6.プロジェクトの評価について




6.1評価の方法について

 改善モデル実践のプロジェクト評価の方法として、以下の観点よりそれぞれの調査を実施した。


(1)安価ロボット (LEGO Spybotics)を利用した場合、AIBOと比較して、十分な学習効果が得られるか。

 AIBOとSpybotics の両方の実践授業をしていただいた先生に、ヒアリングおよびアンケートの形で意識調査を行った。また、生徒に対しては、昨年度 AIBOを利用した実践授業のアンケートと同じ項目で意識調査を行い、その集計結果を比較検討することで検証した。
  また、実践授業に立ち会って授業の観察を行い、 昨年度との違いを調査した。


(2)学習レベルに応じた授業形態のあり方として、どのような可能性が考えられるか。

 中学校、高等学校それぞれにおいて、先生が構成された授業内容、教材アプリケーションの使い方、ロボットそのものの扱い方などを、実地調査とアンケートによる意識調査を行い検証した。


(3)ロボット教材の導入や実践授業実施に関し、用意した提供環境は有効なものであったか。

 教材の入手方法やドキュメント類の内容がわかりやすく、妥当なものであったか、導入する際に問題となったことはどのようなことか、さらなる改善が必要なものがあるか、ご協力いただいた先生へのアンケートによる意識調査を行い検証した。


6.2評価の結果について

(1)安価ロボット (LEGO Spybotics)を利用した場合、AIBOと比較して、十分な学習効果が得られるか。

 昨年度、 AIBOで実践授業を実施していただいた、大分市立滝尾中学校にて、本年度Spyboticsを利用した実践授業を実施していただき、比較調査、検証を実施した。
  担当の先生は昨年度と同じ、生徒は同じ2年生であるが、進級で入れ替わっており、昨年度の AIBOの実践授業は受けていない。
  まず、実践授業の実施環境構築の面で考察する。比較項目と結果は下記の表のとおりである。

比較項目 AIBO Spybotics
先生の事前習得期間 約1週間 1日
教室内 LANの設定 1日 不要
動作用フィールド (マット) 個別に制作して敷設 不要
1クラスあたりのロボット台数 2台 8台
【参考】ロボット 1台あたりの価格 約 \200,000 約 \7,000

 Spybotics自体がシンプルでわかりやすい構造であるため、AIBOと比較してスムーズに導入できた。AIBOの場合、事前に先生に1週間程度理解を深めていただく期間を要したが、Spyboticsの場合は1日で完了した。
  また、教室内 LANに組み込んだ形で運用する必要がないため、ネットワーク関連の設定も不要であった。
  AIBO での実習の場合、4足歩行というロボットの特性から、動作用フィールドを敷設し、マス目に沿った課題の設定を行った。 Spybotics の場合は車輪型であり、走行パターンがある程度決まっていることから、あえて動作用フィールドを用意せず、教室の床に直接置いて生徒が自由に動かす方法をとった。 Spybotics の台数を多く揃えたことにも起因する。
  先生より、 Spyboticsのメリットとして「台数を多く準備できる」「自分が制御しているという達成感が持ちやすい」「おもちゃの感覚で親しみやすい」、デメリットとして「正確な制御が困難で、課題設定が制約される」「故障が心配である」というご意見をいただいた。
  ロボットの特性によるデメリットはあるものの、 Spyboticsを採用した場合、実習環境構築においては、AIBOと比較して手軽であり、現場の負荷を軽減できることが実証された。

 次に、学習効果の面で考察する。先生へのヒアリングにおいては、 AIBOに勝るとはいかないまでも、アルゴリズムの学習をする意味において、学習効果は十分であるとの回答であった。ロボットの機能の違いから、単純比較はできないが、そのロボットの特性を生かした、それぞれのロボットに合った学習効果が得られれば、それで十分ではないかと考える。

 たとえば、 AIBOには音声センサーが備わっているが、Spyboticsにはそれがない代わりに光センサーが備わっている。センサーの種別は異なるものの、それに合った形の課題、動作を実現すれば、それぞれのロボットの特性を十分生かすことができる。
  4足歩行型の AIBO はとにかく先進的であることが特長であり、車輪型の Spybotics はシンプルであるものの、モーターの制御など、動作原理の領域まで追及しやすいことが特長である。それぞれのロボットに応じた学習効果の見つけ方を誤らなければ、教材としては学習テーマに十分沿ったものとして活用できると考える。

 学習効果の面での生徒の反応は、アンケート集計結果より分析を行った。アンケート項目は、昨年度 AIBOを利用した実践授業のものと同様で、下記の表のとおりである。

■生徒用アンケートの内容
授業について Q1 授業を受けた感想(楽しかったか)
Q2 授業内容の理解度
Q3 課題の達成度
Q4 ロボットを制御することの難しさ(実習前)
Q5 ロボットを制御することの難しさ(実習後)
Q6 フローチャートでプログラムを作成することの抵抗感
Q7 実習時間の長さ
Q8 授業の中で一番興味を持ったこと
Q9 ロボットを利用した授業への関心
Q10他の教科への発展性
教材について Q11課題の難易度
Q12他にやってみたい課題
Q13教材の操作性
Q14教材の改良点
未来について Q15将来の仕事への夢

 これらのアンケート項目のうち、以下の4つの項目に着目して、学習効果の分析を行った。

 「よく理解できた」生徒、「理解できた」生徒ともに大幅に増えていることから、安価な Spyboticsを利用した場合でも問題なく、逆に向上が見られた。

 AIBOでの実践授業の場合、AIBOの先進性やめずらしさから、ロボットそのものへの興味が大きかった。Spyboticsの場合、ロボットそのものよりも、それを制御するプログラミングへの興味が大きく引き出され、かえって学習の本質での成果が高まっていると考えられる。
  Spyboticsは自分でケーブルを接続してプログラムを送信するため、通信している実感を持ちやすかったのか、そこに興味を持った生徒も現れた。AIBOは無線LAN接続のため、通信そのものへの実感が薄いのではないか考えられる。

 「技術家庭科以外で、どんな授業にロボットを使ってほしいですか?」という質問には、 AIBOを利用した場合は「数学」が最も多く、いろいろな教科に分散する傾向にあった。これは、AIBOが多機能で高性能なロボットであるため、応用範囲の可能性を広く見出せた結果と言える。
  Spyboticsの場合は「理科」と回答した割合が大半を占め、これは物理のような分野で利用してみたいと考えたケースが多かったことによる。
  ロボットの特性に合った形で導入することにより、さまざまな学習効果を生み出すことができると考える。

 将来、ロボットやコンピュータなどの情報技術に関わる仕事をやってみたいと回答した生徒は、昨年度より増加している。ロボットの種類に関わらず、生徒たちが実際に技術に触れ、学ぶ機会が与えられることが大切であると考える。


(2)学習レベルに応じた授業形態のあり方として、どのような可能性が考えられるか。

 まず、生徒へのアンケートによる意識調査から、実習前と実習後の「ロボットを動かすことに対する難しさ」について調べてみた。

 中学校では、実習前に「とても難しそう」と思った生徒が26%、「難しいかもしれない」と思った生徒を合わせると80%が何らかの難しさを想定していた。
  実習後においては、難しさを感じた生徒は45%に減少している。

 高等学校では、実習前に「とても難しそう」と思った生徒はおらず、「難しいかもしれない」と思った生徒が72%であった。実習後においては、難しさを感じた生徒は14%に減少している。

 中学校では、事前に「コンピュータの制御」「フローチャートの基本」の授業が行われていた。これにより、実習を始めるにあたって、生徒は何の戸惑いもなくスムーズに操作を行うことができ、学習効果が高められた。
  さらに、ロボットそのものや、センサーについての事前授業を行うことで、より理解が深まるのではないかと考える。

 中学校での実践授業実施中は、グループごとに協力してプログラムを作成し、グループ間での競い合いの要素を取り入れて課題に取り組んだ。実習の間は歓声が上がりっぱなしであった。このことがさらに生徒の興味と理解を深めたのではないかと考えられる。
  さらに、技術家庭科の実習教材として、ロボットを組み立てる工程を取り入れることも有効であると考える。自分で組み立てたロボットを自分で動かすことにより得られる感動は計り知れないものがある。

 高等学校においては、事前に「コンピュータの基本操作」をマスターしていることを前提に実習が行われた。フローチャートの説明は、実習時間の前半に行われた。これで生徒は十分理解し、自主的に実習に取り組んだ。実習中は各個人がそれぞれ工夫しながらプログラムを作成し、ロボットを動かし確認した。
  高等学校レベルの実習では、先生がグループを設定せずとも、まずは個人で取り組み、相談があれば自然発生的なグループで議論し、さらに個別に先生に質問するという実習形態が適していると考えられる。

 事後学習については、中学校において59%、高等学校において36%の生徒が、実習時間が短かったと感じていることから、ロボット特有の動作を自分で表現するプログラムを考えるなど、さらに発展した学習を継続することで効果が上がるのではないかと考える。
  実習を難しかったと感じた生徒も、連続した授業の中で自分なりに習得の道を発見できる可能性がある。また、さらに詳しい指導を行うこともできる。


(3)ロボット教材の導入や実践授業実施に関し、用意した提供環境は有効なものであったか。

 実際に導入していただいた先生方へのアンケートによる意識調査より、以下の項目について調査した。

  1. ホームページからのダウンロードによる教材入手について

     近年はインターネット環境も整ってきており、大半の先生は手軽に入手可能であった。ただし、通信速度が遅い学校の場合では、27MBの教材アプリケーションのダウンロードは少し困難であった。

  2. ロボットの入手手段について

     「少し困難である」という意見が大半を占めた。 AIBOの場合は価格的要因が大きいが、Spyboticsにおいても、在庫の不安定さを指摘される意見もあった。
      改善案としては、団体取りまとめによる一括購入や、ホームページからのさらに詳細な情報提供を望む声が寄せられた。

  3. ロボットを授業に導入する際のセットアップについて

     AIBOを導入した学校は当初「少し困難」という意見があったが、ドキュメント類の整備により解消されている。Spyboticsを導入した学校は「簡単である」という意見が全体を占めた。
      さらに、環境の構築すべてを生徒と一緒に行うと、ネットワークの接続、プログラムのインストール、マニュアルの読み方、アルゴリズム、センサー技術等、ハードからソフトまで一連の技術を学ぶことができるという声も寄せられた。環境構築自体を学習課題にする可能性も発見された。

  4. 教材導入に関する資料について

     「わかりやすい」という意見が大半を占めた。先生が技術に明るいこともあり、プロジェクト側で用意したドキュメント類は抵抗なく受け入れられた。

  5. ロボット教材の普及にあたり、入手、導入方法として望ましい形

 ロボットは制御やプログラムの教材として最適なのは先生もみなわかっておられるが、まだ高価なものと考えられている場合が多いという声が寄せられた。
  技術家庭科の研究発表会などでのデモ、講習会、資料配布といった実地での紹介をはじめ、教科書への掲載、効果的に学習できるわかりやすいテキスト整備といった、より深みと広がりのある普及策が提言された。


  以上の調査より、プロジェクトで用意した教材提供環境は、現場の先生に受け入れられ、ほぼ適切なものであったと考える。さらなる普及においては、安価ロボットの安定供給や、より現場に近いフィールドにおける広報、普及活動に踏み込まなければならないと考える。



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