4.国際交流の実践




4.1.7 琴田小学校−花家地実験小学校(日中国際交流)

 琴田小学校(千葉県旭市)と花家地実験小学校(中国・北京市)は、2002年度Eスクエア・アドバンス・プロジェクトにおいても交流を行っており、今年度も継続して掲示板、テレビ会議を利用した交流を行った。中国でのSARS発生の影響で花家地実験小学校がしばらく休校となったため交流開始が遅れた。しかし、この事態に対し、琴田小学校からは花家地実験小学校に向けてお見舞いの気持ちを掲示板上に表現した。
  9月以降はテレビ会議を中心とした交流になった。テレビ会議に向けて両校とも小グループにわかれ、それぞれテーマを持って事前調査をし、テレビ会議ではその成果の発表を行った。琴田小学校では、昔の暮らし、スポーツ、ディズニーリゾート、地震、台風、地形の比較、将棋、言葉の比較、魚といったテーマで発表を行った。
  石毛文茂氏(大東文化大学大学院応用言語学科講師)がコーディネーターとして交流の調整を行った。また、NPO法人企業教育研究会に参加している李潤華氏(千葉大学、中国からの留学生)にテレビ会議での通訳を行った(文部科学省の 「NPO等と学校教育との連携の在り方についての実践研究事業」の一環)。 両校間の調整には苦労があったようではあるが、無事テレビ会議を実施することができた。掲示板上での交流については、表4−13に示すように琴田小学校側からのかなり一方的なメッセージ送信となった。琴田小学校の先生から花家地実験小学校に対して継続的な働きかけが行われているのが特徴的である。
  「Webカンファレンス」を利用したテレビ会議の設定は、技術者のサポートなしに、両校独自に設定を実施することができた。同校は、ニュージーランドとの国際交流も行っており、先に10月にテレビ会議を実施している。この経験をもとに今回は、独自にテレビ会議を実施することができた。
  本交流の指導案については、付録2−2を参照されたい。
  琴田小学校に対するヒアリング結果、アンケート結果をもとに両校の活動状況および担当の先生の意見を表4−14にまとめて示す。アンケートは、付録1−1を用いた。残念ながら、花家地実験小学校には、アンケートの実施ができなかった。
表4−13.掲示板上のメッセージ交換数とテレビ会議の実施
  6月 7月 8月 9月 10月 11月  
琴田小学校(児童) 9         9 (件)
花家地実験小学校(児童)   2         (件)
琴田小学校(先生) 1   2 5 5 2  
花家地実験小学校(先生)       3      
テレビ会議           11月12日  

表4−14 琴田小学校−花家地実験小学校の交流
学校名 旭市立琴田小学校 花家地実験小学校
所在地 千葉県旭市 中国・北京市
指導教官 実川 充先生 ウェイ・リー先生
参加児童 6年1組 32名 6年3組
国際交流経験 一昨年度より掲示板、テレビ会議を利用した国際交流を実施 昨年度、同じ組み合わせで本プロジェクトに参加。
実施教科 総合的な学習の時間 課外学習
国際交流授業計画 当初から組み込んでいた。
ただし、SARSの影響で交流開始が大幅に遅れた。
当初から組み込んでいた。
ただし、SARSの影響で交流開始が大幅に遅れた。
教育目標 児童のコミュニケーション能力を高め、主体的に活動できる児童の育成をめざす。特にデジタルコンテンツの活用にあたっては、国際交流掲示板の使い方やスーパーYUKIによる作品づくりおよびローマ字入力の仕方などについて一人ひとりの児童の実態に応じて支援していく。 お互いの文化を知る。
交流テーマ 昨年度に引き続き、外国との交流により感動を与え、生きていく上での自信を与えていきたい。 お互いの文化を知る。
国際交流授業のための時間確保 十分時間が取れた。  
先生間の事前打ち合わせ ある程度の話し合いができた。  
テレビ会議の実施 11月12日に実施。
掲示板上での交流の継続性 ある程度継続的に実施できた。  
コーディネータの有無と必要性 ・石毛文茂氏、李潤華氏がコーディネータとして活動してくれた。
・仲立ちをしてくれる人は、絶対に必要だ。
 
掲示板上でメッセージを受けたとき ・児童は、とてもうれしがっていた。
・意味はほとんど全部わかった。
・意味がわからないときは、先生が児童に教えてあげた。
 
掲示板上でメッセージを発信するとき ・児童は、わくわくしていた。
・操作は少しむずかしいと感じた。翻訳が適切かどうか再翻訳してみなければわからないところがむずかしい。
 
掲示板利用による
児童の関心や学習態度の変化
少し変化があった。交流先からの書込により相手側の考えがわかるため、児童の関心・意欲の面で好影響を及ぼした。  
掲示板利用交流は思いどおりに進んだか ・大体思いどおりにできた。
・ただし、こちらからの書込に対する交流先からの反応がすぐに返ってこなかったことがあった。
・互いにやりとりがきちんと行われればよいと思う。
 
今後も掲示板を利用するか ・やりとりを続けていきたい。  
掲示板利用交流の適当な頻度 1週間に1回  
掲示板に対するその他の感想、希望 児童のパスワードの変更が簡単にできるとよいと思います。  
テレビ会議のときの子どもたちの様子 興味を持って会議に参加していた。しかし、通訳の方が間に入ると時間がかかるため飽きやすくなるのが問題だ。 とても興奮した。琴田小学校の友人の厚い友情を感じた。
テレビ会議による
児童の関心や学習態度の変化
大きな変化があった。掲示板とは違って、相手の発表や表情が生で見られるため、集中して取り組めるようになってきた。 両国の相互理解を進めていきたい。中国のことをより理解してもらいたい。
テレビ会議の準備 やや調整に時間がかかった。  
テレビ会議時の画質・音質 ・相手の表情や動きがはっきりと見えた。
・音声は、あまりよく聞こえなかった。
 
利用の簡単さ 今後、たぶん自分で問題なく使える。  
テレビ会議システムの利用方法 相互に発表しあう場面  
テレビ会議に対する感想、希望 教室では特に音声が聞きづらいので改善してほしい。  


4.2 自動翻訳の有効性


4.2.1 翻訳文に対する理解度と改善策

 翻訳文については、「大体の意味がわかる」という評価が多かったが、以下、頻繁に誤訳が発生しやすい状況とその改善策について述べる。中日翻訳、日中翻訳については、今回サンプルが少なかったので割愛する。


(1)日英翻訳

(1) 主語の省略

 最大の問題は、入力する日本語文の自明な主語や目的語を省略すると正しく訳せないという問題である。たとえば、「犬が好きです。」は、「 I like dogs.」となるべきところが、「It likes dogs.」のようになってしまう。先生方には、「分かり切った主語や目的語でも省略しないで入力させてください。」とお願いしているが、主語や目的語をあえて入れるのは、かえって不自然であり、抵抗があるようだ。逆翻訳の結果を見れば気がつくことではあるが、主語や目的語といった概念は、小学生にとってはわかりにくく、どうしていいかわからないことが多いという指摘もあった。前後の文脈の理解ができる実用的翻訳エンジンができれば、主語や目的語を推測することができるが、現在の技術では、そのレベルまで到達していない。一文ずつを対象として翻訳している段階である。掲示板上のメッセージの場合には、平叙文であれば主語は、「I」や「we」である確率が非常に高く、疑問文であれば主語は「you」である確率が非常に高いので、「it」の代わりにこれらを用いるように改善したほうがよい。

(2) ひらがな書きの固有名詞

 固有名詞は、メッセージの中で、署名をしたり、自己紹介、自国紹介をする際に必ず出てくるものであり、避けて通れないものである。発音を正しく伝えたいということから自分の名前をひらがな表記することが多いが、これが思いもかけない訳になってしまうことがある。たとえば、

あき →  Open かおり → Fragrant よしみ → Friendship

のようになってしまうことがある。当面は、ローマ字表記にすることを推奨するが、将来的には、本システムの中国語−日本語翻訳で実現しているように、 [[あき]]のように固有名詞であることを明示するマーカーをつけて入力させるなどの方法を取る必要があるであろう。


(2)英日翻訳

 アメリカからのメッセージには、とにかくスペルミスが多い。また、文の最後にピリオドがなかったり、私という意味の「I」を「i」と小文字で書いてしまう児童も多い。語と語の間にスペースを入れないケースも多く見受けられる。翻訳以前の問題である。スペルや記法を正確に入力することで翻訳の正確さは、飛躍的に向上する。今後、原文入力時にスペルチェッカーを埋め込むことを考える必要がある。


(3)日韓翻訳

 日韓両国語は、文章構造が似ているため、一般に高い精度で翻訳される。多少の不自然さがあるにしても、意味の理解を妨げるものではない。しかし、今回韓国側からのアンケート結果を見ると、意外と評価が低かったようだ。日韓翻訳でも 名前や土地などの固有名詞の問題でしばしばおかしな訳になってしまうことがある。今回 評価が低かったのもこのためであると考えられる。固有名詞の問題が解決されれば、日韓翻訳の精度は飛躍的に向上する。
  固有名詞の扱いは、固有名詞辞書を強化すれば解決できる問題ではあるが、すべての固有名詞を網羅することは不可能である。今後は、日英翻訳と同様に [[もりもと]]のようにひらがなで日本語音を表せばよい。発音的には、日本語の音は、ほぼ韓国語の音に対応させることができるので、この方式は有効であると考えられる。


(4)韓日翻訳

 前述のように、日韓両国語は、文章構造が似ているため、韓国語から日本語へも、正しく翻訳される確率が非常に高い。ただし、以下の事項は、正しい翻訳を実行する上で障害となることであり、改善のための工夫が必要になる。

 
(1) 固有名詞の扱い

 日韓翻訳と同様に固有名詞が正しく訳されないことがある。これも、同様に [[×××]]のように固有名詞の前後にマーカーを付けて、翻訳対象外であることを示すようにすればよいであろう。ただし、発音については、韓国語のほうが日本語よりも、子音、母音ともずっと多いので、原音に近い発音をカタカナで表記するのは難しい。日本人が近い発音で理解する際にはそれでもよいが、韓国にメッセージを発信する際には、カタカナ→ハングル変換は、一般には正しく変換されない。韓国語→日本語翻訳がなされた固有名詞については、そのハングル−カタカナの対応リストを保存しておき、これを参照しながら正しいカタカナ→ハングル変換を実現する必要があるであろう。

(2) 原文表記の問題

 ハングルの綴りのあやまりもときどきある。タイプミスの場合もあるし、小学生の場合には、口語の発音に引きずられて正しい綴りを入力できていない場合もある。原文の綴りが間違っていたら、正しい日本語訳は望めない。
  また、韓国語では通常漢字を使用せず、表音文字であるハングルのみで表記するため、言葉の区切りを示すために、言葉ごとにスペースをあける「分かち書き」という方式を取っている。分かち書きの正書法はあるはずであるが、必ずしも正しく表記されるとは限らないのが現状である。正しい分かち書きをすることで翻訳の正しさがかなり向上する。このような原文表記の問題については、韓国語スペルチェッカーが必要である。


4.2.2 掲示板上の翻訳操作

 アンケートの回答では、メッセージ入力時の「逆翻訳」表示の利用が難しいという趣旨の意見が多く見られた。
  第一の問題は、翻訳後の相手国語から自国語への逆翻訳の結果が表示されてもどう修正していいのかわからないという問題である。「私は犬が好きだ」と言うつもりで「犬が好きだ」と入力したとき、逆翻訳として「それは犬が好きだ」と表示されれば、主語を入れてやらなければならないことに気づく。しかし、「こういう場合にはこうすればよい」というルールが常に存在するわけではない。試行錯誤をしながら、単純でわかりやすい文を工夫していく必要がある。相手が理解できないのは、必ずしも言語上の問題だけではないので、相手にいかにわかりやすく説明するかという訓練にもつながる。
  第二の問題は、逆翻訳が常に正しいフィードバックをしてくれていると考えてしまうことである。相手国語には正しく翻訳されているが、逆翻訳の際に誤訳が生じて原文と異なってしまう場合もありうる。逆翻訳文は、あくまでも目安と考えて、あまり厳格に考えすぎないようにしなければならない。原文と逆翻訳文の小さな差異は、あまり気にしないことも大切である。
  今回、メッセージの入力過程がどのように行われているか操作の過程のログを取ってみたが、日本人は逆翻訳をかなり意識して原入力文の試行錯誤を繰り返す傾向があることがわかった。一方、アメリカやニュージーランドでは、逆翻訳結果はあまり意識していないようで、原文入力→一括変換→登録と単純な入力をすることが多い。韓国人も日本人ほど試行錯誤をしないようだ。国民性の違いが現れているのかもしれない。


4.3 テレビ会議の有効性


4.3.1 教育的な効果

 やはり直接的に相手の表情や動きが見えるので、通常通訳を介さなければならないという点を差し引いても、児童・生徒へのインパクトが大きいようだ。どの学校でも一種の「大きな感動」を体験し、相手に対する親近感、相手国に対する興味・関心が大きく増大する。この点では、掲示板を利用した交流よりもずっとおおきなインパクトがある。時差が大きいと時間的に実施が難しいが、可能であれば是非実施したいものである。
  しかし、どうしても大きなイベントとならざるを得ず、一般には相手校との調整や発表内容の準備を行わなければならないので、頻繁に行うことは難しい。交流の過程では、スタート時点、中間時点、最終発表の3回程度できればよいのではないか。日常的な交流は、掲示板を利用して交流を進めればよい。


4.3.2 システムの利用のしやすさ

 昨年度 Netmeeting を利用してテレビ会議を実施したときには、ネットワーク関連の設定に数日を要した。今回、Webカンファレンスを利用したことで、ファイヤウォール関連の設定制限が大幅に緩和され、一般的な設定であれば利用できるようになった。一般的なネットワーク接続に問題がなければ、調整にかかる時間はせいぜい半日程度となった。クライアントソフトをWebサーバからダウンロードし、インストールするだけでよい。実際に海外の学校には、学校の先生に設定をしていただいた。
  しかし、コンピュータを利用したテレビ会議システムであるので、先生によっては難しそうに見える方々もいるようである。将来的には、電話のようにいつでも簡単に利用できるものにする必要があるであろう。


4.4 コーディネータの有効性

 今回の交流ではほとんどの学校でコーディネーターを立て交流を進めた。このためテレビ会議の調整や実施については、比較的スムーズに進めることができた。また、ほとんどの学校で今後も国際交流においてコーディネーターの必要性が訴えられている。
  コーディネーターの役割としては、以下のようにさまざまなことがある。

(1)通訳

(2)交流のウォッチと進め方のアドバイス


  (1)の役割だけのコーディネーターであるケースが多いが、これだけでは交流をうまく進めることが難しいことが多い。特に掲示板を利用した継続的な交流を実施する場合である。できれば、(2)の役割を持ったコーディネーターがほしい。
  掲示板を利用したコミュニケーションでは、双方からコンスタントにメッセージが発信されているうちはよいが、何らかの理由で片方のメッセージ発信が止まってしまい、コミュニケーションが一方通行になってしまうと、次第に相手のメッセージ発信も止まってしまう。このような事態を防ぐためにも、コーディネーターが常にウォッチを行い、コミュニケーションが途絶えてきたら、先生にアドバイスを行うようにする必要がある。したがって、コーディネーターは、アドバイスができる立場にあることが必要である。学校と全くの関係ない一般のボランティアの方では、このような立場は取りにくいことが多い。また、電話やeメールで連絡がとるだけではなく、実際に学校に足を運ぶことのできる方が望ましい。時津東小学校のケースのように、できれば、学校内でコーディネーター役を立てられるのが理想である。
  しかし、コーディネーターだけですべてが解決するわけではない。交流を実施する学校側で交流に十分時間が取れる体制になっていないと、コーディネーターだけがアドバイスを行っても改善が図れない。交流をはじめる前に国際交流活動を十分カリキュラムの中に組み込んでおく必要がある。また、双方の学校の先生間で十分話し合いを行い、方針や進め方に整合を取っておく必要がある。



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