6.プロジェクト評価改善・公開・普及事例




 本プロジェクトの実施にあたっては、学校教育において有効なe−ラーニングシステムの活用方法を探るという目的から、改善提案や将来性に重点を置いた評価を行うため、主に教員に自由記述型のアンケートを実施した。また生徒の授業の感想については、ワークシートへの記入や掲示板システムへの投稿によって、同じく自由記述方式で行い、分析を加えた。また、全体打ち合わせや公開で行ったプロジェクト報告会等の研究会を通じて、プロジェクトに直接携わったチームメンバー外にも、広く学識経験者やシステム開発者に対して改善提案を求めた。
  提示された改善提案については、可能な限り授業実践を繰り返すなかで、具体的に対処って実践の質を高めてゆくこととした。また、情報システムや教材コンテンツ開発等、ある程度期間と費用のかかる改善に関しては、今後の課題を明らかにすることで、将来的に対応を考慮することとした。
  また、本プロジェクト実施の成果に関しては、メーリングリストやWEBサイトを通じて広く公開するとともに、直接対面して内容を説明し、発展的に授業実践が継続できるよう、普及活動を行っている。
  以下、プロジェクト評価と改善の事例、公開や普及の事例について概要を説明する。


6.1 e−ラーニングシステムに関わる評価と改善事例


(1)セキュリティによる接続障害について

 区単位で設定されたファイアーウォールによって、同期型e−ラーニングシステムの接続画できなかったのが悔しかったです。セキュリティポリシーということでしかたないことなのかもしれないが、せっかく設置されている設備を利用できないのは残念。

→携帯電話やPHSによるモバイル通信で対応。交流学習に関しては、同期型e−ラーニングシステムの利用で、一定の品質で行うことに成功した。

→情報システム運用チームで検討。


(2)システム契約について・1

 学校として授業で使えるようにするは、生徒全員のIDが必要。学校単位か教育センター単位で、ソフトウェアを購入するくらいの予算で契約できる必要がある(現状ではもっと高いものについてしまう)。

→同期型と非同期型システムの切り替えで対応。特に教員向け研修の実践として、高価なアカウントは同期型e−ラーニングシステムによる集合研修として実施し、個別学習については安価なWBTを採用するなどの対応を行った。
  自宅でも学習する場合には個別のIDが必要だが、授業の中だけで使うなら、個人情報の保護の観点からも、システムは外部サーバにあって、個別のIDと学習履歴は学校側のサーバで管理することが望ましい(現状ではIDと個人が結びついた契約である)。

→情報システム運用チームで今後検討。


(3)システム契約について・2

 あくまでも企業を想定しているので、ライセンス形態が全体的に高価。特に同期型では、 1 年の授業内で数回しか行わないことが想定できるので、教育センターやハブとなる学校単位でライセンスできるのが望ましい。非同期型のユーザ管理でも、学校教育に特化したしかけが必要である。

→情報システム運用チームで今後検討。


(4)システム契約について・3

 安定的に簡便にe−ラーニングサービスが提供できるようになるとよい。そのために常時サービスが提供できるようなビジネスモデルができるが大切。学校に入っているネットワークも、e−ラーニングサービスを十分に利用できるように、いずれ変わっていかなければならない。

→情報システム運用チームで今後検討。


6.2 教材コンテンツに関する評価と改善事例


(1)同期と非同期の使い分けや切り替えがポイントと考える。100%どちらかで行うのは現実的ではない。

→教員研修の設計として、同期と非同期のシステムを併用する設計を採用した。


(2)通常の授業にe−ラーニングが馴染むかどうか、よくわからない。既習内容の習得のために演習を行うのに使うのが一番使い良いように思える。

→情報倫理など絶対必要で実施しにくいテーマを設定した。教科学習等については、今後の課題とする。


(3)学校では、ある一定の期間である単元が終わる。その流れの中で個別学習を入れるのは難しい。自分の学習の進度に合わせて、みんなが様々な速度と到達度で動いていると一斉には終われない。一つの単元の中で、復習や既習事項の定着を計るメニューと、その単元に関わる応用問題のどちらかを、進行に合わせて選べるようになればよいかもしれない。

→非同期型e−ラーニングシステムの事前・事後学習としての活用方法については、今後の課題とする。


(4)大きな教材が少数よりも、小さな教材が多数あった方が、学校種や学校の実態に合わせた組み合わせが可能。ちょっとした便利な操作法というコンテンツでも、教員研修では十分使える。

→情報教育用非同期型e−ラーニングコンテンツ教材の内容として実現した。


(5)協力して教科教育のe−ラーニング教材の開発を行いたい。教科教育の教材づくりに時間をかけないと、本当にe−ラーニングに適した教材が見えてこない。

→教科学習等については、家庭学習での利用も含め、今後の課題とする。


(6)教材コンテンツとして従来の視聴覚教材と似たものがあっていいし、放送教材に似たものがあっていい。過去の教材づくりをかなり活かすことができると思う。

→携帯電話マナーおよびモラルの教材コンテンツとして実現した。


6.3 授業設計に関する評価と改善事例


(1)児童・生徒の授業内容の理解度について

  1. OHPが出てきたときも、PCが出てきたときも、生徒がその場ではわかっているつもりになっても、実際にはなかなか定着できていないことが多かった。これは工夫次第で改善されることだが、e−ラーニングシステムは、学習履歴や正誤傾向の分析という利点があるので、理解を深めるシステムを構築しやすいように思われる。

  2. 情報倫理のような分野では、教材のある事例や講師のある解説を、児童や生徒がどう受け止めるかに幅がある。幅があるという認識自体に意味があって、一意に理解した人数が多かったことが、理解度が高かったことにならない。掲示板システムを利用した情報倫理授業の実践はこの意味で、生徒と講師のさまざまなやり取りに触れられるという点と、さまざまな受け止め方があるという認識が行える両面で評価できる。

  3. 講師の立場で現場教員ではないが、授業は「自分で考えること」のきっかけになるように心がけて実施した。

  4. 情報倫理の話は以前にしてあっても、初めて聞いたような顔をして聞いていた。繰り返し語ることが重要。

  5. 授業は、生徒によっていろいろな受け止め方をしていた。確実に受け止めていることがまず評価できるし、生徒によっていろいろに受け止めていることが評価に値する。


(2)児童・生徒の学習方法の変革について

    1. 試験前などPC教室で演習させる事があるが、生徒によっては、紙と鉛筆での学習を選択することがある。紙と鉛筆は思考の過程が残るし、あとで調べるときも手軽だったりする。e−ラーニングもあくまでも一つの手段で、様々な選択肢の一つが新たに加わったと考えている。

    2. 同期型e−ラーニングの導入によって、これまで教室の中で教員と児童・生徒だけで行っていた授業に、遠隔の講師が新しく加わる。これによって、例えば講師と児童・生徒のやりとりを教員が支援する、または、講師と教員のやり取りから児童・生徒が学ぶというように、新しい関係性による学びが成立する可能性がある。情報倫理やモラルは、このような新しい関係性による学習法が効果的に作用する分野であろう。この他にも、例えば産業教育や進路指導などにも有効だと考えられる。

    3. 児童・生徒の在籍数が減り、学校単位でのクラブ活動が難しくなっている。同期型e−ラーニングシステムは講師=教員だけではなくて、学校間での教えあいや発表にも利用できる可能性がある。総合的な学習の時間で協働学習をしている場合、経過ポイントでの進度確認で同期型を使えば効果があると思われる。

    4. 非同期型e−ラーニングシステムは、保護者に向けた利用も有効である。特に情報倫理は保護者の理解も必須であり、家庭に向けた配信に意味がある。

    5. 非同期型e−ラーニングシステムを利用して、もっと家庭学習をさせたい。家庭学習をせねばならないような、家庭学習をしたくなるような仕組みができる可能性がある。


(3)児童・生徒の学習意欲の変革について

  1. 情報システムの導入で意欲が向上したとしても、一時的な効果に過ぎないように思われる。意欲に影響するのは、コンテンツの質や学びの構造(先行経験(長期的仕掛け)、学びの文脈(ストーリー性)、キュー効果(短期的仕掛け)など)だと考える。これらの中で、e−ラーニングシステムが効果をあげる場所を考えるのが大切。

  2. e−ラーニングシステムの導入にあたっては、通常は学習者の動機付けが問題である。ソフトウェアや情報機器の利用は、リアリティや表現力の低下につながる部分も大きく、学校教育でのe−ラーニング利用についてもその問題は同様である。これに関しては2つの点に配慮することによって、学習意欲を阻害する程度を低減することが可能だと考えられる。1つは、メディアの特徴を活かした表現形態を有効に利用すること。今回のプロジェクトではアニメーションドラマを利用した携帯電話マナーの教材がこれにあたる。また、同期型e−ラーニングシステムを利用した遠隔地からの中継だということを強調するような演出もメディアの特徴を活かしているといえるだろう。もう1つは、e−ラーニングシステムをコミュニケーションが活発になるような方向で導入すること。コミュニケーションはちょっとしたことでも大きな動機付けとなるもので、今回の授業実践では掲示板システムによる遠隔の講師と生徒の質疑応答がそれにあたる。いかに優れた体験型の教材であっても、数十分個別に操作し続けるだけでは、飽きる生徒も増えてくる。掲示板に質問を書き、講師からのフィードバックがあることによって、動機付けは全く違ってくる。掲示板で文字によってやりとりをすることは、コミュニケーションの質としてはあまり高いものではない。しかし、通常の授業で個別に教材を体験するだけあった時間に、e−ラーニングシステムを導入したことによって新しいコミュニケーションが導入されたことによる動機付け効果は大きいといえる。

  3. 生徒は新しいことに触れるのは好きで、その意味の影響はある。また、中継授業ならではのインタラクティブ性は、生徒達の学習意欲に大きく影響した。

  4. 今回、非同期型の教材に出てくるキャラクターは生徒にとても親近感を与えた。授業もエンターテイメントだから、エンターテイメントの技法がちりばめられていることは、学習によいこと。キャラクターの「モラ」は生徒の心をつかんでいた。


前のページへ 次のページへ