2.システムについて




2.4 トラブル事例

 トラブル事例については本プロジェクトのホームページ(※注4)より引用した。

(A)広域LAN環境の実験網に関する問題点

(a)全2重通信の確立に関して

 本プロジェクトで提供された実験網は地理的に分散した複数拠点を10Mbpsの光回線で接続し、Ethernetと同様の形態をもち、広域LANと呼ばれることもある。実験網はレイヤ2ネットワークとして提供され、網内の使用プロトコルはIPv4(実験的にIPv6)であった。本来、接続拠点間は構内LANと同様に全2重通信(送受信それぞれに10Mbpsの帯域が確保される)が可能である。しかし、一番よく起きたトラブルがこの全2重通信の確立ができてない状態によるものだった。

1.トラブル1
MPEG2で映像を伝送しようとしたら、映像も音声もとても使用できる状態ではないほど劣化している。試しに、A小学校からB小学校にファイル転送した場合、10Mbpsの回線のはずが、数10Kbpsの速度でしか転送できない。同じファイルをB小学校からA小学校に転送したら、7Mbps位の程度であった。
 こういう現象の多くは全2重の通信ができていない(半2重通信になっている)ために生じていた。各拠点にはメディアコンバータ(MC)または、ONUと呼ばれる光回線とEthernetの変換をする装置が設置され、各拠点ではLAN接続と同様に10Base-Tのケーブルで拠点内のPCやハブをこの装置に接続する。半2重通信では、送信と受信のそれぞれに10Mbpsが確保できないため、明らかにどちらかの帯域が小さくなる。半2重通信が生じる原因としては、メディアコンバータやONU、その先に接続されたハブやPCとの間で通信方法の確立を自動で調整する(オートネゴシエーション)の際に半2重になっていることが多かった。昨今、LAN側はハブもPCもインタフェースは100Mbps-TXの接続だが、今回の実験網のように10Mbpsとの接続の場合、双方の通信確立時に自動調整されず、半2重のままになることが多かった。
 本プロジェクトの実験の多くはMPEG2伝送システムMPEG2TSを用いたが、このシステムでは送受信、それぞれ6〜8Mbpsの帯域が必要である。半2重の状態で接続したら、ほとんど映像、音声ともに使用できない状態ほど劣化する。帯域が100Mbpsであっても半2重通信の場合は、このような現象が生じる。
 このような現象は、高速常時接続と言われているいくつかの商用回線サービス(Bフレッツや広域LANサービス等)でも起きる可能性が大で、通信している端末―端末間にある接続装置、ハブ、端末のインタフェースが10Mbps以上の全2重通信になっているか確認することが必要であろう。オートネゴシエーションにより、半2重通信になってしまうことを避けるためには、例えば、ポートごとに、全2重/半2重が設定可能ハブを用意し、オートネゴシエーションなしで通信方法を固定する。PCのネットワークインタフェースをオートネゴシエーションしない方式することで対応できることもある。
 (例)FreeBSD の場合(100Mbps 全2重)
 #ifconfig vr0 media 100Base-TX mediaopt full-duplex
2.トラブル2
マルチキャストデータを受信しつつ、送信を開始すると映像が乱れる。
 複数拠点にMPEG2の映像伝送をするために、MPEG2TSを使用するとき、マルチキャストアドレス指定して送信することがあった。今回のような広域LANで同一セグメントのVLANで設定されている場合は、マルチキャストアドレスに送信されたデータはすべての拠点に流れる。接続されたPCはすべてデータを受け取ることになる。マルチキャストで流されたデータを受け取っているPCがさらにマルチキャストアドレスにデータを流すと、そのデータは送信するとともに、自分の受信ポートにも流れてくる。例え全2重通信であっても、他のPCから受信したマルチキャストデータ(今回の実験の多くは6Mbpsの帯域を必要とした)と自分で送信したマルチキャストデータの両方で回線の帯域10Mbpsを越えることになり、輻輳状態が起きる。そのため、調子よく映像を受信していたのに、自分が送信を開始した途端に映像データが劣化しはじめるという現象が起きる。MPEG2品質の映像の送受信にマルチキャスト通信を必要とする場合は、10Mbps全2重の通信路でも十分とは言えない。

(b)マルチキャスト伝送の問題

1.トラブル3
100Mbps通信している端末間におかれているスイッチングハブの先に1台でも10Mbpsの半2重通信しかサポートされていない機器(PCなど)があると、品質の良いマルチキャスト伝送ができない。
 10Mbps近い帯域を必要とするマルチキャスト伝送をする際、伝送に使用するPCが接続されているハブは上記で述べたようにポートごとに全2重の設定ができなければならない(スイッチングハブであることが必須)が、仮にその設定をしていても、マルチキャストの映像伝送がうまくいかないケースがあった。それは映像伝送しているPCが接続されているスイッチングハブに半2重通信しかサポートされていない機器が接続されている場合である。その半2重通信の機器にもマルチキャストデータを送信しようとするが、十分な帯域がないためにその機器に接続ポートのバッファ溢れが生じる。そのため、マルチキャスト伝送している他のポートにも影響が及び、パケットロスが起きるという現象が生じる。今回のプロジェクトでは遠隔支援の方法の1つとしてIPフォンを使用したが、このIPフォンは半2重通信しかサポートされていなかった。そのため、MPEG2伝送をしているPCが接続されているスイッチングハブにIPフォンが接続されていると、IPフォンによってハブにバッファ溢れが起こり、PCへの映像伝送に支障をきたすという事態が何度か生じた。

(c)IPアドレスの衝突

1.トラブル4
 間違って設定されたIPアドレスによって対外接続ができなくなる。
 本プロジェクトでは、主にIPv4が使用されたが、プロジェクト内のクライアントPCが重要なサーバ(DNSサーバ、メールサーバ、ゲートウェイ)と同じIPv4アドレスを間違って設定されてしまい、ネットワーク内のほぼ全ての対外的な通信が不能になってしまうという現象が発生した。PCにアドレスを手動で設定する場合には、IPアドレスが重複しないようにしなければならない。

(B)アプリケーションに関する問題

(a)MPEG2TS

1.トラブル5
MPEG2TSのマシンへの画像入力信号が止まると、送受信PCが不具合を起こす。
 本プロジェクトでは、MPEG2TSを用いて動画像転送を行う実験が多かったが、画像入力には、デジタルビデオカメラなどが用いられることが多かった。これらの中には、一定期間操作しないと、自動的に電源をオフにしてしまうタイプがある。特にテープを挿入していないと操作されてないと判断されて電源がオフになり、エンコーダへの映像入力信号が途絶えてしまう。また、複数カメラを用意して入力映像の切り替えをするために、同軸ケーブルの差し替えをしたいという状況の場合、今回MPEG2TSで用いたエンコーダカードのドライバの動作が不安定になった。最悪の場合、MPEG2TSが動作するPCの再起動が必要で中継が一時中断する。映像入力信号が停止することないように、実験時にはできるだけ自動電源オフ機能を停止できるカメラを用意し、ビデオミキサーで入力切替をするなどで回避した。最近のデジタルビデオ等は家庭用の利用を想定されており、自動電源オフ機能がついていないものもある。

(C)マルチメディア通信利用環境

 学校の教室は映像や音声の転送をするマルチメディア通信アプリケーションにとって予想外の問題が生じた。

(a)電源容量問題

1.トラブル6
教室の電源容量を超過してしまう。
 学校の教室にはデジタルビデオカメラ、プロジェクター、音声・ビデオミキサー、PC等々の各種マルチメディア機器を必要とする。想定されている教室の電源容量はすぐに不足してしまう。仮に電源容量が足りていたとしても、タコ足配線をし、また壁コンセントで場所は異なっても同じ電源系統のものがあるので、確認せずに使用すると容量不足が生じてしまうので、気をつける必要がある。

(b)部屋の照度(明るい部屋)

1.トラブル7
遠隔地から送られてくる児童の映像が暗くて表情が見えない。
 教室は本来明るいことが必須の条件である。しかし、デジタルビデオカメラで児童の表情や発表資料を撮影する際に、それらの背後にある窓から太陽が燦々と降り注いでいる状態は逆光となり好ましくない。また、スクリーンにプロジェクターで投影した画面も見にくくなる。照明設備を用意することができればよいが、ない場合は被写体が明るい側に向かうような配置をしたり、明るい窓に暗幕を吊るすことで被写体が暗くなるという状況を回避できた。
 その他、撮影時にカメラにオートフォーカス機能を使うことが多いが、ホワイトバランスも自動調整にしていると、明るい部屋の場合、被写体が暗くなることが多い。ホワイトバランスを手動で調整することで回避することも多かった。

(c)音のまわりこみ

1.トラブル8
音のまわりこみが激しくて、遠隔地との会話が困難になる。
 ネットワーク経由で受信した音はパソコンで受け取ったのち、パソコンに接続されたスピーカーで出力される。また、送信する音はマイクに入力してマイクからパソコンからネットワークへ送信される。このとき下記の図のようにスピーカーから出力された音が再び送信用のマイクに入力されないように気をつけなければならない。スピーカーとマイクの配置やマイクの指向性などを考慮しなければならない。 マイクとPCの間や、スピーカーとPCの間に音声ミキサーを設置することがあるが、同じミキサーを使用すると、同じくスピーカーから出力された音がマイクに入力されるという現象が生じる。自分のマイク・スピーカー音量と、相手(遠隔)のマイク・スピーカー音量を調整する際の落とし穴として、(ネットワークを通さない)自分のマイク音声が相手の音声と合成されて再生されていることがある。これは、送受信 PC 内のミキサー(プログラム)を調整することで回避可能である。放送の世界で基礎とされる知識がネットークを用いたマルチメディア通信でも必要とされる。
2.トラブル9
相手に声が届いているのか判別できない。
 注意深くセッティングをするとほぼ音のまわりこみをなしにすることができる。しかし、まったくまわりこみがないとネットワーク越しに会話をする際に、相手に自分の声が届いているのかどうか不安になるケースも多い。
3.トラブル10
話を進めるペースがおそくなりがちになる。
 ネットワークを経由してまわりこんでくる自分の声を聞きながら話を進めるため、対話やプレゼンテーションの際、児童の話のペースが極端に低下することがある。特にMPEG2TSを使用する際には音の伝送は1秒近く遅れて戻ってくるため、対話をしていなくても(一方的に話をする場合でも)、進行がおそくなりがちである。

(d)床の音

1.トラブル11
木の床から振動して雑音がマイクに入ってしまう。
 意外に気づかないが、木造教室の床のかなり音を伝播してしまう。そのため、映像伝送の実験時に児童の何気ない足踏みの音が木造床で振動してマイクに入力されるケースがあった。床の振動を防ぐためにマイクスタンドの下に布を引くのも効果があった。天井つりのマイクが望ましいと感じた。

(e)長いケーブル

1.トラブル12
別棟での利用に長いツイストケーブが役立つことが多いが、配線時には取り扱いに気を使った。
 映像伝送実験をイベントとして実施することも多々あり、その場合、音楽室等一般教室から離れたところで実施することもあった。すべての建物に情報コンセントが設置されているような場合はよいが、本プロジェクトでは学校にそのような設備がなかった。配線のために100mのツイストペアケーブルをひくことになった。100mのケーブルはそうそう常備していないが、あると便利なことが多々あった。ただし、長いケーブルを配線する場合、ドアにはさんでケーブル内部の線を断線させたりしないように配慮する必要がある。

(f)音楽教室の利用

 上記したように、学校の教室はマルチメディア通信には不適当な点が多々あった。こういう予想外の問題をもっとも解決してくれた教室がパソコン教室ではなく、オーディオ設備のある音楽教室であったことが意外であった。

(D)セキュリティ、プライバシー保護に関して

(a)PC ウィルス、クラック問題

1.トラブル13
ネットワーク内のPCが不正アクセスに遭う。
 本プロジェクトの実施期間は各拠点に設置されたPCは用途に応じて、3つのOS(Windows、 Linux、 FreeBSD)が使い分けられた。実験網は常時インターネットに接続されており、ゲートウェイでファイアウォール機能を持たせ、パケットフィルタリングによって安全性を高めるよう配慮した。しかし、ファイアウォールの通信制限が実験内容によっては不都合が生じることもあり、フィルタリングを緩めたこともあった。プロジェクト期間中に猛威をふるったウィルスもあり、実験網内でIISをWebサーバとして用いていたものが被害にあった。また、そこから実験網内のWindowsマシンが何台か攻撃にあった。また、フィルタリングを緩和していたときに、1度だけゲートウェイそのものも不正侵入された。ゲートウェイはFreeBSDで動作していた。
 あらゆるところで言われているが、常時接続の場合、サーバには常に最新のセキュリティパッチ(修正プログラム)の適用が必須である。また、クライアントにもウィルス対策のソフトウェアを入れておくべきである。ウィルス等に感染したときには、すぐにネットワークから切り離し、駆除やOS再インストールなどの対応をしなければならない。

(b) 個人情報保護

 本プロジェクト期間中に実施した交流や授業等の様子はホームページに記録していった。また、交流に使用する児童が作成した電子的な資料もホームページを利用した。その際に、個人を特定することができる情報の掲載には配慮した。生き生きと交流している児童の様子をそのまま掲載したいという要望もあったが、ホームページの掲載時には写真のデジタルデータを個人が特定できない程度に修正して掲載した。

(※注4)本プロジェクトホームページ
    http://www.csi.ad.jp/activity/2MAMEdeGansu/e-square/



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