であることなどから、生徒は終始集中して視聴することができた。自由記述で内容に関する感想を求めたアンケートにも、肯定的な意見が多かった。

(イ)学習方法に関する評価

 表現方法がアニメーションドラマということで、キャラクター設定やストーリーの内容についてたくさんの指摘がなされた。娯楽のアニメーションドラマのキャラクター設定と比較して語られるので、一見学習とは無関係のように感じられる意見もあるが(例えばこうすればキャラクターが「立つ」とか)、結局はドラマの考えさせるポイントをどう提示するか(考えさせるか)という目的をしっかり抑えた意見が多く、大変参考になった。
  情報倫理全般に言えることだが、携帯電話のマナーやモラルというテーマも、技術の発展や社会状況の変化によって、新しい問題が日々発生しているテーマである。このようなジャンルで有効な授業と教材を考えるためには、必要十分な決定版をつくるというよりも、ある程度効果のある版を制作して広く意見を求め、できるだけこまめに更新・追加してゆく姿勢が必要である。
  この意味でも学習者から意見を吸収しやすい表現形式での教材としたことは、有効であった。

(ウ)学習効果に関する評価と発展の可能性

 ワークシートによって、この授業で学んだこととその理由5点をあげさせたところ、生徒それぞれが実に多様な観点で本教材を受け止めていることがわかった。本教材は、単に「×××はいけません」というべからず集でなく、キャラクターによるドラマ形式で制作している。例えば公共の場での携帯電話の使用を考える場合も、主人公が迷惑に感じたような事例をまず提示し、別の主人公との会話の中で異なる視点も提示しつつ、「公共の場」という定義自体が人によって異なることを示唆するような内容である。
  ある面から言えば冗長であって、事実アンケートや参観をした教員からの意見として要点を絞った方がよい、というものもあった。しかし、そういう内容が生徒によって「それは厳しすぎる」とか「私は許せない」というような多様な受け止め方を生み、単に「学んだこと」と「その理由」を記述するだけでも、その生徒の倫理観が反映されるという学習効果が示された。これを事前学習としてワークシートを利用した授業を行い、自分の倫理観を振り返るような学習が非常に有効であることが示唆された。


(2)教員による「情報教育」学習コンテンツ教材試用事例(教員研修)

(A)指導計画と指導案の概要

 本実践事例は、東京都総合技術教育センターで情報教育の教員研修に利用されている実績のあるテキストブックの内容を、非同期型e−ラーニングシステム用教材として再構成し、非同期型e−ラーニングシステムおよびWBTの形式で公開、一般の教員が試用した事例である。
  教材すべてを視聴してテストを行って約4時間程度の非同期型e−ラーニングシステムを用いた自学自習を想定している。これに加えて、サンプル掲示板への書き込み体験、チャット体験、検索エンジン体験、メール体験等の体験学習(各20分程度)と講師による情報倫理の解説(40〜50分程度)の2時間(同期型e−ラーニングシステムで実施)を加えると約6時間のコースとなる。さらに、特に教員研修向けの演習として、学んだ内容を自分の学校で教える授業のためのプリントを作成する演習(2時間)を加えて全体を8時間とするコースも考えられる。
  今回の実践では、情報倫理から入って情報教育全般に渡る内容の非同期型e−ラーニングシステムによる自習を教員6名に体験してもらい、自由記述式のアンケートで評価を回収した。

(B)実施概要

日 時: 2004年 2月2日〜9日(一週間の間にアクセスする)
場 所:各自のコンピュータ(e−ラーニングシステムとWBTを併用)
教 材:「情報倫理〜情報化の光と影〜」(教員研修用情報教育テキスト)
試用者:情報教育に携わる小・中・高の教員6名(小2名、中3名、高1名)

(C)実践授業の評価

 本授業実践では、アカウントの関係から非同期型e−ラーニングシステムによる試用とWBTによる試用を併用して行った。使用時間としては、最長2時間から最短が30分程度と想定学習時間よりも短かい試用となったが、さまざまな活用方法や授業設計の提案などが含まれ、非常に意義深い評価が得られた。

(ア)学習内容に関する評価

 内容については実践的ですぐ役に立つという評価が多く、実際に教員研修の現場で練り上げられた内容であることが評価された。網羅的に知識を学ぶというより、役に立つ度合い(アプリケーションの操作等)や必要な度合い(情報倫理等)を中心に構成され、項目のつながりを大切にして(具体的なブラウザの操作からドメインやTCP/IP通信の概要など高度な知識まで)解説がなされ、とっつきやすいと同時に奥が深い、という評価が得られた。
  非同期型e−ラーニングの弱点と言われる動機付けについては、課題の選び方や解説内容としては、「面白い」「興味深く続けられる」内容であるという評価を得ることができた。

(イ)学習方法に関する評価

 学習方法に関しては、非同期型e−ラーニングシステムを利用してもWBTを利用しても、解説+テストだけが続くと全体を通して視聴するのが困難という指摘がなされ、すべての試用者が指導計画の通り、体験型の演習や講師による直接の解説を併用することが有効と評価された。
  特に、試用した全員がさまざまな課題の選び方をしており、何をどういうように選択したか、という情報自身がその教員にとっての問題意識や学校の状況を表している部分があり、この点での情報交換や協調学習の可能性も示唆された。

(ウ)学習効果に関する評価と発展の可能性

 教員研修の内容としては、単なる知識の解説に終わらず、情報を教えるための見方・考え方が内容に含まれており、そのまま教えるかどうかは別としてそれが大変参考になるという意見があった。
  また、一度すべてを非同期のe−ラーニングシステムで学んだ後からも、必要なところをWBTで復習するとか、一部だけを切り出して情報教育の授業で利用するなど、多様な利用法が提案され参考になった。
  改善意見としては、内容としては必要性や状況の変化による加除修正が必須であるなど、また方法としてはすべて学習する選択肢以外に、一部分だけ学ぶようなコースを設定すればさらに利用場面が広がるなどの指摘がなされた。



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