7.得られた知見




 e−ラーニングを活用した授業を成功させる構成要素の要件として、次のような知見が得られた。


7.1 e−ラーニングシステムの要件

    1. 同期型e−ラーニングであっても、学習者が自分の関心に応じて、自由に行動(操作)できる体験型のWBTと組み合わせることによって、関心を高め学習効果を向上させることができる。

    2. e−ラーニングシステムと連動しない掲示板等のツールを質疑応答に用いると、学習に対するリアルタイムのフィードバックを与えやすい。

    3. 映像や文字情報では双方の状況が伝わりにくい。状況を伝えための補助的な手段を講じるべきである。


7.2 教材コンテンツの要件

    1. 同期型e−ラーニングシステムの教材は、遠隔側講師がプレゼンテーションを行うシナリオに基づいて構成すべきである。

    2. 同期型e−ラーニングシステムの教材は、通信障害等が発生した場合も最低限授業が継続できるように、サーバ上に蓄積するだけではなく、教室側にも同様のものを所持しておくべきである。

    3. 非同期型e−ラーニングシステムの教材では、学習者の継続の動機付けに留意すべきで、絶対に学ばなければならないこと、楽しみながら学べること、が不可欠の要素である。

    4. 非同期型e−ラーニングシステムの教材として情報倫理やマナーの問題を扱う場合、自分の興味があることを選択しながら学習してゆく程度の量を用意することが必要であるのと同時に、学習し終わってからそれに対する自らの意見や感想を振り返るだけの余裕があることが望ましい。具体的に1時限の授業で利用するとすれば、15分程度で学習できる分量が適当であると考えられる。


7.3 授業設計の要件

    1. 遠隔の講師と教室の学習者が、掲示板等で質疑応答する形態をとると、学習に対するフィードバックとなり、動機付けが強化される。

    2. 回線状況等によって、仮に通信が途絶えたとしても、最低限授業が成立するだけの準備を行い、形態を切り替えられる授業設計をする必要がある。(教材をLANのサーバから利用するなど)

    3. 同期型e−ラーニングは、講師・指導者・学習者の三者で授業を進行する学習環境を作り出す。講師=指導者のコミュニケーションから自発劇に学習者が学ぶ、指導者=学習者の質疑応答を講師がフォローするなど、基本的な役割分担を中心に授業設計を行うと、効果の高い授業展開が可能である。

    4. 同期型e−ラーニングシステムを利用した授業では、そもそも遠隔からの中継であることによって、日常とは異なる講師に学ぶことで動機付けがなされる。映像的な演出(例えば特徴のある建物を背景にするなど)も含めて、確かに遠隔からこういう講師が話している、と実感できることによって、解説の受け取り方が異なり、学習効果にも差が出ると考えられる。


7.4 講師・教員・支援者の要件

    1. 同期型e−ラーニングシステムでは、遠隔側講師が解説の主導権をとる講義スタイルと、教室側教員が解説の主導権をとって遠隔側講師は補足説明や質疑を担当する質疑応答スタイルの2つのパターンが想定される。どちらにしても、遠隔側講師には教室現場の様子はリアルタイムでは伝わらないので、教室側教員と詳細な打ち合わせを行って、ある程度のシナリオを用意し、それに基づいてプレゼンテーションを行うことが必要である。このような事前準備は、例えば通信障害によって教室側教員が遠隔側講師の役も兼ねなければならなくなった場合など、障害対応としても有効であり、授業の成功率を高めると考えられる。

    2. 同期型e−ラーニングシステムでは、遠隔側講師の解説が授業の中心となるが、授業全体の流れや障害等への対応は、すべて教室側教員が主体となって行うことになる。いわば遠隔側講師は教材の一部であって、それを児童・生徒へ提示する提示の仕方は、教室側教員の授業設計にかかっている。また、遠隔講師は児童・生徒の状況や学習全体の流れについてはほとんど何もわからない状況で、自分の素材(専門知識等)をアレンジすることになる。期待する学習効果や授業の狙いを明確にした上で、遠隔側講師の解説の内容を決める際に、積極的に関わることが必要である。そのようにして行った事前準備は、通信障害などのトラブル対応はもちろん、情報倫理等取り扱ったテーマに関するノウハウが教員自身のものとなり、より質の高い授業を実施できるきっかけとなろう。

    3. 同期型e−ラーニングシステムによる授業実践については、現状では、遠隔側講師・教室側教員に加えて、授業準備や情報機器の操作に遠隔側・教室側でそれぞれ最低でも1名ずつの支援者が必要である。さらに授業記録等を考慮すると、さらに人数が必要な授業実践となる。遠隔授業は、講師が現場まで赴く手間を省くとか、児童・生徒が教室から移動する手間を省く、という点にメリットを求める傾向があるが、事前準備や障害対応も含めて、むしろ手間がかかるのが現状である。しかし同期型e−ラーニングシステムを本来の意味で活用することによって、授業の質という点では、手間をかける以上のメリットが期待できる。むしろ担当以外の教員・PTA・ボランティア等が積極的に授業を支援することで、授業の質の向上に寄与することを期待したい。



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